翁百合 (日本総合研究所調査部主席研究員)
おきな・ゆり
1982年慶應義塾大学経済学部卒、84年同大学院経営管理研究科修士課程を修了し、同年日本銀行入行。92年日本総合研究所調査部副主任研究員、 2000年より現職。01年9月より02年3月まで慶應義塾大学大学院特別招聘教授を兼任。著書に『情報開示と日本の金融システム』、『金融の未来学』など。
概要
日銀出身で金融問題に詳しい翁百合氏に、銀行への公的資金投入のあり方について聞いた。まず、1999年の公的資金投入について、金融システム安定化に一時的な効果はあったものの、問題先送りの側面を残したと翁氏は指摘する。99年以降も銀行の収益性は低いままで改善されていないことが、現在の不良債権問題とも深く関わっているとし、前回の教訓を踏まえながら、勝ち組に公的資金を投入するスウェーデン型のスキームを採用するべきだと提唱する。
要約
1999年の公的資金投入は、預金者保護と一時的な市場の安定には寄与した。だが、オーバーバンキングの状況は是正されておらず、経営の刷新もなかったことから、問題先送り的な側面を残した。銀行の収益性が改善されないのは、日本の産業全体の構造変化、オーバーバンキングという金融構造、資産デフレーションの持続など複数の要素が絡み合っている。
こうした状況を解きほぐすためには、産業構造の変化を促し、銀行がビジネスモデルを刷新することで収益性を改善し、不良債権処理を進めることが重要だ。そのプロセスが進むことで、金融機関の再編淘汰が進み、オーバーバンキングの状況が是正されていくことになる。
公的資金の投入については、現行の法律の中で行うしかないが、その場合、淘汰に耐え得る収益体質を持つ金融機関に対しては、選択的に公的資金を注入することで、意図的に「勝ち組」をつくっていくことも必要だ。
これは具体的には危機やその恐れがあった場合、債務超過ではない銀行については海外撤退をしなくても合理的に健全性が保証される銀行に限って入れるべきで、そうでない場合は国内行にして投入を見送る。
そして、99年の教訓を踏まえ、公的資金投入に際しては、リスクに見合ったリターンがとれる、高収益経営に刷新できる、という前提条件の下に行うべきだ。また、不良債権の処理に直接充てることができるよう、ロスもあり得る「資本」として投入するといった条件も整える必要がある。さらには、経営が悪化した責任をとって経営陣は退陣、株主も責任をとって、経営を抜本的に変革するという経営責任の明確化も欠かせない条件となる。
日銀出身で金融問題に詳しい翁百合氏に、銀行への公的資金投入のあり方について聞いた。まず、1999年の公的資金投入について、金融システム安定化に一時的な効果はあったものの、問題先送りの側面を残したと翁氏は指摘する。99年以降も銀行の収益性は低いままで改善されて