司会 :イェスパー・コール (メリルリンチ日本証券チーフエコノミスト)
リンダ・シーグ (ロイター東京支局チーフ特派員)
Sieg, Linda L.
テンプル大学にて人類学学士号取得、東京大学法学部にて研究生、コロンビア大学にてジャーナリズム修士号、テンプル大学にて日米史歴史学博士号取得。フリーランス通 訳者、大学院助手を経て、ロイター特派員、東京支局チーフ特派員。
ジェームズ・ブルック (ニューヨーク・タイムズ東京特派員)
Brooke, James
イェール大学にてラテンアメリカ学学位 取得。UPI通信社、バークシャー・イーグル社フリーランス記者、タイムス社を経て、ニューヨーク・タイムス入社。ブラジル支局長を経て2001年より東京特派員。
ステファン・フィンスターブッシュ (フランクフルター・アルゲマイネ紙、極東経済記者)
Finsterbusch, Stephan
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イェスパー・コール (メリルリンチ日本証券チーフエコノミスト)
Koll, Jesper
ジョンズ・ホプキンス大学卒。1984年OECD調査統計部、京都大学経済研究所研究員、SGウォーバーグ証券、JPモルガン調査部長、タイガー・マネジメントを経て、99年メリルリンチ証券入社。日本経済の調査に携わり、経済産業省の産業金融小委員会等、政府諮問委員会にて政策提案策定に参画。著書に『日本経済これから黄金期へ』。内外の雑誌・新聞に多数寄稿。
コール 日本は、小泉氏が首相に就任して2年半になりました。これは、彼の業績と不十分な点を評価するのに十分な長い期間です。皆さんは、何が上手くいき、何がおかしくなったとお考えですか。
ブルック 私はよく、自分がカバーした他の国を振り返ります。私がブラジルにしばらくいたときは、コラ・デメロ氏が国家という船の舵を大きく切っていたときでした。私は、小泉氏がちょうど同じくらいうまくやっていると思います。日本という国家の船は、向きを変え始めました。小泉氏は明らかに、グローバルな自由市場の方へと、物事を動かしてきました。公的な議論は現在、確かにその方向にあります。国民は今では、企業の自由競争、民間部門のイニシアチブ拡大、そして公的部門の介入縮小の必要性という線で、物事を考えています。
さて、現実を眺めると、当然、大変心配な兆候がまだいくつかあります。りそな銀行を見てください。170億ドルの支援を実施し、この国で5番目の大手銀行が国有化されました。次に、道路公団との戦いも道半ばで、正直申して、多くの成果が上がったとは見ていません。郵政民営化も同じです。確かに、日本は正しい方向に進んでいますが、日本が進むスピードはどこを見てもまだ非常にゆっくりです。
さらに、巨額の公的債務もあります。日本の財政において2004年には、市場から調達する資金が税収を上回ると聞いています。他のどの国でも、この手の明らかに無謀な財政運営をすれば、あっという間に200%ないし300%のインフレになるでしょう。なぜなら、政府が債務と国民に対する義務を履行できるとは、だれも信じないからです。ここでは、国民が日本政府を信じているから、うまく切り抜けるかもしれません。それは結構ですが、日本が基本的に健全で安定した経済軌道に乗っているという意味ではありません。したがって、小泉氏は議論を正しい方に向けましたが、国家という船の現実の針路を実際に変えるには、まだ大変な作業をたくさんこなす必要があると私は考えます。
コール 議論やレトリックは正しい方向に進んでいるが、基礎にある経済は依然悪い方向に進んでいるという大きな落差に、不安はありますか。
ブルック はい、あります。そして私は、本格的な厳しい政策転換をもっと早く実行しないと、日本は8年後から10年後に、本物の危機に直面すると思います。
コール シーグさん、あなたは日本在住が20年を超え、その間にさまざまな首相を追ってこられました。小泉氏のこれまでの実績をどうお考えですか。
