世耕弘成氏(参議院議員)
工藤:自民党のマニフェストは、国民との約束ということを提起して出しているんですが、選挙で信任を得た場合、どうその約束を実現しようとし、国民から検証してもらう仕組みをどのように描いているんでしょうか?
世耕:我々はここに書いたことはきちっとやってくれた、あるいは自民党は少なくともやろうとした、ということを見えるようにしたいと思っています。逆にメディアなり、国民のみなさんなり、ネットなりでしっかり検証してくれるということを前提としています。まず一つとして、マニフェストという呼び方を使いたくなかったですし、民主党はあそこまで財源とかいろいろ書きこんでいって、それが結局できなかったわけですね。そこら辺の数字とか期限まで明確に、やれることはなるべく書こうとしたんですけれども、いわゆる希望的観測とか、頑張ったらここまでやれるということをあまり書かないで、逆に守れることをしっかり書こうとしていました。
"国民との約束"作成のプロセスは
工藤:私たちの民主党の2009年のマニフェストの評価は厳しかったんですが、自民党の場合、このマニフェストを作ったのはどういう機関で、党の中でどういうふうなかたちで作ったのか。つまり、民主党もそうですけれども、やろうとしたら党の中で反対して、最終的に離党が出るのでは政党はどうしようもないので。どうなっていますか?
世耕:自民党は、そのプロセスは割と明確にできていまして、政権公約を作る委員会があります。そこの委員会には各部会の部会長が代表として出てくるかたちになっています。さらに部会の中では政権公約に向けての議論をいろんな形で何回もやっています。で、一つは部会から上がってくる、いわゆるボトムアップのもの。もうひとつは総裁とか幹事長、政調会長がこれはやるべきじゃないかという思いで盛り込むもの、これがトップダウンで来るものですね。この両ルートがあって、その委員会でそれを全部徹底的に議論して組み立てていくというやり方をしています。
工藤:ということは、このマニフェストは曖昧なところがあっても、党の人はコンセンサスを取っているということですか?
世耕:コンセンサスも取っています、党議拘束もかかっています。総務会の了承も取っていますので、そういう意味では自民党に所属し、選挙に立候補する場合、守らなければいけない内容ということになっています。
工藤:民主党は昔の自民党のように、官邸の機能を充実させ、国家戦略本部を作ろうとして失敗し、党の事前審査ということもあって、もう一回、自民党みたいに戻ってしまいました。党と政策の一体化なり、実行についてどういうガバナンスの有り方が良くて、それを自民党はどういうやり方で遂行しようと考えているんでしょうか?
政策実行のガバナンスで重要なのは、トップのリーダーシップ
世耕:自民党は党がかなり影響力を持っていて、党と調整しないとなかなか進まないという仕組み。民主党はそれを一回、止めるチャレンジをしたんですが、完全に失敗ということになってしまったんですね。我々はこの二つのケースから学んだのですが、仕組みも重要ですけども、やっぱりトップのリーダーシップだと思います。トップのリーダーシップがしっかりして、自民党がやってきたような仕組みで党の意見も集約していく。だけど一方で、総理のやりたいことは官邸がチームとなって実現していく機能をちゃんと官邸に持たせる。その上で、党対官邸の関係で官邸がきちんと党を従えていく力量を持つということが、私は一番重要だと思います。小泉さんの時は、小泉さんが個人的に限られた範囲でやっていたわけですが、それをもっと政策全般に関して官邸がちゃんと機能として持ちながら、なおかつ総理がリーダーシップを持つということが重要だと思います。
工藤:世耕さんはあの時、官邸にいましたよね。今回、自民党の中でも経済再生本部という横断的なものもかなりあり、いろんな仕組みを作ろうとしてる。これはどういうふうな建てつけですか?
