2009年7月7日
【テーマ】 雇用政策
【出席議員】
自民党:川崎二郎(衆議院議員 与党・新雇用対策に関するプロジェクトチーム座長)
民主党:津田弥太郎(参議院議員 非正規用対策プロジェクトチーム副座長)
【司会者】
工藤泰志(言論NPO代表)
高橋進(株式会社日本総合研究所副理事長)
【コメンテータ】
鈴木 準(大和総研資本市場調査部上席次長)
西沢和彦(日本総研調査部主任研究員)
山田久(日本総研調査部 ビジネス戦略研究センター所長)
議論要旨
工藤泰志 川崎先生からはまず、これまで行ってきた政府の雇用政策について総括をしていただきたいと思います。そのうえで今後はセーフティネットをどう構築していくのかなど、今度の選挙のマニフェストで何を説明するおつもりなのかということを。津田先生には、政府の政策に対する見解と、民主党の政策について説明していただきます。
川崎二郎 政策というものは時代によって変わるので、今打つべきかを迅速に行うということを重視してきました。バブル崩壊後景気の低迷が続いて、どうすれば再度上昇気流に乗せるかという問題、雇用機会をつくることが重要だと思っています。この間、時代のニーズとしては規制緩和というものがありました。派遣法の改正も2回にわたって行われました。平成15年(あるいは19年)に景気が良くなると、企業は短期的な利益に走って人を育てなくなります。それでワーキング・プアが増えてしまいました。小泉改革は規制緩和だと言われがちですが実はそうでもなくて、雇用機会均等法や労働法の改正は、経済界からすれば規制強化の方向になります。改革の途中からは規制強化の方向にカーブを切ったということです。
そして今回発生したのが、土砂降りの雨とでも言うべき経済危機です。去年の12月と今年の3月に、補正予算編成よりも早く動いて対応させていただきました。まずは失業者を出さない。そして出てしまった場合には、どういう保障をして再就職してもらうかが重要となります。基本的には金融政策で、会社がつぶれずに安定した経営ができるようにするということです。失業率の上昇は割合食い止められたのではないか、スピーディーに動いてきたと思っています。失業者が出た場合どうするかということですが、雇用保険の機能強化として、需給資格要件を加入期間1年から6カ月にまで緩和させ、給付日数も増やしました。まずは保険が使える人のセーフティネットがありますが、残りの人たちに対する新たなセーフティネットとしては、基本的には職業訓練と生活給付をセットで行います。雇用保険に入っていない人へのセーフティネットは初めての試みですが、だいたいの基盤はできたのではないかと考えています。
津田弥太郎 最大のセーフティネットはやはり雇用保険です。リーマン・ショック以来、派遣切りなどが問題となり、日本の雇用保険がセーフティネットとして機能していないことが明らかになりました。非正規労働者1732万人のうち、最大見込みで1006万人が、被保険者ではないわけです。保険の加入割合は42%なので、非正規労働者の58%がセーフティネットから漏れていることになります。これは極めて深刻です。民主党は昨年末、緊急雇用対策関連4法案を提出しましたが、雇用調整助成金を非正規労働者にも適用することを打ち出しました。
次に扶助の問題です。非正規労働者へのカバー率が低いのが現状で、正規労働者についても失業給付が切れた後で新たな雇用先が見つからないとなると大変です。雇用保険受給者が、失業給付が終わった後、別の企業に就職して雇用保険を取得する割合はわずかに5割となっています。生活保護と雇用保険との間には断層があるので、これを公費で賄う補足的失業扶助制度をつくることを、一昨年3月に提案しました。一日も早く成立させたいと思っております。生活保護については、政府によって母子加算2万3000円が全廃され、18万人の子どもが生活費を切り詰めている状況です。民主党は母子加算廃止に反対し、復活のための法案を提出しているところです。
工藤今の話を聞いて、川崎先生から。自民党と民主党はどこが違うのでしょうか。
川崎 教育訓練で、次の職場に入っていけるための制度を充実させるというのは同じです。しかしひとつ違うのは、我々は生活保護のネットの前に困窮者にネットをもうひとつ置こうとしています。4段階にしていると理解してもらえればと思います。
津田 我々のほうは、雇用保険があって補足的失業扶助制度があって、ここは給付が受けられない方々が教育訓練を受ける期間、月10万円程度の生活費を公費で補助します。そこがどうしても不可能な場合には、残念ながら生活保護の第3段階目に入っていくという3段階システムとなっています。
川崎 母子加算についてですが、生活保護は所帯が生活するのにいくらかかるということを考えてできているので。そこは別の加算制度にしています。そうやって全体的に整備したほうがいいと思います。
