「新政権の課題」評価会議・外交問題/第1回:「小泉政権の外交評価と新政権に求められる課題」

2006年9月30日

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「小泉政権の外交評価と新政権に求められる課題」

工藤

ここではまず新政権に問われている政策課題を明らかにすることから評価の作業を開始したいと考えます。

まずは小泉政権の外交面での評価をしていただいて、その上で新政権に問われている外交で重点を置かなければいけない課題とは何なのか。そこから議論を行いたいと思います。
 
栗山

小泉さんの外交は、基本的にはプラスの面が大きかったと思います。もちろんアジア外交、中国や韓国との関係などで問題が残されたことはその通りですが、基本的にはアメリカとの関係や、アフガン・イラクの自衛隊派遣などの平和や安全保障の問題で、日本が従前よりも積極的な役割を国際秩序のために果たし、貢献したのは事実です。イラク戦争については問題があります。しかし、日本が、国際秩序や国際平和という問題に積極的に関わっていくという姿勢が打ち出されました。それらを総合的に考えれば、小泉政権はよくやられたというのが私の評価です。

白石

確かに、日米のグローバルパートナーシップについては、小泉政権は非常によくやったと思います。日米関係がこれだけ緊密になったのは、相当程度、小泉さんの業績でしょう。ただ問題は、小泉さんの外交は基本的に、「あれはあれ、これはこれ」ということでシステマティックでなかった。政策というのは、ある目的があって、そのための手段があり、その手段がまた目的になって、またそのための手段があるというように、目的と手段の系列になっています。

しかし、小泉さんには時に、何が目的なのかはっきりしないことがあった。もちろん、総理自身が政策をきちっと考え抜くということはできないわけで、それを支える人たちがいるわけですが、その作業をどういう手続でやっているのか、官邸主導の外交ではなかなかそれがよく見えなかった。

したがって、新政権の課題としては、まず外交の優先順位をきちっとし、その実行のためにどういうメカニズムをつくるのか、これをシステマティクにやれる体制をつくることがまず課題になると思います。日本版NSC構想というのはまさにそういう機能をはたすものと私は期待しています。今のところ名前だけひとり歩きしていて具体的にそれがどういうミッションと権限を持って、どのぐらいの規模でどういうふうに組織されるのか、よく見えませんが、このあたりを私としては注目しています。

工藤

システマティックに外交ができていなかったというのは、特にどこで感じたのですか。

白石

一番大きいのは日本の常任理事国入りの問題と日中関係、日韓関係の扱い方です。さらに日本とアジアの経済連携、あるいは東アジア共同体構築の問題もあります。経済連携に関しては、総理は自分で調整すると言った。しかし、総理にはそんな時間はない。結局そういうシステムはできなかった。

国分

小泉政権全体としてどう評価するかといったときに、国内政治や自民党の改革やあるいは経済を回復させ、改革の端緒をつけたという点で国内のさまざまな改革の側面では一定の評価をされるということは間違いないと思います。それが外交面で残された問題をカバーしたというのが小泉政権の最終的な評価になると思います。

ただし、小泉政権の外交では、劇場型やパフォーマンス型のプラスの作用がある一方、もちろんアジア外交を中心に大きな課題もあります。全体としての戦略的関係や日本の外交構想の中でどう展開するかという、深みや厚みが欠けていることです。

日米関係が強固になったというのはプラスの側面ですが、アメリカの多面的な側面とどういうふうにつき合うかという課題が残ります。たとえば、今後、民主党が政権を取ったときにどうするのかという長期的な展望の問題や、アメリカとヨーロッパの複雑な関係のなかで、日本とヨーロッパの関係が以前に比べると弱くなってきたという感じがします。

アジア外交に関して言うと小泉外交というのは、最初の段階は非常にアジア重視だったと思います。自民党の中でも日本外交全般の中でも、近年アジア重視というのが1つの柱として掲げられてきて、政権当初はこれを継承してかなり力点を入れようとした。しかし、後半に至って失速し始めたことは否定できない。アジア外交が課題として大きく残ったということは、様々なところで言われている通りだと思います。

栗山

優先課題の選択や戦略の問題に関して申し上げると、いまの日本の外交には、日本自身の平和や発展とか、繁栄をどうやって確保するのかが問われているわけです。それを達成するための、地域的、アジア太平洋、あるいはグローバルな政治、安全保障、経済などの秩序が望ましいのかということが基本にあります。その上で、それを構築していくためにはどういう国と協力していくのが一番いいかということを考えることが必要です。その意味で言うと、小泉さんのやってこられた外交というのは、その辺のビジョンが明確ではないというところはあったと思います。

次の政権に期待されるのは、そのあたりをもう少しはっきり国民にわかりやすく説明することです。そして、それを達成するための外交、例えばアメリカや中国、東南アジア、ヨーロッパとの関係をどういうふうに構築していくのかということを、外務大臣や周りのスタッフの知識を吸収して、うまくリーダーシップを発揮していくということが必要だと思います。

※第2回は10/2(月)にアップします。