有権者は日本の政治をどのように変えていけばいいか

2012年5月22日

今回の「工藤泰志 言論のNPO」は、ワシントンで行われた議論に参加した工藤が感じたことを元に、日本の政治を変えるために市民や有権者が何をすべきなのかどうかを考えました。

(JFN系列「ON THE WAY ジャーナル『言論のNPO』」で2012年5月9日に放送されたものです)
ラジオ番組詳細は、こちらをご覧ください。


有権者は日本の政治をどのように変えていけばいいか

工藤:おはようございます。言論NPO代表の工藤泰志です。毎朝様々なジャンルで活躍するパーソナリティが自分たちの視点で世の中を語るON THE WAY ジャーナル。今日は言論NPOと題して私工藤泰志が担当します。さて、先週は、ワシントン、その後、北京にも行き、世界の人たちと対話して、日本の政治で見えてきたこと、日本が問われていることについて話をしました。今日は、日本の政治をどのように変えていけば良いのかを私なりに皆さんに伝えて一緒に考えていきたいと思います。


世界では、有権者が民主主義の前提だ

 特に世界で私が感じたのは、市民というか有権者が民主主義の前提だということが徹底していることですね。私が日本でそのような事を言ったら青臭いことを言っていると言われていました。でも、当たり前の事を私が言っている事に気付き、非常に勇気を貰いました。日本の政治も、有権者がどういう風に変えていけば良いのかという視点で考えないといけません。今日はそれについて一緒に考えます。

 私はこのテーマをON THE WAY ジャーナルでは何回も今まで発言しました。実を言うと10年前にこの言論NPOというNPOを立ち上げた時も、私たちは有権者がきちっと政治を判断して、自分たちの未来を選択していくという循環を作らないといけないと考えました。そこで、まず私たちが政党なり、政府の政策がどういう風に実行されているのかとか、内容はどうかということを評価しようとして、いろいろマニフェスト評価を実施したり、それに伴う議論をしていたわけです。しかし、この場でも言いましたが、そこがひとつ限界に来ていることを私自身も感じています。

 私の問題意識に近いお便りというかメールがリスナーの方から来ているので、お1人紹介させていただきます。これはラジオネーム「早く解散総選挙を」さん、40代の男性です。こう書いています。「小泉郵政解散総選挙、民主党大勝選挙共に、その後の政治の体たらくをもたらした原因について考えてみたのですが、やはり国民の多くが選挙区と比例区で同じ政党に投票したことが問題だったのかなあという結論にしか至りませんでした。言論NPOの方々はいかがですか」と。これは分かりにくい問いかけですが、意味するところは、つまり、選挙区ではいろいろな議論があるけれども、比例区の候補者をちゃんとメディアは評価しているのか、と。何かいい加減な人を名簿に並べていて、その人たちがどういう言動をしているかわからない。そうだと、どう投票したらいいのかわからないということを言っているのだと思います。この方は、そういうことを言った後に、言論NPOが比例名簿に載った全候補を調べ上げた上で、人物名鑑や政党別最低ランクの候補者の数とか政党別にどうしようもない候補者の数に関してそういうことをやったらどうかという提案でした。内容については色々意見がありますが、基本的に考えていることは私と全く同じです。それだけでなく、いわゆる有権者が自分の投票の重さという事を考える状況になったのではないかという非常にうれしいメールでした。


マニフェスト評価だけでは駄目、政策軸で政党を動かす仕組みを

 私も実を言うと、マニフェスト評価をやって同じような絶望感があるのです。マニフェスト評価はある一つの前提が実現していないかぎり実現しない。それは政党がきちっと機能しているという事です。この前、この放送で山中さんというイギリスにいた大学の先生と一緒でした。そのとき、あの方の話では、サッチャーがマニフェストを作って消費税引き上げをやる時、自らペンで書き直していた、と、マニフェストの作成だけで3年かかったとおっしゃっていました。でも、日本では、政党そのものが主要な政策において合意ができない。ばらばらで政策を作れないのです。政策を作れないから、曖昧なことを書いて選挙に望み、選挙が終わった後は、政策が曖昧なので、それを実現できない。結局そういう形で10年以上も日本は課題解決、本当は日本が決定しなければならないところから離れてしまって何も考えなかった。それが今の日本の状況を招いてしまった訳です。

 私は、こういう政治と有権者の間に緊張感を作らなければいけないということでマニフェスト評価をやっていたのですが、それだけでは駄目だと思うようになりました。つまり、政党そのものを変えない限り何も始まらない。じゃあ、政党をどういう風に変えればいいのか。それは政策軸に基づいて変えるしかない。つまり、政党は私たちNPOと全く同じでミッションがある。日本の社会を将来どういう風にしたいのか、そこにどういう風に持っていきたいのか、そのためにどんな政策をやって、どういう手順でそれを実現するのか、いつまでにやるのか、これらは別にマニフェストに書かなくても政党として決まっていないと話にならない。それが決まっているからこそ、また、それを決めるために党内で様々な議論があって、党首選があって、それに皆が従うから、マニフェストが初めて国民との約束という形で実現すると思うのですが、実はそのようになっていない。そうだとすると、政策軸で政党を動かすための仕組みを作るしかない。そういう段階に来ていると私は思っています。

