7月7日14時より、言論NPOが主催する「自民党×民主党 政策公開討論会」の第3日目が開始されました。前半の「医療・年金・介護政策」セッションでは、自民党から大村秀章氏(厚生労働副大臣)、民主党から枝野幸男氏(医療制度調査会会長)をお招きし、「少子高齢化の中でどう安心社会を組み立てていくか」をテーマに議論が交わされました。
まず始めに言論NPO代表の工藤泰志から第一のテーマとして、「政党は、少子高齢化という厳しい現実をどのように覚悟し、安心できる社会を作るのか。そしてその社会保障の組み立てを有権者に対してどのように説明するのか」という問いかけがされました。
大村氏はまず、1970年に3.5兆円だった社会保障費が現在は100兆円、GDPの2割を占めるという現状を示し、これがこの先も伸びていく中でどのように社会保障制度を守っていくのかという課題を認識し、社会保障の機能強化に取り組んでいると述べました。また現在の社会保障費用のうちの7割以上が高齢者に向けたものであり、子供や子育てに向けた支出が4%にとどまっていることに言及し、現役世代の支援を含め、世代間に切れ目のない社会保障を作っていくという方針を示しました。それに加え、社会保障の安定した財源を確保する上で、制度の透明性や保険料を納付しやすい制度の設計など、若い世代が将来の安心を見越して社会保障制度に参加する仕組み作りの必要性を訴えました。
枝野氏は少子高齢化と人口減少による新しい社会状況をとらえ、人口が増加し若者が高齢者より多いという前提で組み立てられた、現行の社会保障制度の限界を指摘しました。その上で、リスク分散の役割を持つ保険と、所得移転の役割を持つ税とを機能の上で明確に分別することで、若者から高齢者への世代間扶養ではなく、世代を超えて高所得者から低所得者への移転を行うことが可能になると述べました。同時に人口が減っていくから社会保障以外の分野の支出が減るとし、大胆な資源配分の転換こそ政権交代の最大の狙いだと強調しました。また輸出は高付加価値分野に特化し、内需を拡大することが、医療・介護・保育・教育などの分野における安定した雇用の拡大に結びつくという経済上のメリットも主張しました。
以上を踏まえ、両議員とコメンテーターとの間でやり取りがされました。
大村氏は枝野氏の見解に対し、制度の具体像が見えないことを指摘するとともに、社会保険は国民の負担で成立している制度であるから、その市場を拡大することは税や保険料の増額を意味することを指摘しました。これに対して枝野氏は、年金については見なし掛金として現役時代に納めた保険料と同価値のものが給付される保険方式、医療については全ての保険を統合した制度を作り、所得の低い人の保険料を税で補う方式を提示しました。また司会の工藤が、マクロ経済スライドが機能していないことは将来世代へのしわ寄せではないかと指摘したのに対し、大村氏は物価が1%以上伸びないためにスライドを行う条件が満たされておらず、むしろ数年来のデフレ状態により経済が縮小し、国家財政が脅かされることに対策を講じることが必要であると述べました。
コメンテーターの高橋進氏(日本総研副理事長)は、年金生活者ばかりでなく若者の貧困への対策をどう考えるか、また少子化の原因とその対策について、両氏に発言を求めました。枝野氏はまず、民主党の考える制度においては、生活保護や失業手当を最低保障年金の水準まで引き上げ、就職のためのトレーニングの費用を上乗せしていく方針を示しました。また少子化の原因として若者の貧困・子育て支援が少ないこと・女性の社会参加への理解の乏しさを挙げました。一方で大村氏は、世代間で切れ目のない社会保障として、遅れている子ども対策への意欲を示し、景気対策と補正予算で行った子ども対策を継続していくと述べました。
また、コメンテーターの西沢和彦氏(日本総研調査部主任研究員)は、大村氏に対してマクロ経済スライドが機能せず、若い世代に負担を先送りしていることを指摘するとともに、枝野氏に対しては「歳入庁」構想について説明を求めました。
