【論文】「日本経済は末期的な衰退に陥ったか」 ―小泉改革を評価する―

2002年3月16日

cortazzi_h020328.jpgSir Hugh Cortazzi

1924年生まれ。英国空軍を経て、1949年英国外務省入省。1980-84年駐日英国大使。1984年外務省退職1985-1995年までロンドンのジャパン・ソサエティ会長を務める。主な著書に「東の島国、西の島国」、「日英の間でヒュー・コータッツィ回顧録」等、日本に関する多くの論文、本を執筆している。

概要

小泉改革は政治、経済改革の両面において指導力を問われ始めている。海外では日本は「NATO」(口先だけで行動しない)という言葉まで出ているが、小泉氏の改革はどのように評価されているのか。元イギリス駐日大使のヒュー・コータッチ氏は言論NPOに寄せた論文の中で、日本の広範な改革課題について評価。またイギリスの政策決定プロセスと政治家・官僚の在り方を踏まえ、小泉改革の最優先課題は政治の大規模・広範囲の改革だと主張する。

要約

小泉首相は幅広い改革に取り組む必要があるが、最優先すべきは政治制度の改革である。なかでも一票の格差の是正、族議員の排除、派閥の解消、官僚と政治家の癒着解消は重要だ。族議員の排除に関して、自民党の国家戦略本部が示した事前承認制度の撤廃には賛成する。官僚の本質的な任務は、情報に裏付けられたアドバイスを閣僚に与え、理にかなった政策提言を行うことである。閣僚は自ら決定を下し、それに責任持たなければならない。その上で、官僚は政治レベルで合意が得られた政策を最善を尽くして実施する。このプロセスを実現するためには、国会議員と官僚との接触はすべて当該省庁の大臣・長官に報告し、そうした接触の記録を公開すべきである。たとえばイギリスでは、政治家が自分の選挙区に影響を与えるテーマを取り上げたい場合、担当閣僚に書簡を送るか、議会で質問する。議員が官僚に説明を求める場合には、担当閣僚の承認の下に行われ、報告される。イギリスの官僚は政策決定からは排除されているが、政治的主人に誠実に奉仕し、客観的なアドバイスを提供することに誇りにしている。小泉首相に必要なのは、政治改革の原理を掲げ、手続きを踏んで実現していく決意を表明することである。日本経済が直面する問題は複雑に絡み合い簡単な解決策など無いが、小泉首相が郵貯・特殊法人の民営化を優先課題に掲げたのは高く評価できる。インフレ目標設定や円安誘導が議論されているが、効果が薄いばかりか、副作用を伴うことを認識しなければならない。構造改革が確実に実行され、回復への道筋が国民に見えない限りデフレは解消できない。教育改革、高齢化、年金制度改革など、小泉首相が抱える課題はほかにもある。改革への努力は抵抗勢力に抑え込まれているようにも見えるが、「日本は末期的な衰退に陥ったのか」という質問に答えるならば、情熱と決意に満ちて改革を推進すれば必ずしもそうはならないと考える。


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 小泉改革は政治、経済改革の両面において指導力を問われ始めている。海外では日本は「NATO」(口先だけで行動しない)という言葉まで出ているが、小泉氏の改革はどのように評価されているのか。元イギリス駐日大使のヒュー・コータッチ氏は言論NPOに寄せた論文の中で、