アンケート調査は言論NPOの活動にこれまで参加していただいた全国の有識者約6700人を対象に、2014年11月24日から12月1日までの期間でメールの送付によって行われ、ご回答いただいた301人分のアンケート結果を集計し、分析しました。
回答者の属性は、男性が86.0%、女性が12.0%となっています。年齢別でみると、10代が0.0%、20代が4.0%、30代が6.6%、40代が13.0%、50代が22.6%、60代が31.9%、70代が18.3%、80歳以上が1.7%です(それ以外は無回答。以下同様)。回答者の職業は、企業経営者・幹部が14.3%、会社員が10.6%、メディア幹部が3.0%、メディア関係者が12.6%、国家公務員が2.7%、地方公務員が2.7%、国会議員が0.0%、地方議員が0.3%、NPO・NGO関係者が11.0%、学者・研究者が9.0%、各団体関係者が7.0%、学生が2.3%、自営業が5.0%、その他が17.9%となりました。
回答者の属性
※各属性で示されている数値以外は無回答の割合。この頁以降、数値は小数点第2位を四捨五入しているため、合計が100%とならない場合があります。
総論
アンケートではまず、安倍政権に対する総合的な評価について質問しました。
「首相の資質」に関わる評価は5点満点中2.7点
首相としての資質を、「説明能力」、「チームや体制作り」、「実績」、「指導力や政治手腕」、「見識、能力や資質」、「基本的な理念や目標」、「政策の方向性」、「首相の人柄」の8項目を5点満点で見たときの平均は2.7点となり、1年時点と同じでした。
100日時点の3.3点よりは下がりましたが、過去の政権と比較すると依然として高い点数になっています。ただ、「指導力や政治手腕」では3.0点と高い点数を維持しているものの、「実績」では2.8点から2.5点へと下がっています。
安倍政権が手懸ける38項目の評価は5点満点中1.8点
一方、これまで安倍政権が打ち出した政策や政権対応の38項目のそれぞれに対して、「うまく対応できた」(5点)、「うまく対応できていないが、今後期待できる」(3点)、「対応できておらず、今後も期待できない、あるいは、進め方に問題があり、賛同できない」(1点)で、有識者に評価してもらったところ、平均点は1年目時点と同じ1.8点でした。
最も評価が高かったのは「政策決定における首相のリーダーシップ」の2.8点で、「日中関係」や「尖閣周辺での偶発的事故防止に向けた取り組み」で1年時点からの点数の伸びが見られます。
逆に、最も点数が低かったのは「議員定数の削減」の1.2点でした。1年時点からの評価の低下が大きかったのは「2%物価安定目標への取り組み」、「日米同盟」、「普天間飛行場の移設問題」の3項目でした。
有識者の約5割が安倍政権を支持しておらず、「期待」も萎んでいる
2年目現在の安倍政権を支持するか尋ねたところ、100日時点では5割を超えていた「支持する」との回答は1年時点、今回と徐々に下がってきています。これに対し、「支持しない」との回答は、100日時点では23.2%と低かったものの、1年時で急増し(43.0%)、今回は5割に迫っています。
さらに、発足時に抱いていた期待と比べて、今の安倍政権をどう思うか尋ねたところ、「そもそも期待していなかった」と「期待以下」の合計が6割を超え、100日時点(27.1%)からは2倍以上に増加しています。
逆に、「期待以上」と答えた有識者は1割にとどまり、調査ごとにほぼ半減しています。
次に、安倍政権の主要政策課題への取り組みについての評価を質問しました。
アベノミクスの前途に悲観的で、財政再建目標の達成も不可能
この2年間、安倍政権が推し進めてきた「アベノミクス」については、5割を超える有識者がその前途を悲観的に見ています。
消費税の10%への引き上げ先送りが、今後のアベノミクスの展開へどう影響するかについては、「プラスの影響を与える」と「マイナスの影響を与える」が3割近くで拮抗し、有識者の見方は分かれています。
一方、有識者の6割が2020年度のプライマリー・バランスの黒字化という財政再建目標は達成できないと見ており、ここでは増税先送りが悪影響を及ぼすと考えていることが浮き彫りとなっています。
普天間飛行場移設の再検討を求める回答が4割に
沖縄県知事選挙の結果を踏まえ、普天間飛行場の移設についての考えを尋ねたところ、
「民意が示された以上、辺野古への移設計画を白紙に戻し、米政府と再交渉し、別の解決策を模索する」と今回の選挙結果を重く見る回答と、「国土面積の0.6%しかない沖縄に在日米軍専用施設の74%が集中しているのは理不尽であり、日本全体で負担する必要がある」と日本の安全保障戦略を根底から見直すことを求める回答がそれぞれ2割ありました。この2つを合計すると、沖縄の基地問題の現状を問題視する見方は4割を超えることになります。
