2009年7月2日
【テーマ】 経済政策
【出席議員】
自民党:町村信孝(衆議院議員 日本経済再生戦略会議会長 税制調査会顧問 前内閣官房長官)
民主党:増子輝彦(参議院議員 ネクスト経済産業大臣)
【司会者】
工藤泰志(言論NPO代表)
【コメンテータ】
内田和人(三菱東京UFJ銀行企画部経済調査室長)
齊藤誠(一橋大学大学院経済学研究科教授)
土居丈朗(慶應義塾大学経済学部教授)
議論要旨
工藤泰志 「経済政策」セッションのテーマは「日本経済をどう立て直すか」です。自民党からは町村先生、民主党からは増子先生にお越しいただきました。早速ですが、まずはテーマについて、両先生に語っていただきたいと思います。町村先生からよろしくお願いします。
町村信孝 最近の経済情勢については、今年4月からは少しずつ明るい兆しが見え始めているように思いますが、まだ力強いものだとは言えません。日本政府として最低限やらなければいけないことをやろうということで、4月末には急遽21年度の補正予算を出しました。私も日本経済再生戦略会議の会長という立場で、取りまとめさせていただきました。官僚が書いたものをホッチキスで留めただけではないかと言う方もいるようですが、私の机の上にはホッチキスはございませんので。自民党の中できちんと議論をし、まとめさせていただいたと自負しております。
今回の対策ではまず、中長期的な成長戦略として何が必要なのかを考え、そのうえで今取り組まなければならないものを緊急対策として打ち出しました。また、目指すべき将来像として、「世界をリードするグリーン経済社会システムの構築」「21世紀型のインフラ整備・システム開発」「健康長寿と子育てを支える質の高い生活コミュニティの形成」の3つを掲げています。地域の活性化にも力を入れたいと思っております。地方負担の軽減に力を入れ、地場産業や中小企業にできるだけ発注していくと。それから単年度予算での対応ではやはり限界がありますので、複数年度予算を活用していきます。そこで基金をつくって、2年3年かけてひとつのものを仕上げていくと。
それから「GDP比で見たときに対策規模が小さい、30~40兆円規模でなければいけない」という議論もありましたが、国際的な基準もにらみながら主要10施策を積み上げた結果、15.4兆円という額になっております。経済効果としてGDPを約2%押し上げる、などの想定をしております。緊急の対応策として金融対策も行うということになっております。最近、いろいろなところで政策の効果が見え始めているように思います。
増子輝彦 基本的には、今の日本経済の状況は非常に深刻であると考えています。昨年の世界同時不況が発生する前、戦後最長の景気であったという頃から、「日本の経済はおかしい」という認識に立っています。ですから、経済回復のためには、今すぐにやらなければならない対策があるのと同時に、中長期的な見地から、日本の産業をどうつくり変えていくかという2つの視点が重要だと考えています。
私たちはこれまで、国民が少しでもいい生活ができるよう、生活に対する負担を軽減することが大事だと主張してきました。将来の負担をなくすことにきちんとお金をつぎ込むべきです。今回も緊急経済対策を打ち出しましたが、その中でも重要なのは、可処分所得を増やすということです。可処分所得は8年連続で減り続け、そのうえ負担は増えています。本来ならば、可処分所得倍増計画のような大胆な政策が必要ですが、それは行き過ぎなので2~3割は増やしたいと。それから、新しいライフスタイルを構築することが極めて大事です。現在の不安を軽減することで消費拡大、新産業育成、雇用の安定の拡大につなげていくための経済対策となっています。
可処分所得を増やすことについては、まず子ども手当をしっかりやるということです。それから高速道路無料化と暫定税率廃止もあります。加えて年金の制度改革の問題もしっかりやらなければならない。新しいライフスタイルについては、グリーンニューディール的な、環境に対するライフスタイルを構築することが重要だと思っています。「2025年に温室効果ガスを25%削減」という厳しい目標を掲げてはいますが、これによって新しい産業を創造することは必ずできると思います。
「外需依存から内需拡大への転換」ということは皆さんよく耳にすると思います。日本は国民の優れた勤勉さでもって高度経済成長を果たしたわけですが、今後は安定した経済成長ができるかたちに変えていかなければなりません。しかし内需拡大は可処分所得が増えなければ実現されません。私たちは、大企業だけではなく、日本の産業の土台となる中小企業にもしっかり対応していきます。
