【特別対談】日本の改革の障害と可能性

2002年5月15日

kanak_d020710.jpgドナルド・P・ケナック (AIGカンパニーズ日本・韓国地域社長兼CEO)
Donald P. Kanak

1952年ワシントン州スポケーン生まれ。ノースカロライナ大学で経営学士、ハーバード・ロースクールにて法学博士号、オックスフォード大学にて経済学博士号を取得。多国籍金融・保険コンサルティング会社の共同経営者、米国系生命保険会社の日本子会社で社長兼CEOを経て、92年リージョナル・バイスプレジデントとしてAIGに入社。95年3月にはAIGカンパニーズの日本・韓国地域における社長兼チーフ・オペレーティング・オフィサーに就任、2001年 1月に社長兼CEOに就任。

norbom_n020710.jpgマーク・ノーボン (日本ゼネラル・エレクトリック 代表取締役社長)
Mark Norbom

1958年ワシントンDC生まれ。80年ペンシルベニア州立大学で経済学士号を取得。GEインフォメーション・サービスに入社、財務関連の様々な業務、ヨーロッパおよびアジアを中心とした事業開発に携わる。GEキャピタル台湾の社長兼ゼネラルマネージャー、GEキャピタル・インドネシア社長(在インドネシア代表)、GEキャピタル・タイランド社長(在タイ代表)、GEタイランド社長(National Executive)を経て、2000年3月に、GEキャピタル・ジャパンの在日代表に任命され、01年1月より現職。

司会:
koll_j020710.jpgイェスパー・コール (メリルリンチ日本証券チーフエコノミスト)
Jesper Koll

ジョンズ・ホプキンス大卒。OECD、JPモルガン、タイガー・マネージメント・マネージング・ディレクターなど経て現職。著書に『日本経済これから黄金期』へ。

概要

1996年に日本版ビッグバンが打ち出されてから6年。今年4月のペイオフ解禁でその仕上げに入ったが、不良債権処理のメドがつかず、金融改革への道のりは遠い。ビッグバンのシナリオはどこで狂ったのか。今、必要な手立ては何か。現在、「将来ビジョン懇話会(柳沢金融担当相の私的勉強会)」座長を務める蝋山昌一・高岡短期大学長、旧大蔵省銀行局長の西村吉正・早稲田大学教授、リーマン・ブラザーズ証券のポール・シェアード・チーフエコノミストの3人は「市場原理を中心とした金融の将来像を示せ」と指摘する。

要約

今回、議論に参加したマーク・ノーボン氏とドン・ケナック氏はGEとAIGという世界の巨大企業の日本法人のトップである。日本の可能性、長所を理解しながら、日本で始まっている変化、改革の障害、その打開の方向について的確なコメントをしている。両氏とも「規制と保護から開放されつつあるこの十数年の日本の変化を評価したが、そのスピードは遅い」、「それが達成された後の国のビジョンがいまだ描かれていない」、また問題の核心は「不良債権という過去の解決よりも、企業の収益性をどう高めるのか」にあると強調する。日本の将来にとって、不良債権は確かに大きな障害で、銀行は悪い与信判断をやめなくてはならないが、企業の行動の結果がそれに反映されるもので、収益性を高める努力をする企業を増やすことでしか新しい成長の歯車は動かないからだ。この点に関して両氏は「かつての日本経営の優位性はグローバル化しており、日本企業は新たな優位性を育てる必要がある」と語る一方、「中国などの強力な競争相手が出現しており、抜本的なリストラを迫られるが、時間をかけすぎている。安定期の意志決定の仕組みが続き、リストラ技法の開発が遅れたことが要因である」と指摘した。

そのうえで両氏は、コーポレート・ガバナンス、みずほのシステム障害、日本版ビッグバンの評価に話を発展させる。特にコーポレート・ガバナンスの問題については、「収益重視の経営は株式価値を生み出す経営であり、株主民主主義と表裏一体の課題である。経営者は最終的に富を生み出すことに結果責任を持っており、株主民主主義の原則はそれを生み出す基礎になるものだ」と主張した。この点で金融ビッグバンは金融市場のグローバル化に貢献したと両者はおおむね評価した。マクロの改革については規制緩和が進んでいるが、その速度に問題がある。ただ速度を決定するのは国民であり、政治がその決定をしなくてはならないと語る。小泉改革にはその実現性で若干の失望はあるが、その方向は正しい。勇気を持って構造改革を進めるべきだと、両氏は期待を寄せた。


全文を閲覧する(会員限定)

1996年に日本版ビッグバンが打ち出されてから6年。今年4月のペイオフ解禁でその仕上げに入ったが、不良債権処理のメドがつかず、金融改革への道のりは遠い。ビッグバン