高橋進 (日本総合研究所調査部長)
たかはし・すすむ
1953年生まれ。76年一橋大学経済学部卒業後、住友銀行に入行。90年日本総合研究所着任。98年立命館大学経済学部客員教授、2000年より早稲田大学大学院アジア太平洋研究科客員教授に。現在、財務省アドバイザリー・グループ・メンバー、公正取引委員会金融研究会委員、法務省出入国管理政策懇談会委員を務める。
ポール・シェアード (リーマンブラザーズ証券東京支店マネージングディレクター・チーフエコノミスト)
Sheard, Paul
1954年生まれ。リーマン・ブラザーズ証券会社東京支店経済調査部マネージング・ディレクター、チーフエコノミスト。オーストラリア国立大学にて博士号取得。スタンフォード大学、日銀金融研究所、大阪大学等に在籍。経済審議会部会委員等歴任。著書は『メインバンク資本主義の危機』等。
ロバート・フェルドマン (モルガンスタンレー証券調査部長・チーフエコノミスト)
Feldman, Robert A.
1953年生まれ。イェール大卒、MITでPh.D.取得(経済学)。NY連銀、IMF勤務など経て現職。著書に『日本の衰弱』『日本の再起』。 Institutional Investor誌「The All-Asia Research Team Poll」で第1位 を獲得。
イェスパー・コール (メリルリンチ日本証券チーフエコノミスト)
Koll, Jesper
ジョンズ・ホプキンス大学卒。OECD調査統計部、京都大学経済研究所研究員、SGウォーバーグ証券、JPモルガン調査部長、タイガー・マネジメントを経て、1999年メリルリンチ証券入社。日本経済の調査に携わり、経済産業省の産業金融小委員会等、政府諮問委員会にて政策提案策定に参画。内外の雑誌・新聞に多数寄稿。
概要
小泉内閣は画期的な経済政策の転換を図った。中期的な経済再生に向けた構造改革に焦点を据えるとともに、政策決定プロセスの改革に取り組んだ点は高く評価できる。しかし、その効果は未だ不十分であり、マクロ経済は再生への出口を描けていない。不良債権処理、財政構造改革、デフレ対策など山積する課題への優先順位づけは正しいのか。市場規律の問題、公的資金や国民負担の問題はどう考えるのか。4人のエコノミストが小泉内閣の経済政策の評価を巡って議論をぶつけ合った。
要約
小泉内閣の経済政策について、4人のエコノミストが評価を行った。
高橋進氏は、旧来型の景気対策から構造改革へと政策転換を行ったことや、経済財政諮問会議など政策決定プロセスを政府主導型に転換しようとしたことを評価しつつも、デフレ圧力を過小評価し、目標設定の仕方にも課題があったとする。シェアード氏は、むしろ小泉政権誕生時には政策の枠組みは既に出来ており、その実施が問われていたとした上で、優先順位は第一に不良債権の最終処理、第二が競争的な経済システム作り、第三が財政構造改革であったにも関わらず、デフレ克服後に取り組むべき財政再建や、長期的課題である郵貯・道路公団等の改革を重視したことを批判する。その中でペイオフが延期され、従来型政策への逆戻りが拡大したとした。フェルドマン氏は、政策評価は矛盾の多い政策決定プロセスの現実を踏まえて行うべきであり、小泉政権が同時に取り組む必要のあった様々な課題をやり繰りする中で、各項目毎に進歩を評価すべきだとした。コール氏は、スピードは遅いものの、政策当局間の協力の枠組みが構築されたことを高く評価する。シェアード氏が、構造改革が財政引締めに結びついたことが失敗だったとして積極的な金融財政政策を主張するのに対し、フェルドマン氏は、全体として構造改革を進める中で需要が創造されることが重要とし、コール氏は、第一の目標はデフレ対策であるが、それは金融政策の問題だとする。高橋氏も、不良債権の早期処理に向けたマクロ的な環境が整わないという政策の不整合性を問題視し、コール氏と同様、デフレからの脱却に力点を置く。最後にシェアード氏は、市場原理の導入を目標としつつ、第一の優先課題=不良債権処理のために公的資金を投入し、その際、投入資金は返らないという前提を国民に説明し、デフレ下では日銀がそれをファイナンスすべきであるとして今後の課題を整理した。この座談会を通して浮き彫りになったのは、構造改革とマクロ政策との整合性や、最後に問われる国民負担の問題を明確にしなければ、経済再生に向けた出口は描かれないということである。
小泉内閣は画期的な経済政策の転換を図った。中期的な経済再生に向けた構造改革に焦点を据えるとともに、政策決定プロセスの改革に取り組んだ点は高く評価できる。しかし、その効果は未だ不十分であり、マクロ経済は再生への出口を描けていない。