加藤紘一氏 第3話:「危ないのは日本の社会の崩れ」

2006年2月18日

「危ないのは日本の社会の崩れ」

 昨年、我々自民党は衆議院で大勝しましたが、その前までは、「自民党は小泉さんで終わり、賞味期限が切れるんじゃないか」という議論をしていました。ところが、あの選挙で勝ったことによって、11月に立党50周年記念大会をやったときには、大会運営のセッティングや照明、会場設営等が非常に見事だったこともあり、また、83人の小泉チルドレンが壇上にボンと上がって杉村大蔵君が宣言をしたということもあって、なんだか自民党はあと50年続くような雰囲気になっていますが、あれは自民党の勝利ではなく小泉さんの勝利であって、郵政の勝利ではなく刺客劇の勝利であるとみたほうがいいだろうと思っています。

 これは2番目に申し上げることに繋がるんですが、今の社会はどうもちょっと危ない状態にきていると思います。今日はライブドアの捜査が行われ、逮捕にまでなりましたが、私は、来るべきものが来たというふうに思っています。六本木ヒルズでいろんな人がいつも集まって話し合いをしながら、あの一連の人たちがエイエイやってたようですが、どう考えたってインサイダーとかああいう類いの話が疑われるのは当然のことであって、私は、必ず何か事故が起きるだろうと思っていました。世間の人もおそらく、来るべきものが来たなというふうに思ってるんだろうと思います。

 どこか日本の社会がが崩れていて、それを議論したり批判する、そうした政治の中における勢力もメディアも弱くなった日本というのが、今一番の大きなテーマだろうと私は思います。

 それは、国民が如実に感じています。選挙区に行っても、いろんなところで講演を頼まれてお話しても、道路公団問題や郵政、三位一体、年金といったテーマよりも、社会の崩れみたいなテーマのほうが、みんなの関心を非常に引きます。

 姉歯の事件は国民の間でかなり深刻な心配事になっており、「儲けのためにとはいえ、命にかかわることには手を抜いちゃダメなんだよね、なのにそれをやる人たちが現れた、いくらマーケットメカニズムとはいえ、それでいいんだろうか」という思いが、みんな強くなってると思います。

 今年の正月にある新聞の一面のコラムに出ていたのですが、古代イランにあったバビロン時代のハンムラビ王朝の王様が出された282条にわたるハンムラビ法典、それは世界で最も古い成文法だそうですが、その中に、「家を作りし大工が、作った家の崩壊によってその住民を死に至らしめたときには、その大工も死刑」と書いてあるんだそうです。分かりやすい法律だなと非常に感銘を受けました。そんなことを、法典には書かないとしても、日本の社会にもあったんだねという部分が崩れているんです。

 京都の学習塾で同志社大学3年生の23歳ぐらいの青年が小学校6年生の女子を殺傷した事件は、おそらく一方通行の片思いの擬似恋愛の結果だろうと、私もうちの後援会の女性たちも直感的に思いました。そういう話はよくあり得ることで、そうでなければ、あんな残忍な殺し方はしません。色恋沙汰があって初めてあれぐらいの残忍な事件になるんだろうと思うのですが、問題は、23歳の男の子が、どうして同世代の女性とか18、17の女子高生とかに愛のアタックができずに小学生に向かっていくのか、そういう歪みをもたらしているのかということだと思います。非常に強い教育ママのもとでしっかり勉強させられて同志社大学には行ったけれども、どうして歪んでしまったのかと。これは家庭内の問題ではありますが、しかし、家庭に教育力がなくなってる、学校の先生に「がんばれ」と言っても学校の先生の教育力もなくなってる、これをどうすればいいのかと。

 私は、これは、地域社会のなかで人間が触れ合うということがなければ解決ができなくなってるのではないかと思っています。触れ合うことによる教育の場というのが、どうしようもないぐらい無くなっているわけです。もう一度、地域社会を強くしていくしかないんだろうなと思っていますが、しかし、その地域社会自体も自信を失っているわけです。


※第4話は2/20(月)に掲載します。

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発言者

k-kato.jpg加藤紘一(衆議院議員)
かとう・こういち
profile
1939年生まれ。64年東京大学法学部卒、同年外務省入省。ハーバード大学修士課程修了。72年衆議院議員初当選。78年内閣官房副長官(大平内閣)、91年内閣官房長官(宮沢内閣)、95年自民党幹事長。著書に『いま政治は何をすべきか―新世紀日本の設計図』。

 昨年、我々自民党は衆議院で大勝しましたが、その前までは、「自民党は小泉さんで終わり、賞味期限が切れるんじゃないか」という議論をしていました。ところが、あの選挙で勝ったことによって、11月に立党50周年記念大会をやったときには、大会運営のセッティングや照明、会場