シーグ 私は自分で、経済よりも、小泉氏の政治的成果の方に注目していると思います。はじめに、小泉氏は自民党を与党の座にとどめました。森前首相が在任中、自民党の命運は尽きたように映っていたので、これは確かに相当な成果だと思います。そこで問題となるのは、彼が自民党を与党にとどめ、国民への強力なアピールを取り戻したことが、良かったのか悪かったのかです。私は個人的に、あまり良いとは思いません。確かに私は、小泉氏がいわゆる改革路線を推し進めている点でブルックさんに同意しますが、根本的には、同じ党が常に与党である限り、変化のスピードを上げるのは無理です。私は、自民党を少なくとも一度、相当な期間、権力から切り離す必要があると思います。実際の政策は、それほど大きく変わらないでしょうが、どの政府も、真に活性化をもたらすには、権力の放棄を強制される必要があります。
コール フィンスターブッシュさん、あなたはドイツのご出身ですが、ご自分の国で何度も政治的停滞をご覧になられました。小泉氏について、どうお考えですか。彼は、自民党と日本の両方の改革を担うだけのものを持っているでしょうか。
フィンスターブッシュ 私は、小泉氏が非常に強力な改革課題を携えて、権力の座に就いたと思います。そして、過去2年間見てきたのは、彼がそれを一歩一歩進めてきたことです。確かに小さな歩みでしたが、彼は自分の課題を進めてきました。私にとって、最も印象に残る成果は、世界の政治・政策課題の中で、彼が日本を新たな強い立場に据えたことです。トニー・ブレア英首相が二週間前に来日した際、ブレア首相の第一声は、国連安全保障理事会で日本がより積極的な役割を果たすことを強く支持したことでした。さらに、見てください。日本の首相が、朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)との国際交渉で、カギを握る役割を果たしています。首相は今春、欧州まで出かけて、欧米間の関係を取り持ち、改善しました。私は、彼の成功がせいぜい限定的なものだと分かっていますが、小泉氏の前は、日本の首相が欧米間の仲裁を試みるかもしれないと示唆することなど、考えられませんでした。小泉氏はこの点間違いなく、世界政治の中で、日本を非常に立派な立場に戻してきました。
コール 優れたご指摘です。ですが、ここで私に、ちょっと天邪鬼な役をさせてください。確かに日本は、グローバルな外交の参加者として戻ってきましたが、これは日本が米国の不沈空母として、自らの立場を認めたというだけではないでしょうか。小泉氏は単に受身になって、米政府の命令に従っているだけではありませんか。
フィンスターブッシュ 私は、まったくそうは思いません。イラクを見てください。結論としては、彼らは米政府に、「わかりました、どうぞ」と言いました。しかし、日本独自の調査団を数回派遣した上で、ようやくそうしたのです。私は、日本がフランスやドイツ政府の方向に進んでいるように、強く思えていました。結局、日本はフランスやドイツ以上に、イラクの石油が必要なので、折れざるを得ませんでした。欧州は日本よりはるかに容易に、ロシアから供給を受けられます。しかし、私はこの件について、米政府にただ追従するのではなく、他の選択肢が将来提示される兆候として受け止めています。
コール ブルックさん、あなたはどう思われますか。日本はほとんど米国の不沈空母にすぎないのではないですか。
ブルック 私は、日本が手持ちのカードを非常に賢く切ったと思います。小泉氏が意図的にしたのかどうかはわかりませんが、小泉氏と側近は、ブッシュ政権にとって本当に関心のある唯一の問題が安全保障だと見抜きました。そして小泉氏たちは、あらゆる側面で非常に素早く、それを実行したのです。ですからブッシュ政権は、日本を強固な同盟国、真の友好国だと描くことができました。お返しに、スノー財務長官や他の経済政策立案者はそろって、ジャパン・バッシング(日本叩き)を完全にやめました。通商政策への批判は出ません。日本が外国為替市場の円売り介入に700億ドルを遣っても、米国の製造業者に打撃を与えているのに、ホワイトハウスから不満が出てきません。
