小林陽太郎氏(富士ゼロックス株式会社前最高顧問)
ご多忙の中、言論NPOの9周年を祝う会に、たくさんの皆様にお集まりいただきましてありがとうございます。私は、他の多くの方々とともに、工藤さんが前職を投げ捨ててこの言論NPOをスタートさせました際の応援団の一人です。
いま日本に必要なのは、質のいい言論です。また、発信はもちろん、その元になるきっちりとした考え方を、志を持つ人達が切磋琢磨してつくっていくことが必要です。いま政界だけでなく経済界などいろいろなところで、「小さくなった」とか「言葉が軽くなった」といった批判があります。言葉の元にある考え方そのものについて、我々として大いに自省し、言論NPOがいろいろな形で場を提供して、日本における言論の質を高めていくことで、グローバル化の中での日本の存在価値が評価されていくのではないかと思っています。
特にここのところ、言論NPOの日中関係の活動がご注目をいただいています。ただ言論NPOの活動は、日中関係のためだけにやっているわけではなく、広く質の高い言論というものを日本の中で定着させようというのが、言論NPO創設以来のミッションであります。いつの間にか9年になりますが、ここまでの皆様のご助言、ご支援に心から御礼申し上げます。
福田康夫氏(衆議院議員、元内閣総理大臣)
ご紹介ありましたとおり、私はこの言論NPOに今年初めて参加をさせていただきました。前々から存じあげておりましたけれども、なかなか機会がなく、参加できていませんでした。最初は、激しい議論をするところだなと勘違いしておりましたが、先ほどの小林さんのお話の通りだと思います。言論NPOは、質の高い議論をされているところで、内心ほっとしているところであり、同時に、ますますこれから活躍する必要があると思っております。特に、工藤代表は本当に熱意をもってやっていらっしゃって、その姿を拝見し、私は参加させていただこうと思いました。
8月末、私自身、実は問題が起こったときに北京におりました。問題が起こったのを知らずに大変前向きな話をしてまいりまして、あとで、いったいなんだったのかなと思いました。日中関係は、微妙な問題をはらむ関係ではあります。お互いの立場を考えながらやっていかなければなりません。それから、この極東アジア地域では、せっかく平和を志向する地域という共通認識があったにもかかわらず、一転、紛争地域になるなどということがあってはならない。これを何とかして、努力していかなければならないと思っています。
それにはいろいろな方法があるかもしれません。しかしその中で、腕力に頼らないなら、言論でやるしかない。お互いに言葉でもって説得し、理解をしてもらう。そしてお互いの共通点を認識していくことが必要なことであり、今まさに求められていることです。戦略的互恵関係って何だったのかといわれるようじゃダメで、そのレールにきちんと戻っていかなければならない。そのことに、言論NPOが大きな貢献をしてくださるということに期待をもっています。
本日は与党の幹事長もお越していただいています。本来であれば私の前にご挨拶いただかなければならないと思いますが、本日は私の主催する会があり、勝手ながら先にご挨拶させていただきました。与党幹事長に期待するところも極めて大きいものがありますので、ぜひ皆で力を合わせてこの地域を平和で発展する地域にしていきたいと思います。
言論NPOがますます輪を広げていくことを心から祈念しております。大変おめでとうございました。
佐々木毅氏(学習院大学教授)
さっぱりアドバイスもしないうちに9周年を迎えました。アドバイザリーボードとしては誠に嬉しい限りです。9周年というのは珍しい会でありますが、その心はといいますと、10周年ですと「ああこれで終わったな」と思うわけですが、これは工藤さんがますますこれから盛んに活動していくという決意がこめられたものなのかなと先程来愚考しているところです。
工藤さんと皆さんの組織的活動力がこれほどまでに高いものであったということに、まずは驚きと敬意を表したいと思います。日本の様々な課題についての言論というものを活発にしていただき、その中に政策も含めて、知見を世の中に発信していくことには、今後ますます期待しています。
