今回の「工藤泰志 言論のNPO」は原子炉格納容器を設計していた後藤政志さんにインタビュー。福島原発で何が起きたのか、そして収束に向かっているのか?を科学的見地から考えました
ゲスト:後藤政志氏 (元 原子炉格納容器制作 技術者)
(JFN系列「ON THE WAY ジャーナル『言論のNPO』」で2011年7月13日に放送されたものです)
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福島第一原発は収束に向かっているのか
工藤:おはようございます、言論NPO代表の工藤泰志です。毎朝、様々なジャンルで活躍するパーソナリティが、自分たちの視点で世の中を語る「ON THE WAY ジャーナル」。毎週水曜日は「言論のNPO」と題して、私、工藤泰志が担当します。
さて、東日本大震災からもう4カ月が経ちました。先日、あの松本復興大臣の辞任のきっかけとなった動画を見たのですが、非常に驚きましたね。あの発言はないだろうなと本当に思いました。ただ、それが日本の政治の現実なのだなということを感じると同時に、この国の政治というものを有権者というか現場の立ち位置で変えないといけないなと感じました。
オン・ザ・ウェイ・ジャーナル、「言論のNPO」、今日はこうした政治の問題ではなくて、もう一度、震災の話に議論を戻したいと思っています。
その第1回目として「福島第一原発は収束に向かっているのか」ということを、科学的見地も踏まえて考えてみたいと思います。
このテーマに相応しい方として、かつて東芝で原子炉格納容器を設計していた技術者なのですが後藤政志さんに、先日、話を聞きに行ってきました。今日は、後藤さんのお話を交えながら、福島原発で起こったことは十分解明されているのか、今、この原発が今、どういう状態にあるのか、日本の原発の安全性の問題はその後、どうなったのか、について、考えていきます。
さて、この福島原発ですが、始めから大変な事態に陥っていたということには気付いていたと思うのですが、2カ月余り経って、東電の報告で震災の当日に、燃料棒のメルトダウンが起こり、格納容器の損傷していますし、燃料棒が圧力容器から下にどんどん落ちてしまう。そういう大変な事態が起こったということが分かったのですね。その後、水素爆発が起こって建屋が崩壊していく。こういう風な状況が起こったということが、2カ月、3カ月ぐらい経ってようやくわかったわけですね。
その状況が今はどうなっているのだろうか。多分、燃料棒が溶けて下に溜まっているのがどうなったのかわかりませんし、それが収束に向かっているのか、非常に気になっているのですね。こういう原発の状況から、後藤さんの話を聞いてみたいと思います。
危機感のなさを理解できない
後藤:そもそも、原子力発電所というのは、核反応を起こして発電しているわけです。その過程で、核反応自身がコントロールできているかということですね。それは、地震の際に制御棒が入って止まったということはよかったのですが、その後、冷却機能を失っているわけですね。冷却機能を失うということはどういうことかというと、崩壊熱というのがありまして、核反応が止まってもずうっと熱が出続けるのですね。それによって、水が蒸発しますから水面がどんどん下がり、燃料が露出して、いわゆるメルトダウンと言いますか、燃料棒そのものが崩壊して溶け落ちてくる。しかも、それが、圧力容器の底に落ちてくる。圧力容器は、十何センチもある厚い鋼鉄の容器なのですが、燃料が溶ける温度というのは2800度から3000度ぐらいになります。
鉄は1500度ぐらいで十分溶けますから、そういうことになると、圧力容器といえども溶けてしまう。但し、それは水が循環して冷却されていればそんなことにはならないわけですから、水による冷却が行われているかどうか依存しているわけです。その冷却の程度に依存して、どの程度ダメージを受けるかになってきます。
元々は、燃料が溶融すること自体が、既に原子力プラントとしてはダメなのですね。その段階で、おしまいです。基本的に。その被害の程度を、その後ずっと引きずってきたわけですね。それで、一部燃料損傷と言っていたのは、非常に控えめというか甘く見すぎであって、通常、燃料が露出する状態が長時間続けば、メルトダウンするのは当たり前なのですね。それは、原子力をやっている人間なら、誰だって知っているわけですよ。その危機感と言いますか、そのきわどさというのを何で理解できていないのか、ということが、私は逆に理解できません。
工藤:福島原発で何が起こったのか、ということに関して、後藤さんに解説してもらっているのですが、少なくともこの原因が、なかなかよく分からないという状況にあります。
東電の報告書では、なぜ燃料棒がメルトダウンしたのか、ということの原因は、少なくとも地震が起こった後に制御棒が入って止まっていると。その後、津波で外部電源が喪失してしまった事がすべての原因という論理構成になっているのですが、この原子炉設計者である後藤さんは、こうした見方には非常に疑問を投げかけているのですね。
