野田政権に問われる重い役割とは何か

2011年9月07日

今回の「工藤泰志 言論のNPO」は、野田政権のスタートを受けて、新政権について有識者はどう見るのか?元総務大臣・野村総研顧問の増田寛也さん、オリックスグループCEOの宮内義彦さん、民主党参議院議員の梅村聡さんへのインタビューを元に議論しました。

(JFN系列「ON THE WAY ジャーナル『言論のNPO』」で2011年9月7日に放送されたものです)
ラジオ番組詳細は、こちらをご覧ください。

野田政権に問われる重い役割とは何か

工藤:おはようございます、言論NPO代表の工藤泰志です。毎朝、様々なジャンルで活躍するパーソナリティが、自分たちの視点で世の中を語る「ON THE WAY ジャーナル」。毎週水曜日は「言論のNPO」と題して、私、工藤泰志が担当します。

さて、8月30日に野田さんが新しい民主党の代表になって、首相になりました。民主党政権2年間で、3人目の首相となります。

新しい首相が誕生した当初から、あまり批判的なことは言いたくないのですが、日本は今、未来が見えない、大変重要な局面にいます。そういった状況にもかかわらず、国民がまったく首相選びに参加できない、これはどうなのだろう、と私も思っているわけです。今回も結果として、民主党所属の国会議員だけで基本的に代表が決まり、首相が決まりました。

自民党政権の末期も同じことがありまして、これを政権のたらい回しだと言って批判して、政権交代を求めたのが、実をいうと民主党でした。


一方、日本の状況は、これからの2年、非常に重要な局面にあると思っています。財政破綻・再建に代表される、色々な問題を考えると、まさに日本の未来そのものが正念場に来ている。野田政権は、民主党に政権が交代して3人目の首相ですから、今まで何が駄目だったのかを、きちんと考えて、動かなければいけない状況になっています。

この時に、新しい政権はどういう役割を問われているのか、を私たちはきちんと分析して、判断しなければいけないと思っているわけです。

ということで、私は昨日、急遽、この野田政権をどう見ればよいのか、ということに関して、有識者の方にインタビューをしてきました。今、東京に不在の方も多く、非常に大変だったのですが、その中で3人の方の発言を皆さんに紹介しながら、今の野田政権というものが、どういう役割を果たさなければいけないかということを、皆さんと一緒に考えてみたいと思っております。

まず、1人目は、言論NPOのアドバイザリーボードのメンバーである元総務大臣で、岩手県知事も務めていた、野村総研顧問の増田寛也さん、オリックス会長でグループCEOの宮内義彦さん。そして、この番組にも出演していただいた若い民主党の政治家で、野田さんのグループにいる民主党参議院議員の梅村聡さんに話を聞いてきました。
まず増田さん、そして宮内さんとの対談の内容を聞いてみたいと思います。


増田寛也氏の発言-民主党が生き残れるかの最後の総理

増田:民主党にとっては、今度で3人目の首相ですから、野田さんが失敗すると民主党が無くなると思います。ですから、民主党が残るための最後の総理になるかどうか。野田さんによって、民主党が今後も継続するかどうかというところが1つです。つまり、民主党にとっては政府、あるいは政権というよりも手前のところで意味があると思います。今までの失敗を深く反省してというか、深く検証して、何で2代とも1年で潰れてしまったのか。それをきちんと検証した上での野田政権になれるかどうか、ここが1つ問われるのではないかと思います。

工藤:その党の立て直しという点では、何が問われているのでしょうか。


党内の政策決定のルール化とガバナンスの回復が急務

増田:政策云々よりも、私は民主党の組織としてみんなで色々と論争はしてもいいのだけど、結論が出たらみんながそれに従うとか、与党としての組織の作法がまだ身に付いていなくて、それを一つひとつ組織としての行動原理を明らかにしていくということが、必要ではないかと思います。野党としては非常によく機能した政党だったと思いますが、与党になったときの民主党の機能が全く不十分だったと思います。だから、政権を担って日々決定しなければいけないことを全部先送りして、物事を決めない。それから、一度物事は決まったけど、自分が党内野党みたいな立場で、評論家的に発言したりとかする。それが、末端の1年生議員ならまだしも、一体で行動しなければいけない内閣自身がバラバラの発言をする。その辺りではないでしょうかね。