若干語弊がありますが、冷戦が終わって20年くらいは、世の中が単純化してきたように思っていました。その前は「日本異質論」などたくさんあったのですが、それからは、見方によっては議論が大変単調になってきた。しかし、ポールソン財務長官のおかげなのか、リーマンショックがあり、これ以降、再び世界が複雑になってきています。政策にしろ言論にしろ、やはり現実に対する耐えざる執念があって初めて議論は生き、根を持つものだと私は確信しています。この国は、やたら政策が多い国でして、どこにその根があるのかといささか心配なところでありますが、ちょうど今は現実を見極めるために、大いに言論を活発にし、お互いの現実認識を磨き上げ、そしてじっくり取り組むべき時期かと推察しているところであります。
そういう意味で、9周年というのは、工藤さんは何かこだわりがあったのではないかと思います。絶えずわたしのところにいらして議論をしていたのですが、やはり歴史的な区切りという意味もあります。お互いの自己認識、世界認識というものをもう一度頭を整理してかかる、という希望を込めて集まりをされたのではないか。幸い、新しい年もすぐそこまでにきています。言論NPOがさらにフレッシュな形で言論が活動されることを期待しています。私自身も、皆様とともに出来る限りの力を発揮したいと思います。本日はどうもおめでとうございます。
岡田克也氏(衆議院議員、民主党幹事長)
9周年おめでとうございます。私もここに来る前に記者の方とお話をしていまして、何で9周年なんだという話になりました。先ほど佐々木先生から高尚な解釈がありましたが、「9」とは工藤の「く」なのではないか(笑)。そのくらい、工藤さんの熱心さが表れているわけでありまして、日頃の活動に対して心からの敬意を評したいと思います。
さて、佐々木先生の高尚なお話の後ですと話がしにくいわけですが、言論ということに関してわたしの経験を申し上げたいと思います。外務大臣の際に、記者会見のオープン化を実現しました。色々な議論がありましたが、すっかり定着化したわけでございます。このオープン化というのは、既存の新聞、テレビだけでなく、インターネットやフリーランス、外国のメディア、週刊誌の方に自由に出席していただき質問をうけるという形をとることにしました。基本的に、質問がなくなるまでやっていました。その中で非常に面白いなと思ったのは、議論が立体化したということです。既存のメディアとは全く違う視点からの質問が出てきて、議論全体が非常に豊かになってくる。そうすると既存のメディアの皆様も負けじと色々考えて質問をし、そうした中でとてもよい議論が行われたのではないかと思っています。
最後の記者会見のお折には、これについてどうだったかという質問を受けて、まず、ストレス解消の場として非常に楽しかったと申し上げましたが(笑)、本当に多くの質問者の皆様に教えていただいたし、議論する中で、私自身もいろんな考え方を整理させていただいたと申し上げました。やはり多様な立場からの議論があって、議論が深まっていくと実感したわけです。
言論NPOはまさしくそうした議論をする場をご提供いただいています。ますます活発に議論いただき、日本の言論を深めていただきたいと思います。ありがとうございました。
安斎隆氏(株式会社セブン銀行代表取締役会長)
お待ちかねですからロングスピーチはしないで、早速乾杯を。ただし一言だけ、先ほど佐々木先生もおっしゃいましたが、なぜ9周年なのかということです。セブンはわが銀行の名前です。8は発展の8。そして9は永久の9です。これは恐らく、工藤くんが掲げた理想が、永久に努力しても実現しないというくらいに厳しいということなのでしょう。
私は8月の末にフォーラムで、「技術革新は経済発展を支えます、しかし一方で、技術革新は情報の民主化をもたらし、為政者が政治を行い、人心を掌握することが極めて難しくなっている」と申し上げました。すると、たちどころに尖閣ビデオの流出や、劉さんのノーベル賞の受賞、ウィキリークスといった問題が出てきました。ですから、日本だけが大変なわけではないのです。日本のことについて、そんなに悲観的になる必要はない。
私はやはりそういう中でも、岡田さんに言ってやりたいのは、記者会見でやって良い知恵が浮かぶとかではなくて、政治家が自分で秘密を持ちながらやらないと政治は行えないということです。しかし民主主義ですから、それが溜まり溜まると交代をしてもらう。これが民主主義のルールだとおもいます。
お説教する相手がいなくなりましたが(笑)、いずれにしても、9は永久の9です。次を期待して頑張るということで、今後ともサポートをお願いしたいと思います。
仙谷由人氏(内閣官房長官)