官邸主導の時は、法的裏付けで権限を明確に
世耕:民主党の一番の失敗は、国家戦略局というものを法律で作ると言っていたのに、それを作らないで国家戦略室という法に基づかないものを作ってしまったことです。前の安倍政権の時も、国家戦略本部というものを作ろうという構想はありましたけれども、なかなかそこまで手をつけられないまま、首相補佐官を法的権限が曖昧なまま使ってきた。今度、経済再生本部を作るのならば、やっぱり法的な裏付けをちゃんと作るというのが必要だと思います。経済財政諮問会議はうまく動いていましたよね、あれは明確に法律で権限がうたわれていて、その権限を小泉さんやその下の竹中さんなりがフルに使いこなしていたからできたんです。今度、官邸主導で何かをやろうという時は、きちっと法律に落とし込んでいくということが重要だと思います。
工藤:なるほど、補佐官は自民党からの置手紙と言うか、遺産だったわけですね。そこはやっぱり指揮系統の中で三重構造ですよ。
首相補佐官には、特定分野に識見のある民間人を
世耕:そこは自分もやっていたからわかります。補佐官には法的権限は全くありません。助言と進言しか書いてない。基本的には何もできないわけです。それにやらせようとしても、霞が関には合法的抵抗ができちゃうわけです。だって、この人の言うことを聞く必要がない、ということが一番やりやすいですよ。だから補佐官を使いこなそうとすると、絶対無理が出てくる。これは安倍さんがどう思っているかはわかりませんが、もし安倍政権ができるとしたら、補佐官には政治家を登用しない方がいいと思います。政治家を登用した以上、何かをやりたくなっちゃいます、何か発言したいわけです。自分がやっているぞ、と。政治家の性としてあるわけです。それでは混乱をきたすだけなので、補佐官は原点に戻って、民間の特定の分野に非常に識見のある人に就任してもらって、総理にアドバイスするとか、お勉強してもらうとかということに戻すべきだと思います。
工藤:民主党は政治主導と言って、官僚を疎外する状況があったのですが、こういうところは、民主党から何かレッスン得たというか、民主党の方向は正しかったのでしょうか?
世耕:いや、正しくなかったですね。完全に敵と見なしてしまったのと、政務三役という方々が、省庁の中で官僚を排除し、独立した形で仕事をしようとした。官僚はそういうふうに仕事をやられると、じゃあそうですか、ということで全部、政務官会議に諮ってくるようになって、オーバーフローで仕事が停滞してしまう事態が起こった。だから政治は決断する部分と、ある程度、官僚組織に任せる部分とを、それこそ仕分けをしなければいけない。
工藤:わかりました。マニフェストの社会保障のところで、安心を取り戻すということなのですが、これは自公政権下で行われた年金改革その他の仕組みを前提としているんでしょうか? そこがうまくいかないという状況の中で、新しい展開が始まったはずなんですが。
社会保障制度改革国民会議の位置付け
世耕:ここはまず一つは、やっぱり財源の面で弱いところがありました。消費税を全て社会保障財源とすることで、当座の財源の裏付けをつけましたから、自公政権の時の基本的な枠組みはあわてて変えなくても、それなりに持続的にやっていけるという、そこのラインは変わっていません。ただ、その一方でこのまま団塊の世代が70歳を超えてくる時代、そして少子化対策も効果があがってなくて、出生率が劇的に上がっているわけではない。そこで20年30年先を見た議論が必要だろうと。その時は、ある程度それこそ痛みを伴う、あるいは損する人が出てくる、もらえていたものがもらえなくなるという人が出てくる。そこら辺をどういうふうにしていこうかということで今、社会保障の国民会議を作らせていただいた。ここでそういう部分の議論をしてもらうということ、それに尽きると思います。
工藤:社会保障の国民会議の位置づけなんですが、ちょっと今、あれっと思ったんですが、まず、今の現行の仕組みの中でもお金が足りなくなっている、マクロ経済スライドが機能していないとか、積立金がどんどん減っているといういろんな問題が起こっている状況で何とかしないといけない。今、おっしゃった話は、その建てつけそのものも、というのは国民会議のアジェンダではないんじゃないですか。
世耕:それは国民会議がどういうものを出してくるかに依りますが、たとえば医療費の自己負担とか、今の枠組みを、少し変えていくということも一つのアジェンダになると思います。
工藤:自民党としてはどうなんですか。少なくとも安心プランといわれた、だいぶ前の自公政権でやっていたものが、民主党政権になってもずっと続いていたわけですが、積立金も不足し、つまり世代間格差がかなり大きい、将来、先送りということを容認する状況になっているわけですね。これに関してマニフェストに記載がない。
世耕:今のところ、そこは方向転換をしていないということです。まず消費税を増税して、それ全て社会保障、年金負担を含めて入れていくということで、当座はそれでやっていけるというのがわれわれの考え方です。
工藤:もうひとつ、社会保障関係で行間を読むと、読み取れることが結構あって、もっとはっきり言ったらどうかと思うこともあります。つまり自立とか自助とかいうことを基本とする理念をはっきり出しているということであれば、それは国民に対してはっきりした姿勢を示しているわけですよね。ただ、保険料の方は保険の適用の枠をとか、適正な医療とか言っているんですが、だけど、何を言っているのかわからない。これは何を言っているんですかね、お分かりですよね?