津田 母子家庭の生活が大変厳しい中ででは、加算は極めて重要だと思います。川崎先生のおっしゃるような段階にはまだ至っていません。他と違う扱いをすべきだと思いますが。
高橋 やや大きな質問となりますが、雇用シフトというものの必要性や規模、対策についてどうお考えですか。
川崎 雇用対策と同時にエコ家電の分野で重要を生み出す取り組みをしています。ワークシェアリングにも限界がありますから、当然需要を生み出さないといけないわけです。ある程度効果も出てきました。エコ家電については来年の3月までということで、次の需要に変わっていくことを想定しています。今回出させていただいたものは、訓練期間が最大2年となっています。これは医療や介護を念頭に置いているためで、その間10~12 万の給付がされるので、資格を取ってもらって。新しい需要へ導いていくことも政府の役割ではないかと。
津田 233万人が企業内失業をしているという現実があります。体力の弱いところから人員整理が始まるいっぽうで、人手不足で困っているところもあります。いかにミスマッチを直していくのか。どうやって人の少ない産業に人を移していけるかが重要だと思います。
山田久 川崎先生に。緊急人材育成・就職支援基金というのは3年間の時限立法ですが、今後制度として定着させていくのかどうかお伺いしたいと思います。もうひとつ、職業訓練がうまく進んでいないとか、人材育成に関して民間の受け手がないとか、そういう批判をどうお考えですか。
川崎 訓練が機能して必要なところに人が移動するという成果があがれば、恒久的な措置になっていくのではないかと思います。それから、職業訓練については機構に全て任せるのはやめようと。特にものづくりの分野では、機構だけではなく国がちゃんとやっていかないと無理です。
山田 雇用というのは、民間に受け皿がないと逆にモラルハザードを引き起こしかねないと思います。その新しい受け皿をどうつくっていこうとお考えですか。
川崎 製造業で働く人はこの10年間で200万くらい減っています。将来的には、より高度な技術を持った少数の人たちにものづくりを支えてもらうことが重要になってきます。もうひとつの受け皿としてはやはり福祉がありますが、製造業の人が突然福祉に移れるわけではないので、このあたりは考えていかないといけません。
工藤 津田先生、緊急人材育成・就職支援事業が民主党案で廃止となっているのは、どういうことでしょうか。
津田 3つの枠でやるという方向性に違いはありません。事業仕分の中で、その事業が本当に役立っているかチェックしていきます。補足的失業扶助制度というものは新たにつくる制度なので。
申し上げたように、一番大きな問題はミスマッチです。失業者が、介護産業とか農業に移動しないのではないかという問題があります。個々人の適性もあるので。ものづくりからすぐに福祉に移るにはやはり壁があるので、うまく移動させるしくみを考えなければいけません。それから製造業の教育にはカネがかかります。民間でやるものと公でやるものがあるので、そこは振り分けて考えるべきだと思います。
西沢和彦 政策間の整合性についてですが、セーフティネットの話で言いますと、生活保護、給付付き税額控除、ワーキングタックスクレジットなど、民主党の政策を積み上げていくとトゥーマッチな気もします。それから、「政府が全部できる」というような議論が多い気がしますが、そうではなくて、民間の主導に委ねるような対立軸があったほうがわかりやすいと思いますがいかがでしょう。
川崎 民間でやるべきことは多いように思いますが、今は土砂降りの雨なので、多少の枠組みは政府がやらないといけません。
津田 トゥーマッチだというのはその通りかもしれませんが、雇用の改善のためにはやり過ぎるくらいの対応でいいと思います。補足的失業扶助制度が人を堕落させるかもしれないという話もありましたが、そこは運用をきちんとやらないといけません。
高橋 財源については。
津田 それは一般会計からということで、ネクスト大臣と協議しています。200兆円の中からどれだけ出せるかという話です。
工藤 あと、非正規の労働者が不安定な状況にあるという問題をどう考えますか。民主党は派遣労働への規制を強めていくと言っていますけれども。
津田 現在の様々な社会不安の原因は働き方のゆがみにあると思います。3人に1人が非正規雇用者です。正規雇用の労働者についても鬱病患者などの急増が問題となっています。この二重構造は深刻です。非正規について、労働者の選択で行われているなら評価すべきかもしれませんが、多くは使い勝手の良さによる経費削減が目的となっています。非正規が増えたのは派遣法改正からです。技能継承の点から見ても人件費削減ということだけで闇雲にやるのは適切ではないと思います。提出させていただいた派遣法の改正案には、直接雇用の見なし規定なども盛り込んでいます。世代間にも格差がありますし、非正規のままで年齢を重ねていくのはかなり厳しい。何とかしなければいけません。
