「日本の知事に何が問われているのか」をテーマに、全国の知事にインタビューを続行中です。
現在の発言者は平井鳥取県知事です。
平井伸治(鳥取県知事)
ひらい・しんじ
1984年東京大学法学部卒業後、自治省入省。福井県財政課長、自治省選挙部政党助成室課長補佐、カリフォルニア大学バークレー校 政府制度研究所客員研究員鳥取県総務部長、副知事、総務省自治行政局選挙部政治資金課政党助成室長を歴任後、2007年 2月に総務省を退職し、4月鳥取県知事選挙初当選、鳥取県知事に就任。
第4話:チャンスをつかめば弱みを強みに変えられる
第3話:一県だけで完結する時代から連携の時代に
第2話:中央政府の解体なしに道州制はない
第1話:「改革派」知事の退場後の次の「改革」のテーマを考える時代に
第1話 「改革派」知事の退場後の次の「改革」のテーマを考える時代に
片山前知事に至るまで、改革派と呼ばれる知事が全国各地に出てきたのは大きなモーメントだったと思います。それまで権威とか、しきたりとか、内向きとか、いろいろなベクトルが役所にあったと思いますが、県庁という行政機構のスタイルを変えようというのが、この改革派の、各県の知事が果たしてきた役割だったろうと思います。
例えば、情報公開を徹底するということです。食糧費問題に最初に火がついたわけですが、食糧費だとか、本来、役所の中の人たちにとって一番痛い部分を、それだからこそ公開しなければならない方向へとベクトルを変えていった。また、目線も、それまでは霞が関の各省庁が言っていること、あるいは法律に書いてあることがすべてだったわけですが、そうではないだろう。むしろ我々、地方の現場のほうから意見を国などにぶつけていって、それで制度のおかしいところを指摘するというように、地方から中央へのベクトルもあるのだというふうにです。こういうスタイルはとても新しかったと思います。これは律令国家の昔から中央集権に慣れ親しんできた日本という国にとって新しいムーブメントだということで、改革派は一つのステータスを築いてきたのだと思います。
ところが、このたびの橋本高知県知事の引退を最後に、すべて改革派がこの日本の地方自治から退場してしまいました。私たちはこの後、では今度は何をすべきかということになってくる。私は、次の世代の改革を、と言っています。今までの改革の次の改革を目指そうではないかということです。
これは別に従来の改革を批判するわけではありません。いろいろ町の声などを伺うと、改革は確かに進んだ、それで県庁は見えやすくなった、親しみがわいた、知事の顔が自分たちによくわかるようになった、全国的にも、よその県の知事の顔も知られるようになった、とおっしゃる。そのように随分変わったことは変わった。では、足元の生活、暮らしとか、街づくりをするシステム、福祉、教育など、本来、行政機構が考慮すべきサービス提供の水準というところ、あるいは地域を挙げて我が地域を守っていこうというその力という部分では、果たして前進したのかどうかという疑問が投げかけられているのも事実だろうと思います。それを謙虚に、我々、自治体のほうは受けとめなければならない。
すなわち、今までなかったことで、新しい世代、次世代型の改革として求めるべき幾つかのベクトルが出てくると思うのです。1つは、地域の活力を高める、そうした行政でないといけない。これを明確に心得ていくというベクトルを持たなければいけません。今までは、県庁のスタイルは確かに変わり、情報公開のランキングなどをしますと、そこに目が奪われていたわけです。しかし、それは住民にとっては一つのツールであって、本当に目指すべきものは、自分たちの生活が豊かになったかどうか、少なくとも、一息つけるか、潤いがあるか、ライフスタイルが変わったかです。これが本来の目的であり、この原点に視点をもう一度戻す必要があるのではないか。
2つ目として、交流や連携といった新しいテーマが必要となってくるのではないかと思います。今まで、スローガンのようにどこでも自立をしようと言いました。確かに、自立はある意味、当然のことです。それぞれの地域が自活をしていこう、あるいはそれぞれの企業が自分の力でやっていこう、農業者も自分である程度経営力を持つようにして競争力を高めていこう、それは確かにそうだと思います。
ただ、自立は当然の前提として、次は地域の中で結び付いていく連携とか、地域の間が広域的につながっていく、あるいは世界の中での自分の地域ということを考えて、世界との交流というものを考えていく。そういうことが必要だと思います。単に自立ということだけでやっていくと、ややデフレスパイラルに入ったり、縮小均衡に結びついていって縮こまっていく危険があるのではないかと思います。
3つ目として、未来を語りながら今を考える、そういう視点がもっと必要になってくるのではないか。どうも夢がなくなっているように思うのです。今、年金がどうしただとか、いろいろなテーマの課題が出てきますが、いずれも過去のことであったり、現在のことであったりするわけです。しかし、もうちょっと先の、自分たちは共通の未来を地域でこういうふうに持つ、その上で今、何をしようか、我々はこれをやるから行政はこれをやってください、学者の皆さんにはこれを応援してくださいというように、未来を考えながら、今を考えるというテーマもあるだろうと思います。
このように、連携、あるいは未来をもっと語ろうではないかといったように、従来とは違った切り口での地域経営に踏み出していく、そして活力に結びつけていく、そういう行政スタイルを目指すべきではないかと思います。
もちろん、これに合わせて、県庁のほうも県民をサポートするに足るだけの体制をつくらなければなりません。県庁の中も痛みを伴うわけですが、ダウンサイジングするだけでなく、ダウンサイジングをしながら行政サービスを維持し、高めていくといった工夫をしていかなければならないでしょう。こうした一連のものを凝縮してこれから進めていくことで、地域が変わっていくエンジンができてくるのではないかと思います。
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現在の発言者は平井鳥取県知事です。