自立を促し、モラルハザードを防ぐ
世耕:まあ、そこは負担の枠組みを、今はどこをどう増やすとかいうことは決めていないけれども、ある程度負担の枠組みを見直す可能性はあります。ただし今のところは緩やかなお約束、こうしますというところまでは党内議論が煮詰まっていない。だからそこは少し幅を持って書かせていただいたということです。特に生活保護に関しては明確に出させていただいて、これははっきりいって膨らみすぎていてモラルハザードが起こっていると思います。
工藤:あれはどういうふうに解決するということを提起しているんですか?
世耕:とにかく自立を促す仕組みを最優先にしていく。生活保護の前にいろんなセーフティーネットがあって、それをうまく使いこなしていただく。就業支援はものすごくたくさんメニューがあるのに、そこをすっ飛ばして、生活保護に安易に入ってきていますから。全ての就業支援を徹底的にやった上で、それでも、という人しか生活保護の枠組みに入れませんよ、と。あとはモラルハザードを防ぐという面では、生活保護の医療の面のチェックをもっと厳重にしていくこと、あとは受給者側のモラルハザードを防ぐという意味でも、現物給付とかを自治体が選択できるようにしていくとか。あと給付水準も、この十年間ほとんどいじっていません。それに比べて給与受給者の所得は15%減っていて、年金受給者の受給もマクロスライドに入ると減っていく。いきなり10%下げるとは言いませんが10%ぐらいを、時間をかけて下げていく必要がある。その中で民主党時代に膨らんじゃった8000億円分を何とか元に戻したいと思います。
工藤:それに伴って基礎年金の額との整合性ということは何か?
世耕:基礎年金、最低賃金との整合を取らなければいけないところはたくさんあります。ただ、本当に整合を取っちゃうと、かなりの激変になりますから、今本当に受給している人で、それで困ってしまう人も出るかもしれません。ですから、そこは激変緩和をしていかなければいけないと思います。
工藤:社会保障と医療の問題でもう一つ、お医者さんの提供の問題もあるんですが、これに関しては民主党政権が初めの2年間で診療報酬の改定と中身を勤務体系に持っていったことである程度効果があったんですが、ただ構造的にはまだ問題があるわけで、これについては具体的に何をしようと考えているんですか?
世耕:医師数はそれなりに増えてきていると思います。ただ、偏在対策についてはもう少し知恵を出していかなければいけない。これは自民党の政権末期の時にあわてて取り組んで、それが今ようやく効果を上げてきたんですね。医学部6年ですから。この様子を少し見ていきたいと思います。各地域枠での医学部の採用とかいうこともやっていますから。
工藤:大学を作るということは考えていないんですか?
世耕:それも一つの選択肢だろうと思います。今、医学部の定員自体は増やしています。新設の医大については認めていませんが、地位(知事)からの要望があれば、そういうこともきちっと考えていこうと、全く作ってはいけないというわけではありませんから。
工藤:高齢者数がかなり急増して高止まりしていて、それに対して今の仕組みが本当に持つのかということは、ほとんどの人が気にしています。自民党は現行法の仕組みの中で、それに対応しようとする国民との約束で、いろんなアイディアが出ている、きちっとしたものではないですけれども。このことに関してどう思っていますか?
