栗山尚一氏 第2話:「靖国問題をどう考えるか」

2006年3月10日

「靖国問題をどう考えるか」

 靖国神社の問題は非常に難しい問題で、この問題についての長期的な解決策は何か、私にも、正直言ってよくわかりません。小泉さん個人に限りませんが、個人が靖国神社に参拝することについて、外国にとやかく言われるいわれがないというのは、そのとおりだし、個人が戦没者の霊を追悼したくて靖国神社にお参りすること自体を批判するつもりはまったくないのです。ただ、唯一言えると思っていることは、総理大臣たるもの、参拝をすることになるというと、それが本当に、純粋に個人としての参拝かどうかということは、ご本人の心情は別として、外から見ると、非常に曖昧になってしまうということです。

 それを前提として考えますと、総理大臣、あるいは日本政府は、村山談話があり、また小泉さん自身も去年8月15日に談話を出され、インドネシア(バンドン)で演説しています。ここでは、村山談話と基本的に同じことを言っており、しかも、小泉談話の新しいところは、戦後の日本の60年は、戦前の反省を踏まえての歴史なんだと言っていることです。それと総理の参拝は一致しないではないかということが、私が総理の靖国神社参拝を支持できない基本的な論点です。

 靖国神社には、遊就館というものに表現されている、靖国神社という神社の歴史観があります。これは明らかに、あの戦争というものを、自存自衛のために日本がやむを得ず戦った戦争だと正当化しようとしています。これは間違いない事実なわけです。そういう歴史観というものは、持つのは自由かもしれませんが、国際的にはまったく受け入れられていないということを考えなくてはなりません。

 最近まで、アメリカのいわゆるインテリで知日派と言われる人たちは、靖国神社そのものについては関心がありませんでした。ただ、一般的には、どうも日本は、過去の歴史ときちんと向き合ってないのではないか、第二次大戦の結果を受け入れていないのではないかという疑問を、アメリカ人は広く持っています。それはヨーロッパもそうです。アジアの人ばかりではありません。

 それが最近になって、靖国神社を中国が問題にするようになり、どうして中国がそれだけ問題にするのかということについて、アメリカの新聞記者が興味を持ち、遊就館という話がありますので、取材に行ってみたそうです。そこで、日本が戦争の結果を受け入れてない疑問が裏付けられてしまった。靖国神社参拝と遊就館というものが一緒なのではないか、今まで持っていた疑問がどうも事実ではないか、最近になってそういう認識が出始めている。前の駐日大使のべーカーさんも今のシイファーさんも遊就館を見に行ったそうで、行くと、これはやはりアメリカ人であれば不愉快になるはずです。

 このまま放っておくと、中国や韓国との関係ばかりではなく、アメリカとの関係と、アジア全体との関係、ヨーロッパとの関係も含めて、国際社会の中で、どうも日本がおかしいと思われる、もっと大げさに言えば、孤立するという道につながるのではないかと、私は非常に心配しています。

 白石隆さんが、このブログで今の日中関係の責任の半分は江沢民にあると発言していますが、私もそのとおりだと思います。江沢民が来日したときに、はじめから終わりまで、歴史を鏡として云々ということばかり言いました。それで日本人は、実際嫌になったわけです。国民感情としては当然です。だから、日中関係を大事だと思っていたのだとすれば、外交的に見れば、江沢民は非常に失敗したわけです。この年には金大中も訪日しましたが、其の対比で中国は失敗したということは欧米のメディアも書いています。

 しかし、中国に半分責任があるとしても、和解のプロセスというのは、加害者の方がイニシアティブをとらなければならない。被害者の方がイニシアティブをとるという問題ではないわけです。そこの認識が、日本人一般に足りないという気がしているのです。


※第3話は3/12(日)に掲載します。

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発言者

栗山尚一氏栗山尚一(元駐米大使)
くりやま・たかかず
profile
1931年東京都出身。東京大学法学部中退。54年外務省入省、85年駐マレーシア大使、89年外務省事務次官を経て、92年から95年まで駐米大使。帰国後2003年まで早稲田大学、国際基督教大学客員教授として活躍し、現在に至る。著書に「日米同盟 漂流からの脱却」、論文に「和解-日本外交の課題」 等

 靖国神社の問題は非常に難しい問題で、この問題についての長期的な解決策は何か、私にも、正直言ってよくわかりません。小泉さん個人に限りませんが、個人が靖国神社に参拝することについて、外国にとやかく言われるいわれがないというのは、そのとおりだし、個人が戦没者の