このように小泉氏は、ホワイトハウスが本当に関心を抱き、強い反応を誘う問題に気づきました。米外交官は全員、日米関係は恐らく過去最高だと言うでしょう。なぜそうなのか。私は、日本人が突然、外国の脅威を感じて、恐怖したからだと考えます。日本は、北朝鮮を怖がっています。日本は突然、ミサイル防衛とそれをどこで手に入るのかを表立って論じるようになりました。ミサイル防衛を与えられる唯一の国があります。日本を狙う600基ないし700基のミサイルから、自分たちを守ることのできる唯一の国があります。そこで突然、共通の対外的脅威に直面した日本は、米国の同盟国である価値を認識したのです。しかし、外国の脅威がなかったころは、日本は米軍の駐屯に次第に批判的になっていました。今は、北朝鮮の絶大な不安があるから、大きく後回しにされているのです。そこで再び、日本はとてもうまくカードを切りました。私は、同盟に対する真摯な新しい評価と、米国の技術や支援がなければミサイルを物理的に止められないという理解とが存在していると思います。
コール シーグさん、北朝鮮が引き起こした対外的脅威が、日本の変化の重要な触媒になっていて、小泉氏の改革公約より重要かもしれないという見方に同意しますか。
シーグ 私は、北朝鮮が小泉政権に対し、小泉氏の首相就任のずっと前から存在していた政策課題を推し進める機会を与えたと考えます。小泉氏の天賦の才は、その機会を捉えて、人気と権力の強化に使ったところです。小泉氏は最初の記者会見で、日本の憲法改正の必要性に直接言及しました。私は、最初の記者会見でそう述べた初めての首相だと思います。それゆえ彼がこれを正しいと考えていることは明らかです。この件は、北朝鮮が問題になる随分前のことでした。小泉氏は現在、当初の政策課題を一層強力に推し進めるため、新たな朝鮮半島情勢を利用しています。
コール それでは、国際的な政策課題より重要な国内課題があるとお考えなわけですね。
シーグ もちろんそうです。ただ私としては、日本の国家安全保障政策がカギだと言いますけれども。これは国内問題であって、米国がそう言うから問題になるのではありません。小泉氏の問題なのです。
フィンスターブッシュ その通りです。しかし、問題は結果がどうなるかです。小泉氏は憲法9条を改正するでしょうか。日本は今や、軍隊を持っていますが、軍隊とは呼ばれず、自衛隊と呼ばれています。
シーグ まったくその通りで、軍はもうそこにあります。呼称を変えて改憲するのは形式的な行為でしかありません。
ブルック 私は、アジアにとって、また日本の歴史上未解決のあらゆる問題にとって、9条改正は危険信号だと考えます。私は日曜日に、新たな軍事歴史博物館の靖国神社遊就館で、2時間半を過ごしました。率直に申し上げて、朝鮮人や中国人がそこを見て回ると、激しい怒りを覚えるでしょう。これが不穏なのは、ヌこか知らない土地の中のどこかにある、安っぽい田舎の博物館ではなくて、日本の首都のまさしく中心にあるからです。これは、高校生がバスを何台も連ねてやってきて、見て回るように設計されています。感受性が強く、教育が十分でない高校生がですよ。そしてこれは、迫害の神話――なぜ日本が中国を侵略しなければならなかったのか、なぜ日本が朝鮮を侵略しなければならなかったのか――を不滅のものにするのです。本当は、アジアの近隣諸国と政治的に関係修復する上で、あまり効果がありません。
小泉氏は政権を取って2年半になるのに、北京を訪問できずにいます。これはまったく奇妙な状況です。ドイツの首相がパリを訪問できないとか、スペイン大統領がアルゼンチンやメキシコに行けないなどと、想像できますか。もちろん、中国人や朝鮮人もこの神話を喧伝して、自分たちの側で歴史理解の正常化を阻んでいます。しかし現段階で、日本の憲法9条を改正するのは、直ちに広範囲にわたる問題を引き起こすでしょう。
さて、日本の国防政策が実際に何をしているのかを詳しく見てみましょう。日本は空中給油機を手に入れています。なぜ空中給油機が必要なのでしょうか。北朝鮮のミサイル施設を攻撃して、戻ってくるために空中給油機が必要なのです。沖縄から北海道に行けるように空中給油機を手に入れているのではなく、どこかに出て行って戻ってこれるように、空中給油機を入手しているのです。ですから、私は日本が既に、自前の国防を模索し始める流れに十分乗っていると思います。9条改正は、日本が実際にやっていることを強く明らかにするので、要らざる問題をもたらすだけです。