仁義の上からも、一言お祝いをしないといけないと思って、駆けつけて参りました。工藤さんとは東洋経済の時代から存じ上げておりまして、年も似通っているものですから、お付き合いをさせて頂いておったわけです。私自身はお金もないし、知恵もないものですから、全力で工藤さんのために何かをしたということは無いのですが、「東京-北京フォーラム」だけはできるだけ出させていただくということで、今までお付き合いをしてきました。
どうも、選挙の時に、工藤さんが「東京-北京フォーラム」をぶつけるクセがあるようでして、なかなか北京にはいけないことが2度ほどあったような気がします。ただ、着々と実績ができて、北京と東京といいましょうか、中国と日本政府との間に確かなチャネルといいますか、パイプができているのだな、という風に思います。ただ中国の方々も、色んな状況の変化でなかなかうまくコミュニケーションができない、ところもないわけではないので、私も急に今年の6月からこういう立場になりまして、政治というのは難しいなと実感しております。
今日もおいでになってらっしゃいますが、メディアの存在というものが、現在のメディアがやはり新聞が週刊誌化して、週刊誌が何とか化して、テレビが何とか化かして、かなり私から見ますと、刹那主義的、それから企画力の貧困による横並びというか、同じ事を平気でやるという、ここが政治の側におりまして、悩みの種でございます。が、工藤さんががんばっていただけるお陰で、言論の世界は、少々まともな質を保っていただける、そんな風に思っている次第でございます。今のは、半分冗談だと思っていただければと思います。
今の政局は何があってもおかしくない政局ではございます。しかし、日本という国は、市民社会、経済も言論の世界もそうはいっても、健全でしっかりとしたものがあると信じておりまして、政治の世界が少々どうなろうと、これは心配ない、という気もしないではありません。そんなところで、言論NPOに、これから皆さまのお力を益々注いでいただければと思います。
それから、来年からは市民公益税制が、野党の方々が、あまり妙な邪魔をしなければ、この市民公益税制のNPOに対する認定基準の問題で、大いにNPOが資金を集めて、今までの100倍ぐらいの活動ができるようになると思いますので、ぜひそういう観点から皆さま方にも、ご協力というよりも、自分で資源配分をおこなうという意識で、市民公益税制での減税額がもし1兆円になれば、確実に日本はひっくり返ると言いましょうか、変わると思います。1000億円でも変わると思います。ちなみに、ふるさと納税は70億円だそうです。官にあるいは、権力に資源配分を任せないで、自分で資源配分をやっておく。特に言論NPOには手厚く寄付をするということで、ぜひ皆さん方にお願いをいたしまして、挨拶とさせていただきます。本当に、みなさまご苦労さまでした。
明石康氏(国際文化会館理事長)
賛同者の一人として、ご挨拶させていただきます。先ほどから非常にカラフルな政治家が登壇しまして、これはセカンドトラックの言論NPOなのかファーストなのかいささか混乱しておりますけれども。
さて、言論NPOの活動は工藤さんの懸命な献身的な努力のおかげで、年ごとに活性化していると思います。今年8月の東京-北京フォーラムにはわたしも出席しましたが、白熱した噛み合った議論が行われました。それから一週間後に尖閣の事件がありました。このフォーラムを8月末にやらず秋にやったなら、フォーラムは流れていたかもしれませんけれども、セカンドトラックの率直な議論の場が何度も行われることで、おそらく尖閣にあったような不幸な事件のようなものは、もしかしたら防げたのではないかと思っています。実際、議論の場では、日中のホットラインはどう築けるか、透明性の問題、情報公開についてなど、日本側は中国側に厳しい注文を突きつけました。そして中国側も、懸命に耳を傾けていたと私は信じております。
やはり、民主主義にはタフな市民社会がそれを支えている必要もあります。我々がやっていることが徒労に見えることもありますが、ますます厳しくなる東アジアでは、お互いの間に何本でも横のパイプをつなげることが大事になってきています。特に縦割りの社会を横につなぐことで、いろんな風穴を開けることができるはずです。そのような意味で、我が国の民主主義を本物にするために言論NPOが果たしている役割には大きいものがあると思います。
