【座談会】民営化論議が中途半端になったのはなぜか

2003年1月04日

kawashima_t021209.jpg川島隆明 (株式会社MKSパートナーズ代表取締役)
かわしま・たかあき

1952年生まれ。76年慶應義塾大学法学部修了。同年株式会社日本興業銀行入行。79年ノースウェスタン大学経営学修士取得。99年興銀証券株式会社執行役員就任。2001年シュローダー・ベンチャーズ株式会社(現株式会社MKSパートナーズ)入社。2002年現職に至る。

masuda_y021204.jpg益田安良 (東洋大学経済学部教授)
ますだ・やすよし

1958年東京都生まれ。京都大学経済学部卒業後、富士銀行に入行。調査部など経て、88年より富士総合研究所に転出。ロンドン事務所長、主席研究員などを歴任。2001年4月より主任研究員に。02年4月より東洋大学経済学部教授に就任。主な著書は「金融開国」、「グローバルマネー」等。

yasujima_a021209.jpg安嶋明 (日本みらいキャピタル株式会社代表取締役社長)
やすじま・あきら

1955年生まれ。79年東京大学経済学部卒業。同年日本興業銀行入行。主に投資金融業務を担当。MBO案件、M&Aのアドバイザー業務に従事。 2000年同行プライベート・エクイティ部を創設、01年同部長に就任。01年12月同行退職。02年2月、日本みらいキャピタル株式会社を設立。

概要

道路関係4公団民営化推進委員会は、終盤に来て委員長が辞任するほど激しく紛糾した末に、12月6日に小泉首相に最終答申を提出した。なぜ、委員会内部においてこれほど意見が対立したのか、また、民営化の議論が中途半端になったのはなぜなのか。小泉首相の責任も含めて、民営化委員会での議論の問題点について、2人の企業再建の専門家(ファンドマネ-ジャ-)と大学教授が検証した。

要約

民営化がすべての問題を解決するかのような錯覚があるのではないか......。

企業の買収や再建に深く関わった経験から、安嶋、川島の2氏は同様の見解を示し、道路公団民営化委員会の提言に疑問を投げかける。約40兆円もの巨額債務の返済、それを抱えたままでの新たな高速道路建設。たとえ、上下分離方式によって保有機構に資産と債務を引き離したところで、将来的な一体化を前提とした新会社に投資しようという投資家はいないだろう、したがって上場もありえないだろう、というのが委員会の提言に対する2人の結論だ。

道路公団の抱える巨額債務問題を国民になるべく負担を強いることのない形で解決しなければならない、そのためにも、非効率で野放図な高速道路建設は止めなければならない。この点について多くの国民の認識は一致している。だが、民営化は解決の一つの手段に過ぎず、道路行政をどうするかというビジョンが先になければ、民営化委員会の議論そのものが無意味なものとなってしまうと、益田教授は指摘する。

では、今後の道路行政のビジョンを描く上での前提条件は何か。3人が共通して指摘するその前提とは、40兆円にまで積みあがった過去の債務をだれがどういう形で返済するのか、そして、新規建設のコストをだれがどう負担するのか、という2点である。この2点はすぐれて政治的な問題であり、民営化委員会のレベルで結論が出せるものではない。したがって、民営化議論をリセットして、政治の場に差し戻すことが民営化委員会の本来なすべき役割ではなかったかと 3人の論者は語る。

そうした前提条件をクリアしないままにスタートさせられた7人の民営化委員は「ある意味で気の毒」(益田氏)であったが、40兆円の巨額債務や、日本道路公団だけでも実質7兆円の債務超過にあるのではないかといった、これまで闇に包まれていた公団の実態が少しずつ明らかになった。そこには、確かに民営化委員会の意義があったといえるだろう。


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 道路関係4公団民営化推進委員会は、終盤に来て委員長が辞任するほど激しく紛糾した末に、12月6日に小泉首相に最終答申を提出した。なぜ、委員会内部においてこれほど意見が対立したのか、また、民営化の議論が中途半端になったのはなぜなのか。小泉首相の責任も