【論文】「視点」 IMFは小泉内閣の経済政策をこう評価する

2003年11月07日

日野博之 (国際通貨基金(IMF)アジア太平洋地域事務所長)
ひの・ひろゆき

1945年生まれ。68年上智大学経済学部卒業、70年ミズーリ-大学(米国)経済学修士、75年ロチェスター大学(米国)経済学博士を修了。同年国際通貨基金(IMF)に入社。駐フィリピン代表、政策企画審査局課長、アフリカ局次長を経て、現職。『日本の金融システムの再構築とグローバル経済』等著書多数。

国際機関は小泉改革をどう評価しているのか。IMF(国際通貨基金)は今年9月、日本の経済政策や金融に関する審査結果を公表した。日本経済の最大の課題はコーポレート・リストラクチャリングであり、冷徹な経済合理性の観点で評価すれば、財政健全化目標の前倒しなども含め、将来の安定成長に向けた当面の痛みは避けられず、政策対応にもより一層の「厳しさ」が求められる。IMFアジア太平洋地域事務所長の日野氏にこのレポートのポイントを解説していただいた。

マクロ経済運営については、国際機関が従来から行っている各国経済の審査が何に着目し、評価の基準をどこに求めているかを知ることが政策評価の上で参考になる。IMF(国際通貨基金)は例年の日本経済に対する4条コンサルテーションに加え、今年は金融システム安定性評価プログラムを同時に公表した。 IMFが焦点を当てたのは、日本の銀行制度とコーポレートリストラクチャリングである。重要なのは金融システムの安定性の維持であり、その観点からペイオフ延期を評価するが、金融行政は一層の厳格化が必要である。例えば、繰り延べ税金資産は、資本の本質的な性格に鑑みて資本への算入は1割にとどめるべきであり、国内銀行も自己資本比率は8%にすべきだ。全ての銀行が不良債権の評価を将来利益の推定に基づいて行う能力を作る必要がある。

日本経済は他国と比べて企業の借入が過大であり、過剰なキャパシティーを除去しなければ将来の成長につながらない。生産性の低い企業の退出と新しいより採算性の高い企業の参入が必要である。その手段は銀行によるワークアウトであるが、それは公的資金ではなく、銀行の健全性を重視した監督行政の強化によるべきである。IMF審査の存在価値は、政治的な配慮を排し、経済原理に則った政策の姿を示すことにある。財政健全化は先延ばしすれば、達成は困難化になる。2010年代初頭でのプライマリー収支の黒字化目標は、前倒しする必要がある。デフレは金融政策で解決できるのであり、日銀は財務省とのリスク分担によってオペ対象を拡大すべきである。

日本経済は、投資主体であるべき企業部門が大きく貯蓄し、それが政府に回っているという異常な資金循環を示しており、それでは成長軌道には乗らない。その意味でコーポレートリストラクチャリングによって経済が機能できるようにすることが最重要課題である。小泉内閣の方向は正しいと評価しており、あとはスピードと厳格性を増すことが求められる。


国際機関は小泉改革をどう評価しているのか。IMF(国際通貨基金)は今年9月、日本の経済政策や金融に関する審査結果を公表した。日本経済の最大の課題はコーポレート・リストラクチャリングであり、冷徹な経済合理性の観点で評価すれば、財政健全化目標の前倒しなども含め...