ロバート・H・ダガー (チューダー・インベストメントマネージング・ディレクター)
Robert・H・Dugger
国連邦準備制度理事会で要職を歴任後、世界的投資会社チューダー・インベストメントのマネージング・ディレクターに就任。米国銀行協会および上院銀行委員会チーフエコノミスト、下院銀行委員会金融小委員会スタッフメンバーを兼任する。米国資本市場委員会の創設者でもある。デイビッドソン大学卒、ノースカロライナ大学で博士号取得。
概要
日本の経済改革の遅れに疑問が強まっているアメリカでは、最近、関係者が相次いで早急な対策を求め始めている。日本がすでに「構造的な罠」に陥っていると主張するアメリカのロバート・ダッカー氏は、銀行の不良債権処理問題で具体的な提案をしながら、小泉首相のリーダーシップこそが日本が難を逃れ、復活できるかの重要な決定要因だとし、それに失敗した場合、日本の危機は巨大なシステミックリスクを世界に与える、と警告する。
要約
私の見解では、日本はすでに「構造的な罠」に陥っており、小泉政権が銀行の不良債権問題にどのように対処するかが、日本が災難から逃れ、復活できるかの重要な決定要因となっている。私の関心はただ、日本だけに向かっているのではない。日本からはすでに大量の資本が海外に逃避し始めており、日本が「構造的な罠」に深く陥れば陥るほど、世界の資本市場のリスクはより大きくなるからである。
ある国が、「構造的な罠」に陥っているかは、内外の変化に直面している支援されてきたセクターを維持する政治力学が、資本の再配分を許容する政治力学より強いかどうかにかかっている。政治の指導者がもし赤字支出、政府による預金保証、極端な金融政策に頼り、必要な構造改革を伴わなければ、経済は引き続き収縮する。政治の指導者たちはますます財政支出に頼り、経済は依存的になり、経済にしめる政府の役割は着実に増加する。その結末は明らかである。月ごとに経済はますます身動きが取れなくなり、国民所得、消費、投資、貯蓄も減少し、それに伴い、政府の借り入れ(直接の債務と偶発債務)は増加する。経常収支は赤字に向かい、実質金利は上昇し、通貨は強くなる。
この場合、政策の枯渇はさまざまな形をとる。先進国では通貨の極度の上昇を阻止するために介入がサインとなり、最初は緩やかだった資本の移動は次第に加速し、名目金利は上昇し始める。ゼロ金利の状況下でしか生きられなかった企業の倒産が始まり、政府の財政状況を悪化させる。この段階で「突然の停止」のリスクは高まってくる。国内資本の逃避、政府の財政政策の失敗、急激な通貨の下落、金利の上昇、連鎖的な企業倒産を原因とする壊滅的な構造改革を最終的に経験することになる。
日本の場合も、こうした構造的な罠に陥っていることが数々のデータから明らかになり、財務省が昨年の秋から実施した円高介入から、通貨は円安になり、大量の資本が日本から逃避している。こうした状況打開するためには、小泉首相のリーダーシップこそが重要な決定要因になっている。そのためには、日本が構造改革に動き出していることを、明らかな形で示すしかない。その焦点が銀行の不良債権問題である。現在の小泉政権がこの不良債権問題で何をなすべきか、私なりにこの稿でその打開策を提案したい。
日本の経済改革の遅れに疑問が強まっているアメリカでは、最近、関係者が相次いで早急な対策を求め始めている。日本がすでに「構造的な罠」に陥っていると主張するアメリカのロバート・ダッカー氏は、銀行の不良債権処理問題で具体的な提案をしながら、小泉首相のリーダーシップ