大村氏は次の財政検証時にもマクロ経済スライドが適用されないときは、大きな問題になると述べました。枝野氏は所得情報の一元的把握が必要であり、二段階よりも戻し税の方がよい、それをやる上で所得の把握と給付の事務を一体的に行う機関として、歳入庁を作ると述べました。
続いて工藤から、第二のテーマとして「年金改革の進め方と、その場合の財源をどうするのか」についての問いかけがなされました。
大村氏は、持続的な制度を構築するため年金制度改革を着実に実行するとともに、無年金・低年金・低所得の人に対するケアを行っていくことを述べました。また、基礎年金の税負担を増やしていくこともあるが、その際には具体的な費用と確保の方法、整合性を説明する必要があると述べました。
枝野氏は現行制度を打ち切り、過去債務を切り分けて新制度に移行するという方向性を示しました。過去の分は約束した年金を加入者に支払い、新制度では「掛金の見なし積立方式」で進めていくが、過去債務については長い期間をかけて支払いをしていくため今すぐに多くの財源を求めるものではないと述べました。
これに対して大村氏からは、過去債務に関する負担と新制度への納付という二重の負担について批判がされ、枝野氏は"みなし"積立方式であり、二重の負担はないと説明しました。一方でコメンテーターの西沢氏は、両者の議論がテクニカルで、専門家でなければ聞いていても分からないと指摘しました。
最後に第三のテーマとして工藤から、「医療保険財政の持続性、地域での医療崩壊と医師不足などをどうするか」という問いかけがなされました。
枝野氏は医療保険の一元化を通じて医療保険財政を透明化し、不足した場合には税で補填すると述べた上で、医療費の抑制ではなく薬や医療機器の認可にかかる高すぎるコストを引き下げ、医療従事者の給与引き上げに充てるべきと主張しました。
大村氏は国民皆保険制度と保健医療水準をともに維持することを課題として挙げ、透明で分かりやすい医療保険制度にしていくとともに、市町村国保を守るため公的助成をもっときめ細かくいきたいと述べました。
これを受けてコメンテーターの上昌弘氏(東京大学医科学研究所特任准教授)は、地域医療の手当に関する自民党の基金方式と民主党の診療単価引き上げについてそれぞれ説明を求めました。この質問に対し枝野氏は、直接的に当事者に資金が流れる診療単価の引き上げこそ望ましいと述べ、大村氏は特定の病院に限って診療単価を引き上げることの難しさを指摘しつつ、基金方式でも直接当事者に資金が渡されていると説明しました。
次いで上氏は診療報酬を中央社会保険医療協議会(中医協)が決定する現在の方式をどう考えるかと問いかけました。これに対し枝野氏は、利害関係者のみが参加する中医協を通じた制度は変革するべきで、第三者委員を増やし、プロセスごとに見えるようにすべきだと述べました。大村氏は診療報酬の各項目を透明で分かりやすくしていくことが必要で、党派を超えて議論したいと述べました。
また上氏は、コメディカルに関する方針について両氏に問いかけました。これに対して枝野氏は、医療財政については財務省主導から転換する必要があり、トータルで医療費が増えることは必要であると述べました。大村氏は医療従事者をしっかり確保し、過重労働にも気を配る必要があるが、そのためには財源が必要で、医者の負担を分散し良い医療を作るために国民の理解をいただきたいと述べました。
最後に高橋氏が「党としてこの分野についてマニフェストに何を書くか」を質問し、それに対して大村氏は「各論をしっかり積み上げて医療を盤石のものとしたい。年金は2004年改革を着々実行する。低所得者への手当も行う」と述べました。枝野氏は「新しい年金制度では所得代替率が下がるのは当たり前。自分で積み立てるものと、税で人からもらうものとをはっきりさせる」と語りました。
7月7日14時より、言論NPOが主催する「自民党×民主党 政策公開討論会」の第3日目が開始されました。