鳩山政権100日評価 「総論」 を公表します

2009年12月25日

認定NPO法人 言論NPO
マニフェスト評価会議

 鳩山政権の「100日評価」は、鳩山政権の100日時点での言論NPOのマニフェスト評価委員会の判断をまとめたものである。「どんな政権でも 100日が過ぎれば、有権者の監視や評価の下に置かれる」という、政治と有権者との間に緊張感ある関係をつくるために行っているもので、来年7月の参議院選挙の際に言論NPOが公表する「政権の実績評価」の、ある意味で中間報告にあたるものである。

 この評価を行うに当たって、言論NPOは2000人の有識者を対象とした「緊急アンケート」を実施した(現時点での回収数は324)ほか、評価会議のメンバーとの議論や必要なヒアリングを行い、評価基準に基づいて100日時点での評価をまとめた。

 本来ならば、マニフェストの実現に関する政府の最初のアウトプットとなる政府予算が100日時点の評価の大きな対象となるべきだが、今回は予算の成立が遅れる中での評価となったため、途中段階での評価となる項目もある。評価では選挙で約束したマニフェストの内容がどの程度実現されたか、あるいは実現のために必要なインプット(財源や体制)が投入され、実現の道筋が描かれたのか、政策実行に関するプロセスで政権のリーシップと十分な説明責任が発揮されたのか、についてそれぞれ評価を行った。

鳩山政権の「100日評価」は「C」

 今回の評価の対象は民主党のマニフェストの全項目に及ぶが、その中で中核的な政策分野と考える予算編成や経済政策、外交・安全保障など12分野に絞って評価をまとめ、その合計の平均点を鳩山政権の100日時点での全体の採点とすることにした。

 この結果、鳩山政権の100日評価はA、B、Cの3段階の評価で「C」評定となった。Aとは100点の配点で70点から100点の範囲にあり、Bは40点から70点、Cは40点以下である。12の政策分野でAとされた項目はなく、Bは4分野となった。

 ここでは①マニフェストの100日時点での実績、②実行過程、③説明責任の3項目で評価を行っており、判断がCとなったのは、このうち②の実行過程と③の説明責任での低評価が大きかったためである。

 参考情報として公開すると、言論NPOの評価基準に基づく配点では、実績は40点中20点、実行プロセスは30点中10点、説明責任は30点中5点の評価となった。
 ここでは総論として、評価委員会としての考えを以下の3点でまとめてみる。

 第一に、選挙で示された国民との約束に基づくマニフェストの実行のプロセスに関してである。
 マニフェストの実行を重視した政権の姿勢は、予算編成のプロセスでも突出したものであり、鳩山政権下ではマニフェストの実現に沿った決定や進展が精力的に図られてきたのは事実である。この点は評価できる。
 また形式的にはその実行を政治主導で行う体制も整備され、実行された。事務次官会議が廃止され、予算編成も財務省原案が廃止され政治主導で行われることになり、経済政策のとりまとめや新時代のビジョン作成を担当する国家戦略局や、無駄を削減する行政刷新会議が設置され、閣僚委員会や政務三役などを軸とした省庁運営も行われた。
 ただ、こうした政治主導の組み立ては形式的には進んだものの、この100日を見てみるとこの機能が十分機能していないだけではなく、閣僚間での意見調整が続き、結論が遅れるという結果になり、首相のリーダーシップも見られなかった。連立与党間での意見調整が混乱を助長させた面も否定できない。国家戦略会議が機能しなかったため、政府の日本の将来に関する全体的な政策のスタンスがわからず、「政策は政府への一元化」とされていたはずが、最後は政府の意志決定が党の重点要望により結論に向かって動き出すという、政策実行のプロセスの不透明さが浮かび上がった。

 第二に、この100日の政策実行における混乱を目立たせたのは、マニフェスト自体の不十分さや曖昧さである、ということである。基本的には、民主党が選挙のマニフェストで約束した「子ども手当て」などを実行するために4年間で必要とされた16.8兆円の財源をどう捻出するかが、この100日の大きな課題だった。マニフェストではそれを無駄の削減に求めたが、「事業仕分け」など新しい方法はそれを十分に見つけられず、税収の落ち込みもあり、結局財源は自民党時代と同じく「埋蔵金」の深掘りや国債の増発に頼るしかなく、最終的には将来世代に負担を転嫁することでしか、答えを見つけられなかった。来年度以降は、「埋蔵金」も底をつくことなどから予算を組むこと自体が困難視される中で、財政の問題とマニフェストの実行をどう判断するのか、責任ある回答が求められ始めている。
 外交分野について、マニフェストでは「主体的な外交戦略を構築する」とまず約束しているが、その検討が全く進まない中で、基本的な外交戦略を欠いたままに基地問題は地元と連立与党、米国の狭間で迷走し、事態を複雑化させたまま、先の米国との合意の見直し、結論先送りという事態に追い込まれてしまった。
 こうしたマニフェストに関わる大きな問題が修正や先送りを余儀なくされることについては、元々のマニフェスト自体やその作成過程自体にも問題があり、マニフェストの再修正は不可欠になっている。