とにかく、回を増すごとに言論NPOは勢いを増しています。ですので、「どうして9回なのか」ということは私は言わないことに致します(笑)。このような団体が政治や外交問題に対しても質の高い、多様性のある議論を政治・外交にぶつけることが、我々の繁栄につながるだけでなく、変なナショナリズムに流れることを防げるのではないかと思っております。
渡部恒三氏(衆議院議員、民主党最高顧問)
皆さんとの関わりは去年の北京‐東京フォーラムの際、仙谷くんが大臣になって、私が大臣になれなくて、その代理でフォーラムに出席したことで始まりました。今、国会議員の中で一番忙しいのが仙谷くん。暇なのが私です(笑)。
私が国会議員に初めてなったのは1969年の佐藤内閣。ポスト佐藤という言葉が政治用語になりました。そのころ、三角大福が崩しようもない状況になっていくわけですが、しかし、その時の政治は面白かった。それに比べて今ほど活力のない政治はないと思います。
私も、自民党の一党支配ではこの国の政治は成り立たない、自民党が行き詰まったとき、変わる政権政党をつくらないとならないということで、飛び出して今にいたるわけです。そして去年解散総選挙で圧倒的に勝たせていただいたときには、本当にうれしかった。命をかけてきた二大政党制ができたのです。しかしその嬉しかったときに、脳梗塞でぱたっといっていればよかったのかもしれませんが(笑)。残念ながら今もピンピンと生きているものでから、皆様にご期待いただいたのに、その期待にお答えできず申し訳ない。
この国のお年寄りが安心できるような日本をつくるには政治と言論です。言論NPOのみなさん、9周年おめでとうございます。みなさんの毎日の言論が、明日の日本をつくり、この低迷したこのつまらない国会を面白くしていただくことを期待して、ご挨拶とさせていただきます。
宮本雄二氏(前駐中国特命全権大使)
工藤さんには、本当に頭が下がります。工藤さんと会うたびに汗をかいて、何分も自分の思いを語り、「宮本さん、どうしましょう、こんな課題があります」と話をしてくれます。そんな工藤さんの熱い思いには本当に頭が下がります。
東京-北京フォーラムは、日中関係が最も厳しいときに始めていただきました。心から感謝しております。そしてさらに、日本の言論界、それを日本の民主主義を支える基礎としてさらに強化するために発信していかなければならないという思いのたけを工藤さんから聞きました。
言論NPOのこれからについて、できるだけ協力をさせていただきたいと考えています。工藤さんをどうか助けてやってください。それは日本を助けることです。よろしくお願いします。
石破茂氏(衆議院議員、自由民主党政調会長)
いま宮本前大使がおっしゃったことが極めて本質的なことですので、付け加えることは余り無いのですが、一言申し上げます。世の中いろいろな価値観があって、真実という価値観の中で、正しいか正しくないかを決めるのは学者の仕事でしょ、良いか悪いかを決めるのは宗教家の仕事でしょ、美しいか美しくないかは芸術家の仕事でしょ、ということになるわけです。では、政治は何をするのかということですが、どちらかといえば、何が正しくて、正しくないのかを追求するものであらねばならないと考えております。
翻って今の言論とは何なのか。関係者がおられて恐縮ですが、商業ジャーナリズムの価値観といえば、視聴率があがるか、購読部数が増えるか。そうである以上、なかなか限界があるのだろうと思います。では、国会に言論があるかというと、私はずっとこの間の議論を見ていて、決して健全な議論であるとは思っていない。それは、きちんとした知識のある上での発言ではないし、その場しのぎの答弁が多い。そんなことで「健全な議論」になるわけがないと思っています。政治家も、票になるかならないかが唯一とまではいかないまでも大きな価値観であり、どうしても限界があります。
我々自民党が政権を失ったのは、間違いなく、有権者に対する感謝と畏れがなくなったからだと思っています。そして、自分の頭で考え、自分の言葉で語る人が少なくなったからです。それを取り戻さない限り、民主党がダメだから自民党に政権が戻っても、意味がない。それは去年の裏返しでしかないのです。私は、そんなダメ比べをするつもりはまったくなくて、どちらが正しいのかを問いたい。その点、商業ジャーナリズムの皆さんもどうぞよろしくお願いします(笑)。国会は国会で一生懸命やりますが、ちゃんとした言論になっていないということであれば、それこそ、批判してほしい。