 ですから、今の「早く解散総選挙を」さんが言ったように、やっぱり政党政治の政党を評価するだけでは駄目で、政治家それぞれを評価しなければならないという段階に我々言論NPOは立っています。実を言うと、その準備を始めています。そのためにいろいろインターネット上の仕組みとか政策的な議論をまず市民、民間側から政党か政治家に提起して、彼らがどう考えるか回答を迫る。回答してこないなら、それでもいい。しかし、そういう人たちに絶対投票すべきではない。そういういい加減な人たちには投票するなと呼びかけないといけない。つまり、有権者側から、政策軸をベースとした議論を政党なり、政治家に求めていくことがどうしても必要になってきていると思うのです。


有権者が自ら考え、議論し、要求する

 今はまだ選挙がどうなるかわからないとか、今、選挙やると負けるから選挙をやらないとか、そんな声が結構聞こえてきます。しかし、それは政治家の職業を守るための話であって、国民と全然関係ない話です。そういう政治はもう続かない、無理だということを私たちはきちんと覚悟しなければいけない状況だと思うのです。米国などにいきましたが、世界もまさにそういう感じです。そうした中で、私は日本の代表ですと言っているのがすごく恥ずかしい。ですが、やはり、自分たちがそれを考えなければいけない段階に来ていると思います。ただ、この評価をやる時には、もう一つ考えなければいけないことがあります。つまり、有権者がきちんと自分で考えて、自分で決断するという力を持っていないと、結局また誰かにまかせてしまうという形になる。僕は政治家の評価をするということは、単なる政治家を評価することが目的ではなくて、そのプロセスにおいて有権者や市民が自分で考える。そして、みんなで、友達とでもいいですから、いろいろな議論をし、その中でどうしたらいいのだろうか追求する。自分たちがこの国の主役であるという様にマインドを変えないと多分大きなエネルギーになっていかないと思うのです。

 何回も言ったことですが、民主主義というのは非常に危うい所がある。そのことについては佐々木毅さんとこの場でも話し合ったことがあります。基本的に民主主義というのは一人一人の権利が保証される仕組みです。つまり、基本的な人権とか平等とかに非常に適応したのが民主主義の仕組みなのですが、しかし、皆一人一人が、例えば政府になんとかして欲しいとか、誰か一人の政治家に期待したりするとか、そうなってしまうと、結局、政治を壊してしまう可能性がある。つまり、それが民主主義の歴史でして、民主主義は民主主義の仕組みの中から衆愚政治を作ってしまう、あるいは独裁を作ってしまうというのが非常に大きな歴史の総括なのです。これを変えるためにはどうすればいいのかというと、民主主義がそういう危うさを持っているということを僕たちが知ることなのです。人に安易に任せるのではなくて、いろいろな人たちの意見を聞いて勉強し、やはり自分で考えるという仕組みを作らなければいけないと思います。


「せろん」から「よろん」へのプラットフォームをつくりたい

 言論NPOが今やりたいのは、その仕組みを合わせた形での評価の仕組みをどう作るかということです。実を言うと、もう少し時間がかかるので、それが決まったら皆さんにお知らせすることになると思います。我々は議論をしっかり作りたい。きちんと議論して、その議論だけを多くの市民に公開して、その中で、いろいろな人たちが自分でも考えるというプラットフォームを作りたい。ただ、そのプラットフォームで行う議論は自分たちが政治に、政治家に対して、政策軸でこういうことをして欲しいとか、こういう事を国民に説明して欲しいとか、きちんと言えるような議論です。そういう議論を私たちは作りながら政治にぶつけていくというサイクルを今作りたいと思っています。

