「議論の力」で強い民主主義をつくり出す
田中秀明氏(明治大学公共政策大学院教授)
私は次の選挙で、「政治家に白紙委任」はしません。選挙こそが民主主義の根幹だと思うからです。選挙は、これまでの政治家や政党がやってきたことを、国民が評価できる唯一のチャンスなのです。したがって、そこで国民は政治家がやってきたことをきちんと評価し、それを踏まえて、次の3年、あるいは4年をどう政治家に託すのか。選挙は、民主主義の世界で唯一、国民が自分の考えを表明できるチャンスです。絶対に白紙委任はしてはいけないと思っています。
明石康氏(公益財団法人国際文化会館理事長、元国連事務次長)
私たちが政治家に白紙委任をすることができないということはその通りだと思います。国民一人一人が自分の考えがあり、志があり、願いがあるわけです。代表民主制という制度がある限り、もちろん国民が直接政治家に代わって政治を行うことはできませんけれども、我々は政治家に当然の期待を持ち、注文があり、その枠内で政治家が政治を行うことを要求していいことだと思います。
「私たちは政治家に白紙委任はしない」という呼びかけは、政治も政党も十分に国民の期待に応えられない、つまり、日本が今、大変困難な時期に来ているということから、言論NPOがこの呼びかけを行っているのだと思います。
言論NPOの活動には、8年前の「北京‐東京フォーラム」から参加しています。私自身、特に健全な力強い市民社会の必要性を痛感しておりまして、そのためには言論の世界の活性化が必要だと考えています。日本の有権者に対して非常に大きな影響力を持っている新聞社、テレビ・ラジオ局というのは政治家の発言を市民レベルで徹底的に検証するべきです。
私は、今の日本の民主主義は試練の最中にあると思っています。どういうことかというと、かつて日本の高度成長期には、パイの配分を巡って、民主主義がかなり機能しました。しかし、日本が平和な成熟国家に到達した時点で、国民が大きな問題に関心を持たなくなって、自分の利害に強く関心を持つようになった。これに政治が敏感に反応して、いわゆるポピュリズムのような現象が起こっています。そういうことになると、民主主義はある意味で、民主主義であるがゆえに、自ら、機能のレベルを下げていってしまうことになってしまいます。
「次の選挙で何が問われているのか」アンケート調査では、「次の選挙の意味」、「マニフェストの必要性」、「日本維新の会は期待できるか」、「言論NPOの役割」等の設問に関するコメントを有識者413人からいただきました。そのすべてを公開します。
私は政治家に白紙委任しないという主旨に賛同致します。近々か、しばらくしてから選挙が行われると思いますが、最近私たちは政治家の個人的資質に着目して、政治家の品定めをすることが多いと思います。しかし、これを改めた方がいいと思っています。むしろその政党の政策決定機能あるいは政策立案機能、政治家をリクルーティングするシステムなど政党の組織により着目して、我々は政党を評価した方がいいと思っております。今、政治家、政党に求められているモノは、国民の民意を汲んで政策を作り、それを政党の総意としてまとめて提示することです。それを単に空理・空論ではなくて、政権をとった暁には、それを実際に実行していくという力が必要だと思います。
私は今、世界は大きな転換期に来ているのではないかと思っています。1989年にベルリンの壁が崩壊したときには、世界は連帯の秩序によって維持され、そして市場経済によって経済は成長すると人々は期待を持ったと思います。しかし最近の状況は、その期待に反してかなり危機的な状況になってきています。
近々選挙があるという時に言論NPOが「政治家に白紙委任しない」というキャンペーンを行っています。これについてはその通りだと思います。歴史を紐解くまでもなく、ドイツのナチス政権は、民主的な政権、選挙で選ばれた政権であり、その座に就いた後、政権が思うままに動かしていき、結局独裁政権をつくり、第二次世界大戦に導いた歴史があります。そういう意味で民主的な形をとればそれで政治は良くなる、ということでは絶対ないと思います。
増田寛也氏(株式会社野村総合研究所顧問)
日本の民主主義について私は非常に危機感を覚えます。民意をうまく掬いきれていないという言われ方がされますけれども、確かに最近の政治家の振る舞いを見ていると一体自分たちの信念を持ってきちんとした政治行動をしているのかどうか、そこは大いに疑わざるをえないと思います。
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