「北海道の自立・再生を考える民間委員会」第三回全体会議報告

2006年10月31日

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 10月29日の日曜日、言論NPOは札幌市内のホテルで、「北海道の自立・再生を考える民間委員会」を開催。北海道に問われる本質的な論点の提示と地域再生のためのシステム設計に向け、北海道との協働をさらに進めることで合意しました。

 言論NPOは、地域の自立・再生に向けて、地方との間で議論の協働を行うことを呼びかけています。この動きは昨年5月に、まず北海道から始まりました。北海道は、長らく国への依存体質が続き、財政的にも経済的にも全国の中で自立が最も困難な地域の一つである一方で道州制のモデル地域としてその先行展開が期待されている地域でもあります。

 北海道の自立に向けて、まず、その地域において主体的な議論の良循環を起こそうという私たちの提案に対し、北海道の各界の有識者が「民間委員会」を結成し、北海道と東京で交互に議論を行ってきました。

 既にこれまでの会合では、社会システムのデザインと戦略形成の方法論に基づきながら、北海道側か
ら、経済を反転させる良循環の道筋として、農業や観光などを通じた民間需要の創出策としての地域産業クラスターの形成など、いくつかの提案がなされ、それを実行に移す試みとして官と民との間に「公」の領域を据え、NPO「北海道起業化プラットフォーム」を立ち上げることなどが合意されています。

 この日の会議には、本委員会メンバーのうち、言論NPOが東京側から派遣した有識者として東京大学教授の生源寺眞一氏と名古屋大学教授の林良嗣氏、言論NPOからは代表の工藤泰志と理事の松田学(財務省、東京医科歯科大学教授)が、北海道側からは江尻司(北海道新聞社論説主幹)、川島昭彦(株式会社ビー・ユー・ジー代表取締役COO)、浜田哲(美瑛町長)、舟山秀太郎(株式会社舟山組代表取締役社長)の各氏が参加しました。

061029-hokkaido_2.jpg 会議では、代表工藤の司会の下に、5時間にわたり活発な議論が続けられました。冒頭に第二回会合以降の動きについて、北海道側の主催団体の「はまなす財団」の山崎常務理事より報告が行われた後、まず、代表工藤と東京側委員より論点の提示が行われました。
 
 その中で林氏は、将来の道州制もにらんだ地域の設計思想として、大都市圏(州都)や地方都市圏、自然共生圏がそれぞれ支え合うシステムを、ドイツの事例も踏まえながら提示しました。そこでは、地域社会圏の間の財政調整システムとして「責任範囲」(例えば都市圏であれば、自らの都市圏のみならず、その都市圏を支える後背地である自然共生圏も財政的にサポートする責任範囲と捉える)という概念も提案されました。

 また、生源寺氏は、もう一度北海道の農業のビジョンやあり方を考える必要があるとして、品質や安全性で強さを有する日本の農業に、かつて江戸時代に「勤勉革命」を起こした日本人の国民性を活かし、今度は耕すだけでなく人と人との結びつきにそれを向け、経営の厚みとメッセージ性の強化を図るべきだとしました。そこで重要なのは、エンドユーザーへの価値提供という文脈の中で、中高年の消費パターンの影響が強まることであり、また、世界的な食料需給のタイト化、穀物価格の上昇の中で北海道は自らのどのような優位性を活用して何ができるのかといった、大きな潮流を見据えた戦略的な視点です。

 松田氏からは、前回、林委員が提示したクォリティー・オブ・ライフ(QOL)の評価の観点から北海道が日本全国に対してどのような価値ある時空を提供できるかが問われており、それに向けたシステム設計をまさに北海道を先駆的な社会実験の場として実践できるような議論形成をここで図ることが、真の意味での道州制への展開につながるとのコメントがありました。

 以上の東京側発言を受けて、北海道側の舟山氏からは、重要なのはビジョンを実現するプレーヤーを明確化することであるとの指摘がありました。浜田氏からは、農業を企業との提携につなげる試行錯誤の状況や、町のブランド化と情報発信など美瑛町の様々な取組みが紹介され、そこにあるネックを克服していく上で、例えば、町村合併よりも広域連合を柔軟に進めることの重要性など、地域の実態を踏まえたいくつかの問題提起がなされました。

