「北海道の自立・再生を考える民間委員会」第二回全体会議報告

2006年2月13日

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 言論NPOは地方との議論協働により、地方の自立・再生に向けた戦略構築の議論を北海道からスタート。2月5日、東京で開催された公開での第2回「民間委員会」で北海道側から地域再生戦略が提示、言論NPO側有識者との間で活発な議論を展開。


 地方の自立・再生に向けて、地方自らが主体となり、言論NPOとの協働でその戦略作りと具体的なアクションに結びつける議論の循環が、道州制のモデル地域に指定されている北海道から始まっています。2月5日に東京で開催された第2回民間委員会では、具体的な数値目標の下に地方の全体システムをデザインし、それを実行する主体を構築することが合意されるに至りました。ここで提起されたのは、地域再生の担い手としての、「官」・「民」の枠組みを超えた「公」の概念です。

 既に、昨年5月に札幌市で開催した公開でのキックオフ・フォーラム(言論NPOが派遣した東京側有識者として、経済財政諮問会議の民間議員の本間正明氏、エコノミストの高橋進氏、社会システムデザイナーの横山禎徳氏(言論NPO理事)、東京経済大学助教授の周牧之氏(同)のほか、言論NPOの工藤泰志代表、同理事の松田学が参加)では、地域の自立・再生に向けて北海道で主体的な議論の良循環を起こす必要性などについての認識の共有が図られましたが、そこで合意されたのが、「北海道の自立・再生を考える民間委員会」の発足でした。

 同委員会は、7月26日に札幌市で、第1回会合を行い、まずは言論NPO側から、問題提起として、地域再生の戦略形成の方法論と北海道の課題といった議論の枠組みが提示されました。その後、これを受けて、北海道側では民間委員会が独自に検討を重ね、投げかけられた枠組みに即した「戦略解」の模索が続けられてきました。

 第2回となる2月5日の今会合では、こうした検討の成果を北海道側委員たちがまとめた「北海道再生戦略案」の報告が行われました。そして、言論NPO側有識者たちから、これについての意見陳述がなされ、その後、両者が議論をぶつけ合う形で活発な討論が行われました。

hokkkaido-060205_1.jpg今回は、東京の丸ビルの会議場にて、言論NPOと北海道の「はまなす財団」との共催により、言論NPO側から作年12月に発足した言論NPOの地方再生戦略会議のメンバーの、前述の代表工藤、横山禎徳氏や松田学氏(財務省)に加え、農業問題の専門家である生源寺眞一氏(東京大学教授)、都市持続発展論や土木工学を専攻する林良嗣氏(名古屋大学教授)が参加、北海道側からは、美瑛町長の浜田哲氏、北海道新聞論説副主幹の江尻司氏、光合金製作所会長の井上一郎氏、ビー・ユー・ジー最高執行責任者の川島昭彦氏、舟山組社長で前産業クラスターオホーツク社長の舟山秀太郎氏、東洋農機株式会社社長の渡辺純夫氏が出席しました。(その他、この委員会は、乙部町長の寺島光一郎氏、深川市長の河野順吉氏がメンバーになっています。)

 言論NPOの工藤泰志代表の司会の下、約4時間に及んだ今回の会合では、北海道がその国や官への依存体質から脱却し、民間資金が道外に流出する悪循環を断ち切り、10年内に3兆円という数値目標の下に公的支出を民間需要に置き換えて新たな良循環を生み出すため、北海道の戦略的な「強み」である農業、観光に加え、産業クラスターや農山漁村コミュニティービジネスなどの各分野において、直ちに取り組むことができる具体的な提案が数多くなされました。議論をただの議論に終わらせず、戦略形成と社会システムデザインを基本に、これを具体的なアクションにつなげることに主眼を置いた会合となりました。

 まず、工藤泰志氏と松田学氏より、今回の議論の趣旨についての説明が行われましたが、そこでは、当事者意識をもった主体的な議論形成を図ることや、地域での新しい価値創造に向けた試行錯誤のプロセス、解の発見に向けての地方の有識者との知的な協働の重要性が強調されました。

 また、日本の将来像構築に向けた戦略論と地方の評価も含めた政策評価の2つ軸での議論形成を進める言論NPOとしても、こうした議論を、自立性が最も低い地域として経済低迷と地方財政の深刻な状況に直面しながらも、道州制モデル地域に指定されている北海道から行うことは、極めてチャレンジングな課題であり、そのエコノミクスを描くことから多くのものが見えてくること、北海道経済が北海道の域際収支の赤字をはるかに上回る国からの財政資金で支えられている状況の転換のためには、道内に民間投資の循環を生むことが喫緊の課題であることなどが指摘されました。

 次に、川島昭彦氏から、北海道側で作成した「北海道再生戦略案」の報告が行われました。過度な国の財政移転への依存・人口減の悪循環構造を断ち切り、経済を反転するループを見出して民間主体の自立型の経済社会を形成するため、「美味しい北海道」をプロデュースし、真の観光大国を目指し、これらを地域社会の構築に活かしつつ産業クラスター形成への循環を起こすことや、そのために、NPO組織「北海道起業化プラットフォーム(仮称)」を設立し、地域社会に官と民の間に「公」という領域を設けて行政や民間だけでは十分に機能しなかった分野を担わせることなどが提案されました。

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この北海道側提案に対して、以下、言論NPO側の3人の参加者が意見を述べました。

