【対談】財政バランスは税制改革の目的か

2002年5月15日

ogawa_t020515.jpg小川是 (日本たばこ産業代表取締役会長)
おがわ・ただし

1940年東京都生まれ。東大法学部卒業後、大蔵省入省。主税局長、国税庁長官を経て、1996年に大蔵省事務次官に就任。97年に辞職、東京大学先端科学技術研究センター客員教授に。2001年6月より日本たばこ産業会長、現在に至る。共著に「たばこ消費税詳解」。

yashiro_n020515.jpg八代尚宏 (日本経済研究センター理事長)
やしろ・なおひろ

1946年大阪府生まれ。東京大学経済学部卒、米国メリーランド大学経済学博士。経済企画庁、OECD事務局、上智大学国際関係研究所教授を経て、 2000年より日本経済研究センター理事長。総合規制改革会議、男女共同参画審議会委員等を兼任。主な著書は「日本的雇用慣行の経済学」「少子・高齢化の経済学」「社会的規制の経済分析」等。

概要

財務省が今回の税制改革の行方を危惧する論点の1つが、過去の短期的な経済対策の繰り返しが税制をゆがめ、税収を生まない構造にしてしまったという反省である。こうした論点を対立ではなく抜本的な改革の中に吸収するには、どんな考えが求められるのか。国税庁長官、大蔵事務次官を歴任した日本たばこ産業会長の小川是氏と日本経済研究センター理事長の八代尚宏氏が、財政バランスと税制の抜本改革について話し合った。

要約

経済活性化のための税制改革の検討を指示した小泉首相。それに対する答えは元大蔵省次官の小川是氏と八代尚弘氏の間で基本認識は一致したものの、その目的については少なからず食い違った。税制の原則については、そもそも現在の税制が「公正、簡素、中立」という原則どおりになっていないという認識が大事でそれの是正が基本という認識で両者は一致している。税制を構造改革の手段に使うことは決して「中立」とは矛盾しないという判断である。八代氏もこうした議論は「本来あるべき方向から逸れたところで改革論議のエネルギーが費やされてしまう」と応じた。だが、税制改革の目的についてはごく短期の景気対策ではなく、財政バランスの回復が税制改革の基本にあるという考えを強調した小川氏に対して、八代氏はその考えに理解を示しながらも「財政の長期的な改善は必要だが、民間の経済活動に影響を与える改革も同時に進めるべきだ」とサプライサイドへの刺激で税収増への種をまくことも必要だと主張した。小川氏の考えは現在の財務省の見解とほぼ一致しているが、これまでの税制が短期の景気対策の繰り返しで十分な税収を上げることができなくなっていることへの危惧や税が財政支出を生み出すために国民が負担しあうものという基本認識が、税制改革の論点として無視されていることへの疑問がある。また税制改革は年金や社会保障と整合的に進めるべきであるという点で両者の見解は一致した。今回の税制改革論議で決定的に不足しているのは、日本がこれからどこに向かうのか、過去の分析も含めた価値観、世界観の話し合いが進んでいないことだ。それがあって初めて歳出や歳入の具体的なプランに入れる、と小川氏は疑問を投げかけ、政治の将来の日本へのビジョンづくりが遅れていることへの批判は両者で一致していた。その意味では小泉首相がまず理念を語るべき。それがないと税の「改革」は名ばかりになっていくだろう。


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 財務省が今回の税制改革の行方を危惧する論点の1つが、過去の短期的な経済対策の繰り返しが税制をゆがめ、税収を生まない構造にしてしまったという反省である。こうした論点を対立ではなく抜本的な改革の中に吸収するには、どんな考えが求められるのか。