世耕:それはいろんなアイディアがあって当然ですけれども、アイディアレベルで対応すると、民主党の二の舞になるので慎重に書かせていただいています。自民党の中でも当然このままでやっていけるか、という議論はきちんとやっていかなければいけない。それはコンティンジェンシープランディングという観点からも、いくつか他の選択肢の議論を当然始めていくべきだと思います。マニフェストで現行どおりやると書いたからといって、次のシステムに向けた改革のステップの議論を始めてはいけないということはないと思います。
工藤:各党の中でいろんな議論が、積み立て方式とかいいかげんに見えるんだけれども、本質的な、給付を減らすとかいう議論もポツポツ出てきている。そういうことが多党間で言われて、なかなかいい議論だと思いますけども。
アイディアレベル、スローガンレベルのものは政権公約に入れない
世耕:良い議論だと思います。これは脱原発もそうなんです。我々は責任政党という感覚がありますから、アイディアレベルとかスローガンレベルのものを政権公約に入れるのはやめようということにしています。そうなればいいなと思っていることでも、現実に今、それについて確証を持てないことは書かないということが統一コンセプトです。
工藤:エネルギーの問題では基本的に自民党は腰が引けている、続原発だと言っていると。国民誰もが原発のリスクを感じ始めているのは事実で、これに対してどういうふうに責任政党として答えを出しながら、エネルギーの安定供給への答えを出そうとしているかよく見えない。延期しているだけにしか見えないんですね。
今は決められない原発政策
世耕:我々は決して引き延ばしているわけではなくて、徹底的に議論しました。飯田哲也さんにも来てもらいました。ありとあらゆる方面からの話を聞いて、聞けば聞くほど決められない。今、決められないということは、テレビ的には相当しんどいだろうということも重々、わかっていますけれども、今、決めないという結論を出させていただきました。これは何もホアーンを決めないというものではなくて、それなりに点検項目というものを明確にしています。たとえば再生可能エネルギー、これは代替エネルギーとしてかなり有力な候補ですけれども、これがどれくらいの量入るのか、あるいはどれくらいの電気料金でやれるのか。あるいは精密機械をつくっているような日本のモノづくりの産業で使用に耐えるような、電圧が上下しないとか品質的な安定性があるのかということの確信が持てない。それと今、原発ゼロを宣言すると六ヶ所村をはじめとする立地地域との約束を、もう一回根っこから変えなければいけない。これは、ここまで続けてきた話との整合性をとれるのか。特に六ヶ所村はやめるというならば、自分のところの使用済み核燃料を引き取ってくださいという話になる、これを本当にどうするのかということ。あとは諸外国、特にアメリカとの関係。日本が原発を止めたら、プルトニウムを持ち続けることになる、これはそのまま核兵器に転用できるわけですよ。この辺のアメリカとの関係性を中心とした核拡散防止の枠組みの中でどうしていくのか。これがまだ、結論が出ません。
工藤:結論を出すために何に取り組むんですか。
世耕:まず3年間の再生可能エネルギーの集中導入期間、これは我々も民主党の法律を修正して固定価格買い取り制に賛成していますから、まず3年間で見極めたいと思います。3年間、再生エネルギーでどこまでやれるのか。我々も協力して42円で買い取ると言う大盤振る舞いをして、ここまでやってみてどれくらい太陽光とか風力とかいうものが入るのか、まず3年で見ていきたい。そこである程度答えが出るのであれば3年で再稼働をしなくてもいいし、脱原発でいいよということになるかもしれません。まず、そこを見極めたいと思います。
工藤:ということは、再稼働も3年後から考えるということでしょうか。
世耕:3年までには結論を出したいということです。当然、3年後まで放っておくということではなく、3年たてばいろんなトレンドが出てくるわけですから。
工藤:よく原子力規制委員会との関係で、誰がどういう基準で再稼働を決定するのかという問題があります。
世耕:これは専門家として規制委員会としてはこう考えますよという答申をしてもらって、最後決めるのは政治、政府だと思います。規制委員会に再稼働するかどうかのボタンを押してもらうのは間違いだと思います。規制委員会として、有識者として安全かどうかの判断をニュートラルな立場でしてもらう。
工藤:あと教育と言うのが二番目のアジェンダに入っているんですね。僕たち教育の評価はなかなかやっていなかったのですが、何を教育の中で実現したいんですか?
劣化が進む高等教育、取り戻したい教育再生
世耕:これはもともと安倍内閣でやろうとした教育再生が、民主党政権の中で、日教組の影響を受けていてかなり逆戻りしてしまった。まずそれをしっかり戻していきたい。それに加えて、安倍政権当時に比べて高等教育の劣化ということがかなりある。初等中等教育でも、全国学力テストをもう一回、全員が参加するようにしたい、あるいは教員の免許更新もかなり換骨奪胎されていて、単に十年に一回大学院で勉強すればいいですよというようになっている。しかし、本当に教師の資質がない人は、場合によっては教育現場から引いてもらって、もう一回、本来の趣旨に戻ってちゃんとやっていきたいと思っています。一方で高等教育は前の安倍政権の中ではあまり触れていなかったですが、だけどこれだけ大学のグローバル化が進んでいて、日本の大学の地盤沈下が激しくなっている以上はやはり大学改革に取り組まなければいけない。特にグローバル化という観点から取り組まなければいけないということで高等教育改革を。
工藤:これは関心があるのですが、何をしたいんですか? これまでいろいろありましたよね、全然、成功していないので。
世耕:まず9月入学と言うのを積極的にやっていきたい。本当に良質な留学生を、少しハードルを低くして入れていきたいというふうに思っています。いい若者に日本に来てもらいたい。今のところ外国の留学生というのは各大学少ないですが、少し門戸を広げていくということを考えています。また、今までは大学はガバナンスっていう議論はあまり行われていませんでした。その辺を踏み込んでいきたい。もっと経営者がきちっと経営判断して、大学の独自性を出していく、しかも責任を持っていただく。大学のガバナンス改革とうことをやっていきたい。
工藤:大学って減らないじゃないですか、競争っていっても。雇用ってどうなるんですか?目指しているのは競争があって淘汰されるということですか?