 まず、横山禎徳氏は、この報告は産業振興的発想だが、高齢化・人口減に直面する日本で本当に必要なのは消費振興であるとし、高齢者のお金を消費に引き出させ、二ヶ所居住を発信し、「リピーター」を促進して、より広い意味で「観光」を捉え、非居住者による消費によって北海道にお金が入ってくるシステムをシステムデザインの発想で構築し、それをすぐに行動に移すべきことなどを強調しました。

 次に、生源寺眞一氏は、北海道の食料自給率はカロリーベースでは国内1位であるのに比して、金額ベースでは青森と拮抗する4位と相対的に低く、金額ベースでも1位に引き上げるべきだとし、日本の飲食業の付加価値80兆円のうち川上は2割に過ぎず、残りの64兆円の肥沃な大地に北海道がどこまで食い込むかが課題であるとしました。そのためには、川下側との関係を上手に構築すべきであり、流通経路の工夫、品質に対する消費者の信頼獲得、システム全体の質の構築などに取り組むべきだとしました。また、北海道は、集落がオープンなコミュニティーとなっていること、食と観光を組み合わせたフランスの事例などのヨーロッパモデルを使える地域であることなどの強みを持っていると指摘しました。北海道の土地条件では、アメリカや豪州、ニュージーランドなどとの農業の生産性格差を克服することは困難であり、むしろ、アジア諸国の所得水準の上昇により富裕層から出てくるニーズに質の高い産品で応えていくべきであるとしました。

 林良嗣氏は、真の豊かさの指標であるQOL(クォリティー・オブ・ライフ)の極大化こそが今後の課題であり、クルマ社会が居住を分散化させた結果、持続不可能となっている状況からの脱却を、「撤退と再集結」の戦略によって促進すべきであるとしました。これは、ソーシャルハザード地区からの「撤退」と、独自の価値の創出によってQOLを高めたソーシャルバリュー集落への「再集結」へのインセンティブを構築し、居住のコンパクト化によって持続可能な社会を再構築することであり、それを、モビリティーへの障害の比較的少ない北海道で試みてはどうかという提案です。

 最後に、これら北海道側、言論NPO側からの議論を踏まえて、両者の間で活発な意見交換がなされました。ここでは、そのうち、次の2つの論点について紹介します。

 一つは、現在の産業構造の下で北海道は経済的な自立をどう達成するのか、特に農業では何が可能か、「自立」のためには具体的にはどのような目標を設定して行動すべきかという問いかけが北海道側から提起されました。

 この点につき、横山氏は、同じ経済規模であるデンマークが国として自立しているように、肝心なのは自立の意思であり、北海道が組み立てる観光のシステムは、自らできることばかりであるとしました。

 また、生源寺氏は、有利な価格がつきやすい品目の生産を増やす一方で、農家は、農業以外の産業も行う経営の多角化を目指すべきであるとしました。そして、総額確保の発想から抜け出して、集落の実情に即してその力を引き出せる政策提案を、北海道から発信することが重要であると述べました。つまり、政策提案ができるかどうかがもう一つの「自立」であり、例えば、北海道に最も適合するヨーロッパ型の支援措置の提案能力が北海道には問われているとしました。

 これについては、北海道側から、全国一律の制度が北海道の自立のハードルになっている状況のブレークのシナリオに自立が描かれるのではないか、農業政策についての政治的なタブーをどう考えるのかといった問題提起がなされ、議論が展開していきました。

 もう一つは、道州制など広域行政単位が議論されている中で、それが依然として見えておらず、行財政の世界での地方の自立を北海道で描いていくためには、具体的に何を目指せばよいのかという問いかけが北海道側から提起されました。

 これについて林氏は、前述のQOLをどう上げるかを考えれば、その場合の規模には色々なものがあってよいはずであり、自動車が人口分布を拡散させ、非効率的にインフラを拡大させてしまった状況から、有機的なコミュニティーをどう構築するかというところに戻るべきではないか、そのサポートシステムのモデルを各市町村が持つということを、北海道から提案してはどうかと述べました。また、財政再建のためには、予算を複数の項目にわたってパッケージ化するなど、優先順位を明確にすることでコスト削減を行うことが重要であるとしました。

 加えて、松田氏は、インフラ整備が未だに遅れているという北海道側委員の意見もあるが、北海道には様々な手厚い財政特例措置が講じられてきたのであり、それを今後どうするかは大変大きな問題で、今やナショナルミニマムの達成が大義名分にならない時代になった以上、全国の一般納税者が納得できるよう、北海道が日本のために何ができるかを明確に発信できる地域になる必要があると述べました。また、自立を目指すのであれば、それを国がサポートできるよう、そのエコノミクスをしっかりとした構想として提案すべきで、それによって経済の生産性を上げなければ道州制も現実化できないと指摘しました。

 今回の議論を踏まえて、今後、この民間委員会は報告書の取りまとめの段階に入っていきます。それと同時に、提案されたNPO「北海道起業化フラットフォーム」(仮称)を立ち上げ、それに言論NPOが様々なネットワークを通じて協力し、北海道の自立・再生に向けた具体的なアクションでも協働していくことが合意されました。

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言論NPOは地方との議論協働により、地方の自立・再生に向けた戦略構築の議論を北海道からスタート。2月5日、東京で開催された公開での第2回「民間委員会」で北海道側から地域再生戦略が提示、言論NPO側有識者との間で活発な議論を展開。