原発と地球温暖化問題のマニフェストをどう読むか

2012年12月05日

松下和夫氏(京都大学大学院地球環境学堂教授)


松下:京都大学の松下和夫です。今回の選挙にあたって、原発問題、それに関連して地球温暖化問題について考えてみたいと思います。

脱原発の時期より、まず発送電分離、総括原価方式など政策的課題の論議を

 原発問題に関して、各政党が、いつまでに脱原発、卒原発、あるいは自民党の場合は10年間かけてその後でベストミックスを考える、といういろいろな形で、公約なりマニフェストを出しています。ただ、私としては、いつ脱原発するかという時期もさることながら、どういった政策を導入するかを具体的に明らかにして議論していくことが大切であると考えています。例えば、現在の電力の供給体制、あるいは原発推進体制を作ってきた構造を変えていくということにおいて、例えば発電と送電を分離する発送電分離をどうするかとか、電力会社がいろいろなコストを積み上げて、それに対して利潤を上乗せできるといった料金体系、いわゆる総括原価方式をどうするか、それから、現在の9電力体制、あるいは10電力体制といわれる地域独占体制をどのようにして、新しい再生可能エネルギーを導入する企業などが参画できるような電力自由化へどうやって進めるか、そういった政策的な課題があると思います。


再生可能エネルギーはどういう形で拡大し、そのコスト負担は・・・議論の積み重ねを

 それから、当面の課題としては、現在稼働が停止されている原発を、はたして再稼働するべきかどうか、再稼働するとすれば、どういった条件を満たして、どういった手続きを経て再稼働するか、そういった手順を明らかにすることが重要であると思います。民主党の場合は、エネルギー・環境戦略の中で、「原発稼働から40年経つと原則として廃炉にする」という考え方を出しておりますが、こういう考え方を各党がどこまで具体的に適用するか、あるいは適用しないのか、そういったことも明らかにする必要があると思います。

 もう少し個別の問題としては、いわゆる核燃料サイクル、放射性廃棄物や使用済み核燃料をどのように扱って処理していくかという問題についても、その方法について明らかにする責任があると思います。

 こういった点について、各政党は具体的に明らかにして、おそらくそういう政策的・制度的な改革をしていくと、結果として、例えば2030年代にほとんどの原発が閉鎖されるということが実現されるかもしれませんが、それはまず、こういった政策を実際に積み上げて、あと、再生可能エネルギーを拡大することは各党とも主張していますが、それを具体的にどういう形で拡大するか、その際のコスト負担をどうするか、そういったことも含めてきちんとした議論をする必要があると思います。


温室効果ガス25%削減は、原子力拡大活用を前提とした目標だが・・・

 こうしたエネルギー政策に関連する重要な課題として、地球温暖化対策があります。地球温暖化対策については、現在ドーハで、COP18(気候変動枠組み条約に関する第18回締約国会議)が開かれています。ここで、2020年以降の国際的な枠組みについて議論がなされています。日本は、民主党政権が発足した鳩山首相当時に、国際的な約束として、条件付きではありますが、「2020年までに1990年と比べて25%の温室効果ガスを削減する」ということを国際的に約束しています。この約束は、実はまだ国際的には取り下げておりません。新しい政権ができた段階で、温暖化対策を正式に国際的にも表明していくという流れになっていくと理解しております。しかしながら、もともとの「25%削減」という目標は、原子力を大幅に拡大するということを前提とした計画であったわけです。従って、現在、原子力発電が稼働を停止しているという状況のもと、あるいは、これからだんだんと脱原発していくという中で、いかにして国際的に求められている温室効果ガス削減を具体的にしていくかということを、この選挙でも明らかにしていく必要があると思います。

 残念ながら、今回のマニフェストや公約を見ると、気候変動に関してきちんと言及をしている政党は限られていると思います。いかにして、例えば省エネルギーを進め、再生可能エネルギーを拡大し、一方で化石燃料の輸入による負担を吸収しながら、気候変動問題に取り組んでいくかという視点も非常に重要であると思います。また、温暖化対策を、再生可能エネルギーを、地域主導で進めていくような仕組みを、今回の選挙の中でも明らかにしていくべきであると考えています。