島田晴雄 (内閣府特命顧問、慶應義塾大学経済学部教授)
しまだ・はるお
1965 年慶應義塾大学経済学部卒業。70 年慶應義塾大学大学院経済学研究科博士課程修了。74 年ウィスコンシン大学博士課程修了。慶應義塾大学経済学部にて助手、助教授を経て、82 年より教授。2000 年より東京大学先端科学技術研究センター客員教授兼任。01 年9月からは内閣府特命顧問として、小泉政権の政策を補 佐。専門は労働経済学、経済政策。主な著書は「明るい構造改革...こうすれば仕事も生活もよくなる」。
概要
デフレ論議で気になるのは、経済実態に即した議論が少ないことだ、と内閣府特命顧問で慶應義塾大学の島田晴雄教授は言う。経済構造が大きく変わる今の日本では、投資をしても儲かるという国民の確信、そして民間の挑戦がなければデフレは解決できない。個人の意識低下と政府依存の傾向を懸念する同氏は、内閣府で担当するセーフティーネット、企業の立て直しや規制緩和の問題に踏み込み、空虚なマクロ議論からの決別と個人の挑戦が必要だと主張する。
要約
この間のデフレ論議を聞いていて感じるのは、経済実態に即した議論が少ないことだ。デフレはマクロ対策で解消できるものではない。経済構造が大きく変わる現在の日本では、一般の事業家が、事業性への確信や個人の挑戦がなければ、デフレは止まらない。この構造の変化には新しい潜在需要が生れ始めているが、「未来」はそこまで来ているのにそれを担おうとする勇気ある人材が不足している。それが今のデフレの出口を見え難くしている。ここで一番、言いたいのは「空虚なマクロ議論に振り回されるな」ということである。こうした議論は、政府頼みの議論になりやすく、今、私たち個人が問われている挑戦という課題を見えにくくしている。これは、政府が進めるセーフティーネットの議論にも当てはまる。国のセーフティーネットの整備で最も重要な点は、一番困っている人が、生活費に困窮して破滅しないようにすることである。予算を増やせという議論は何度も言われてきた。ではどこにどういう形でお金を出すのか、そのデータも戦略もこの国には整っていなかった。その後、調査を進めたところ最も緊急度の高い求職中でかつ失業給付を受けていない世帯主は33万人だということがわかったが、そうであるならばもっときめの細かい戦略的な雇用対応ができる。経済の構造調整で一番苦しい立場にいる世帯主は倍増する可能性はあり、戦略的なセーフティネットは整備する必要があるが、これは産業の再生や新しい産業が生まれないと吸収のしようがない。日本の民間企業が新しい展開をできないのは、次の時代の要請に応えていないからだ。この間、痛感するのは、個人のやる気が全く停滞していることだ。最近の経済特区や規制緩和の動きでもそうだが、やる気のある所は中央がつぶし、声をかけてもやる気のない所は全く動かないというのが、今の日本の状況に思える。多くの人はまだ何も困っておらず、政府がマクロで何かをしてくれると期待している。そうした意識が日本の将来の最大のネックになっており、日本の衰退を招こうとしている。
デフレ論議で気になるのは、経済実態に即した議論が少ないことだ、と内閣府特命顧問で慶應義塾大学の島田晴雄教授は言う。