工藤 民主党は当初は派遣労働を認めていたように思いますが。
津田 いろんな問題が発生すると指摘しましたが、どうしても必要だと言われて押し切られてしまいました。
高橋 非製造業の派遣も多いように思います。派遣をなくすということは、旧来型に戻すということですか。
津田 自由経済である以上、様々な雇用のかたちがあるというのは理解できます。問題は間接雇用なのか直接雇用なのかということだと思います。できるだけ直接で対応してもらいたいと。
川崎 「非正規」と言うと全て派遣労働者の話になってしまいますが、アルバイトやパートの人もいるわけです。だから「非正規だからだめで、全て正規にすればいい」というのはちょっと違うと思います。それから土砂降りのときにはとにかく雇用をつくらないといけないので、やめろというのはなかなか。我々も来年3月までに結論を出すことになっているので、民主党ともお互いに議論しつつ改善していきたいと思います。
山田 直接雇用にすべきだと言いますが、企業の国際競争の中で必然的に請負が増えてきたという経緯もあります。それをなくすということになると、逆に自由度が縛られて、空洞化を起こしてしまうのではないでしょうか。
津田 大きいのはコストの問題です。製造業で安く雇いたいというニーズが派遣を増やしたわけですが、結局派遣会社にお金が行くことを考えると、直接雇用とコストが変わらないということになります。企業の人事部がもっと汗をかかなければ。
川崎 本来なら任せられないようなところに人事管理を任せてしまったことにも問題があると思います。派遣会社のレベルをある程度合わせていくということも考えていかないといけません。
鈴木準 人事のノウハウがなくなってきているというのはその通りだと思います。若年層が不足しているので、年功賃金で組み合わせでやるということにも限界が来ています。それから、非正規労働者の比率がゆがんだかたちで上がってきています。これは、正規雇用の労働者のほうのルールが硬直的だということにも原因があるのではないでしょうか。解雇規制だとか、年功規制などで働きかけるといった方向性は考えておられますか。
津田 同じくらいの能力を持った人がいるときに、非正規の方からまず切っていくということが本当にいいのかどうか、組合にとっても悩みどころだと思います。
川崎 長期安定雇用の流れは間違っていなかったと思います。しかし一方で、現実のスピードはかなり速いですから、ひとつの会社に入ったところで、そこで一生働き続けられるわけではない。それは労働者ひとりひとりが考えていかないといけないと思います。
高橋 二重構造はある程度は仕方がないにしても、非正規労働者の職業訓練などの充実も考えていくべきではないですか。
津田 訓練の機会が不平等だというのは確かに感じます。非正規は即戦力だということで、熟練度が低いために、人が余っているときには解雇の対象になりやすいわけです。
川崎 請負か派遣かはわかりませんが、技術を磨いているところが生き残っていけるしくみが大事です。産業界が長期雇用で行きたいというなら、その方向性に期待したいとは思いますが、一方でニーズがあるのも事実です。
西沢 厚生年金のパートタイム労働者適用拡大の話は、方向性としては正しいと思います。しかし今の基礎年金拠出金という制度を抱えたままでは無理があります。年金や健康保険の制度が非正規を増やすということになっているので、このジレンマはなかなか解消されないようにも思います。
高橋 公的なサポートを強化するとモラルハザードにつながるのではないかという声が、会場からも来ています。流動性を高める政策も必要ではないか。職業訓練やセーフティネットも必要ですが、個人の働く力を上げることも重要だと思います。
津田 モラルハザードになるというご指摘はその通りだと思いますので、工夫が必要でしょう。流動性については、確かに、最初に就職した会社でずっと働きたかったがいろんな事情で移らなくてはいけなくなることが多いというのも事実です。しかし環境が整えば、やはりひとつの企業で自己完結させていきたいと。例外も認識しないといけませんが、安定雇用は必要です。
エアコンの効いた部屋でパソコンを叩いているだけが仕事ではなく、汗水流して働くことも大切な仕事であり、そういうところで働く労働者が、高度な技術を支えているわけです。日本はそれをもっと大事にしていかなければいけないと思います。
高橋 あえて申し上げますが、今の若者の多くは好きでニートになっているわけではない。意義のある仕事を見つけられずにいるというのは個人の責任でもあり、社会の責任もあります。そこは切り捨てるおつもりですか。
津田 働き方や能力は人によって様々ですから、その努力を看取ってやることが重要ではないでしょうか。