工藤 町村さん、今の説明を聞いてどうでしょう。
町村 街頭演説としてはいいだろうが、国会の論議に耐えられるかどうか疑問です。具体性がない。ムダを省くといっても、具体的なムダはどこにあるのでしょう。それから単年度で余剰金、埋蔵金を使うと言っていますが、子ども手当てなどは継続してやるわけですから、恒久財源が必要になります。それから可処分所得を増やすのはいいことですが、問題はどうやって増やすかです。結局財源がないからバラマキになるのではないか。これから毎年1兆円以上増えてくる社会保障費に加え、子ども手当で数兆円をばらまく。そのあたりの財源もはっきりしていません。中小企業対策も結構ですが、どのようにして中小企業を活性化するのか。私たちは中小企業の官工事の発注を増やすと主張しています。スクール・ニューディールなどは地元での雇用創造になります。私たちは補正予算の中でそのように具体的に示し、中央省庁や出先に指示をしています。
新しい産業の育成については、需要が増える分野に資源を投入するという点ではあまり違わないだろうと思います。
増子 自民党も昔はもっと政策論争が活発だったように思います。政治主導型の政策運営などと言われていますが、今回の政府与党の経済再生の戦略プログラムについては、私たちもヒアリングをさせてもらっていますけれども役所がうまく答えられないわけです。「あれもこれも出しておけ」という感じで。中小企業の金融政策にしても、私たちが20兆円という数字を出したら、最初7兆円と言っていたものから急に増やしたり。
これまで「ない」と言っていた埋蔵金もあったわけです。今回は定額給付金に使われました。それから国民年金の国庫負担を3分の1から2分の1に増やすという話ですが、ここにも埋蔵金を充てるという話をしています。私たちも埋蔵金を使わせてもらおうと考えていますが、自民党は民主党政権になるまでに埋蔵金を使い切ってしまおうとしているようにも見えます。政府は今回もかなりの額の赤字国債を発行していますが、ひとりの総理がわずか9カ月の間に4回も予算を組むというのは極めて異例です。
誤解されている方もおられるかもしれませんが、私たちは政府の政策実行に何か新しいものを加えていくわけではありません。予算の組み替えで、今までの政策を全て見直そうとしているのです。たとえば国営マンガ喫茶(国立メディア芸術総合センター)ですが、これに117億円を投入する代わりに、母子家庭への補助がカットされました。私たちはこれを見直します。財源のムダはかなりあります。たとえば国が備蓄している石油を配給するときに、配給券というものが必要になるわけですが、その1億3000枚の紙の保管のために年間2億円がかかっている。このIT社会の中で、なぜこのようなペーパーをつくるのか。ムダそのものではないですか。
町村 財源論は私の好むところなので大いにやりたいと思います。配給券についてはやはり万が一のときに備えておかないといけないですから。IT化にも無理があります。国債発行については、緊急の対策なのでやむを得ないと判断しました。自民党は3月の税法改正の付則の中で「景気が好転すれば税制抜本改革をやる」としています。その際には法人税率を下げ、消費税率は上げる。民主党はこれに反対していました。鳩山さんは今後4年間、消費税の増税には触れないとしていますが。自民党は、税制改革に触れようとしない無責任な民主党とは違うと、まずは申し上げております。
「国立メディア芸術総合センター」についてですが、民主党はやはり古いと思います。こういうメディアアートをどのように位置づけているのか。ハコモノだからだめなのか。大学の古くなった校舎や研究施設はあのままでいいのでしょうか。いずれやらなければならないことを、景気対策という観点も含めて今やろうとしているわけです。それをハコモノだからだめと切り捨てるというのはどうなのでしょう。
増子 3年後の景気回復後に消費税を上げるという自民党の考えには否定しませんが、定額給付金の目的にしても、最初は景気対策だったものが途中から生活対策になり、最終的にはその両方だということになりました。しかし本当にこのままで景気はよくなるのでしょうか。バラマキだけで景気はよくなりません。やはり中小企業の持っている技術や人材をどう生かすかだと思います。そういうところに投資するほうが、税金の使い方としてはより有効だと思います。ハコモノの否定ではなく、視点を変えてはどうかという発想の転換を求めているわけです。