半数近い有識者が集団的自衛権の行使は憲法改正によるべきと判断
安倍政権は集団的自衛権について、歴代内閣が「憲法上許されない」としてきた憲法解釈を、「憲法上許容される」と変更する閣議決定を行い、集団的自衛権の行使を認めました。こうした手続きの進め方の是非について尋ねたところ、「憲法解釈の変更ではなく、国民に信を問い憲法改正で行うべき」が5割近くに迫り、有識者の中では政府の進め方に対して否定的な見方が広がっています。
最後に、今回の選挙について質問しました。
6割を超える有識者が今回の解散に納得しておらず、
今回の選挙で「安倍首相の政治姿勢や政治手法」を問うべきとの回答が半数を超える
まず、今回の首相による解散については、6割を超える有識者が「納得していない」と回答しています。
次に、今回の選挙では何が問われることになるかを尋ねたところ、「安倍首相の政治姿勢や政治手法」が5割を超えて最多となり、ここからも有識者は今回の首相の解散権行使に納得していないことがうかがえます。首相が信を問おうとしている「消費税の先送りの是非」を選択した有識者は1割に過ぎませんでした。
今回の選挙で各政党は、財政再建と社会保障について説明すべき
今回の選挙で各政党が有権者に対して説明すべきことについては、「年金・医療・介護など社会保障制度が持続可能かどうか、持続可能でない場合の代替策」と、「財政再建の具体的な道筋」の2つが5割を超えており、有識者は日本の将来を決定付ける重要な課題について先送りするのではなく、今回の選挙で解決に向けた政策を説明することを求めています。
選挙の結果、安倍政権の長期安定化と政党政治への不信感の増大が起こると予想
今回の選挙が日本の政治に何をもたらすのかを質問したところ、「政党政治への不信感の増大」が最多となり、「安倍政権の長期安定化」が続き、それぞれ3割程度ありました。
安倍政権の将来の見通しについては、「2018年の衆議院議員の任期満了までは続かない」との見方が4割、「2018年の衆議院議員の任期満了まで続く」が3割となり、有識者は安倍政権は最長でも「あと4年」と見ているようです。
日本政治の現状に厳しい見方が強まる
最後にアンケートでは、日本の政治の現状について、どのように判断しているか尋ねました。これに対して、「日本の将来についての選択肢が政党から提起されないまま、ばら撒き政策や官僚たたきに明け暮れ、ポピュリズムが一層強まる時期」が4割近くに上り、最多となりました。過去2回のアンケートで最多だった「新しい国や政府、社会のあり方をまだ模索している時期」は3番目にとどまり、有識者の間で日本政治の現状に対して厳しい見方が広がっています。
安倍政権の評価
安倍首相の「首相としての資質」は8項目の平均で2.7点となり、依然として高いものの、「実績」への評価が減少した
有識者アンケートでは、2006年の第1次安倍政権以降の歴代政権で「首相としての資質」を評価してきました。この評価は「首相の人柄」、「指導力や政治手腕」、「見識、能力や資質」、「基本的な理念や目標」、「政策の方向性」、「実績」、「チームや体制づくり」、「アピール度、説明能力」の8項目について、5点満点で評価しています。
今回の評価で、安倍首相の資質は平均で2.7点となり、1年目時点と同じ点数となりました(100日時点では3.3点)。この1年でそれぞれの数値に大きな変動はなく、最も大きい変動幅は2.8点から2.5点へと0.3点減少した「実績」でした。なお、最も評価が高かったのは前回に引き続き「指導力や政治手腕」の3.0点(100日時点では3.6点、1年目時点では3.1点)でした。
しかし、歴代政権の100日時点の評価に比べると、2年経った現在でも、高い水準を維持しています。
有識者301人が判断した安倍政権主要38項目の2年目の実績は、昨年と同様に平均1.8点
安倍政権の主要政策課題38項目に関する対応について、5点満点で有識者に評価してもらいました。ここでは「うまく対応できた」が5点、「うまく対応できていないが、今後期待できる」が3点、「対応できておらず、今後も期待できない、あるいは、進め方に問題があり、賛同できない」が1点という配点で評価しています。
その結果、今回の評価は平均で1.8点となり、1年目時点の評価と同じになりました。ただ、肯定的な評価となる「3点」を超えたものは、1年目時点では「政策決定における首相のリーダーシップ」(3.0点)がありましたが、今回はありませんでした。
1年目時点と比較すると、点数の伸びが目立ったのは、「日中関係の改善に向けた取り組み」(1.3点から2.0点)、「尖閣周辺における偶発的事故防止に向けた取り組み」(1.6点から2.2点)の2項目で、有識者は11月に日中首脳会談を実現させたことを高く評価していることがうかがえます。
