2009年7月2日
【テーマ】 財政政策
【出席議員】
自民党:谷垣禎一(衆議院議員 税制調査会副会長 元財務大臣)
民主党:中川正春(衆議院議員 ネクスト財務大臣)
【司会者】
工藤泰志(言論NPO代表)
【コメンテータ】
内田和人(三菱東京UFJ銀行企画部経済調査室長)
鈴木 準 (大和総研資本市場調査部上席次長)
土居丈朗(慶應義塾大学経済学部教授)
議論要旨
工藤泰志 まずは谷垣先生からお願いします。来年度予算をどう組んでいくかについて。
谷垣禎一 基本的には、昨日(7月1日)閣議決定されたシーリングに乗っ取って予算編成をします。骨太の方針2006 などがありましたが、基本的な考え方としては、ムダを排除する歳出改革を継続しつつ、安心・安全を確保するために社会保障制度の修復をしていくということです。安心と活力の両立ということで。骨太の方針2009をつくりましたが、持続的な経済成長と財政健全化の両立ということに重点を置いています。歳出の見直しをし、ニーズに応えるかたちで重点配分を行い、国債の発行も抑制します。これまでは骨太2006を踏まえ、社会保障費の自然増を2200億円抑制するという方針でしたが、それも壁にぶち当たったということで、社会保障費は1兆900億くらいが自然増だと。無理のない範囲でやっていきたい。経済危機対応などの特別措置(重点化枠)は3500億円となっています。
工藤 補正予算と当初予算との関係についてはどうお考えですか。
谷垣 昔は当初予算でできなかったものを補正予算でつけるということでやってきましたが、補正は必要なものに絞るつもりです。ただ去年と今年については、経済情勢を立て直すために思い切った措置が必要だということで。来年度については臨機応変にやっていきます。ただ単年度で行えることには限界があるので、「全治3年」に対応するため、複数年度にわたって、基金を積んでやるということも盛り込んでいます。
中川正春 解散が行われ次第、民主党としてマニフェストを皆さんに発表したいと思います。これを中心に予算の組み替えをしていきます。新たな財源に切り込んで、政府の予算をできる限り組み替えていきたいと思います。4年後の必要額が17兆円という目標を立てています。新しい財源を確保しながら政策を実現していくということです。工程表というかたちで示しており、1年目は7兆円くらいから始めようと思っていますが、その中身は、子ども手当がトータルで5.5兆円ですが、初年度は半額でスタートしようということで2.7兆円となっています。雇用対策として、雇用保険の全労働者適用、求職者支援も0.3兆円からスタートします。暫定税率も廃止します。それに積み重ねて2年目3年目にと。
財源についてですが、基本的には新しい借金はせず、ムダ遣いを徹底的に検証していくということです。具体的には2通り考えており、ひとつは、特別会計と一般会計のうち社会保障費や債務の返済を除くと、企業会計で言う公共事業関係費とか公務員人件費の削減、天下り廃止などを含め、国と地方の関係を変えていこうということで、検証されているものが70兆円出てきます。その中の9兆円程度は検証していけると思います。埋蔵金の活用や政府資産の計画的売却などを積み重ねてやってまいります。税体系についても、子ども手当の支給は、配偶者控除と扶養控除をなくすことを条件としています。農業関係の所得補償も、補助金として出していた3兆円のうち1兆円を転換、農業土木関係を転換して所得補償に当てていきます。それらと残りの8兆円程度と合わせて17兆円になると。
補正予算が組まれましたけれども、バラマキであり、また基金で4.5兆円が積み上げられていますが、使い道が明確ではなりません。それらを見直し、財源として引っ張っていき、工程表を前倒ししながら行いたいと思っております。
工藤 1年目の支出項目として具体的なものは何かありますか。
中川 一部実施ですが、まずは高速道路の無料化です。それから暫定税率の廃止はすべてできるかと思います。医療や介護制度の充実などは入口のところなので、できるだけ手をつけていきたいと。今の予算の中に対応が盛り込まれているので、上乗せすべきところはやっていきたいと思います。
工藤 谷垣先生から、今のご説明に対してご意見をお願いします。
