今回の「工藤泰志 言論のNPO」は、第7回 北京-東京フォーラムの会場に集まった有識者らに、工藤が直撃インタビュー。民主党代表選挙を前に、経済同友会代表幹事の長谷川閑史氏、早稲田大学政治経済学部教授の深川由起子氏、日本経済研究センター研究顧問の小島明氏、自民党政調会長の石破茂氏、前防衛大臣政務官の長島昭久氏に話を聞き、日本の首相選びはこれでいいのか議論しました。
(JFN系列「ON THE WAY ジャーナル『言論のNPO』」で2011年8月31日に放送されたものです)ラジオ番組詳細は、こちらをご覧ください。
これでいいのか、日本の首相選び
工藤:おはようございます、言論NPO代表の工藤泰志です。毎朝、様々なジャンルで活躍するパーソナリティが、自分たちの視点で世の中を語る「オン・ザ・ウェイ・ジャーナル」。毎週水曜日は「言論のNPO」と題して、私・工藤泰志が担当します。
さて、私は一昨日に北京から帰ってきました。「北京-東京フォーラム」という日本と中国のハイレベルの民間対話を、私は7年前に立ち上げ、現在まで、東京と北京と毎年交互に行っているのですが、今年は北京が対話の舞台になりました。この対話は、是非皆さんに紹介したいと思っているのですが、民間の対話の舞台に政治家や政府関係者まで参加し、尖閣列島の問題に代表される安全保障の問題や、米国やヨーロッパの債務危機などの経済問題、そしてメディア報道や震災復興に関して、100人近い有識者が北京に集まり、儀礼的ではなく、本当の議論を行いました。7年前はまだ儀礼的だったのですが、現在は本気で議論を行っています。
この内容は公開されていますし、一部は中継されました。そのような真剣勝負の議論をして日本に帰って来たわけです。後日、何かの形で皆さんに是非報告したいと思っています。
民主、自民の6氏の政治家も北京に一緒に行っていただいたのですが、日本に帰って来たら、日本はまさに、菅首相が退陣を表明して、民主党の代表選一色で大騒ぎになっている状況です。今回は、この代表選を含める形で、首相を新しく選ぶという問題に関して、皆さんと一緒に考えてみたいと思っています。
国民の信を問わない首相交代は、政権のたらい回しではないのか
今回の「首相が変わる」ということですが、民主党内の代表選で代表が選ばれれば、その人が自然に日本の首相になります。これは別の見方をすると、政権内の権力というか政権・首相のたらい回しという形になっていて、日本の国のトップを決めるプロセスに、国民は全く関係できないわけです。実を言うと民主党は、自民党が末期に同じ状況だったのですが、そういう政権たらい回しでいいのか、と批判して政権交代を主張したのですが、今、民主党が同じことをしている。菅さんもそうでした。今回もそうですね。これを考えると、日本の民主主義、つまり私達の代表が政治を担うということから見ても、かなり問題ではないか、と私は思っているわけです。
そこで、ON THE WAY ジャーナル「言論のNPO」は、「これでいいのか、日本の首相選び」と題して皆さんと一緒に考えてみたいと思っています。
実は北京では、私はフォーラムの滞在中に中国の政府要人の何人かに会いました。みなさん、日本の政治に関して、首相が何回も変わっている、安定していない、と言ってきます。新聞にも一部出ていたのですが、前の国務委員の唐家璇さんも、全体会議で言っていましたが、政権交代後も、誰が首相になろうと日中関係を大事にすると言っていました。別に、そんなことを言われなくてもいいという感じもあったのですが、それぐらい日本の政治の不安定さについて、海外からも指摘される段階に来ているのですね。それを聞いて、これは本当になんとかしなくてはいけないな、と僕は感じました。
政策軸ではなく最大派閥の支持を競い合う「古い政治」
そして、日本に戻ってきてテレビを見ると、その政治の光景に非常に違和感を覚えるのです。つまり、昔の古い政治となにも変わっていない。テレビや新聞の報道を見ると、最大派閥の小沢派の支持を得られるかどうかとか、一本化するとか、自民党政治の末期に繰り広げられた光景と同じに感じます。つまり、そのことだけで、政策がどうかとか、菅さんで何がダメでどうするかとか、国民に向かっていないのですね、何も。これは非常にまずいなと。つまり、政権交代した民主党も、結局古い政治のままだったと。さて、この政治を変えなきゃいけないということを、僕たちは考えなければいけないと思うのですね、時間がかかると思うけれど、スタートをここで切らなければいけない、と思っています。
