【対談】産業再生の最終目標は何か

2003年1月04日

ito_m030104.jpg伊藤元重 (東京大学大学院経済学研究科教授)
いとう・もとしげ

1951年生まれ。74年東京大学経済学部経済学科卒業。78年米国ロチェスター大学大学院経済研究科博士課程修了。79年経済学博士号(Ph.D.)取得。米国ヒューストン大学経済学部助教授、東京大学経済学部教授等を経て、96年現職。経済企画庁物価安定政策会議専門委員、通産省産業構造審議会臨時委員、大蔵省金融問題研究会委員等歴任。著書は『マクロ経済学』『日本の食料問題を考える』等多数。

fukukawa_s020328.jpg福川伸次 (株式会社電通顧問、アジア戦略会議座長)
ふくかわ・しんじ

1932年生まれ。55年東京大学法学部卒。同年通産省(現経済産業省)入省。ジェトロ・アムステルダム駐在員、太平首相秘書官等を経て、通産省事務次官に。88年、退官。神戸製鋼副社長を経て、94年、電通顧問兼電通総研代表取締役社長兼研究所長に就任。現在、総合資源エネルギー調査会(経済産業省)、政府審議会委員などを務める。主な著書は『21世紀・日本の選択』『IT 時代・成功者の発想』『日本への警告』等。

概要

日本経済再生に不可欠なのは、不良債権処理に加えて企業の復活だ。伊藤元重・東京大学教授と福川伸次電通顧問・元通産次官に産業再生の条件を聞いた。伊藤教授は事情に詳しい流通業の実情を踏まえ、多様な企業再生ファンドが必要と主張した。一方、行政の立場で石炭・繊維業界の再編にかかわった福川氏は、政府に必要なのは、構造改革後に行き着く先を示すビジョンと、不良債権処理においては責任の所在を明確にすることと主張した。

要約

不良債権処理だけでは日本経済は再生しない。真の再生には産業力の回復が必要......。最近、こうした声をよく聞く。過去の負の遺産を処理しながら、前向きな施策を同時に進めるためにはどうしたらよいのか、伊藤元重・東京大学教授と福川伸次電通顧問・元通産次官が対談した。

両氏は日本経済を病人にたとえ、不良債権という病気を治さなくてはいけないことは疑問の余地がなく、企業再生のためのファンドづくりが必要という点で意見の一致をみた。

政策投資銀行に代表される政府系ファンドだけでなく、外資も含めた民間主導で魅力ある事業を再生するファンド、更に業界内で事業再編をする際、資金を融通するファンドという具合に、多様なニーズに応えられるようにすべきと主張する。

それに加えて、伊藤教授はデフレ対策には財政政策・金融政策の両面が必要であることを述べた。また、流通論を専門とする立場から問題三業種の1つとされる流通業界の実態についても言及した。それによると、民事再生法や会社更生法をスムーズに利用できた企業はすでに立ち直りつつあること、1社でも店舗の統廃合が行われた地域では、供給過剰が解消されて他社の収益向上にも役立ったという。構造改革に伴い、連鎖倒産などが予想される中小卸売業に対してはセーフティーネットの整備が必要とのことである。

一方、福川氏はかつて石炭・繊維など構造不況業界の再編現場にかかわった経験から、政府や行政に「説明責任とビジョン」、それに社会摩擦ミニマムの手法と、産業の活性化の政策展開を求める。銀行の不良債権問題に関しても、まず公的資金注入ありきの議論を批判する。政治、行政、過去の銀行経営者などの責任論を明確にすべきと話す。加えて、ITを重点産業にすえた韓国で中国脅威論がないことを例に、日本が今後何を重要産業とするのか明確にしなくてはならないと説く。


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 日本経済再生に不可欠なのは、不良債権処理に加えて企業の復活だ。伊藤元重・東京大学教授と福川伸次電通顧問・元通産次官に産業再生の条件を聞いた。伊藤教授は事情に詳しい流通業の実情を踏まえ、多様な企業再生ファンドが必要と主張した。一方、行政の立場で