谷垣 17兆円の新規政策で、初年度は7兆円から始めるとのことでしたが、すべて単年度の対応です。これらは恒久的な財源というものを出さないとカバーできないと思います。それだけの財源が今の手法で出てくるのかどうか。210兆あるものを組み替えて出てくる約70兆円のうち、9兆円を捻出するとのことですが、本当にできるのかどうか疑問です。最大のポイントは補助金だと思います。約45兆円のうち、社会保障関係が19 兆円、交付税が17兆円、文教が5兆円で、すでに40兆を超えています。どうやって捻出できるのかがあいまいだと思います。
それから租税特別措置にも手をつけるとのことですが、控除を削減して1.6兆くらい出すと言うけれども、あとは具体的にどういうことを行うおつもりですか。限られた財源の中から捻出していく必要があります。埋蔵金については、基礎年金の国庫負担を3分の1から2分の1に引き上げるということで我々もやっていますが、それで賄うのは厳しいのではないかと。出口戦略がないと使えませんから。恒久財源を示していただきたい。
中川 与党は積み上げ方式ですが、官僚から出たものをどれだけカットするのかというだけでは、いつまでたっても国の構造が変わらないと思います。特別会計を経由する補助金は12兆円で、特別会計から法人その他に出るものが1兆円あります。その法人そのものが本当に存在すべきものなのかということも議論し、必要がないものについては民間に移すべきです。私たちはいわゆるヒモつきの補助金も全て廃止するつもりですが、構造的にチェックをして初めて、1兆、2兆という財源が出てくるわけです。予算の末端のところで、本当に必要な財源なのかどうかということを、ひとつひとつ検証しています。そうやってムダ遣いをやめるというのがまずひとつです。それから租特については、どこの企業にどういうかたちで減税をして、それがどう役立っているのかどうかということを公表するしくみも必要なのではないかと思います。
谷垣 これから検証するのは結構ですが、必要な財源のオーダーが違うと思います。租特についてもナフサなどのところは減税できないと言いますが、2.7兆くらい見つけようということですよね。他のものも合わせて1.6兆だとすると、まだ出してこないといけないわけですが、そうすると公的年金や中小減税なども入ってきます。それはオーダーが違うのではないかという気がします。あとは法人に行っている補助金の見直しについて、12兆のうち随意契約があると言っていますが、随意契約と言われる部分には財政投融資資金の貸付なども含まれていますから、率直に言ってケタが違い過ぎます。
中川 租特については、減税が本当に目的に合っているのかどうか。住宅ローン控除をやって、本当に需要が伸びているのかどうか。そういうことを再度検証すると、もっといい方法が出てくるのではないかと思います。
工藤 1年目は具体的にどのような項目で7兆円を捻出するおつもりですか。それから、社会保障のところを抑えようというような、シーリング的な発想はないのでしょうか。
中川 放っておいても自然増になってしまう部分については、どの政権でも対応していかなければいけないところです。これまでは削ってはいけないところで2200億円をキャップをかけてしまっていたので。シーリングで行かない場合、政治レベルの検証をひとつひとつやりたいと思います。1年目ですが、組織的な見直しまではいけないと思っているので、埋蔵金の活用など、スポットの財源でやっていくつもりです。その後構造的に変えて、恒常的な財源にしていくということです。
土居丈朗 民主党が出した租特透明化法案は悪くなかったように思いますが、谷垣先生はどう見ていますか。民主党は、個別企業がどれだけ恩恵を受けているのかという、企業戦略の機密にかかわるようなことを出すということで問題になるのでは。それから、民主党が政権を取った場合、歳出増の圧力を抑えられるのかどうか疑問です。あちこちにずいぶんとお金を出しているように見えますが。
谷垣 透明化法案については勉強していないので。ただいろいろなところで複雑化しているので、わかりやすさについては検討する必要があると思います。それが透明化にもつながるだろうと。各省の圧力に耐えるのも財務省の仕事なので。キャップとおっしゃいましたが、シーリングが必要な局面もあります。査定の精度の向上は不断にやる必要があると思います。