シーグ 確かに、9条は徐々に障害ではなくなっています。日本が望むなら、集団的自衛の自主的禁止を外すのも簡単です。日本が改憲せずに望むとしてもです。さらに私は、それに対する国内の反対がはるかに小さくなっていると考えます。理由は、大半の国民が、それが何たるかを知りさえしないからです。それゆえ、ブルックさんがおっしゃるとおり、憲法9条を維持することもできます。本当の問題は、日本が核武装するかどうかです。これは、日本の安全保障と国防政策のまさに根幹を揺るがす真の決断です。1つには、日米安保同盟の重要な基盤を大きく損なうでしょう。しかし現時点では、私はここまで進むのを真剣に考えている人はいないと思います。
コール アジアは日本の再軍備を恐れるべきですか。
ブルック もちろんありません。多くのアジア諸国は、先の大戦の戦闘で震え上がりました。日本叩きには政治的理由があるのです。しかし現実は違っています。日本は人口が高齢化し、約25年後には人口の30%が60歳を超えます。日本は、血気盛んで力強い18歳の若い男たちに、何かしなければならなかった大英帝国ではありません。日本は今日、イラクに数個の医療チームを派遣することで頭を痛めている国です。日本は、対外的に攻撃的な国ではないのです。
確かに北朝鮮問題では、ミサイルが点火されるのを見ると、日本は攻撃的になるでしょう。確かに、日本はミサイルを叩き落とすため、できる限りのことをするでしょう。しかし私たちは、朝鮮半島を乗っ取って新たな植民地を築こうとする国の話をしているのではありません。それは先の大戦のことであって、日本もまた、余っている若くて熱意ある男女をペルー、ブラジル、ハワイに輸出していた時代です。
フィンスターブッシュ 欧州に目を向けて、欧州における過去の処理の仕方をアジアや日本と比較すると、本当に興味深いです。中国政府が上海―北京間を結ぶ大型鉄道計画を発表し、日本が首を突っ込んで、新幹線を輸出するかもしれないと述べたとき、中国で大きな反発に遭いました。日本のかつての植民地主義勢力と技術を中国に移入することに、反対する住民が多数います。これは、アジアでどれほどまずい歴史処理が行われたかを物語っています。欧州と比べてみましょう。欧州が現在依って立つのは、独仏関係です。歴史は、新しく統合された欧州単一国家を創設するのに役立ちました。アジアは、これには程遠いです。
もちろん、これには理由があります。中国はまだ、共産主義勢力です。北朝鮮はスターリン主義の勢力で、韓国は完全に違う方向に進んでいます。しかし、冷戦の最後の前線が崩れたら、何が起きるでしょうか。どのようにして北朝鮮を統合し、どのようにして、中国を資本主義の方向に動かすべきでしょうか。そして、歴史は人々の意識の中で、どういった役割を演じるのでしょうか。私から見ると、これらの重要な問いに、小泉氏は全く答えていません。小泉氏が靖国神社に参拝するとき、私たちが目の当たりにするのはソウルでの激しい抗議であり、北京でもバンコクでも同様に激しい抗議が起きました。ですから、これは小泉氏が本当に、さらに一生懸命に取り組まなければならないポイントなのナす。
コール ドイツからの教訓はありますか。もしあなたが2分間与えられてアドバイスするなら、日本とアジアの関係改善のため、小泉氏に何を提案しますか。
フィンスターブッシュ 日本は、歴史と犯した罪について、率直に語らなければならないと思います。アジア全体が望んでいるのは謝罪と、過去に悪い過ちを犯したと心から認めることです。
シーグ 私の感覚は違います。そもそも、長年にわたって数多くの謝罪がありました。たくさんのたくさんの謝罪があり、中には他のものより誠実なのもあります。しかし、日本が再びその態勢を取る時期は過ぎてしまいました。私の感じでは、小泉氏と彼の支持者は逆の方向に進んでいます。彼はまず、過去は過去だと考えているようです。これ以上頭を痛める必要はないのです。そして2番目に、われわれだけがすべて悪いのではないと。ですから、私は再び大きな謝罪が行われるとは見ていませんし、小泉政権下はもちろん、将来の自民党政権下でもないでしょう。日本人は明らかに、経済的に、恐らくは安全保障面からでさえも、より大きな地域統合に関心を持っていますが、そのための前提条件がさらなる謝罪をしなければならないことを意味するのなら、私は非常に困難だと見ています。