 どうしてそのような形を取らなければならないかというと、よく言うのですが、「せろん」と「よろん」は違う。実はワシントンに言った時も、北京に言った時もその話をしたのです。日本では「せろん」と「よろん」は違います、と。そうしたら、なんかみんなびっくりして理解出来なかった。中国の人は、だからこそ日本文化は奥深いと言って変な所で感心していましたが、実は言うと、外国人が考えている、特にアメリカの人たちが考えている「せろん」と「よろん」のイメージは「よろん」に近い。日本で考えている「せろん」と「よろん」の関係というのは「せろん」に近い。それはどういう事かって言うと、「せろん」というのはやっぱりポピューラーセンチメントと言って、情緒的な、感覚的な雰囲気です。例えば、増税は嫌だとか、この人が嫌いだとか、この人を好きだとか、戦争は嫌だとか。その誰でも思う感覚だから、それ自体は大事なことだけれども、その思いを実現するためには別な政策を考えないと実現出来ないことってあります。例えば、今の財政破綻が迫っている日本は、借金が1000兆円を超えているわけで、そこに、もしマーケットが騒いだら、とんでもない状況になる。それは、例えば公務員がけしからんといって公務員を全部クビにして、全員辞めさせても全然間に合わない訳です。つまり、財政の規律を整えてやっぱり経費は無駄を削減しても増税も必要になるだろうとか、いろいろな事を政策論としてきちんと考えないといけないのではないか。つまり、何かをしたいのだけれども、それを実現するためにいろいろな事を勉強してあれこれ考えることによって責任ある議論になっていく。単なる無責任で、こうしたいとかという話ではなくて、これを実現するためにこういうことを考えなきゃいけないという責任ある議論が一つの「せろん」になっていくと、これが「よろん」なのです。「よろん」というのは単純な雰囲気と違って責任ある議論なのですね。アメリカでそれを言った時も「よろん」というのはそういう事だろうと言われました。

 民主主義社会は自分たちの利益を代弁して欲しいとか、サービスをして欲しいとかということになるでしょう。でも、そのつけはどうするのか。アメリカだって財政が非常に厳しい。日本も同じ状況になってしまっている。日本の未来をどのように構想して、そのためにどのような政策を立てて、どうやって実現していくのかということを考えていかないと、もう、めちゃめちゃになってしまうわけです。僕は安全保障の話でも同じことを感じました。前回お話すれば良かったのですが、アメリカに行った時に、何か世界はアメリカと中国だけで動いている感じがしました。中国の軍事力は脅威だと言って、それに対応しなければならないという形でアメリカは軍事的オペレーションをかなり大きく転換して、アジアにまた緊張感が起こっているわけです。国際政治は大国同士のパワーバランスでやっていくのは非常に危険だと思っています。国際政治は当然そうなるのですが、しかし、そのチャネル以外に、市民とか民間というのがその状況を乗り越えるような知恵を出さないと、その緊張関係を打開出来ない、と思っているのです。


市民自らが日本のマネジメントを考えないといけない

 そうなって来ると、例えば、日本は政治を考えた時に、東アジアの安全を考える時、どのようなビジョンとどのような目的を考えて国民に説明しているのかというと、あまり聞いたことはないですね、そういう話は。なんとなくアメリカと同盟関係だけど、中国とも何かやっている、と。尖閣問題でいろいろな問題がある、と。だから、何というか曖昧なまま全部動いてしまっているわけです。そうなってくると、そこの段階では、日本が安全に暮らすということはどういうことなのかを私たちが考えないといけないという状況なのですね。日本は高齢社会で人口がどんどん減少している。非常に速いスピードです。これが急ピッチで進んでいくとすれば、日本をどのようにマネジメントすればいいのか。このマネジメントするということは、世界にとってもひとつの大きなヒントになる。同じ国際社会の中には、同じ問題を抱えている人はいっぱいいるからです。そうした問題に対する答えは黙って待っていても、政治からなかなか来ません。だから、私たち自身が考えなければならないという状況なのです。

 つまり、私が言いたいのは、有権者とか市民が政治を変えるというのは、まず政治家一人一人の評価をしていきますけど、それと同時に、いろいろな問題に関してこれは政治家が考える問題ではなくて自分たちが考えていく形になっていかないと駄目だなという局面に来ている感じなのです。正直に言うと、そういう状況は非常にいい時代と思います。私たちがちょっとした努力をすれば、やる気になれば、日本をちゃんとしたものに出来るという、そういった社会になって来ているんだなあと思うのです。大震災以降、世界もそうですけど、市民社会なり、多くの人たちが自分の問題として考えなきゃいけない時代になっています。日本に大きな変化を求めていると、どうしても自分たち、つまり、私たちが皆で考える事によって実現出来ないかなあと考えているのです。

 この言論のNPOのON THE WAYは2カ月ぶりの再開で、2回にわたって、私たちが日本の社会を変えるために大きなベースとなる基本的な考えを皆さんに説明させてもらいましたが、さて皆さんはどう考えたでしょうか。次週以降は、具体的な問題に関して皆と考えて、その議論を私は出来る限り政治に伝えていく、という風な形をやってみたいと思います。是非期待してもらいたいと思っています。ということで時間です。今日は有権者の視点で日本の政治を変える、どうしたら変えられるのかということについてお話してみました。また宜しくお願いします。意見をどんどんお待ちしています。

今回の「工藤泰志 言論のNPO」は、ワシントンで行われた議論に参加した工藤が感じたことを元に、日本の政治を変えるために市民や有権者が何をすべきなのかどうかを考えました。
(JFN系列「ON THE WAY ジャーナル『言論のNPO』」で2012年5月9日に放送されたものです)
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