工藤:確かに、政策の決定の仕組みが、党内と政府の間で壊れてしまっている感じがしますよね。

増田:与党として物事を決めて、責任を持って前に進めていくというルールが、全然できていない政党ですよね。残念ながら、政権交代後の2年の間に、そういうところが垣間見られたので、まずやるべきことは、マニフェストの作り方とか、それに基づいた一つひとつの政策の実行の仕方とか、それをルール化する。その上で、次は政策の中身なのでしょうけど、完全に欠けていた財源との連動性をきちんと明らかにする。全部が全部、理想的にできるわけではありませんから、そこで優先度が出てくると思います。


来年には選挙で国民の信を問うべき

工藤:国民が自国の首相選びに、全く関与できないという状況がずっと続くという状況を、どう考えればいいかということですが、いかがですか。

増田:今回の野田さんに代わったけど、やはり早い時期に国民に信を問うというか、選挙をするということにしなければいけないのではないでしょうか。こういう民意を経ない政権交代を、民主党は一番攻撃してきたというか、やってはいけないと主張してきたわけです。確かに、被災地ではなかなか選挙ができる状況ではないけれども、年内で各県とも全部選挙をやって、年内でその状況は解消されると思います。だから、私の見解は、今から、それぞれの政党でマニフェストを磨き抜いてつくって、来年になったらしかるべき時期に選挙をして、それで今言った、国民の手による政権というそのサイクルを取り戻すということではないでしょうか。ですから、私は、来年、選挙をやってほしいと思います。


宮内義彦氏の発言-民主党政権の2年の負の遺産を解消できるか

宮内:過去2年間の民主党政権は、やはり国民の期待から大きく外れているし、私自身、経済人の1人として、かなり切羽詰まった感じになっていると思っています。鳩山さんの時には、日米関係という日本にとって最も重要な外交関係、それから防衛という国民の一番安全の基礎になるところがおかしくなった。自民党がやったことを全部潰すという意味では、そうだったかもしれないけど、過去に日本人が築き上げたものを一気に潰してしまっただけなのですね。それから、菅さんになって、沢山のことをおっしゃったわけですが、果たして何が実現したのだろうか。不幸にも震災という大事件が起こったわけですが、その処理に今日まで見まして、政権の統治能力がない。また、原発事故に対しても後手々々にまわっているということを露わにしたと思っています。それどころか、選挙前に民主党が公約したマニフェストというものが、いずれも財政的に裏付けの無いものであったということで、そういう意味では、選挙でおっしゃったことが、これまた崩れていきました。そこへ野田さんが出てこられたわけでして、これだけの言うならば過去2年の民主党が持っている負の遺産を、野田さんという方が全部解消して、ゼロのポイントまで持って来ることができるか。

工藤:マイナスをね。

宮内:マイナスをゼロのポイントまで持って来るだけでも、もの凄く大変なことだと思います。しかし、マイナスを更にマイナスにしないで、少しでもプラスに持って来るということができれば、民主党政権としては、やっと3人目にしてよかったなということになるのかもしれません。ですから、過去2年間の負の遺産を取り返して、さらにプラスを取るというところまでの期待は、私自身は難しいなという気がしています。
 

野田政権も結局は、日本の政治の大変化のプロセス

工藤:最後に、今の日本の政治を大きく見た場合に、どういう局面にいるのでしょうか。昔、宮内さんは選挙を何回もすることによって、1つのある固まりになることを経ないと、落ち着かないのではないかとおっしゃっていたのですが、その考え方からみて、今の局面をどう見ますか。