これに対して最も評価が低かった項目は、2012年の衆議院解散の際、当時の民主党・野田佳彦首相と自民党・安倍総裁の間で約束がなされた「議員定数の削減」(1.2点)でした。この他に1点台前半を記録したものは、「廃炉と汚染水対策」、「除染」、「温室効果ガス対策」、「財政再建」、「持続的な社会保障制度」、「教育」、「地方」、「行政改革」、「憲法改正」などがあり、分野が多岐にわたっています。
1年目時点との比較で、最も点数が減少したものは、「日銀と共同歩調での2%物価安定目標への取り組み」、「緊密な日米同盟の復活」、「普天間飛行場の移設問題」の3項目で、それぞれ0.3点の減点になりました。
約5割が安倍政権を支持していない
2年が経とうとしている現在の安倍政権を支持するか尋ねたところ、「支持する」という回答は、34.6%となりました。100日時点では53.1%と5割を超えていましたが、1年目時点で41.4%と10ポイント以上の大幅減となり、今回はそこからさらに減少しています。
これに対し、「支持しない」という回答は、49.8%(100日時点では23.2%、1年目時点では43.0%)で、過去3回のアンケートの中でも最も多く、5割に迫っています。
安倍政権への「期待」は1年前と比べて半減
また、発足時に抱いていた期待と比べて、今の安倍政権をどう思うか尋ねたところ、最も多かった回答は「そもそも期待していなかった」の34.9%(100日時点では23.9%、1年時点では34.9%)でした。それに続くのは「期待以下」(25.9%)との回答で、1年目時点の14.8%から10ポイント以上増加しました(100日時点では3.2%)。この「期待以下」と「そもそも期待していなかった」を合計すると、60.8%(100日時点では27.1%、1年時点では49.7%)の有識者が否定的な評価をしていることになります。
他方で、「期待以上」と答えた有識者は11.0%(100日時点では42.9%、1年時点では20.8%)にとどまり、調査ごとにほぼ半減しています。これに「期待通り」と答えた23.6%を合わせても、肯定的な評価は34.6%にとどまっています。この肯定的な評価は、100日時点では64.8%、1年時点でも47.6%と5割近くに上っていまたことからも、有識者の中で安倍政権への期待が、時間の経過とともに萎んでいることが浮き彫りとなっています。
2.有識者は安倍政権の中心的な政策課題をどう評価したか
5割を超える有識者がアベノミクスの前途を悲観的に見ている
この2年間、安倍政権が推し進めてきた「アベノミクス」の評価については、「順調に推移し、成功に向って動いている」との回答は7.3%に過ぎず、「異次元の金融緩和や財政政策に頼った景気回復に過ぎず、今後の成功は難しい」との回答が37.9%で最多となり、「すでに失敗しており、それを立て直す有効な対策も見えない」の18.3%を合わせると、56.2%の有識者がアベノミクスの前途を悲観的に見ています。
一方で、「成果は出始めているが、今後も成功できるか現時点では判断できない」と判断しかねている有識者も27.2%と3割程度存在します。
次に、11月に安倍首相は消費税の10%への引き上げを先送りし、2017年4月に消費税を引き上げることを表明しました。この先送りが、今後のアベノミクスの展開にどのような影響をもたらすと思うか尋ねたところ、「プラスの影響を与える」が29.2%、「マイナスの影響を与える」が28.6%と拮抗し、有識者の見方は分かれています。「影響を与えない」は18.9%でした。
有識者の6割は財政再建目標は達成できないと見ている
安倍首相は、消費税の10%への引き上げを先送りすると同時に、2020年度のプライマリー・バランスの黒字化目標については堅持することを表明しています。アンケートではこの目標が達成できるかを尋ねたところ、「達成できない」との回答が59.1%となり、「達成できる」の6.3%を大きく上回りました。有識者の過半数が財政再建目標は達成できないとみており、来夏に策定される目標実現に向けた計画が注目されます。
沖縄県知事選の結果を受け、普天間飛行場移設の再検討を求める声が4割に
11月16日に沖縄県知事選挙が行われ、米軍普天間飛行場の名護市辺野古への移設に反対する翁長雄志・前那覇市長が当選しました。この結果を受け、普天間飛行場の移設についての考えを尋ねたところ、「民意が示されたとはいえ今回は県知事選挙であり、既に県知事の埋め立ての承認も下りていることから、粛々と進めていく」という政府方針と同様の回答が37.5%で最多となりました。