4年間は消費税を上げないという鳩山代表の発言は、勇気ある発言でした。4年間で景気を回復し、将来不安をなくすための制度設計ができてから消費税の議論をしたいと思っています。民主党が政権を取れば、4年間で予算の見直しから始め、将来の安心に結びついたところで消費税の議論をさせてもらおうと思います。そのときには抜本的な見直しを含めて税制改正をやっていきます。
町村 4年前の衆議院選挙のとき、岡田克也代表のときには消費税率を上げると言っていたはずですが。それからバラマキの元祖である民主党に「自民党はバラマキだ」と言われるのは心外です。子ども手当にしても農家の戸別補償にしても、「可処分所得を増やす政策」だと美しく言っていますが、すなわちバラマキでしょう。
増子 バラマキというのは、効果のない投資のことです。手当をしたところで、きちんと果実が取れればいいわけです。岡田幹事長の話をされましたが、今の衆議院での自民党議席は何で取ったものですか。4年前の郵政民営化を含めた構造改革でしょう。それが今はどうなってしまったのでしょうか。
工藤 コメンテータの方々から質問をお願いします。
齊藤誠 今日は経済学者ではなく、一有権者としてコメントさせていただきます。正直なところ、日本の経済政策の基盤がこの程度の議論にあると思うと、不安で仕方がありません。まずは、本当に政策効果の担保があるのかどうかということです。それから、政策間の相互整合性があるのかということ。
景気対策、成長基盤、環境政策、社会保障の充実というキーワードは、どちらの党も同じだと思います。環境政策というのは、要するに温室効果ガスをいかに削減するかということだと思いますが、自民党の場合は補正予算での低炭素革命がどの程度CO2削減につながるのかが、よくわかりません。民主党は温暖化対策と言いながら、高速道路を無料化して暫定税率を廃止して、エネルギー価格を下げていくわけですから、それは「どんどんCO2を出せ」ということにはなりませんか。それから政策間の整合性ということですけれども、景気対策と成長基盤の充実というのは、先生方がおっしゃるほど簡単なことではないと思います。自民党は大企業や中小企業にさまざまな金融支援を行うとしていますが、こうした施策が企業の競争力を低下させてしまったという過去をどう考えているのか。あと景気対策と産業政策という点で言うと、民主党の農家戸別補償が農業の産業基盤充実につながるのかどうかということについては、疑問を覚えます。
土居丈朗 齊藤先生のご質問とも関連しますが、大企業や中小企業に対してどのように政策を向けていくのかをお伺いしたいと思います。今ちょうど輸出が落ち込んでいるがゆえにテコ入れをしなければいけない大企業も多いですが、単なる延命措置にとどまってしまうようではまずい。中小企業対策については両党ともに力を入れていくということですが、先が長くないような中小企業までをも救ってしまうということにはならないのでしょうか。伸びる中小企業を効果的にどう伸ばすおつもりですか。
町村 温暖化ガス削減効果についてはきちんと計算しています。今力を入れなければならないところは、産業用ではなくて民生用、それから運輸・交通の部分だと思います。今回の対策でもここに重点を置いています。
金融支援については今回は緊急避難としてやっています。ですから金融支援をしても倒産する企業は出てくるかもしれません。現にバブル崩壊後も、かなりお金を出したけれども結局貸し倒れになってしまったということがありました。しかし資金繰りだけで倒れることがないよう、とりあえず激変緩和としてやっているわけです。伸びる中小企業については、技術開発で伸びていこうという意欲のあるところについては、別途政策が用意されているということです。輸出産業への対策が延命措置になるのではないかというご指摘ですが、大企業といっても裾野が広く、従業員も多いわけですから、そういう意味では景気対策になると思います。今回はエコカーやエコ家電など、温暖化対策につながる産業に限って対策をとっています。そこは厳密に仕分けをしてやっているということで、矛盾はないかと思います。
増子 環境対策ですが、グリーンニューディールには大賛成です。新しい産業のために環境対策に力を入れていきます。温室効果ガスの排出量でマイナス25%という厳しい数字を掲げ、その達成目標のために努力をしていきたい。そうすればさまざまな新しい産業が生まれてくるでしょう。実際に、電気自動車なども出てきています。同時に家庭の中でもライフスタイルを変えることで新しい産業が生まれます。今回も、電力会社による太陽光発電の余剰電力の買い取り制度を取り上げました。それらは国の負担の中でやっていくことが大事です。それが輸出産業を支えることにもつながっていきます。日本の産業は、多くの中小企業が大企業を支えるというピラミッド構造になっていますから、大企業と中小企業にウィン・ウィンの関係をつくることを目指してやっていきたい。