宮内:そのプロセスだと思います。そのプロセスで、本当の政権交代ができる、成熟した政治で日本を動かすということになるための、一里塚と言いたいけど、十里塚ぐらいですよね。

工藤:だから、日本の政治が、まさにきちんとした政策を軸にした政党政治を取り戻すための変化のプロセスで、そっちに向かって確実な一歩を踏み出していくかどうかは、国民がそれをきちんと判断していかなければいけないということですね。

宮内:その通りです。とにかく2年前は政権さえ代われば世の中が明るくなるという雰囲気でしたが、2年経っても全然ダメだったという雰囲気ですよね。少なくとも、野田さんという方は、過去2年の失敗から相当学んでいるはずですから、それを期待したいですね。


野田政権は、民主党は党としての機能を取り戻せるか、それが日本が直面する課題に間に合うか、が問われることになる。

増田さん、宮内さんも、共通して言われているのは、この国が未来に向かうためには、政治は大きな変化のプロセスにあるのだろうということです。その中で野田政権、つまり民主党が、党として機能するものにもっていかないと、たぶん民主党そのものが非常にまずい事態になるのではないか、そういうかなり切羽詰まったぎりぎりの段階に、今あるのではないか、というかなり厳しい見方だったわけですね。

話の中にも出ましたが、民主党政権は、政府の統治が出来ていない。政策の意思決定もできず、何も実行出来ない、深刻な事態に追い込まれていました。これを立て直すために、野田政権は、その後いろいろな動きを見ていますと、党内の融和だけではなくて、党の政策などの意思決定のルールを作るという、党としての基礎作りをちゃんとやろうとしているような感じは、すごくするのですね。ただ、党をきちんと作っていくということは、本来、政党としては当然に整っていなければならなかったのです。しかし、そういうルールを作ると、意見が違う人が民主党内に結構な数いるわけですから、その議論をどう政策として一本化していくのかという、大きな問題が次に出てくるわけですね。民主党としてはそういう試練は必要だったのですが、それがうまくいくのだろうか、と。一方、うまくいったとしても、日本が今、問われている大きな課題に間に合うのだろうか、ということがあります。その意味で、ナローパスと言いますか、今の政権は非常に厳しい状況にありながら、それに挑戦していく段階になっているのだと思います。


唯一の期待は、そうした政権が抱える課題を自覚する政治家が少数でも存在すること

ただ、私がかすかに期待できたのは、こうした民主党や日本の政治が問われている現状の重い課題を、自覚している人達が、自民党、民主党それぞれに結構いるのですね。次に、民主党の若い政治家である梅村先生の発言を聞いてみたいと思います。


梅村聡参議院議員の発言

梅村:やはり、新聞や世論は、党内融和と言っています。しかし、僕は間違っていると思っていて、融和は結果として仲良くなればいいですが、それは目的ではないと。私は、野田さんに近かったということもあるのですが、政策決定のプロセスをきちんと党の中だろうが、政府だろうがきちんとつくることができる、最後のチャンスだと思います。民主党がこの2年間ゴタゴタしていたのは、子ども手当をどうするのかとか、高校の無償化をどうするかといった政策でもめたのではなくて、税と社会保障もそうですよね。脱原発もそうですが、この政策の決定プロセスをきちんと詰め切れていなかった。結局、確立できなかったということが、この2年間の民主党政権の一番の克服できなかったところだと思います。だから、野田さんが最後の首相というのは、この決定過程をきちんとつくれるかどうか、ということが、勝負になってくると思います。


政治家が国民を見ないのは、国民の監視不足がこういう事態を招いている

工藤:そもそも政党というのは、そういうことができていて党だと言えるのだと思います。でも、閣議決定をしても閣僚が別なことを言ったり、議論すると、誰か声の大きい少数派の意見で決定ができないという形で、統治が完全に崩れてしまっていましたよね。民主党という政党そのものを機能させるというプロセスに、みんなが足並みを揃えられるかどうか、ということでしょうか。

