【論文】税制改革論議の混迷の背景

2002年5月15日

kaizuka_k020515.jpg貝塚啓明 (中央大学教授)
かいづか・けいめい

1934年生まれ。東京大学経済学部卒、同大学大学院社会科学研究科博士課程修了。東大経済学部教授を経て現在は中央大学法学部教授、東京大学名誉教授。著書に「財政支出の経済分析」「日本の財政金融」等がある。

概要

混迷する税制改革の議論について貝塚啓明中央大学教授に論文を寄稿していただき、混迷の背景そして議論が最も不足している税制改革の目標に問題提起していただいた。貝塚教授はこの中で官邸と内閣府が主導する新しい政策形成のプロセスの変化が税制改革の議論を複雑化させているとし、さらに現在の日本経済の危機的な状況を考慮すれば、税制改革の目標は中立や活力にあるのではなく、80年代のアメリカ同様、経済成長にあると主張する。

要約

最近の税制改革をめぐる議論は混迷状態にある。その背景は、かなり複雑だが、首相官邸と内閣府が各省庁を中心とした政策決定過程を変えつつあることが潜在的に大きな影響力を与えている。また政策決定には官僚機構の役割を低め政治主導でなければならないという考えが強くなり、このような変化の下で、誰が実質的に政策を決定するか判然とせず、そこに真空状態が発生している危険性が見られる。税制改革の意思決定過程もこのような変化を受けざるを得ず、伝統的な意思決定過程を守りたい党税調と政府税調と変化した政策の意思決定過程とのギャップが現在の議論の混迷を招いている。税制改革の目標は、望ましい税制が満たすたすべき要件のうち、現在の日本経済のおかれている状況の中で、どの要件が最重点の目標として選択すべきかという判断に依存する。最近の政府税調と諮問会議との間では中立と活力という基準のいずれが適切であるかという論争が起きた。この論争は言葉の解釈に関する論争なので、あまり生産的な論争とはいえないが、背後に政府税調と諮問会議の問題意識の差異を反映している。中立性という基準は、民間経済活動に対して中立的という意味に使われてきたが、現実の税制が完全に中立的であることはあり得ず、何らかの意味で民間経済活動に偏りを与えていることも、租税理論の常識でもある。このように考えるならば、中立性の基準は、次善として達成されるべき基準となる。これに対して活力も具体的な中身については解釈はさまざまである。筆者は、現在の日本経済の危機的な状況を考慮するならば、現在の日本経済にとって最重点の課題は、その停滞から抜け出し、中長期的にある程度の経済成長を持続することであると考える。この点では、日本経済の状況は1980年代のアメリカ経済と似ている。中長期的な税制改革の課題は、端的に言えば経済成長なのである。


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 混迷する税制改革の議論について貝塚啓明中央大学教授に論文を寄稿していただき、混迷の背景そして議論が最も不足している税制改革の目標に問題提起していただいた。貝塚教授はこの中で官邸と内閣府が主導する新しい政策形成のプロセスの変化が税制改革の議論を