中川 企業情報の公表は、確かに問題もあります。匿名にするとか、だいたいの絵柄がわかるくらいでいいではないかという話もあります。我々はマニフェストを掲げて、コンセンサスをつくって戦うので、これをまず現実のものにしようと。財源の転換そのものが戦いだと思っています。その克服が、次の政権を担い続けられるかということにつながるので、意気込みを持ってやっております。だからあれもこれもプラスにしてお金をつけているというわけではありません。
谷垣 暫定税率については、すぐに廃止するという主張ですが、地元議員の中には反対している人も多いのではないですか。
中川 まずは見ていただいて、その後評価していただければと思います。
工藤 今の話は当初予算の見直しですよね。ただ今回の補正でかなりついて、総額で100兆円を超えています。上乗せされた予算が組まれると。出口戦略を具体的にどう描いておられますか。
谷垣 「全治3年」ということなので、今後3年間はいろいろやるかもしれないと。しかし去年と今年の補正予算の効果が出てくるでしょうから、来年どれだけ必要になるかということはまだ考えていません。
中川 今踊り場的なところに来ていると言われている経済が、秋から来年にかけてどう展開するかも見極めつつやりたいと思っています。
我々のマニフェストは、最終的には400万くらいの所得で夫婦と子供2人で20%、約80万円分、可処分所得が増えるということになっています。そういう意味で内需ということを考えても大きな刺激策になっていると思います。補正もそれを考慮しながら考えると。
土居 全国知事会からは、地方交付税の復元と税源移譲などが言われていますが、これはどう盛り込むのでしょうか。それから、移譲すると国の財源が減ることになるかもしれません。
谷垣 簡単にはできないことだと思います。税源移譲の際に出てくるのは、自治体間の格差をどう埋めるかという問題です。これは交付税か地方税の中で埋めないといけません。プライマリーバランスで見ると、地方財政のほうがいいので。交付税だけを増やすというのは容易にできることではありません。
中川 民主党はヒモつき補助金全廃と言っています。第1段階で統括補助金を廃止し、第2段階で第2の交付税化していきます。
谷垣 一括交付金についてはどう説明責任を果たすおつもりですか。新しい財源とおっしゃいましたが、地方に渡せば財源が生まれるというほど、簡単な話ではないと思います。
工藤 国の財政再建と出口戦略についてはどうですか。
中川 本気でやるつもりでいます。しかしこれまでの方針、たとえば「国債を30兆円以下に抑える」だとか「2011年までにプライマリーバランスを黒字化する」だとかいうのは、実現されたためしがありません。それは政治に信頼がないからです。国民の信頼を政治に取り戻さないと、選挙で掲げて戦おうとしても、国民から否定されてしまうから掲げられないということになってしまいます。だから無駄の排除を徹底的にやるという姿を見ていただいて。シナリオがあって初めて財源が動いていくということではないでしょうか。
谷垣 これまでのお話は、小泉政権でやってきたことをまたやるとでも言っているように聞こえました。社会保障の効率化についてはこれ以上は難しいわけです。公債発行額がかなり増えてきているからです。財政の規律に対するマーケットの信頼に応える姿勢が必要になってくると思います。世界経済を見たときにはかなり大胆なことをしなければなりませんが、やはり出口戦略が必要です。「短期は大胆、中期は責任」ということでやっていますが、骨太09で新しい考えに移らないといけないということで、「国と地方の債務残高の対GDP比を安定化させ、2020年代初めには安定的に引き下げる」ということを掲げました。そのために10年以内にプライマリーバランス黒字化達成を目指します。当面は景気回復で、5年以内にプライマリーバランスを黒字化させると。昨年末には、持続可能な社会保障と安定財源確保に向けた「中期プログラム」を出しましたが、経済情勢を考慮しつつ不断の改革を行うことを前提にしています。21年度の税制改革の付則の中にも書かれましたが、23年度までに何らかの具体的法案を提出することになっています。景気の回復が前提ですけれども。