 第三は説明責任の問題である。マニフェスト型の政治のサイクルでは、まず政府は選挙時の約束について、どういう優先順位でいつまでに取り組むのかを政府の約束として公表すところから始まり、その結果やプロセスにおいては約束の実行に責任を持つために、国民への説明責任が問われる。しかし、所信表明では政府の責任に関する具体的な提起がなく、首相の発言は個別の政策課題ではブレや混乱を繰り返した。また各閣僚が首相発言を訂正することも散見されたという意味で、総理のリーダーシップの欠如が明らかとなった。
 政治主導が進む中で、逆に政策の議論・立案過程の公開の度合いは低く、たとえば政府の税制調査会でも、議事録や資料の公開は行われているものの、専門家を交えた具体的な検討プロセスを知ることはできない。党と政府の関係も不透明になった。特に予算編成の最終段階でなされた小沢幹事長からの予算18 項目重点要望の申し入れにおいては、「党というより、全国民からの要望」という表現がなされたが、その「国民の要望」の詳細や集約の過程についての説明はない。

総合点
総合得点:35点 評定:C
実績:20点、実行過程:9点、説明責任:6点

経済政策
環境政策
総合得点:36点 評定:C
総合得点:42点 評定:B
実績:22点、実行過程:10点、説明責任:4点
実績:25点、実行過程:14点、説明責任:3点
外交・安保政策
雇用政策
総合得点:11点 評定:C
総合得点:48点 評定:B
実績:6点、実行過程:0点、説明責任:5点
実績:10点、実行過程:8点、説明責任:15点
財政政策・予算編成
農業政策
総合得点:32点 評定:C
総合得点:33点 評定:C
実績:15点、実行過程:12点、説明責任:5点
実績:20点、実行過程:8点、説明責任:5点
少子化対策
高等教育政策
総合得点:28点 評定:C
総合得点:36点 評定:C
実績:24点、実行過程:2点、説明責任:2点
実績:20点、実行過程:8点、説明責任:8点
年金・医療制度
新しい公共(雇用対策・社会的企業支援)
総合得点:36点 評定:C
総合得点:39点 評定:C
実績:22点、実行過程:12点、説明責任:2点
実績:23点、実行過程:11点、説明責任:5点
医療・介護政策
新しい公共(公益法人)
総合得点:57点 評定:B
総合得点:36点 評定:
実績:32点、実行過程:15点、説明責任:10点
実績:18点、実行過程:13点、説明責任:10点

全12分野の評価結果と『評価の視点』をみる
「鳩山政権100日評価」評価基準について

鳩山政権への3つの要望

 これらの評価を通じて、言論NPOのマニフェスト評価会議は、国民との約束を軸とする政治を実現するために、以下の3点を政権発足100日目の鳩山政権に要望したいと考える。

 まず今回の予算編成結果を受けて、先の選挙で国民に提案したマニフェストの修正に関して首相は国民に説明すべきである。その際には先のマニフェストで提示した民主党提案の「4年間での16.8兆円の財源捻出」の方法と、それらのマニフェストの実行を政府としてどう進めるのか、という方針を「政府の約束」として具体的に説明していただきたい。これらの体系的な説明は遅くても来年の通常国会の施政方針演説で行うべきである。

 民主党のマニフェストをこれまでの100日間での政権の自己評価を通じて、修正がある場合は再構成して、新しいマニフェストの提案を来年7月の参議院選挙までに行い、そこで国民の信を取り直していただきたい。マニフェストの作成と実行のサイクルを実現するという観点から、マニフェストの作成と自己評価の公表に関する党や政府の関係や仕組みの組み立てを行い、それをどういう形で進めるのか説明していただきたい。

 政府として、政治主導や政策の内閣一元化に関する透明でわかりやすい政策の実行プロセスを確立していただきたい。また連立政権での合意に関して、次回以降はより詳細で評価可能なものにしていただきたい。

 鳩山政権の「100日評価」は、鳩山政権の100日時点での言論NPOのマニフェスト評価委員会の判断をまとめたものである。「どんな政権でも 100日が過ぎれば、有権者の監視や評価の下に置かれる」という、政治と有権者との間に緊張感ある関係をつくるために行っているもので、来年7月の参議院選挙の際に言論NPOが公表する「政権の実績評価」の、ある意味で中間報告にあたるものである。