竹中 平蔵(慶應義塾大学教授,グローバルセキュリティ研究所所長 )
たけなか・へいぞう
1973年一橋大学経済学部卒。89年ハーバード大学客員准教授、90年慶應義塾大学総合政策学部助教授を経て96年より同教授。2001年経済財政担当大臣に就任後、金融担当大臣、郵政民営化担当大臣、総務大臣を歴任し06年9月に退任。11月に慶應義塾大学教授・グローバルセキュリティ研究所所長、 12月より現職に就任。
政権チームには競って成果を上げた人が残ればいい
安倍政権評価のもう一つの論点は、政策決定過程の問題です。頑張ろうとしている安倍総理を周囲がどこまでサポートしているかも重要な視点だと思います。
首相補佐官については、その法律的な立場がない、だから機能しないという言い方がありますが、それは一面の真理ではあるとしても、では、アメリカでそういう法律的な立場があるかというと、ないのです。アメリカこそアシスタントです。法律的な位置づけが与えられていなければできないということではない。そこはリスクをとって、補佐官なりがもっと前へ出なければなりません。それでもっと競えばいいのです。競って成果を上げた人だけが残ればいい。できなかった人には代わってもらえばいい。つまり、形よりも人材と競争なのです。
経済財政諮問会議が小泉政権のときになぜ司令塔になったかというと、アジェンダを設定して、それで基本方針を決め、制度設計のときにもめて、最後に総理指示を出してもらう。あそこでそういうプロセスを経たから司令塔になったわけです。そのプロセスをやらなければ司令塔にならない。諮問会議がそういう役割を果たせるということは前から決まっていたわけではなく、果たしたいと思ったからこそ果たすことができたのです。
小泉内閣になる前にも諮問会議はあったのですが、そういう役割を果たしていなかった。総理周辺の組織というのは、アメリカでもそうでCEA(大統領経済諮問委員会)やCEA委員長の役割というのは大統領や時の政権によって大きく違います。ボスキン(元CEA委員長)に、どういう役割を果たすのかと聞いたことがありますが、それは大統領とCEA委員長の関係を含めて、その政権によって全く違うと言っていました。やはり、そういうものなのです。それはトップなり、果たす人の個性や実力、それで形がつくられていくわけで、それで競えばいいのです。
今の首相補佐官も、自分の首をかけてやろうと思ったら、私はできると思います。もちろん若干の制度的な制約はあります。例えば記者会見などで何か意思表示しようと思っても、記者会見をするのなら国会へ出てこいと野党が言う。それがあるので記者会見もできなくなったということですが、これは補佐官に仕事をさせないようにしようという野党の戦術ですから、そんなものに乗らなくてもいい。外へ出て活躍すればいいと思います。
今の政権では委員会なども数多く作られていますが、政府の組織は大変大きいですから、それに屋上屋を重ねると、使い勝手が悪くなる面があります。何をやるかのアジェンダがはっきりしないまま、そうした器に逃げるということは避けねばなりません。
実は、小泉政権の最後のラスト1年の問題が今に響いているということがあります。アジェンダがはっきりしないのはなぜかというと、その前の1年間、諮問会議でアジェンダを十分議論してないからなのです。ですから、安倍政権は引き継いだときに何もなかった。だからこそ、急いでアジェンダをつくる努力をすべきだったのです。
小泉政権時には、最初に諮問会議で議論し、それで骨太の方針を書いていくときにはアジェンダをどんどん出していきました。最初は公共事業を減らし、財政再建と経済成長を両立させようというマクロなアジェンダを出した。そして、金融再生というアジェンダを出した。その後、税制改革というアジェンダを出し、三位一体のアジェンダを出し、郵政改革のアジェンダを出した。アジェンダが途切れなく出てきていました。
私が本(構造改革の真実)を書くときに改めて自分でびっくりしたのは、日誌を読み返すとものすごく複数の仕事を同時にしているのです。ですから、日誌が大変読みにくかった。金融再生のこんな大変なときに、三位一体のこんな大変なことをやっていたのかというのがあるのです。ところが、最後の1年間は諮問会議の運営が官僚任せになったのでアジェンダが出ていません。
だからこそアーリースモールサクセスが必要です。最初にできるアジェンダを急いで出して、それで実績をつくるべきだと思います。「オープン・アンド・イノベーション」は正しい、誰も否定しない。「主張する外交」も正しい、誰も否定しない。しかし、それ以上の議論が必要です。
竹中 平蔵(慶應義塾大学教授,グローバルセキュリティ研究所所長 )