コール これは私が個人的に関心のある論点です。小泉政権誕生から2年半、私は日本人の間に新たな自信が出てきたように感じます。最初の年はとても大変で、だれも本当は何がどうなっているのか、改革課題が何を意味したのか、小泉政権が本当は何を達成することになるのかを分かっていませんでした。私たちは今2003年の夏の終わりにあり、成功例が次第にたくさん見られるようになっています。景気は少し良くなったように見え、銀行の問題は改善しています。全体の持続性は議論になるでしょうが、私は新たな楽観的見方、新たな自信がこの国全体、少なくとも東京全体に広がっていると確かに感じています。いかがでしょうか。
ブルック 確かに私は、東京が確実に上向いているように思います。汐留、丸の内、六本木ヒルズに行った場合の話です。東京は再生しています。私には、最先端の建築スタイルという意味で、これほど魅力的でエレガントな都市を、多く挙げられません。最近は、タイム誌が日本人のスタイルを特集しました。日本はクール(おしゃれ)、その通りです。
大変重要で、政治家の処理の不味さが非常にはっきりしている対中関係に戻りたいと思います。新幹線は実に良い例です。なぜなら、名誉ある象徴的なプロジェクトで、共通の繁栄する未来を築く、新たな日中協調を象徴する素晴らしい手段となる可能性があったからです。残念ながら、小泉首相を含めた日本の政治家は、それを動かすことができないため、プロジェクトは実現しません。
日本は、対中3大投資国の1つです。巨額の投資、多数の航空便と人の交流があります。今年9月1日からは、中国への渡航がビザ不要になります。恐らく来年には、中国を訪れる日本人が、米国に行く日本人を史上初めて上回るでしょう。ハワイはこれで、大打撃を受けるでしょう。上海に行って隅から隅まで見て回れるのに、わざわざハワイに行くでしょうか。日本のパッケージ旅行は、週末4日間の北京行きを400ドルで売り出しています。京都に行って帰る方が、はるかに高くつきます。このように、草の根レベルの人の交流、投資、日中間の結びつきは、育ってきています。両国の国民は、信じられないほど互いに興味を持っています。
同時に、私は韓国に行って、韓国の6都市が上海に直行便を持っていることに気づきました。東京への直行便があるのは2都市だけです。私たちは、アジアの人の移動の大規模な再編を経験しつつあり、中国は自然に中心として再浮上しています。人の流れと資金の流れは既に、中国がしっかりと中心に立つアジアに戻りつつあることを物語っています。中国は既に、アジア最大の経済大国で、他国の景気を決めています。中国は実は、過去10世紀にわたってこの役割を担ってきました。20世紀だけが例外だったのです。日本を含む周辺諸国はすべて、これに再び適応しなければならなくなります。香港と台湾のデフレ、韓国と日本の問題はすべて、中国がアジアの中心勢力と再び主張することに起因しています。
日本にとっては、近づきつつある北朝鮮崩壊が、大きな試練になります。北朝鮮の現体制の統制力が緩めば直ちに日本にやってくるボートピープルや難民こそ、本当の問題という意味です。つまり、アルバニアを離れてイタリアに行った人たちに起きたことを見ていれば、北朝鮮体制が倒れたときに起きることを見ているのです。だれもが、そこから脱出する最初のボートに乗ろうとします。そして、日本にとっては解決が非常に困難な問題となるでしょう。
コール 面白いことに、私たちはこれまで、小泉氏の評価の中で、国防竓O交政策についてしか話していません。経済はもう問題ではないのでしょうか。ある種の自動操縦になっているのでしょうか。
ブルック まあ、国防問題は、私の読者の関心をつかむ魅力的な問題です。対照的に、日本経済は本当に退屈です。要するに、13年間の不良債権問題。私は、これについて新しい記事が書けるとは思いません。
コール これは一種ありきたりの問題なのでしょうか。世界のだれも、日本経済にこれ以上関心を持たないのでしょうか。ロイター通信の編集者は、日本支局にどのような記事を求めてきますか。