そういう意味で、工藤さんのような言論NPOは怖い存在です。だからこそ皆さんで支えなければならないのです。我々政治の現場にあるものは、言論NPOの存在を意識しながら、どうすれば健全な議論になるのか、自分の展開する議論は国民のためになるのかということを常に考えなければならない。その意味では本当に有り難い存在だと思っています。自民党はNPOとくるとすぐに逃げるのですが、そうではなくて、我々から常に発信していくことが必要でしょう。
また、国内のみならず、先の日中フォーラムも、本当に有意義な議論をさせていただきました。自分の考えを整理するのにありがたい機会でしたし、これから日中がどうあるべきかについて真剣な議論をさせていただきました。そういう場を提供してくれる言論NPOは、お世辞抜きに、日本の民主主義の至宝だと思っています。
言論NPOが来年ますます盛んに活動され、日本にきちんとした民主主義が確立されるように、心から祈っています。
武藤敏郎氏(株式会社大和総研理事長)
言論NPO9周年ということで、今いろいろな政治の場で活躍されている先生方が今の政治の現状についてのお話がありました。今年は「熱い」というキーワードがあるようですが、どうも私はこれはピンと来ないなというのがありまして、「期待が裏切られた年」ではなかろうかと思っています。
考えて見れば、今年の年始は、今頃は日本経済が悠々と回復しているというのがコンセンサスでありました。政治も「change」ということで、何か新しい改革の決断がなされるのではないかと期待がありました。アジアにおける日本の存在感も、もう少し強くなっていくのではないかという期待感もありました。現実はすべて、裏切られたという思いのほうが強いように私は思います。
これはもちろん、混迷した社会の情勢、政治の情勢のためです。しかし一方で、「国民以上の政治は出てこない」という言葉があります。子どものことばかり批判している親がいますが、子は親の鏡であると。同じようなことは、国民と政治の間にもあるのではないかと思っています。
これについては、工藤さんにも色々と思いがあるんだと思います。工藤さんの思いは分かるんですけれども、それをどうするのか、いまいち分からなかった。「どのようにしたら」ということについて、本当にうまくいくのか、と。これは、「何を目指すか」ということよりも大事なことかもしれません。ビジョンを並べることは意外と簡単なことです。しかしそのビジョン相互間に相容れないことがあった場合にどうするのか。これがstrategyだと私は思います。そのstrategyがビジョンと同じくらい重要なんですが、それについてコンセンサスが無い。そこに今の閉塞感があるのではないかと思います。
「国民の皆様の声を聞く」という言葉が流行りました。しかし、聞いたら100人100色。分からないのではないか。そういう時に大事なのは、オピニオンリーダーの存在なのです。経済界の権威あるオピニオンリーダーというのがたくさんいました。そういう人たちの意見を国民は色々聞きます。国民もバカではないので一人の言葉のみを信じるということはありません。様々なリーダーの意見を聞いて、自分の考えを形成するのです。どんな情報過多な時代であっても、すべての国民が自分で情報を消化して自分で判断しろというのは無理だと私は思います。オピニオンリーダーの存在があって初めて国民は自分の考えが形成できるのです。
その意味で、言論NPOがやるべきことは、まさにオピニオンリーダーとしての役割を果たすことではないかと私は思っています。今のメディアでのオピニオンリーダーの取り上げ方は、オーソドックスなのは面白くない、だから通説に反するような意見を好んで取り上げるという傾向があるように思います。しかし、こういうことでは世の中は進歩しません。オーソドックスな意見が権威をもって通用するような場をつくることが、言論NPOの最も重要な役割の一つではないかと思います。
今年は期待はずれの年だったわけで、来年はその期待の一部でも、次の日本に向けての一手を確実に打てる年にしたい。そのためには、オピニオンリーダーたる言論NPOの活躍が重要であると思っております。
増田寛也氏(株式会社野村総合研究所顧問)
すでにお帰りになったと思うのですが、先ほど渡部恒三さんがいらっしゃいました。考えてみたら渡部さんが言われた悪代官というのはあの人のことを言うのだなと思っています(笑)。岩手県が北朝鮮のようになっていると言われておりますが...。