科学的な説明になっていない
後藤:明らかに、冷却機能を失っているのは間違いないのですね。では、冷却機能を失った原因は何かということなのですね。その1つは電源が落ちるということが原因で、東電の発表はそうなっています。実際に、津波によってやられたのは事実でしょう。ですが、本当にそれだけなのですか、という疑問が残るのですね。データを見ても、本当にそうなのだろうか、説明がつかないことが色々あります。東電の発表している、あるいはIAEAに出しているデータを見ても、必ずしもシミュレーションと言って、コンピューター解析をやってデータを追いかけているのですが、それとの整合もとれているわけではありません。通常、格納容器の圧力というのは、例え、発電所で事故があって、プラントの配管が切れたとしても、そんなに簡単には上がりません。発電所の中で、そういう配管が切れて蒸気が出ても、格納容器の圧力は一定の値に収まって、今回のような状態になるはずはないのです。そういう風に設計をしているのです。それなのに、圧力が2倍ぐらいになったのはなぜか。考えられるのは、何らかの配管が、地震の後損傷して、それにさらに冷却ができなくなったことが重なった。特に、格納容器自体は、本来冷やして圧力を抑制する機能を持っているのですが、その機能が阻害されている可能性が高いと見ています。つまり、色々なことが重なっていると見ているのですね。
仮に東電が訂正した方が正しいというのなら、溶融して、つまりメルトダウンからメルトするとか言っていますけど、圧力容器の底に溶融物が溜まって、それが更に溶かしていって、下に落ちてきて、格納容器の床に落ちたという可能性がある。そういうことになっていますと、冷却はどういう風になっていたのか、今はどういう状況なのか、どこでどう冷却されているのか。溶融物はどこにあるのか疑問に思いますよね。
メルトダウンを早期に起こしたとすると、相当リスクが高いのは、そうやって溶融物が冷やしきれずにどんどん落ちていくことか、冷やそうとして水蒸気爆発を起こす。水蒸気爆発というのは、非常に高温な溶融物が水と接触する時に起こる現象です。火山が爆発するのと同じですが、これは、非常に危険極まりないものです。それは、今回たまたま水素爆発は建物の中ですが、格納容器の外で起こりました。格納容器というのは放射性物質を閉じ込める容器ですから、これが健全であれば、基本的には、例え外で水素爆発が起こっても、大きな影響はありません。ですが、今回の場合は、格納容器の圧力が上がりすぎて、既に放射性物質が外に漏れている。
最初に一部損傷、後になってから水位が間違っていたから全面的にメルトダウンをしていた、ということで一生懸命説明をしようとしているけど、それぞれの圧力とか温度の個々のデータや色々な運転の操作のデータなど、総合的にきちんと話の辻褄があっているかというと、必ずしもあっていなくてわからないのですね。つまり、説明になっているかというと、ちゃんとした科学的な説明になっているわけではないのですね。単に、結論は津波によってこの機械が壊れたという事実をいっているだけに過ぎないわけです。
工藤:後藤さんが言われているのは、津波の影響はあったが、それだけでは説明できない色々なことがまるある、のだということを言っているわけです。ただ、この東電の報告では、まだまだ分析すべきことが沢山あるのに、結論を急いでいるように思えます。この状況を踏まえて、後藤さんはさらに、こんなことも言っているのですね。
結局は、今だから言えるけど、程度の話
後藤:もし東電が言うように早期に全面的に炉心溶融を起こして、メルトダウンをしているとしたならば、水蒸気爆発のリスクが非常に高かったことを意味します。だから、こんな状態ではなくて、格納容器がぶっ飛んで、東京周辺まで汚染が広がるという可能性があったことを意味するのですよ。そのひどさの状態から。それを、後から、そういうことがあったということを淡々と言っているわけです。
今だから言えるけど、という話です。そうすると、あの程度の避難でいいのかということも含むのですよ。仮定の話をしても仕方がないですけど、あそこで最悪の状態を考えておかないと、もしそうなったときに、どうしようもない事態になり得たわけですね。それに対する反省が全く見られない。
工藤:現在、福島第一原発を収束させるために、必死の作業を続けています。今、工程表というものがあって、少なくとも、来年の年明け1月中旬には冷温停止の状況に持っていく。そのために、冷やし続けているわけですね。この冷温停止というのは、炉心の温度が100度を切るというだけではなくて、放射線の汚染が限定的にしか出ないというところまで押さえ込もうとしているわけです。