 また、川島氏からは、北海道の持てる豊かな資源を活かす上でまず取り組むべきは、北海道へのアクセスを改善して近隣(諸国)から色々なものを呼び込むことであり、ヒトとモノの導線は重要な発展戦略であるとして、千歳空港を拠点とした都市発展戦略を進めるべきとの提案がありました。江尻氏からは、夕張市の事例は地方が直面する、動かし難い限界をも示すものであり、都市と自然共生圏との関係の基盤をしっかりさせる理念とシステムの構築が必要とのコメントがありました。

 以上、各委員の発言を踏まえ、代表工藤は、自立の戦略とシステム設計が議論の柱となるのであり、そのためには起業も含め様々な分野で動きだすプレーヤーをどう作り出すのか、縮小する官の機能の受け皿の構築を含め、ヨコの軸での横断的な組み立てを地方でどう設計するかが問われているとしました。そして議論は、北海道が自ら自立に向かってアクションを始めることを前提に、広域経済圏に向けた地域連携、夕張市の事例は何をメッセージとして伝えているか、リタイアメント層の二ヶ所居住に北海道をどう組み込むか、海外からの滞在型観光戦略をどう進めるか、農村や観光について北海道に適用できる欧州モデルから何を学ぶべきか、空港を拠点化するためには何が必要か、自治体の受益と負担のシステムや地域による価値創出の評価体系をどう構築すべきかといった論点を始め、広範なテーマにわたって展開されていきました。


 こうした議論の中で、代表工藤が強調したのは、地域での合意の形成の必要性と、主人公はあくまで地域の人々であり、議論を議論で終わらせずに具体的なアウトプットを出すことの重要性です。代表工藤の提案により、今回までの議論をさらに深化させて、来年春の北海道知事選という市民にとっては重要な政治選択の時期に向け、地域の有権者に適切な判断材料を発信すること、それに併せて、地域再生のプレーヤーをサポートする仕組みとして例えばNPOを起動させるなどの具体的な動きに踏み出すことが、今回の委員会で合意されました。


 この民間委員会は、昨年5月に東京側から当時の経済財政諮問会議の本間正明氏を始めとする有識者が参加する形で、言論NPOが地元のはまなす財団との共催により開催したフォーラムで設置が合意されたものです。以後、第一回会合(札幌)では東京側から北海道の自立に向けた議論の方法論と課題解決の提案が行われ、これに対して本年2月の第二回会合(東京)では北海道側委員が、東京側案を具体化する形で、北海道の自立・再生戦略を作成し、東京側にそれをぶつける形で議論が行われるなど、活発な活動を継続してきました。 

 今回の第三回会合は、これまで行われてきた自立戦略を夕張市の破綻で浮かび上がった自治体経営の制度設計の視点から補強すると同時に、北海道の自立論議で考慮されるべき議論課題を整理することを主眼に議論が行われました。北海道では来年春に知事選も予定されており、北海道が自立するという視点から、それを実現させるための議論や知恵の競争が求められています。そのためにも、議論の結果や内容を広く発信することも大切だと考えており、来春には報告書などで公開することも申し合わせました。

 言論NPOでは、地域の人々が自立・再生に向けた議論作りとそれらを具体的なアクションに移すことをサポートしたいと考え、自立という目標に向かって同じ目線で東京の有識者と議論を行うだけではなく、課題解決の案づくりも協働を行おうと考えています。そのため民間委員会という議論のプラットフォームを、今後はさらに全国に広げ、地域との議論協働の場としてさらに広めることを目指しています。 

 10月29日の日曜日、言論NPOは札幌市内のホテルで、「北海道の自立・再生を考える民間委員会」を開催。北海道に問われる本質的な論点の提示と地域再生のためのシステム設計に向け、北海道との協働をさらに進めることで合意しました。