言論NPOアドバイザリーボード
宮内義彦 (オリックス代表取締役会長兼CEO)
みやうち・よしひこ
1935年生まれ。58年関西学院大学商学部卒。60年 ワシントン大学経営学部大学院修士課程(MBA)卒。60年日綿實業株式会社(現 ニチメン株式会社)入社。64年オリエント・リース株式会社(現オリックス株式会社)入社。取締役、代表取締役専務、副社長、社長を経て、2000年より代表取締役会長兼グループCEO。
工藤 日本の経済は今、経済有事の状況になっている。日銀は今回の対策でそれを認めたわけです。ただ、政府がその決断に答えてアクションを起こさないと、10月にはかなり厳しい事態になると言われています。今、何が政府に求められているのでしょうか。
宮内 今までの10数年のつけを、どうしてもきっちり片付けないといけない時期に日本は来てしまったと思いますね。したがって、やるべきことを今きっちりやるということしかない。だけれども、やり方がますます難しくなった。筋の通った、やるべきことをやると、それは余計に経済混乱というか、経済の足を引っ張りかねない。だからこの手遅れの手術をする時にはそれを実行する本当に名医の腕が必要なんだと思います。
ただやり方は大変難しい。やるべきことは、やはりもう一度、基本に戻って、不良債権処理を進めて、マーケット、市場が機能するようにしなければならない。それによって経済が活性化していくことが一番の基本ですから。不良債権処理というのは銀行問題の解決を行なうことにある。それからもうひとつは当然やらないといけないことで、今までやっていなかった例えば税制、それから財政規律の問題を考えないとならない。
税制についてはやはり元気の出る、活性化を目的とした税制に変える。財政については今手を入れることは出来ませんが、中長期的なプランをきっちりと国民に示すということが出来れば、更なる財政負担もひょっとしたら止むをえないかもしれない。いずれにしても、銀行には問題は何もないんだ、というこれまでの政府のポジションを変えない限り、日銀の今度の政策、これは私は禁じ手だと思いますが、これが空振りになってしまうと思います。要は、やはり経済の中心である企業に元気が出て、収益が上がっていくことをやらない限り、日本は復活しない。
工藤 政府には金融は安定化しているなど言っている人もいるわけですから、これをまず変えるということですか。内閣改造も含めてということになってしまいますが。
宮内 それは、内閣改造しなければいけないかもしれないし、現在の人がやっていただいてもいい。
工藤 公的資金を入れる場合ですが、銀行へ公的資金を入れる場合と、債権を銀行から動かすという形があります。ただ、最終的には市場で売らなければ完了しないわけです。でなければどこかにつけを貯めていくだけで、長期化する可能性があります。どこまでのシナリオが今、政府に必要でしょうか。
宮内 銀行に公的資金を入れる場合は、経営者を変える、またガバナンスのしっかりした経営をして、国が今までのように細かいことを言わない、経営者が責任を持って銀行を良くしろということをやるべきでですね。そうすれば市場対応型経営になるわけですよ。今までのように裁量行政に対応した経営をやっていたら、これはよくならないですね。中小企業に貸し出せとか、あの健全化計画に少し足りないんじゃないかとかね、経営者の給与にいちいち文句をつけるとか、そういうことをいつまでもやっていたらだめです。つまり、銀行が良くなって、儲けて公的資金を返してくださいと、そういうことをやらないといけないですよね。国の金が入ったから俺の言う事を聞けというのではおかしい。
工藤 宮内さんは、日本は経済有事に入ったという意識ですか。
宮内 ずうっと有事だったわけです。ただ、先日もこの言論NPOで発言しましたが、これまでは「終わりの始まりが」始まったと思っていましたが、今は「終わりの終わり」だと思いますね。第一楽章、第二楽章ときてですね......。ここはもう構造改革を早めて、やらなければならないことを全部、やっていくしかないと私は思っていた。外科手術をやると麻酔はもはや効かないから、痛いということは覚悟しなくてはならないけれど、もはや逃げることはできないわけです。ここで、日銀の決断に応えて、危機感を持って政府が対応しないと、これはもうどうしようもなくなってしまう。だから政府も決断するしかないし、私は今度は期待しています。
(聞き手は工藤泰志・言論 NPO代表)
工藤 日本の経済は今、経済有事の状況になっている。日銀は今回の対策でそれを認めたわけです。ただ、政府がその決断に答えてアクションを起こさないと、10月にはかなり厳しい事態になると言われています。今、何が政府に求められているのでしょうか。