冨田俊基 (野村総合研究所研究理事)
とみた・としき
1947年生まれ。70年関西学院大学経済学部卒業後、野村総合研究所に入社。84年内国経済調査室長に就任。 87年にThe Brookings Institution 客員研究員として派遣後、政策研究部長、政策研究センター長等を経て、96年より現職。90年経済学博士(京都大学)を取得。主著に『日本国債の研究』等。
土居丈朗 (慶應義塾大学経済学部客員助教授)
どい・たけろう
1970年生まれ。大阪大学経済学部卒業、東京大学大学院経済学研究科博士課程修了、経済学博士。慶應義塾大学経済学部専任講師等を経て2002年から現職。内閣府経済社会総合研究所客員研究員、経済産業研究所コンサルティングフェローなどを勤める。主著『財政学から見た日本経済』など多数。
浅羽隆史 (白鴎大学法学部助教授)
あさば・たかし
1965年生まれ、中央大学大学院経済学研究科博士後期課程中退。富士総合研究所主任研究員(財政税制統括)などを経て、現在白鴎大学法学部助教授。主著に『手にとるように財政のことがわかる本』、共著『日本経済改革の戦略』、『怖くない少子高齢社会』などがある。
概要
「景気か財政か」は自民党総裁選でも対立軸となったが、財政健全化路線は今後とも政策運営の前提となるのか。だとすれば、小泉内閣の目標設定や経済財政諮問会議が果たす役割はどう評価されるのか。財政に詳しい3人の論客がプライマリー収支の黒字化に向けた日本の課題を論じた。方向性は正しくても、交付税制度の抜本改革を始め先送りされた問題は多く、社会保障などの財源措置も含め、マニフェストに問われているのは国民負担に向けた争点を具体化できるかどうかである。
要約
小泉改革の全体的な評価は、財政のプライマリー収支の2013年黒字化目標に照らして行われるべきである。しかし、政権誕生以降、プライマリー赤字は拡大し、改革も方向は正しいが踏込み不足が目立つ。消費税率引上げという政策選択は放棄され、公共事業の中核にある道路特定財源の一般財源化など手付かずの課題も多い。
富田氏は、各種の制度が持続不可能になるリスクを抱えるなど信用力が低下したこの国をどう立て直すかを、小泉政権は基本に据えるべきだったとし、財政健全化はそのメルクマールであるとした上で、いずれ必要な措置として広く認識されている増税を可能にすべく、その前提としての歳出削減や公的部門の改革を徹底すべきだとする。景気対策の手段としての財政を否定し、30兆円の国債発行枠目標が歳出抑制の上で役割を果たしたと評価する点で3氏の意見は概ね一致するが、土居氏も浅羽氏も、こうした形式的な目標ではなく、つけ回しが別のところに来ないような実質的な目標設定が必要だったとする。経済財政諮問会議について、冨田氏は、日本の経済社会についての哲学の議論が欠け、調整の場に堕したことを批判し、土居氏は、例えば交付税問題では地方の増税まで踏み込むなど、もっと主張すべきことを主張すべきだったとする。浅羽氏も、予算編成方式の改革は評価するが、道路財源に加え、補助金削減が公共事業にまで踏み込んでいないなど、評価できない問題が多いとする。
三位一体改革について3氏の意見が収斂したのは、国と地方の役割分担をどう描き、その中で地方の財源保障の範囲をどこまで限定するかという基本論に立って、住民が受益と負担を自ら判断し行政サービスに応じて税負担を決めるという、地方の真の財政自主権に向けた本質的な議論を行うべきだという点である。マニフェストについては、土居氏も浅羽氏も、財源措置が明示されなければその意味はなく、社会保障や三位一体改革など、何をいつまでにどうするかを具体的に国民に問うべきことを主張する。最後に、景気対策が財政健全化につながるとの議論は明確に否定すべきだとして、冨田氏が議論を締め括った。
「景気か財政か」は自民党総裁選でも対立軸となったが、財政健全化路線は今後とも政策運営の前提となるのか。だとすれば、小泉内閣の目標設定や経済財政諮問会議が果たす役割はどう評価されるのか。財政に詳しい3人の論客がプライマリー収支の黒字化に向けた日本の課題を