工藤 では両党が次回選挙のマニフェストに何を盛り込もうとしているのかについて、うかがいたいと思います。それから谷垣先生には、景気回復の定義とは何かということをお聞きしたいと思います。中川さんには、プライマリーバランス達成の目標について今回の選挙で触れないことについて説明していただきたいのですが。
谷垣 マニフェストでどういう書き方になるかはわかりませんが、今まで出ているものをパーツとして組み立てられると思っています。景気回復とは何かということについては、今後詰めないといけないと思います。
工藤 では、国民が増税を問われる局面は、具体的にはいつになりますか。次の参議院選でしょうか。
谷垣 23年度に何らかの法案出すということなので、来年の参議院選挙は22年度ですから、そういうことになるかと思います。
中川 プライマリーバランス達成は、財政規律は当然つくるべきだと思うので、大前提としてあります。いつまで、というのにこだわっても過去に実現できなかったわけですから。まずはやるべきことをやろうということです。22年、23年には消費税だけではなくて税制改革を考えることになるので、そのときに初めてコミットすることになるのではないかと思います。
工藤 しかし4年間増税に触れずに、しかも債務がどんどん膨らんでいっているわけですよね。マーケットから考えて、政治が4年間財政再建の意志を示さないということは可能なのでしょうか。
中川 待ってください。膨らんでいくというシナリオではありません。自民党と同じです。
谷垣 いや、申し上げたように、我々は23年度までに法案を出すと言っています。
中川 23年度に消費税を上げるということですか。
谷垣 それは景気などを見ないとわからない。それまでに法案を出して、いつ実行するかは考えないといけないということです。
工藤 マーケットのほうから見るとどうでしょう。
内田和人 短期的には危機対策だという考え方はあるかと思いますが、やはり中長期的に財政再建をどう進めていくかが大事です。民主党のほうは具体的な、中長期的なメルクマールが出ていません。自民党のほうは、債務残高のGDP比率が2010年代半ばに安定し、2020年以降は少し落としていくということですが、それでも160%という非常に高い水準です。欧州でも60%~70%くらいに目標が集中しています。日本は突出して債務残高が高いわけです。100%からどう落としていくかというのも、国際的な視点で考えたときに重要になってくるのではないでしょうか。中長期的なベンチマークとして、債務残高の対GDP比率を考えたときに、最終的な日本の、適正な財政のバランスがどのあたりだと考えておられるのか。
鈴木準 谷垣先生は「5年待たず」とおっしゃいましたが、実際には4年になると思いますけれど、赤字を半減させると。わかりやすいですが、問題はどのようにやるかという部分です。税制の付則の話がありましたが、景気回復の定義かがはっきりしません。するとマーケットの人は、どうとでも解釈できると思ってしまうので、そこははっきりさせてもらいたいと思います。あともうひとつは、税制抜本改革全体としてやるという、幅広いことを付則に書いていますが、法人税や所得税について何をどこまでやるのかということを、どの程度具体的にマニフェストの中にお書きになるのか。
中川先生には、今の断面で無駄を省いて別の歳出にするというのは、歳出の優先順位を変えるだけであって収支は変わらないと思います。そういう意味では財政再建目標があるのかないのかわからない。消費税を今後4年は上げないということですが、5年目以降で上げることを前提にした議論をするのかということをうかがいたいと思います。
谷垣 欧米では60%が債務残高GDP比の目標だということですが、私もそこまでは度胸がない。とりあえず下げていくというくらいしか言えません。税制抜本改革についてはどこまで書き込めるか議論が深まっていませんが、所得課税については、個人的には格差の是正なども考えないといけないと。法人税については国際競争力なども考えないといけないし。消費税含めて考えていくということです。