シーグ 私たちは実は、日本の政策は言うまでもなく、日本企業をカバーするため、新しい資源を大量に投入しています。日本の企業部門は、大きなテーマです。また、政治が安全保障問題、朝鮮問題、中国問題と結びつくなら、直ちに関心を持ちます。
コール そしてドイツの読者はどうですか。
フィンスターブッシュ 日本のマクロ経済の記事は、実はやや退屈です。しかし個別企業のミクロの記事は、非常に魅力的です。90年代には、さまざまなことが起こりました。ソニーやトヨタのような企業は、それぞれの事業では依然として最先端企業です。多くの場合、日本企業は実は、世界シェアを伸ばしているのです。
マクロでさえ、財政政策の舵取りに学ぶべき教訓があります。第2次大戦時代が終わり、私たちはドイツ、日本、フランス、英国などの経済が力強く成長するのを見てきました。そして数多くのインフレ問題も目の当たりにしました。今や、デフレがより重要な役割を果たした19世紀末のような時代へと入りつつあります。日本は現在、世界のデフレ最先進国で、他のあらゆる国が1つ1つ、後を追いつつあります。米連邦準備銀行の、あまつさえ欧州中央銀行の、政策調査官や顧問を見てください。彼らは日本を研究し、「失われた10年」やデフレそのものに陥るのを避ける方法について、教訓を学び取ろうと努めています。
ブルック それほど明確ではありません。私には、現在成長している地域をひいき目に見る先入観があります。ブラジルのように。インフレ問題を抑え込んで、対外投資を引き寄せたときは、実に面白かった。中国の記事も非常にダイナミックなので、みんなの関心を集めます。日本が停滞しているという記事は、ただそこに座っているだけみたいで、約1%成長するだろう、2%成長するだろうという具合です。確かに、個別企業にダイナミズムはありますが、全体的には面白くありません。良い例を挙げましょう。日本は今年5月、りそな銀行救済に170億ドル遣いました。韓国のサムスン電子が同じ週に、フラット画面のテレビ技術に170億ドル投資すると発表しました。サムスンは、世界で最も優秀かつ最大の電子企業になりたいからです。韓国は将来に賭けて、新技術確保に賭けて、新規雇用や成長や富やあらゆる面白いものを創出します。一方、日本は、納税者のお金を遣い、大阪や京都の中小企業群を助けています。これは面白くありません。実際、がっくりするのです。
私は昨年、ここから撤退する外国報道機関の支局について記事を書きました。ロンドンのガーディアン紙の編集者は言いました。中国がダイナミックなので、読者全員が中国について知りたがっているときに、日本にだれかを置いておかなければならないでしょうか。不公平かもしれませんが、日本が経済大国として米国を追い抜くと考えた時代は、ストックホルムが興味を持っていたと、この出て行った編集者は私に言いました。
シーグ たとえ最善のマクロ経済政策を取っても、そう大きな変化は起きません。日本はまだ、中国にはなりません。それはまったく別の話であって、外国紙が資源を投じたくないのなら、そうなさればよいでしょう。それが、日本に記事がないことを意味するわけではありません。
ブルック 私はこの仕事を与えられたとき、減少する人口を抱えた国が成長できるのかと問いかけました。今、答えは「はい、できます」になっています。しかし、2003年に人口1億2700万の日本が、今世紀末にわずか6500万の人口になっていて、経済を拡大させられるでしょうか。中国は、人口の巨大ダイナマイトで、10倍の人口を抱えています。もう一度言います。彼らは成功しました。だれもが面倒を見てもらえる、非常に快適で、非常に豊かな社会です。彼らは成功しましたが、今では、相対的な地盤沈下をどう管理するかという問題にすぎないのです。
コール あなたは、優雅に没落するという日本の運命に同意しますか。
フィンスターブッシュ はい。人口動態は、この国の現実です。ですが、ご覧ください、この国が銀行救済に多額の資金を投じるからといって、将来への投資がないという意味ではありません。東芝、シャープなどの電子企業は、将来のフラット画面技術の開発に向けて、巨額の資金を投じています。サムスンは見出しを取るかもしれませんが、多くの日本企業は静かに、将来の成長に向けて、非常にうまい戦略で投資しています。また、このところの中国熱にも、私は少し不安があります。中国に政治不安が起きれば、どうなるのか。将来のことは、だれにも分かりませんが、急速な経済発展を遂げる中国の実験が、非常に多くの摩擦を生み出して、多くの者を失望させる可能性は確かにあります。日本の安定性が評価される可能性は充分に高いのです。