私たちは、この番組でも言ってきたのですが、まず解散を求めていくしかない。解散すればすべてが変わるわけではないですが、解散することによって国民が選ぶところから、もう一回やり直さないと、政治の新しい変化が始まらないと私は思っています。という強い気持ちがあってですね、北京でのフォーラムが20日、21日、22日とあったのですが、21日の夜に、日本人のパネリスト45人を含む100人が集まって打ち上げを行いました。その中には経済人の有力者、学識者、ジャーナリスト、政治家もいました。
そこで、僕も疲れていてやりたくなかったのですが、みんなに「日本の政治を今、どう考えればいいのか」ということで突撃インタビューをしてきました。その一部は録音しましたので、皆さんに聞いていただきながら、一緒に考えたいと思います。
日中フォーラムに参加した有識者5氏に、今の日本の政治を問うた
まず、一人目は経済同友会代表幹事の長谷川閑史さん、続いて、早稲田大学政治経済学部教授の深川由起子さん、3人目は日本経済研究センター 研究顧問の小島明さんです。
その発言から聞いてもらいましょう。
経済同友会代表幹事の長谷川閑史さん
工藤:今、党首選挙をやろうとしていますよね。しかし、この間、国民はただ見ていることしかできないわけですよね。つまり、国民に対して何を約束しているのか、日本をどうしていくのか。全く見えない状況の中で、自民党政権の末期と同じように、政権のたらい回しが行われている。この状況を、民主主義の展開としてどう思えばいいかということですね。
長谷川:非常に好ましくないのは事実だけれども、一方で、93年の細川政権は別にして、55年体制後初めて起こった本格的な政権交代ですよ。やはり、その人たちが政権をとってみて、これまでわからなかったことや知らないことがいっぱいあって、ラーニングプロセスをやっているわけですよ。そこでモタモタしていることについて、ある程度はやむを得ないと思わなければいけないけど、一方で、それが国政にとってマイナス、国益にとってマイナスになることは、絶対に困る。だけど、そこの部分にすら思いが至っていない政治家が、結局、内部抗争だけをやっていること自体は、日本の民主主義が非常に未熟だと思います。
工藤:国民から見れば、まず、政党を選ぶわけです。政党の国会議員を選ぶのですが、その政党がきちんと機能しているのか、という問題もあります。
長谷川:それは、機能しているわけないじゃないですか。民主党の長島さんがいるけど、綱領すら持っていない、国家ビジョンがない政党に何を期待するのですか。
工藤:そういう人たちを、国民はどうやったら信頼できるようになるのでしょうか。
長谷川:信頼はできませんよね。
工藤:すると、政治は大きく変わらないといけない。
長谷川:だから、あの人達に、本気で変えようとする気があるのであれば、本当は、今の民主党は党としては分裂状態だから、改革をしたいと思っている、本当によくしたいと思っている比較的若手の人が、自民党から何人くるかわからないけれど、自民党の中のそういう人たちとグループをつくって、この国をこう改革して、みなさん、我々の将来のためにこうしましょうということを打ち出してくれて、一方で、守旧派は守旧派で勝手にやって、それで選択肢を提供するということが、一番望ましいことだと思います。
工藤:ここは、まず、政策の選択肢が見えて、国民が選ぶチャンスが必要ですね。
長谷川:そうです。その大前提として、政党であるからには、この国の30年後、20年後のビジョンとして、どういう国にしたいか、ということを持っているかということを、まずつくって、そのビジョンを実現するためには、成長戦略や社会保障戦略、雇用戦略や安全保障戦略もある。ここがないままに、個別のことばかり目先の事だけを考えてやっても、まともなものができるわけがありません。どこに辿り着こうというものがないのだから。
早稲田大学政治経済学部教授の深川由起子さん
深川:とにかく、国民としては、方向性のあることがちゃんと約束できるような組織を作ってほしいということじゃないでしょうか。
多分、民主党だけでそれができると思っている人は、もういないのではないでしょうか。それは、次の選挙を経て、あるいは大連立になるのかよくわかりませんが、とにかく次は、まともな政治家の集まりになってほしい。
工藤:ということは、今のままで、ただ党首を変えるだけという仕組みはあまりによくないですよね。
深川:それに期待している人は誰もいないのではないでしょうかね。
日本経済研究センター 研究顧問の小島明さん