農家の所得補償制度ですが、農業は国の基本だと思います。私たちは減反政策を見直すべきだと思っています。農業が安定することで地方経済にも活気が生まれます。そのときに価格保障ではなく所得保障をしようと。それは環境対策にもつながってくると思います。
工藤 齊藤先生のご質問とも関連しますが、民主党は環境政策をそこまで頑張ると言っているにもかかわらず、高速道路無料化などの政策との間で整合性が取れていないように思えますが。
増子 私は整合性がとれると思っています。これまで34年間も税をダブルで払ってきたことが問題であり、暫定税率が不要であることは明らかです。高速道路を無料にしたからといって大渋滞になって、CO2排出がどんどん増えるということには必ずしもならないと思います。ETCなどでスムーズな流れを生み出すことができれば、CO2削減に反するということにはならないように思います。
町村 それはいくら強弁しても、「車使いなさい、ガソリン使いなさい」という政策になっているわけですから。ガソリンの消費を減らすには、価格政策しかない。税制の議論を放棄しつつ、「環境対策の中期目標を厳しくします」というのは明らかに矛盾で、いかなる説明も成り立ちません。私どものガソリン税は、炭素税と名前を変えてもいいと思っています。それは今後上げていく方向で議論を進めるべき性格の税だと考えています。
増子 しかし暫定税率を廃止したからといって、一気に車が増えてガソリンの消費が増えるかといえば、そんなに急激には増えない。
町村 楽観的なことをおっしゃっていますけれども、それでは全く話にならないですよ。
工藤 すみません、次の質問に行きます。
日本の政治はこれまで構造改革に取り組んできました。生産性を上げるという意味では構造改革には必要な面も多いわけです。そこでこれまでの構造改革の流れをどう評価するか、もし問題があるとすれば、今後の日本の成長基盤をどうつくっていくのかについて、お話しいただきたいと思います。
町村 構造改革、民営化、規制緩和という流れは正しかったと思っています。しかし行き過ぎたところがあるのも事実です。たとえばタクシーの規制緩和ですが、これはタクシー運転手の労働条件のほうにしわ寄せが行ってしまったので、少し締め直しました。民主党はガチガチに締めろと言っていますが、私は民主党がこれほど規制重視派だったとは知りませんでした。郵政民営化について賛成なのか反対なのかについても、誰も真正面から答えないわけです。私たちは郵政民営化には賛成です。一部サービス低下などの問題があれば、多少手直しをしなければいけないとは思いますが、改革をしなければいけないところについては今後もやっていきます。
成長基盤については10の施策を打ち出しています。環境ビジネスや医療などにおける先端技術、特に先端医療技術についてはもっと伸ばせると思います。ここは規制をもう少し緩めなければ伸びていきません。国内的には、このように規制緩和をやるべきところはやって伸ばしていきたいと思います。対外的には、これまでいろんな協力をしてきたアジアの国々が発展してきているので、共存・共栄の関係をつくり、彼らの成長力を活用し、我々も技術や資本を提供するなどしてお互いに繁栄できる関係にしていきたいと考えています。
増子 構造改革も規制緩和も当然必要です。町村先生と同じです。行き過ぎた部分があったという点も同じです。しかし行き過ぎたものが何か、というところについては、少し違いがあると思います。小泉構造改革の一番の失敗は社会保障の問題です。毎年2200億の削減で、地域医療は疲弊し、医師不足問題も深刻化しています。OECDの中でも社会保障のGDP比率が極めて低いということであれば、やはり修正していく必要があります。タクシーの規制緩和については、全て元に戻すべきだとは言っていません。郵政民営化についてですが、地域格差の問題が顕在化しているので、そこは直していかないといけません。完全に元に戻せとは言っていません。行き過ぎた規制緩和をどこで止めるかということは、事例を見つつ的確にやっていきたいと思っています。
成長分野については医療・環境がやはり必要になってくると思います。中小企業の持っている技術や人材はイノベーションというかたちの中で伸ばしていきたい。日本が持っている素晴らしい技術を伸ばしていくために投資を行うことには躊躇しません。高度経済成長期のような伸びはあり得ないと思いますが、1~2%であっても安定した経済成長が期待できるような投資をしていきたいという思いです。