梅村:建前的に言えば、民主党の成熟過程の1つだと見ることもできます。しかし、私は、小選挙区制度をつくった時に、野党が与党になるときには、反与党であればみんな候補になれるわけですから、選挙制度がこういう形を生んでいる、そんな気もするのですね。

工藤:ということは、今までは、権力に対抗する反対派なら何となく集まって、1つの集団をつくりやすかった、と。しかし、それが政党として機能するためには、党内のルールを決めないといけない。そうなってくると、党として機能するか、それとも、分裂みたいな形も含めて、ひょっとしたらダメだったという結論もあり得ますよね。

梅村:ありますね。そういう意味で言えば、私は、まだマグマが固まりきっていないし、可能性として、色々なやり方があるのではないかと思っています。その時に、今の政治家を見ていて、僕は国民を見ていないと思っています。そんなことをやったぐらいでは、国民にはわからないし、新聞でも報道されないから、それだったら少しでもいい格好をしようかということになる。だから、一方で、政治家の私が言うのは変ですが、国民の監視不足がこういう事態を招いている。複合要因ですよ。

工藤:梅村さんから見れば、そういう風な政党としての機能をきちんと取り戻すということをやるプロセスというのは、まとまるプロセスに挑戦してみようという形で思っているのですか。それとも、とりあえず大きな変化になる一歩だと思っているのですか。


政治の変化の方向は、綱領を持てる単位になることか、政界再編

梅村:私は、最終的には考えの近い人たちで、ちょっと危ない言い方をすれば純化路線につながりますけど、そういう形を目指していくべきだという立場です。それは、政界再編という形なのか、あるいは、もう少し核となった、要するに、党の綱領を持てるような単位になるべきだと僕は思います。

工藤:その一歩だという風に見ているわけですね。

梅村:僕はそう思っています。そこへの一歩だと思っています。


野田政権は日本の政治が変わる大きな変化のプロセス、この変化を国民が自覚することでしか、日本は未来に向かえない。

私がとても関心を持ったのは、最後に梅村さんが言っていたのですが、日本の政治が、国民を見ようとしないのは、国民の監視不足がこういう事態を招いているという発言です。日本の政治はかなり厳しい局面に立たされている。野田政権がうまくいくかどうかわからないけれど、日本の政治が強いものにならない限り、この状況は突破できないと思うのですね。では、強い政治とはなんなのかと言うと、やはり国民に支えられた政治であって、そして課題を乗り越えるリーダーシップを伴った政治だと思うのです。そういった政治が日本で生まれるか、まさにそれがぎりぎりの局面で今の政権が動き出している、と。多分、この政権は、日本の政治が変わるかどうか、大きな1つのプロセスであり、日本は1つの岐路に立たされていると思いますし、私たちも、そういった大きな変化の真っただ中にあるのだということを感じながら、国民が、まさに政治に対してきちんと監視をし、監視を強めて発言していく、そういう状況を作れたらなと思っております。

ということで、時間です。今日は、「野田新政権をどう見るか」について、言論NPOのアドバイザリーボードのメンバーである、オリックス会長でグループCEOの宮内義彦さん、野村総研顧問の増田寛也さん、それから、民主党参議院議員の梅村聡さんのインタビューを交えながら考えてみました。ありがとうございました。

今回の「工藤泰志 言論のNPO」は、野田政権のスタートを受けて、新政権について有識者はどう見るのか?元総務大臣・野村総研顧問の増田寛也さん、オリックスグループCEOの宮内義彦さん、民主党参議院議員の梅村聡さんへのインタビューを元に議論しました。
(JFN系列「ON THE WAY ジャーナル『言論のNPO』」で2011年9月7日に放送されたものです)ラジオ番組詳細は、こちらをご覧ください。