しかし、今現在、収束実現の目処が見えない状況にあるわけですね。しかも、冷やし続けるから水が下に流れて、汚染物質が入った水が流れたり、その処理に伴った膨大な放射能廃棄物の処理をどうしていくのかとか、色々なことがまだまだ解決していないのですね。こういう状況の中でも、政府は一方では、佐賀の知事と会ったり、原発再開についても動き出しているわけですよね。(その後政府は安全性の評価を行うことにしたが、インタビューはその前に行われている)つまり、原因がはっきりしないし、収束に関しても時間がかかりそうな状況の中での動きがあると。こういうことに関して、後藤さんもかなり厳しい意見を示しているのですね。
急ぐべきは原因の把握と安全性の対策、再開議論はそのあとの話
後藤:今回の事故は格納容器が損傷して、閉じ込める機能を失った。そしてベントした、ベントするというこの時点でおしまいなのですね。放射能がその分出て、後は回収不能なのですから、その後、それをどうやって緩和するのかという緩和措置だったわけです。
問題は何かというと、元々炉心が溶融した後に、崩壊熱というのがあって、残った熱でどんどん溶けているわけですよね。熱量は、時間と共に減っていくのですよ、間違いなく。当初よりはるかに減っている。はるかに小さい値です。だから、そんなに爆発的なことが起こるようなことにはならないところまで落ちてきています。だからといって、全く冷やさない状態になると、またどーっと温度が上がってくるわけです。だから、冷やすのですね。これはずうっと続けなければいけない。もっと大切なことは、私が思っているのは、あそこにあれだけ大量の放射性物質がある、特に水などは汚染された水があるわけです。
水をいれているわけですから、入れた分だけ出てくる。そうしたら、どこかに流れていることになる。地下水に流れていないとどうして言えるのですか、という心配があります。
だから、最初に戻ると、原子力というのは核反応を止めて、冷却をして、格納容器に閉じ込めるという3つが一緒になって、初めて安全を確保できるという話です。それが、突破された途端にこうなるというのは自明のことなのですね。それを緩和させる措置をやっているだけであって、こうやったら十分いけるというレベルの話では無いわけで、無理なわけですね。原子力というのはそういうもので、初期の段階でそうなっているのですね。このやり方がいいとか、悪いとかいう議論は、私に言わせるとあまり意味がない。そうではなくて、炉心溶融を起こした時点で、おしまいなのですよ。後は、座してそのままにしておくわけにはいかないので、やっているというのが実態で、それをやったから何とかなるとか、そんな生やさしいものではありません。
ですから、早く事故調査委員会を開いて、自己調査を始めて、きちんと早く結論を出すことですね。ただ、怖いのは、それを待っていたら間に合わないので、危ない。だから、今は、推測のところで可能性のあるものについては、全て対策をしろということですね。だから、地震に対して平気だと言っていないで、地震に対してまずそうなところがあれば、全てそれに対して対応をするべきです。その上で初めて、原発の再開の云々というのが、多少、議論になり始めるということですね。
原発再開で結論を急いでいるだけ
工藤: ここで後藤さんが言われているのは、今の状況のままでは原発の再開は絶対すべきではないということ。少なくとも、このままやるとするのであれば、次の事故を覚悟するくらいでないと、安易な決断をすべきでないと言っているわけです。政府はこの原発の安全把握と再開でまだ見解が決まっていないというか、佐賀県の玄海原発では首相に梯子を外された担当大臣が辞意を漏らす騒ぎにもなりましたが、今、後藤さんの話にあったように、福島原発の原因も曖昧だし、収束について工程上は進んでいるけど、まだ目処が見えない。それから、放射能汚染に関して、被害に合われた方達がそこから退去して難民の問題もある。かなり、現在進行形なわけですね。そういう状況の中で、原発再開での結論を急いでいるように、私には思えました。皆さんはどう考えたでしょうか。
今回は、原子力の設計者というまさに現場、技術者の視点から福島原発の状況を詳しく語っていただきました。次回は、エネルギーという視点から、電力の安定供給とこの原子力の安全性などの問題を含めてどう考えていけばいいのか、について、みなさんと一緒に考えてみたいと思います。
ということで時間になりました。今日は、「福島第一原発で何が起こったのか、それは収束に向かっているのか」について原子炉を実際に設計したことのある後藤さんの話を元に、考えてみました。皆さんのご意見をお待ちしています。今日はこれまでです。ありがとうございました。
今回の「工藤泰志 言論のNPO」は原子炉格納容器を設計していた後藤政志さんにインタビュー。福島原発で何が起きたのか、そして収束に向かっているのか?を科学的見地から考えました
ゲスト:後藤政志氏 (元 原子炉格納容器制作 技術者)
(JFN系列「ON THE WAY ジャーナル『言論のNPO』」で2011年7月13日に放送されたものです)
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