小島:要するに、目的がない政権交代になってしまっています。つまり、菅を下ろし、次に誰がなるという準備もしない、政策もない。それで始まったわけですから、非常に残念です。あらゆることを政治主導でやるというマニフェストの話はそうですよね。ところが、自分で壊してしまっているわけですよ。要するに、下ろすことだけ議論して、次の人がどういう候補で、どういう政策プラットフォームを持つか、やはり政策主導の政治をどうしたらいいか、やはり知恵を出さなければいけないですね。
工藤:そういう段階ですね。解散したほうがいいのではないですかね。
小島:今は、むしろ解散したほうがいいぐらいですよ。
工藤:権力のたらい回しになっちゃいましたよね。自民党末期と同じように。
小島:自民党の場合は、ある程度派閥で訓練されて、それぞれの人が、どういう考え方を持っているかということが、大体わかっているわけです。今回の民主党の中はわかりませんよね。
工藤:そうですね。何か、昔の政治そのものですよね。
小島:非常に残念な政局ですね。
自民党の石破茂氏、民主党の長嶋昭久氏は、民主党の代表選をどう見ているのか。
経済同友会代表幹事の長谷川さん、早稲田大学政治経済学部教授の深川さん、日本経済研究センター研究顧問の小島さんの発言でした。急にマイクを向けたので、皆さんびっくりしていました。ただ、本音の話になりました。この打ち上げの会場には、経済人やジャヤーナリスト、そして各分野を代表する専門家に交じって、民主党と自民党の政治家の方も3氏ほど参加していました。
さすがに、今回、発言を求めていいのかなと少し勇気がいったのですが、やはり聞かなければいけないなと思い、2人の人にマイクを向けました。
自民党政調会長の石破茂さん、続いて前防衛大臣政務官の長島昭久さんです。石破さん、長嶋さんの順で聞いてみたいと思います。
自民党政調会長の石破茂さん
石破:今回の代表選びは、政策論争が全くない。これが第1の特徴です。第2の特徴は、本命と呼ばれる人が名乗りをあげない。今、総理になっても損だからねということで、そういう人が出ない。それから3番目には、否定されたはずの小沢さん、否定されたはずの鳩山さん、お願いだから僕を支持してください、という人がぞろぞろ出ている。そういう意味で、極めて不思議な代表選挙だと思います。
工藤:不思議ですよね。何となく、小沢さんを巻き込んで、党内の勢力を集めるだけの話になってしまいましたよね。今の民主党が壊れているという現実を包んで隠しているような感じがしますよね。
石破:だから、本当にこれが民主党の終わりの究極の姿の代表選挙になるのだろうな、と思って見ています。
工藤:これは、国民の民主主義という視点から見ればどう考えればいいのですか。やはり、僕たちは選挙をできないわけだから、首相選びについて何も関われない訳じゃないですか。これはどう考えればいいのでしょうか。
石破:だから、早く解散しろ、やはり、主権者は我々なのだと、我々が民主党を選んだにもかかわらず、この体たらく。約束も実行できない。総理は3人目。もう解散するしかないだろうという世論を高めてもらわない限り、どうにもならない。行く末は、日本国憲法というのは、国民に衆議院の解散請求権を認めていません。これはおかしくないですか。
工藤:僕は、それを悩んでいるのですよ。どうしたらいいのですか、これ。国民は何もできないのですよ。もしくは、誰かを間違って選んでしまった場合に。戦争をおこしてもどうしようもできない状況ですよ。
石破:だから、市議会や県議会は解散請求をできますよね。市長や知事はリコールできますよね。だけど、総理大臣は大統領制ではなくて、議会が選んでいるからリコールはできない。それはそんなものだろうと思います。それでは、それを選んだ奴が間違っていたのだから、これを取り替えろというのは、主権者として当然の権利なのに、何でそれがないの、という議論がない方が不思議です。
工藤:ということは、今の話だと、野田さんも含めて、大連立が焦点になっていますよね。これについては、乗らないということなのでしょ。
石破:やりません。
工藤:絶対ね。
石破:乗らない。乗るのであれば、本当に期間限定、選挙確約。だけど、例え3日であろうと、1週間であろうと、全てのことについて連帯して責任を負うというのは無理ですよ。
工藤:なるほど。そういう形でないと乗らないという条件付きですね。
石破:乗れません。
工藤:わかりました。これは非常に重要なことなので。
前防衛大臣政務官の長島昭久さん
長島:我々も野党時代、政権のたらい回しは良くない、党内で代わったのなら、すぐに選挙をしろと言ってきました。
工藤:今の民主党の状況は、たらい回しですよね。