中川 考えてみれば、我々は非常に損な立場にあるわけです。自民党がこれだけ赤字を積み上げて、政権を取ったらこちらが借金を払っていかないといけない。今の事態が異常なのだと思います。ですからそれに対して政治的に可能なかたちをとるということです。国民は、自分の納めた税が効率的に生きるということが見えれば負担をするということだと思うので、そこにメスを入れていくと。その次は税制改革で。少子高齢化で産業構造も変わっていく中で、やはり増税が必要だと言うことが重要です。統計的にどうだとか言われても、もうすでに危機的状況になってしまっているのだから。消費税増税の議論はすでに始めています。
土居 会場からも質問が来ています。まず谷垣先生に、社会保障の充実と消費税増税の関係が国民に十分に理解されていないのではないかと。結局社会保障財源ではなくて、財政健全化になっていくのではないかということです。それから中川先生に、財政健全化目標は、マニフェストには一切書き込まないのですか。歳出削減以外に、財政収支の改善につながるような方策が何かほかにあるのでしょうか。
谷垣 日本の財政が厳しくなっている一番の要因は、社会保障費の増加ですから、そこに消費税を充てると我々は考えています。しかし全部まかなえるだけの増税をするかというと、それは別です。ただ消費税は、今後増え続ける社会保障、国民の安心・安全につながるものに使っていくことが重要です。それを越えて、借金の返済などに消費税を充てていくということはしません。
中川 5つのメインの柱には、そこまで書き込めていません。ただ、300の政策項目があり、この4年間で実現していくものが55項目あって、わかりやすく5つの柱にまとめてアピールしていくわけです。その50項目の中に財政均衡は入れていきたいと思います。いつまで、というシナリオまでは煮詰まっていません。それから、歳出削減しか手段がないのではないかということについては、転換してく先は社会全体のセーフティネットや、子ども手当、農業の戸別補償などであって、内需へ向けた構造造改革を行うという戦略もあるということです。
工藤 このままでは債務残高がどんどん拡大していくわけですが、今までの話を聞いていると、それでも大丈夫だという前提で議論されているように聞こえました。マーケットはどう見ているのでしょうか。それから金利負担が増えていく状況をどう見ていますか。
内田 一言で言うと、わが国の財政は金利上昇に対して脆弱だと。経済が不正常化し、物価が上昇したときなどに、金利が上昇して、プライマリーバランス以外の財政収支の部分で赤字が拡大していくというリスクがあります。財政が国内で、何でもってファイナンスされているかというと、すべて国内で消化されているわけです。つまり高齢化などによって赤字化になった瞬間に破綻するというリスクがある。これは警戒しないといけません。日本の場合は中長期的な財政規律があまり厳格ではないように思います。申し上げたように、160%という数値は他国とあまりにかけ離れているわけですから、そこをどうしていくかです。政府資産を売却するとか、民間で有効活用するとか、何か方策を出したうえで財政規律を出していかないといけません。
鈴木 日本の金利負担は減ってきましたが2005年から反転しているので、新しい状況に突入したと。そういう意味では債務残高GDP比をコントロールすることは必要です。政治的に財政改革をどうやっていくかが重要だと思います。谷垣先生にご質問ですが、社会保障費の 2200億円を外したということは、これまで2200億円減らしてきたことが間違いだったからもうやめるしかないということなのかどうかと。中川先生には、財政再建目標をどう考えるのかについてもう一度。
谷垣 骨太06のときの、毎年2200億円を削るというのは、かなりアンビシャスでしたが、経済危機などのときにはなかなか使えないという前提でやっていたので。プライマリーバランス2011年ということは維持できませんでしたが、歳出削減は今後も重要です。しかし社会保障については従来のやり方ではなかなか難しい。新しいことを考えないと。政府資産の売却については着実にやっていきますが、それだけでは解決しません。全体的な景気、体力を上げていくような構造改革とムダの排除と、税制改革の組み合わせで考えていく必要があると思います。