高橋 その場合、特に政策的な対応は必要ないということですか。
津田 職業選択については、政治がその方法を手ほどきする場はないので。
川崎 たとえば新卒優先などのしくみをどこかで変えていかなければなりません。しかしそれを国の法律でどこまで変えられるかということがあるので、やはり社会全体の問題でもあると思います。それから、大学で学んだ知識が実際の職場でどのくらい生きてくるのかという、ミスマッチの問題もあります。もっと踏み込んで、20年30年先のニーズだとか大学教育をどう考えるのか、ここは文科省にぜひ考えていただきたいと思っています。
津田 我々はトライアル雇用やインターンシップなどを国で導入して、ミスマッチをなくしていきたいと思います。
工藤 この間、効率性を追求することで大手企業含めて安い労働力に頼ってきたという流れがありますが、その中でひずみが出てきたとなると、今後その構成をどうしていくのかを考えなければいけない段階に来ていると思います。働き方が多様化する中で、雇用条件をどう整備していくのか。新しいビジョンが問われているのではないかと思いますが。職業訓練はちょっとした努力でできることではなくて、大学を含めて社会全体が、若い世代を鍛えていくということで支えていかないと、本当の意味でのいい人材というのは生まれてこないと思います。
山田 長期雇用ベースで成り立ってきたしくみが機能しなくなりつつあるときに、新しい労働市場のルールというか原理をどう考えていくおつもりですか。
川崎 それに答えられたら総理大臣になれるかもしれないけれども。日本は人口減少社会に突入しており、従来の議論とは違う方向に向かっています。ものづくりについては、今後はより高度な技術や能力がないと国際社会で生き残っていけません。私はやはり、大学教育というものをきちんと考える必要があると思っていますし、工学系がもっと社会でリーダーシップを発揮していけるようになるべきだと思います。
津田 私はやはり、直接雇用というところにこだわっていきたいと思います。これについては、政治と行政との間でも見方が分かれています。雇用形態が多様化しているというのは確かにそうですが、いっぽうでワーキング・プアに追い込まれている人たちがいるという現実があります。それから、働くことの価値という意味ではワークライフバランスというものがあります。働くことが美徳であった時代から、「働くだけで人生を終えていいのか」と。仕事と生活の調和ということですが、そこで正規労働者の条件が非正規に比べ高すぎるというのであれば、見直していかないと。個人的な意見としては、国家公務員の退職金を廃止してしまえばいいと思います。
高橋 最後に、次回選挙のマニフェストに、この分野で何を具体的に書こうとしているのか、お聞きしたいと思います。
川崎 厳しい状況をどう乗り切るかということに全力をあげています。しかし乗り切った先には人口減少がありますから、今の問題を解決しながら次の戦力にしていくことが求められます。外国人労働者も含めて、高齢者や女性のでもどこか雇用の問題、フリーターの問題に着実に取り組んでまいります。今乗り切らなければというときに、マニフェストに何を書くかという話をされても。
それから、雇用対策で全てが解決されるわけではありませんから、やはり新しい分野をどうつくり、新しい雇用を生み出していくことが重要ですが、そこはまさに経済の話になります。
津田 300~400くらいある政策項目から、数十がマニフェストとして盛り込まれるのではないかと思います。民主党の雇用政策の最大の特徴は、労働者としての視点に立つというところであり、経営者寄りの自民党とは違います。中小企業への支援を手厚くするなど、働く人の立場でやってまいりたいと思っています。
< 了 >
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Profile
川崎 二郎(衆議院議員 与党・新雇用対策に関するプロジェクトチーム座長)
1947年生まれ。慶應義塾大学卒業。民間会社勤務を経て1980年、衆議院議員に初当選。以後当選8回。運輸大臣、北海道開発庁長官、衆議院議院運営委員長、厚生労働大臣などを歴任し、現在は与党・新雇用対策に関するプロジェクトチーム座長などを務める。
津田 弥太郎(参議院議員 非正規用対策プロジェクトチーム副座長)
1952年生まれ。神奈川大学卒業。労働組合所属を経て、2004年に参議院議員初当選後、民主党税制調査会副会長、ネクスト厚生労働副大臣などを歴任。現在は民主党非正規雇用対策プロジェクトチーム副座長を務める。
【テーマ】 雇用政策
【出席議員】
自民党:川崎二郎(衆議院議員 与党・新雇用対策に関するプロジェクトチーム座長)
民主党:津田弥太郎(参議院議員 非正規用対策プロジェクトチーム副座長)