成田憲彦氏 第3話:「安倍政権の設計の失敗は修復不可能なのか」

2007年2月27日

070212_narita.jpg成田憲彦(駿河台大学学長,元細川政権首席秘書官)
なりた・のりひこ

1946年6月札幌市生まれ。東京大学法学部卒。国立国会図書館調査局政治議会課長を経て、細川内閣で総理大臣秘書官(政務)。退任後駿河台大学法学部教授となり、2007年から学長。著書に『日本政治は甦るか』、『官邸』など。専攻は比較政治、日本政治論。

安倍政権の設計の失敗は修復不可能なのか

これに対して、小泉官邸ではチームが非常にうまく機能しました。飯島さん(飯島勲前内閣総理大臣秘書官)の『小泉官邸秘録』を読んで非常に印象が強かったのは、一つは小泉さんの政治スタイルであり、もう一つはチーム小泉というものについて、これまで見えなかったものが浮かびあがったことです。

永田町の一匹オオカミの小泉さんは、課長補佐クラスなどをベースにしたチームの上に乗っていました。それがうまくいった理由は色々あります。

一つは、やはり飯島さんの功績です。つまり、30年やってきて小泉さんと全く一体なのは周りも分かっていて刃向かえないという強さを持っていた。また、政務秘書官の飯島さんと事務秘書たちとの間にちょうどよい感じの適度な年齢差がありました。加えてそれを統括したのが飯島さんだったということも非常に大きい。

もう一つ、小泉さんが成功したのは、事務秘書官のほかに課長補佐級を持ってきたということです。これも、飯島さんだから号令をかけて統括できたと思います。そうでなければ特命チームを、事務秘書官を出していない省庁から課長補佐級を5人集めてつくるなどということは全く不可能です。私でもできなかったでしょう。それは今の井上義行秘書官では不可能だと思います。

安倍さんが非常に誤解しているのは、強力な布陣をつくるということで補佐官に国会議員を持ってきている。こういうものは失敗します。国会議員を持ってくると、手柄を立てようと思ってみんなオレがとなるのです。「オレがオレが」の世界だからまとまりません。

課長補佐級を持ってくるとチームとして動くのです。政務秘書官が1人で、課長級である事務秘書官は4人、それは従来からいるわけです。そのほかに事務秘書官を出していない農水省や厚労省といった役所から課長補佐級を集めて特命チームというものをつくりました。それを事務秘書官たちの下に入れて、それで全体のチームをつくったわけです。その一番上に飯島さんがいて、それがうまく機能し、色々と対応をしていた。

例えばハンセン病の公訴断念とか、何かがあったときにも全部根回しに動いた。ところが国会議員を補佐官にもってきたら、そんな動きはしません。

今、あの補佐官たちを束ねている人がいないことが大問題です。総理補佐官を置くのなら、首席補佐官を置かなればならない。それを置くことには、塩崎さん(塩崎恭久内閣官房長官)が反対するでしょう。官房長官というものがいるのですから。これもまた内閣制と大統領制との混同なのです。塩崎さんは、このチームの扇の要(かなめ)というつもりでやらなければなりませんが、補佐官たちはそんな塩崎さんの下に入ってやるつもりはない。つまり、全くチームをなしていない。

今の体制の設計は安倍さん本人が自分でやりましたが、官房長官がいるかいないかということは大変大きな違いです。あのような補佐官を導入するなら、官房長官はやめて首席補佐官にするといったことも考えなければならなかった。そういうところからやらなければ、辻褄の合った制度になりません。課長補佐級を持ってきて、一生懸命動き回る者を持ってきた方がよかったのです。強力なチームをつくるというときに議員を持ってくるという発想が幼稚です。


もう一つ、『小泉官邸秘録』などを読んで非常に感心することは、やはり官僚を使っているということです。安倍さんが政治主導ということを非常に誤解している点は、官僚に触れさせないことが政治主導だと思っているということです。しかし、政治家だけでやると情報もないし、どうやっていいか分からない。そうではなくて、官僚を使うということが政治主導なのです。小泉さんはそこがうまかった。

しかも、各省から集めて特命チームをつくり、自分の出身省庁とのパイプは切らなかった。お前たちは省庁を代表してきているんだということで、みんな省庁に持って帰って、これをやってくれと省庁にやってもらうわけです。

安倍政権では、今度は、省庁と縁を切ってこいと言っているわけです。ですから、省庁は全然面倒をみません。


さらに、今は、政策立案の中心部隊もありません。小泉政権のときは、政策的なことは竹中平蔵さん(前総務大臣)に任せ、その代わり自分が全てバックアップするからということで一元的にやらせ、政策的な全体の統括が経済諮問会議を使ってできたわけです。しかし、今度は補佐官は5人いるし、塩崎さんもいる、全く統括ができていない。

このように非常に多元的な組織構造を持ったのなら、安倍さんが自分で統括しなければなりません。安倍さんに強力なリーダーシップがないと、このモデルは動かないのです。しかし、安倍さんはアリバイ的に"指示しておきました"と言っているだけで、まったくの「君臨すれども統治せず」です。それは極めて超人的に強力なリーダーシップで統括しなければ、5人の補佐官たちをどうやって統括するのでしょうか。安倍さんではそれは無理だと思います。

強力な布陣をつくると言って5人の総理補佐官に国会議員を置いたということがいかに浅はかな発想だったかということが分かると思います。これはもう致命的なミスです。

ですから、あなたは自民党の教育システムで教育されてきていませんよねということになる。小泉さんは明確な目標設定と揺るぎなくそれを実行する意志がありましたが、安倍さんは妥協的な人でいい人です。多くの人が仲良くなりたいと思うほどいい人ですから、政治はうまく回らない。

この政権はもうあちこちボタンをかけ違えています。だから、修復は困難でしょう。そして、もっとひどいことに辞めどきがないのです。衆議院選挙で辞め逃すと選挙がずっとありませんから。

では、どうすればよいか、私の答えは非常にはっきりしています。こういうこんがらがったものは、政権交代で解決するしかないと私は考えます。

成田憲彦(駿河台大学学長,元細川政権首席秘書官)