工藤 岡田さんのときには、「ゆうちょとかんぽは徹底的に縮小する」と言っていませんでしたか。その方針は変わっていないと考えていいのでしょうか。
増子 ここには230兆円の、国民の皆さんの財産があります。問題はこれをどう運用していくかです。縮小するかどうかというよりは、信頼できる機関であれば国民はそこにお金を預けようとするわけですから。民営化して運用が失敗した場合、国民の財産がどうなってしまうのかということも考えなければなりません。
齊藤 自民党は郵政民営化を維持すると言っていますが、200兆円以上の資産がある金融機関が、ゆうちょ銀行として存続できるのかと。増子先生には、公的なかたちで運営するときに、200兆以上もの資金を運用する能力がこの国にあるのかどうか、お尋ねしたいと思います。
土居 郵政民営化については株式上場のタイミングが問題になってくると思いますが、自民党は当初の予定通り行うおつもりでしょうか。民主党は、国の関与を残すことになったとして、一定割合の株を持ち続けてNTTのようなかたちにするのか、それとも完全民営化も選択肢のひとつとして考えているのかどうか。
町村 巨大な銀行が誕生することになるわけですが、これは新しいビジネスモデルだと思っています。個人的には、西川善文さんが残られたことはいいことだと思っていますし、彼のバンカーとしての経験を大いに生かして、民間の知恵でやってもらうことが重要です。郵政官僚にこれができるわけがありません。民主党は、国民新党が完全国有化に戻すという主張ですから、そのあたりはどうなのかなと。株式上場については、今株価が低迷している折にすべて予定通りと断言することは難しいかもしれません。1万5000円、2万円となってきたあたりで状況を見て段階的に放出し、最終的には 100%民営化すべきだと考えています。
増子 完全民営化ということに対しては消極的です。だからといって完全国営というのは考えておりません。現実にここまで来ているわけですから、国民新党とは、見直しをしていこうということで。結論としては完全上場するということはあり得ません。NTTのようなかたちにしていくほうが望ましいと思っています。
土居 ついこの間政策金融改革に絡んで、商工中金について今までは「ゆくゆくは完全民営化する」ということになっていたところに留保がつきました。その意図をおうかがいしたいと思います。
増子 商工中金について、与党からは「議員立法でやりたい、できれば委員長提案でやりたい」ということでしたが、委員長提案のほうはお断りしました。商工中金を完全民営化すると、中小企業への金融政策に際して問題が出ることがあります。ですから少なくともひとつ、政府系金融機関が株を所有しながら、介入してあげることが地域金融機関にとっては必要だと考えました。ただし地域金融機関を圧迫しない範囲で、ということで成立したということになっています。
内田和人 経済政策の世界戦略ということでお尋ねしたいと思います。両党からアジアの話が出ましたが、多極化時代の中で日本の成長基盤を考えていくときに、内需の振興も当然重要ですがアジアとの共生、互恵関係をどう構築していくかが重要ではないでしょうか。日本がプレゼンスを示して互恵関係を築くには、アジアの中での地域金融協力とか、経済協力を強めていかなければなりません。具体的にはアジアの通貨基金や共通通貨、アジア全体の金融のしくみをつくっていくなどのプランも出ていますが。
町村 EUが行っているようなことをアジアでもやるという議論が以前ありました。ヨーロッパはアジアに比べ経済的な均質性がありますが、アジアの国々は宗教や民族性、経済状況を見てもかなり違いがありますから、ひとつ共通通貨をつくるということには無理があるように思います。しかし金融協力を強化することは必要で、アジア通貨危機の際のチェンマイ・イニシアティブのようなかたちを常時発動できるような体制をつくっていくべきだろうと。
増子 日本はこれまで対米関係重視でやってきたという経緯があります。それによって経済成長を成し遂げましたが、反動も大きいわけです。今後アメリカとの関係を大事にしつつ、世界戦略をどう進めていくかということになると、やはりアジア各国との関係を重視していかなければなりません。中国・インド・インドネシア・ベトナムなどの人口を合わせると大変な数になりますから、日本がそれらの国と経済圏をつくっていくというのは成り行きとして当然です。共通通貨とまでは行かないにしても、FTA(自由貿易協定)・EPA(経済連携協定)を積極的に進めることは重要でしょう。