しかし、「民意が示された以上、辺野古への移設計画を白紙に戻し、米政府と再交渉し、別の解決策を模索する」と今回の選挙結果を重く見る回答も22.3%あり、「国土面積の0.6%しかない沖縄に在日米軍専用施設の74%が集中しているのは理不尽であり、日本全体で負担する必要がある」と日本の安全保障戦略を根底から見直すことを求める回答も23.6%ありました。この2つを合計すると、沖縄の基地問題の現状を問題視する見方は45.9%と4割を超えることになります。
5割近い有識者が集団的自衛権の行使は憲法改正によるべきと判断している
安倍政権は集団的自衛権について、歴代内閣が「憲法上許されない」としてきた憲法解釈を、「憲法上許容される」と変更する閣議決定を行い、集団的自衛権の行使を認めました。こうした手続きの進め方の是非について尋ねたところ、「憲法解釈の変更ではなく、国民に信を問い憲法改正で行うべき」が49.2%と5割に迫っています。一方、「憲法解釈の変更で行使を可能としても問題はない」と政府の進め方に賛成する見方は24.3%にとどまりました。また、「手続き如何にかかわらず、集団的自衛権行使には反対」との回答も21.6%と2割程度見られました。
3.今回の選挙をどう考えるか
6割を超える有識者が今回の解散に「納得していない」
11月21日、安倍首相は消費税の10%への引き上げを先送りし、その信を有権者に問うために衆議院解散に踏み切りました。この首相の決断について納得しているかを尋ねたところ、「納得していない」の64.8%が、「納得している」の22.3%を大きく上回りました。
今回の選挙で「安倍首相の政治姿勢や政治手法」が問われるべきと判断
次に、今回の選挙では何が問われることになるかを尋ねたところ、「安倍首相の政治姿勢や政治手法」が52.2%と5割を超えて最多となり、「これまでの安倍政権の2年間の実績」(39.9%)、「アベノミクスに対する評価」(34.9%)、「少子高齢化や原発再稼働等、日本の将来を決定づける課題の解決」(27.6%)が続きました。首相が信を問おうとしている「消費税の先送りの是非」は10.6%に過ぎませんでした。
約半数が財政再建の道筋と持続可能な社会保障こそ、政党が説明すべきと考えている
今回の選挙で、日本の政党が国民に対して最低限説明しなくてはならない日本の課題は何かを尋ねたところ、「年金・医療・介護など社会保障制度が持続可能かどうか、持続可能でない場合の代替策」(52.5%)と、「財政再建の具体的な道筋」(51.2%)の2つが5割を超えました。
さらに、これに続いて「原発再稼働の判断とエネルギーのベストミックスの比率」も36.9%と4割近くに上るなど、日本の将来を決定付ける重要な課題であるが、選挙の際には争点化を避けがちな課題を選択した回答が多く見られました。
「アベノミクスの評価とその代替策」については28.9%にとどまりました。
安倍政権が次の任期満了まで続くかは意見が分かれている
仮に今回の選挙で自民党が勝利した場合、安倍政権はいつまで続くのか、安倍政権の将来の見通しについて尋ねたところ、「2018年の衆議院議員の任期満了までは続かない」との見方が39.9%で最多となり、これに「2018年の衆議院議員の任期満了まで続く」(28.6%)が続いています。一方、「2018年の衆議院議員の任期満了以降も続く」との見方は11.3%にとどまりました。有識者は安倍政権は最長でも「あと4年」と見ています。
3割程度が今回の選挙の結果、安倍政権の長期安定化と政党政治への不信感の増大が起こると予想している
さらに、今回の選挙が日本の政治にどのような結果をもたらすのかを尋ねたところ、「政党政治への不信感の増大」という回答が31.2%で最多となりました。一方で、これに並びかけるように「安倍政権の長期安定化」が28.2%で続き、「安倍政権の不安定化」の17.9%を上回っています。「野党再編に拍車をかける」は15.6%にとどまりました。
日本の政治の現状に厳しい見方が強まる
最後にアンケートでは、日本の政治の現状について、どのように判断しているか尋ねました。これに対して、「日本の将来についての選択肢が政党から提起されないまま、ばら撒き政策や官僚たたきに明け暮れ、ポピュリズムが一層強まる時期」が38.2%(100日時点では30.4%、1年時点では30.2%)で最多となりました。これに「政府の統治(ガバナンス)が崩れ、政治が財政破綻や社会保障などで課題解決できないまま混迷を深める国家危機の段階」が35.9%(100日時点では20.7%、1年時点では26.2%)で続いています。 これまで2回のアンケートで最多だった「新しい国や政府、社会のあり方をまだ模索している時期」は34.6%(100日時点では43.6%、1年時点では34.2%)で3番目にとどまっています。