さて、9周年のお祝いの場ということで、いろいろな方々がそれぞれの立場でご挨拶しておられました。政権交代がなされ、言論NPOがまじめに継続して評価をしていきたいと工藤さんも言っておられました。いま、マスコミとは一線を画した形で、そうやって筋を通していろいろな活動をするということは、おそらくこれまでの日本の歴史で初めての試みだと思います。ぜひこういう活動を大いに盛り上げて、成功につなげられればと思います。
来年がちょうど10周年ということです。節目の年になりますので、わたしも一生懸命少しでもお手伝い出来ればと考えています。
木村伊量氏(朝日新聞社西部本社代表)
仙谷大臣はお帰りになったようですけれど、刹那主義で企画力に乏しいメディア代表して一言ご挨拶を申し上げたいと思います。
今年も押し迫ってきましたけれども、非常に寒々しい光景が色々あります。朝鮮半島では、あるいはこの民主党政権内のほうですけれど、日々緊張が高まっていて、混迷が深まる。来年、どうなるかというかということでございます。わたしは去年政権交代になって、これから国益と民益といいますか、国権と民権、それから官と民、国と私という言葉が整理されてくるのではないかと思っていましたが、残念ながら、益々わからなくなってきたとここにお集まりの皆さんも思われているのではないでしょうか。
しかしながら、我々の目的はそうではありません。この国、あるいは世界にどう公共益を興じていくか、公共の財をどうつくっていくかという、一つの大きな目的、このための一つ大きな力のある組織が、あるいは運動体が、この言論NPOであろうかと思います。まだまだ9年で、色々な波には飲まれてはいますけど、ここまできたのは、現在の坂本龍馬というべき工藤さんのファイトがあって、その熱意を感じて、ここまでお集まりになったのだと思います。9年ということで、どういうことだろうと先ほどからありました。私も、連続して6回「東京-北京フォーラム」に参加してきて、今年が一番よかったなと思った矢先に、尖閣諸島の事件が起こり、日中間がぎくしゃくしております。日中間にちゃんとした議論の場をつくるのは大変だなと思っていますが、ここで諦めるわけにはいきません。今年は、少し差し込まれたなという感じはありますけど、9回というのは、9回逆転ホームランであると思って、来年はもっといい年になるように、みなさんとともに努力をしていきたいと思います。どうもありがとうございました。
今井義典氏(日本放送協会副会長)
工藤さん、そして言論NPOの皆さん、ご支援の皆さま、この1年、本当にご苦労さまでございました。私は、今年は十分に参加することはできませんでした。恐らく、工藤さんの心境を私なりに憶測するなら、外交も内政も、まさにジェットコースターに乗っているようなことだったのではないかと思います。
ちょっと話がそれまして、抹香臭い話を一つだけして、ご挨拶に代えさせて頂きますが、わたしの家の近くの散歩道に禅寺があります。禅寺の三門の扁額にいい言葉が書いておりまして、ワープロで短冊形にプリントしてきたのですが、「宝所在近」と読むのですが、要するに、宝の山は意外に近いところにある。何事も苦労して挫折しそうになるけれども頑張れば宝の山はかならず見つかるという教えだそうであります。工藤さんぜひ、宝所在近でがんばりましょう。
冨家友道氏(みずほ証券BCP室長・総合企画部IT戦略室長、言論NPO監事)
この年末のお忙しい時期に、この時期になぜやるのかという議論が結構ございましたけれども、これだけの方にご参加いただきまして、ありがとうございました。さらに、非常に多くの方から言論NPOに対する温かいお言葉をいただきまして、本当にありがとうございました。先ほども石破先生のほうからお話がありましたけれども、言論NPOは視聴率や売り上げが目的ではない。この国の民主主義のために、取り組んでいる団体です。みんなで支えなくてはならないというお話がありましたけれども、この9年間というのは、事務方から見ればかなり大変な活動でもあります。大体工藤さんから電話がかかってくると「来月資金が足りない」と、こういう話ばかりです。ぜひこちらの面でのご支援も、今後ともよろしくお願いしたいと思います。
皆様、本日はお忙しい中お越しいただき、本当にありがとうございます。先ほどまで熱を出していまして、挨拶を色々考えていたのですが結局できませんでした。