工藤 最後に、経済政策の分野でマニフェストにどのようなことを書きたいと考えているかについてお聞きしたいと思います。その前に町村先生にお尋ねしますが、経済再生のプログラムは3年間の計画となっていますが、来期はどこの予算で対応するおつもりですか。補正予算なのか当初予算なのかと。それから増子先生、自民党の雇用200万人創出などの計画は、民主党が政権を取ったらばっさりやめてしまうことになるのでしょうか。
齊藤 予算が厳しい中で、これだけ政策を出して財源をつけるということが進んでいく事態に、納税者としては非常に不安を覚えます。限られた財源の中から政策に優先順位をつけて、実行していくのかというかたちで国民に語りかけてほしいと思います。政策の優先順位をどう考えておられるのかなと。
それから、「埋蔵金」という言い回しはやめていただきたいと思います。国民の血税ですから、使い残したものについては変なところに使われるよりは、国債の償還資金にきっちり戻していただくのが筋です。「埋蔵金がここにあったから財源がついた」などという議論は、予算のつくり方としては本当に無責任です。
町村 マニフェストについては、向こう3年間はこの方向でやっていくことになると思います。ただ国際経済の様子も見ながら、国内の雇用情勢等々も踏まえて機動的に対応することになるだろうと思います。どの予算で対応するかですが、基金で単年度に使い切る必要がないようにしています。医療体制の整備などは3年以内でやっていこうと思います。スクール・ニューディールは基金ではありませんが、向こう3年間で進めていきます。これは来年度の予算で対応します。そのときに財源がどうなるかというと、今回シーリングができましたけれども、別枠で6500億円を設けているので、必要であればそこから持っていくことも考えたい。
政策の優先順位を考えるのは当然のことです。まずは景気回復を最優先にしましたが、中長期的に意味のあるものでなければなりません。埋蔵金という名称については「いわゆる」ということで。民主党は外為特会準備金と言っていますが、これは1ドル99円になるとなくなってしまうわけですから、するとどうやって使うのか。自民党はこれまで、原則としては国債の償還に振り向けてきました。本来の財政運営から考えるといいことではありませんが、今回のような場合は景気対策ということで、2年間に限り使わせていただきたいということです。
増子 私たちは、4年間で17兆円の財源を新たに確保したいと考えています。今回シーリングが決まりましたが、政権を取ればご破算にして見直したい。ただ社会保障の給付の問題と債務償還についてはまず対応していきたいと思います。私たちが優先するのは、現役世代を中心に可処分所得を増やすことです。生活がよくなれば経済もよくなります。したがって政権を取ったら、子育て支援、暫定税率廃止、年金制度の抜本的改革などに着手します。今回打ち出した経済対策は14兆円の真水ですが、環境対策、新産業の創造や中小企業対策などがその中に含まれています。それらを総合的に、マニフェストの中にも盛り込んでいきたい。
私たちは埋蔵金に頼るような予算を組むことはありません。予算の組み替えによって、その中で優先順位を決めていきたいと思います。構造改革を進めるべきところは進め、日本の成長戦略に必要な産業を興し、働いている方々の雇用が失われないようにしていこうと思っていますので、ご理解をいただきたい。
工藤 ありがとうございました。私たちが行っているマニフェスト評価について必要な論点を聞くことができました。本日の議論をもとに、今後も評価活動を続けていきたいと思っています。
< 了 >
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町村 信孝(衆議院議員 日本経済再生戦略会議会長 自由民主党税制調査会顧問)
1944年生まれ。東京大学卒業後、通産省に入省。1983年、衆議院議員に初当選、以後当選8回。内閣総理大臣補佐官、文部科学大臣、自民党総務局長、外務大臣、内閣官房長官などを歴任。著書に『保守の論理』など。
増子 輝彦(参議院議員 民主党ネクスト経済産業大臣)
1947年生まれ。早稲田大学卒業。福島県議会議員を経て1990年、衆議院議員に初当選、以後3期を務める。2007年に参議院議員に初当選し、現在は民主党経済産業委員会理事、ネクスト経済産業大臣などを務める。
【テーマ】 経済政策
【出席議員】
自民党:町村信孝(衆議院議員 日本経済再生戦略会議会長 税制調査会顧問 前内閣官房長官)
民主党:増子輝彦(参議院議員 ネクスト経済産業大臣)