世耕:この前の田中大臣の暴走とも関係してくるんですが。実は規制緩和をやっていて、今、大学は設置要件さえ満たせば設置できるんです。昔は文部科学省のさじ加減で大学の数を文部科学省が直接調整していたんです。それはやめようと。条件を満たしていれば設置してくださいというところまでいっている。これはロースクールもそうです。ただ、だめだったら潰れてくださいというものとセットでなければいけない。でも文部科学省の行政は、自分の所でできたものは守っていこうということになっている。設置を規制緩和したということであれば、つぶれる責任があるので、そこもセットでやっていく必要がある。
多党化現象は民主党解体のプロセス
工藤:最後の質問は、今、多党化現象と言うことで政党が合従連衡して、国民から見ると非常に分かりにくいんですが、これは既存政党が解体していくプロセスだと見るべきでしょうか、それとも何かに変わるプロセスだと見るべきでしょうか。そのあと自民党はどのような立ち位置になるんでしょうか?
世耕:これは既存政党が解体するプロセスではなくて、民主党が解体していくプロセスだと見るべきだと思います。ほとんど民主党から出て行った人で。民主党の中で若干、タカ派的な人は維新に行き、若干、リベラルな人は未来に行く、という構図ですから。
工藤:昔は自民党から何人か出ましたよね、石原さんとか舛添さんとか。
世耕:それはポロポロですね、与謝野さんとか。個人的に出て行っただけで、自民党は何十人単位で出ていくということにはならなかった。これは自民党の老舗の矜持ですね。野党転落の時にメディアの人は、自民党というのは業界団体の陳情を受けて、それで予算をとってきたビジネスモデルだから、野党になったら成り立たないので近くばらばらになっていくだろうということを言う人もいました。一部そういう動きをした人もいましたが結局大半は党から出ないで3年間やってきた。
工藤:それに関連して、自民党に戻ったら政治がまた戻っちゃうじゃないかと。つまりまた公共事業とか国土強靭化計画とかね。なんでそんなことをまた出してきたのか。
民主党政権で減った公共事業は32%、小泉・安倍政権では50%
世耕:それはあり得ません。民主党がコンクリートから人へのスローガンの下で減らしてきた公共事業は32%です。それに対して小泉・安倍時代に減らした公共事業は50%ですよ。われわれこそいわゆる旧来の無駄なハコモノとか、いらない道路という公共事業から決別していてね、そこには戻れないわけです。ですからそこは誤解しないでいただきたい。今回国土強靭化を唱えたのは東日本大震災であれだけのことが起こって、いろんな教訓を得て、しかも今度、南海トラフでもっと大きな地震が起こるとされているのに、何もしなくてもいいのですかというもので、いくばくか安全を守るために使おうということですから。200兆というのは国費じゃないですからね。10年かけて国と地方と民間で安全のための、国土を強くするための投資をしましょうと。たとえば今回の高速道路のトンネルが崩落して、おそらくトンネルの強化の公共事業が行われると思いますが、これは高速道路会社という民間の会社ですから民間の投資になるわけです。そういうことを含めたうえでの200兆ですから。
工藤:200兆というのは決まった数字なんですか?
世耕:200兆というのは大きなイメージですから、10年に200兆ぐらいかければ国土をある程度、災害に強いものに変えられるだろうと。だけどこれは国費じゃありません、民間が大半ですから。
工藤:わかりました。ありがとうございました。
世耕:うちは歯切れの悪いものです、変な約束をしないという方針になっているので。かなり書くときに落ちているんですね、メインのところから。たとえば、法人税を何パーセント減税するか書こうよといっても、じゃあ財源をどうするのかという話になる。
工藤:なぜ、実質成長率を書かなかったんですかね?
世耕:これは書いておくべきでしたね。名目3%でその後インフレ目標2%とか言われているので、事実上引き算してもらえばわかるんですが。
工藤:今日はありがとうございました。