中川 将来の財政規律のシナリオはつくっていくべきです。ただ、第一歩として始めたのは、新しい政策の実行を借金で賄うのではなく、税の使い方を見直すという原則を示したいということでやっているわけです。これはマニフェストで提起した政策だけではなく、あらゆる分野で、これまで自民党が積み上げてきた予算構造を点検していくということです。もうひとつは、1円1円が本当に生きているのかどうかという検証です。その中で政治が信頼を取り戻して、「これくらいまでにバランスをとります」ということを言えたらいいと思います。
土居 中川先生に対してですが、鈴木さんもおっしゃったように、財政健全化へのコミットメントがないと、市場は不安を覚えるのではないかと。長期金利が上がらないようにするということについて、マニフェストには書かないにしても、政府と日銀の関係をどう考えておられるのでしょうか。
中川 日銀は、独立したかたちで客観的な立場から政策を行う。それは尊重していきたいと思いますが、前提として、阿吽の呼吸の中で理解、運営をしていることが重要だと思います。今は安定的な運営をしていると評価していますが、それに甘えてはいけない。バランスシートが毀損され、円への信認がなくなるといけませんから。そのあたりは、民主党が財政規律についてしっかりとメッセージを出して、政治のサイドで設定していきたいと。
工藤 最後に、国民との約束ということで、財政再建の問題について語っていただきたいと思います。中川先生もおっしゃっていたように、国民が納得しないと何も動かない。しかし今の財政は異常な状況の中で、何とか均衡を保っています。そのような状況の中で、なぜメッセージが出せないのかが、いくら考えてもわからない。それから谷垣先生、政権が変わった場合、今後どういうことになると考えますか。つまり民主党が予算案を出して、自民党も対案を出すわけですが、「お手並み拝見」という状況になるのでしょうか。ただマーケットの状況を見ると、そんなに悠長にしていられる状況でもないので。
中川 全くメッセージを出していないということではなくて、消費税や税制改正については、次のステージで確実に国民に問うていかないといけないと思っています。ムダの是正だけでバランスが取れるわけではないので。社会保障関連費が今後さらに膨らんでいくことは明らかであり、そこにかかっているわけですから、私たちに一度やらせてくださいというのがメッセージです。実際に可能かどうかということを具体的な政策の中で見ていただき、その中から財政規律を考えていきたい。そこをぜひご理解いただきたいと思います。
谷垣 我々は2020年代の初めには債務の対GDP比率を引き下げるとか、10年以内にプライマリーバランスの黒字化を目指すということはマニフェストの中に書かせていただきます。党首討論で鳩山さんが「今後4年間は増税をしない」だとか、「年金の財源にするから20年は議論しなくていい」だとかおっしゃっていたのは、本気かどうかはわからないが不安です。我々のほうもまだ具体的ではありませんが、そのくらいのことが言えないと出口戦略としては極めて弱い。それから野党になったときどうするかということですが、そういうことは一切考えていないので、お答えは用意しておりません。
工藤 想定外でした。本日は両先生、どうもありがとうございました。
< 了 >
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Profile
谷垣 禎一(衆議院議員 自由民主党税制調査会副会長)
1945年生まれ。東京大学法学部卒業後、82年に弁護士登録。83年に衆議院議員に初当選後、現在9期目。大蔵政務次官、国家公安委員長、財務大臣、国土交通大臣などを歴任。共著に『自民党の底力』。
中川 正春(衆議院議員 民主党ネクスト財務大臣)
1950年生まれ。米国ジョージタウン大学卒業。三重県議会議員などを経て、1996年衆議院議員初当選、現在4期目。民主党政策調査会長代理などを歴任し、現在はネクスト財務大臣、衆議院の財務金融委員会の筆頭理事などを務める。
【テーマ】 財政政策
【出席議員】
自民党:谷垣禎一(衆議院議員 税制調査会副会長 元財務大臣)
民主党:中川正春(衆議院議員 ネクスト財務大臣)