先ほどから、「なぜ9周年なのか」といろいろな方に言われまして、それに対して答えを出さなければいけないなと思いました。この言論NPOを立ち上げたときにいつまで続けられるのかと問われ、その時私は「当面10年は続ける」と言いました。その10年まであと1年。この1年には言論にとって非常に重要な意味合いを持っていると考えています。つまり、10年経ってからではなく、この最後の1年決意を新たに取り組もうと言うのを皆さんに伝えたかったし、僕たちが取り組む議論づくりは工藤の動きではなく、各分野で活躍するみんながきちんとつながって、一緒に考えるという舞台にしたいのです。そのためにも、日本の未来を憂いている方がここに来ていただいて、来年1年間でこの国を変えるためのまさに1つの変化のきっかけをつくりたい。そしてそのことをこの年末にどうしても皆さんにお話ししたい、というのがこの会の趣旨なのです。
僕たちが9年前に立ち上げたときから、日本の政治は変わりました。言論NPOを立ち上げた時はちょうど小泉政権出来た時で、その後政権交代があって、日本の変化が大きく政治レベルで始まっています。9年前、僕は当時の状況を「言論不況」と言っていました。つまり、僕たちは課題を解決して日本は未来に向かわないといけないのですが、そのための役割を日本の言論は果たしていたのか、と。そのときは私もメディアにいましたので、非常に大きな反省がありました。それを突破するために考えたのが組織ではなく、横につながるということでした。実は私は東洋経済というところにいて、石橋湛山という人が大好きだったのですが、まさに東洋経済という歴史もそういう動きでした。戦争のときにそれに反対して、その言論を支えたのは各分野で活躍する多くの方のネットワークだった。このようなつながりが多分、これからの未来にとって決定的に大事だと思います。
言論NPOはここまで9年間活動をやってきて、この間を考えてみますと、政治家の皆さんがいらっしゃいまして申し上げにくいのですが、日本の政治は非常に良くないのです。いま言論NPOで「菅政権の100日評価」をしていまして、皆さんにアンケートにご協力いただいたと思いますが、508人もの方に回答していただきました。その中で、「日本の政治の現状をどう見るか」という設問があり、昔は「二大政党制になる」とか「日本の変化のはじまり」とかいう声が多かったのですが、今回は、半分近くの43.7%の方が「政府の統治(ガバナンス)が崩れ、政治が財政破綻や社会保障などで課題解決できないまま混迷を深める国家危機の段階」と答えています。統治として日本がめざす方向に動くという流れができていないまま、この社会が脆弱な構造になってきているのです。政府の統治が崩れるというのは日本だけではなく世界的にあるのですが、これは何を言っているのかというと、政治とか政府に任せていては駄目だということだと思っています。なぜなら、これは自己不信の問題であって、自分たちが選らんだ政治である以上、その政治に対する不信というのはおかしいのです。もう一度、僕たちがこの政治を自分たちのものとして変えるしかないのです。
なので、あえて言いますが、言論NPOは有権者の立場に立つ議論作りをしっかりと行っていきますが、しかし、有権者に判断材料を提供すると同時に、その上にいて議論をする人たちが真剣にこの国の未来に対して議論することをやっていかないと取り返しがつかないと思うのです。来年は、9年前に立ち上げた際の僕の気持ちを全部ぶつけようと思っています。それは基本的に有権者が自分たちで考える判断材料を提供すると同時に、僕たちがみんなで答えを出すという議論のプラットフォームをつくらないといけない。そしてただ単に議論が目的ではなく、議論の結果として必ず何か対案を出そうと、それを政府なり政党にもぶつけていこうと思っています。そういう流れを確実に目に見える形で僕たちは必ず実現します。皆さんには、ぜひお力を貸して欲しいと思っています。一緒に頑張りましょう。
12月21日、都内にて、「言論NPOの9周年を祝う会」が開催されました。
言論NPOは2001年11月に発足し、「健全な社会には健全な議論が必要」との立場から、以来9年間にわたって様々な議論や活動を行ってきました。パーティーには、言論NPOの活動にご支援、ご協力をいただいている会員や支援者の皆様をはじめとして、政界、経済界、学術界、そしてNPO関係者など約250名の方々にご参加いただきました。
参加者の発言をご紹介いたします。