安斎隆(アイワイバンク銀行代表取締役社長)
あんざい・たかし
1941年生まれ。63年東北大学法学部卒業。同年日本銀行入行。新潟支店長、総務局次長、考査局長、日本銀行理事を経て、98年日本長期信用銀行取締役頭取、2000年イトーヨーカ堂顧問、01年より現職。
中井省 (日本証券投資顧問業協会専務理事)
なかい・せい
1945年生まれ。68年東京大学法学部卒業。同年大蔵省(現財務省)入省。ニューヨーク駐在領事、財務官室長、証券取引等監視委員会総務検査課長、銀行局審議官、国際局次長、財政金融研究所長を経て、2000年より現職。主著『やぶにらみ金融行政』。
ポール・シェアード (リーマンブラザーズ証券東京支店マネージングディレクター・チーフエコノミスト)
Sheard, Paul
1954年生まれ。リーマン・ブラザーズ証券会社東京支店経済調査部マネージング・ディレクター。オーストラリア国立大学にて博士号取得。スタンフォード大、日銀金融研究所、大阪大学などに在籍。経済審議会部会委員など。主著『メインバンク資本主義の危機』、『企業メガ再編』。
概要
3月危機の懸念のなかで、小泉首相はブッシュ訪問と前後してデフレ対策と金融問題の解決に動き出した。その内容や政策決断も現段階では明らかになっていないが、次の対応が危機回避の試金石になるのは間違いない。小泉首相はこの危機を未然に防ぎ、改革の立て直しに踏み出せるのか。元日銀理事で長銀(長期信用銀行)最後の頭取の安斎氏、当局の担当者として前の金融危機に向かい合った中井氏、そしてトップエコノミストのシェアード氏が議論した。
要約
3月危機説が叫ばれるなか、小泉内閣は2月末までに「総合デフレ対策」をまとめ、発表する。本当に不良債権処理とデフレ阻止を実現できるものなのか、その内容が今世間の注目を集めている。
シェアード氏は、「総合デフレ対策」がマーケットの不安を抑えるための政治的なパフォーマンスに終わるのではないか、結局は問題の決着は先送りにされるのではないか、と懸念する。4月のペイオフ解禁で金融危機表面化が避けられない今、その危機を予防的に回避するには、首相の決断で銀行に公的資金を投入するしかないと断言する。
安斎氏はマーケットが不信感を抱いている今の状況では、まずは不良債権とそれに対する銀行の積立金引き当ての実態を、マーケットと国民に対して明らかにする必要があるとする。そのためには、銀行の自己査定と金融庁による特別検査を厳格に行うことだ。そのうえで、自己資本が足りない銀行には公的資金投入を躊躇するべきではないと、政府の毅然たる対応を迫る。
これに対して中井氏は、市場不安を鎮めるために事前に一斉注入するべきだという議論もあるが、それは現在の法律ではできない。何かあったときのつなぎは日銀特融で対応すればいいので、金融庁と日銀が密接に協力しあうという姿勢を市場に見せることが大切だ。そうすれば危機は起こらない、という立場をとる。そして、デフレが新たな不良債権を生むという悪循環を断つために、不良債権問題よりデフレ阻止を最優先すべきだと主張する。
議論はさらに、公的資金投入の具体的方法論に発展する。シェアード氏は銀行への直接資本注入より、RCC(整理回収機構)活用が現実的だと持論を展開。RCCが不良債権を簿価で買い取り、ロス発生部分については政府保証のボンド(債券)を発行して穴埋めすべきだとする。このスキームに対して中井氏は、税金による銀行救済ととらえられ、国民の反発を招くため政治的に不可能だと語る。安斎氏はどんなスキームにしろ危機打開には相当の時間がかかり、政治的決断と国民への説明責任を小泉首相に期待する。
3月危機の懸念のなかで、小泉首相はブッシュ訪問と前後してデフレ対策と金融問題の解決に動き出した。