経済政策のマニフェストをどう読むか

2012年11月29日

小峰隆夫氏(法政大学大学院政策創造研究科教授)

財政再建と経済成長

 今の日本経済、色んな課題があるのですが、大きく分けると財政再建していくということと、それから経済成長をなるべく高めていくという、この二つが重要だと。これはどのような政党が政権をとっても必ずやらなくてはいけないことだと思います。

 今回の自民党の選挙公約を見ますと、このうちの財政については一応書いてはあるのですが、やはり力の入れ方が弱いなという印象を受けます。これは恐らく財政について書きますと、国民の負担を伴うような話。これは歳出カットにしても、増税にしても、そのような話を伴わざるを得ないので、選挙の公約としてはなかなか言いづらいということがあったのではないかと思います。


踏み込み過ぎた金融政策

 一方、成長については、色々書いてあります。そこで、成長について公約を見ますと、先ず経済成長するために何ができるのか、というのが、政府がやるべきことと、金融政策に期待すると分野と、二つがあるのですが、これは選挙前の色々な議論の中で、金融政策はどうあるべきかという点が、かなり大きな争点になってしまったという気がします。少し、金融政策に議論が行き過ぎている印象があって、本来政権をとった人は、政府が何をするのかということを議論するべきであって、もちろん金融政策も重要なのですけども、金融政策は基本的には日銀が独立的に運営するということですから、あまり軽々にこの分野に踏み込まない方が良いと。あまりここに踏み込んでしまいますと、日銀の独立性が将来脅かされるのではないか、金融政策に対する信任を損なってしまうのではないか、懸念されます。

 それでは、政府としてどのようなことをやろうとしているのか、いろんなことが書いてあるのですが、一つ注目されるのが、短期的な側面で、今景気がだんだん悪くなっているものですから、大型の景気対策をやるという表現があります。これは恐らく経済界からは支持する声があるかもしれませんが、今の財政状況でどれだけ大型の景気対策が可能なのかという点はかなり疑問ですし、あまりここに力を入れてしまうと今度は財政と矛盾してしまう・・・ここはあまり力を入れすぎると将来に禍根を残すという点が心配です。


評価できる規制緩和の国際比較テスト

 長期的には、これは、私はある程度評価できると思うのですが、規制緩和をする際に、国際比較テストのようなものをやっていくと。それで国際的なベスト・プラクティスを導入し、企業が最大限活動しやすいような環境を作っていくと言っていますので、これはその通りだと思います。これはぜひやってほしい。ただ、これをやっていくときに、こういった仕組みを変えるといったことは、正に政府がやらなくてはいけないことなのですが、その中で、大変重要な仕組みとして、例えばTPPのようなものにどう取り組んでいくのか。それから労働市場の柔軟性をどのように確保していくのか。それから原子力とも絡んでエネルギーの安定供給をどうするのか。それから社会保障、医療、年金、介護、こういったものをどうやって改革していくのか、という非常に大きな問題があるのですが、こういった本当に重要な問題については、やや踏み込みが足りないのではないかと思います。

 TPPについては、「聖域なき関税撤廃だったら反対する」ということしか書いてないので、将来これをどうやって位置づけていくのかというのがよく分からない。それから、労働市場の流動化というのが、非常に重要なのですが、これについて触れられていませんし、原子力についても簡単にいえば、先延ばしのようなことになっている。それから、社会保障についても必ずしも十分な検討がない。


反発が強い政策こそ、将来の方向性を示せ

 恐らくこれは、こういった問題に踏み込んでいくと、TPPだと農業団体が反対する、原発だと脱原発の人たちが反対する、社会保障だと高齢者の反発を招くと。といったようなことで、何か思い切ったことを言うと、どうしても反対する人が出るという問題ばかりだと。こういった問題に踏み込めないというのは、自民党だけではなくて、各政党共通だと思うのですが、選挙の前なので、どうしても特定の勢力の批判を受けるような政策は打ち出しにくい。しかし、実はそういった政策こそが本当に、いま日本が決めなければ政策だと思いますので、この辺はぜひ選挙の中で論戦を通じて、将来の方向を明らかにしてほしい。

 このような問題を考える時に、政策目標をどう考えるかということが非常に重要なのですが、政府ができることと、民間に期待することというのを分けて考えることです。

 例えば、成長率を何%にしたいというときに、これは政府が好きなようにできるものではないので、民間に期待する分野というものが非常に多いということです。公務員の人件費を削るとか、こういったことは政府が実際にやればできる事ですから、これは政権を取った後に実行するべき公約と受け止められた。ということなので、どこまでが責任をもってやる公約なのか、どこまでが単なる期待なのか、ということをぜひ見分けていくことが重要だと思います。

 それから、こういった政策をやることによって、どのような経済が実現するのか、この中では名目3%以上の成長を目指すと言っているのですが、これは少し違和感がある。普通、成長率というときは実質成長率を言いますので、実質成長率がどうなるのかによって、雇用の姿も違ってくるし、我々の実質的な生活水準も違ってくるのですから、基本は実質だという中で、名目しか掲げていないというのは少し違和感がある。

 この辺も実質、名目はどのような関係になっているのか、それと2%のインフレ目標はどのような整合性があるのか、ということもぜひ明らかにしていってほしいと思います。