長島:そうなのですよ。ただ、今回は例外なのですよ。なぜかというと、震災があるからです。震災の復興を、とにかくやるまでは、目処がたつまでは、続けざるを得ないというだけで、我々、本来は直ぐに解散をするべきですよ。
工藤:じゃあ、期限を区切って、みんなで力を合わせるという仕組みをつくったほうがいいのではないですか。
長島:おっしゃる通りです。だから、次の本予算が上がる来年の春までという限定で、そして、復興については石破さんを始め、大連立が嫌だったら、とにかくその部分については協力してくれということをやって、その後に解散ですよ。
工藤:そういうことをちゃんとやれば、国民にわかりやすいのだけど。
長島:そう思います。だから、今度の代表は言うべきですね。
工藤:ですよね。
長島:我々は時限だと。時限というと、また求心力がなくなってしまうけれど、それが筋ですよ。それで、次の選挙は、もしかしたら、この枠組みじゃないかもしれない。
新しい民主党の代表は、国民に信を問う考えがあるのか
この北京でのインタビューは、8月21日の夜ですから、その時点では前原さんが出馬するとかの情報については知らないのですが、お二方の発言は、かなり本質的なところをついてきています。第一に、会場にいた日本を代表する有識者の人たちは、民主主義の視点から、今の民主党の党首選びに違和感を覚えている。つまり、国民に信を問うべき段階にきているという感じでした。要するに代表選挙に期待している人は一人もいませんでした。
もう1つ、僕は以前からこの番組でも言っていましたが、はやく国民に信を問うべきだと僕は主張していました。ただ、今すぐやるわけにはいかないから、ある時期に解散するということを前提に、復興に政治が力を合わせる。それは、連立ではなくて閣外でもいいと思うのですね。そういう形をとった上で、きちんと有権者に信を問うという流れにしなければいけないと思っていました。意外に石破さんも長島さんも、それを前提にしているような発言をしているような感じでしたし、一方で政界再編の動きも、視野に入れているという感じなのですね。
この御二方の発言は、今の日本の政治の代表的な見解かどうかは、私には分かりません。
ただ底流には、この日本の政治の混乱から、新しい変化に向かう、微かかもしれないけれど、何らかの兆しがあることが、みなさんにも分かったのではないかと思います。つまり、日本の政治は、かなり重要な岐路に立たされていると思っています。
問われているのは、政策を軸に国民に向かい合う政治を作り出すための大手術
ただ、経済同友会の長谷川さんもおっしゃったように、今の民主党は綱領もない、つまり寄せ集めなのですね。政策もバラバラだから、何かをしてもまとまらないという状況になっている。また、自民党の中にもいろいろな人がいる。そうなってくると、今の日本の政治を、政策を軸にして立て直すということになると、大掛かりな手術が必要になってくる可能性があります。これは相当時間がかかるのではないかと私は思っています。ただ、そういう形、つまり政策を軸として、それが国民に向かい合う政治に変えていかない限り、この国の未来は無いし、政治に未来は無いと私は考えているところです。
ということで時間になりました。この放送の時には、新しい首相が決まっていると思います。つまり、民主党の代表が決まり、その人が自動的に首相になるわけです。しかし、それが安定するわけではない、というのが今回の議論の中で出てきたと思います。最終的には代表選で勝った人も含めて、国民に信を問うということが必要な段階に日本の政治が近付いている。僕達、有権者からみれば、次はしっかりと政治を選ばなければいけない。同じ過ちをしてはダメだということなのですね。だから、ある意味で日本が変わるための、 今回は試練なのですが、しかし逆に言えば、国民の立場に立った政治をつくり出す一歩なのだと私は思うわけです。これから始まる政治の大きな転換に、私達、有権者は当事者として、向かい合うべきだと私は思っています。皆さんはどうお考えでしょうか。
きょうは、「これでいいのか、日本の首相選び」について考えました。ありがとうございました。
今回の「工藤泰志 言論のNPO」は、第7回 北京-東京フォーラムの会場に集まった有識者らに、工藤が直撃インタビュー。民主党代表選挙を前に、経済同友会代表幹事の長谷川閑史氏、早稲田大学政治経済学部教授の深川由起子氏、日本経済研究センター研究顧問の小島明氏、自民党政調会長の石破茂氏、前防衛大臣政務官の長島昭久氏に話を聞き、日本の首相選びはこれでいいのか議論しました。
(JFN系列「ON THE WAY ジャーナル『言論のNPO』」で2011年8月31日に放送されたものです)