コール 私は、シーグさんが提起した問題を取り上げたいと思います。それは、小泉氏が自民党を与党として保ったという点です。野党はいかがですか。何か望みはありますか。野党は最近、再統合して、現在は蜜月の時期にあるようです。より建設的な野党が日本で見られるようになるのでしょうか。自民党の権力基盤は危機にさらされているのでしょうか。
シーグ もちろん、自由党と民主党がくっつかない場合よりも、危険は大きくなっています。小沢氏と菅氏が何とか協力できれば、権力の座に届く可能性は相当高まるでしょう。私は、彼らが権力を本当に望んでいるかどうかは知りませんが。
フィンスターブッシュ 興味深いのは、小泉氏がここで第一歩を踏み出したとき、彼が素晴らしい国内改革計画を打ち出せるかのようにみんな話していたことです。しかし2年半たって彼を見ると、ゴルバチョフ氏に非常に似ているようです。2人とも、外交政策だけは明らかにうまくやっていて、国内政策では、国民が次第に懐疑的になっています。
シーグ 小泉氏と彼の経済政策の興味深い現象は、彼があらゆる方面から厳しい批判にさらされている点だと思います。やり過ぎだと考える人もいれば、手ぬるいと考える人もいる。エコノミストはつねに、小泉氏について非常に教条的な見方をします。彼はまったくの失敗だと見るか、彼は正しい方向に進んでいると見るかのどちらかです。確かに、小泉氏と彼の政策には、だれもが強い意見を持っています。だれもが、彼の政策には、非常に強く熱い反応をしています。だから小泉氏は非常に強力なのです。彼は日本の政策決定に熱気を取り戻しました。
ブルック 日本はちょうどメキシコのようです。1つの政党があまりにも長きにわたって権力の座にあったため、もう機能できなくなっています。ある日、亀裂が入り、危機が訪れ、真の政界再編が起こるでしょう。
コール しかし、その亀裂はどこから生じるのでしょうか。中国ですか。
ブルック 私は財政赤字だと思います。いつか、そう遠くない将来に、日本人は国債を信用しなくなるでしょう。年金制度を見てください。要するに日本は、債務を履行するための資金が枯渇しつつあります。国民が信用しなくなったとき、彼らは非常に高い金利で資金を借りようとするばかりだという状況が、大いに予想されます。あなたはエコノミストでいらっしゃいますが、この点どうお考えですか。これは問題ですか。
コール 私は問題だと思いますが、日本的な解決が可能だと考えます。年金契約を例に取りましょう。年金制度は現在破綻し、給付額は引き下げられ、保険料率は引き上げられています。不思議なことに、日本人の反応は、逆上していないのです。ドイツでは、労働組合が街頭に繰り出し、政府が倒れるまでデモを展開します。米国では、国民が大規模な集団訴訟を起こします。日本では、契約が守られないという事実が、社会不安や真の政治的動きを引き起こす様子がありません。少なくともこれまでは。
最後に1つ質問をして、まとめさせてください。小泉首相に1つアドバイスするとしたら、彼に是が非でも実施してもらいたい政策転換は何でしょうか。
フィンスターブッシュ 選挙に勝利した後、小泉氏はこれまでより一層大胆に、改革課題を推し進めるべきだと考えます。彼には、失う物は何もありません。彼の考えは正しいですが、年金や医療制度を真に改革する上で、もっと大胆にならなければなりません。そうすれば、日本国民は再び政府を信頼できるようになります。
シーグ その通りです。もし自民党が衆院選の後も与党にとどまるのなら、小泉氏は国を率いる上で、だれにも止められない権限を与えられることになります。そこで私たちは、彼が本当は何を求めているのか、彼が真の政治家たるものを持っているかどうかを知ることになります。彼が実際にプランを持っていることを期待しましょう。世界が注視しています。
コール どうもありがとうございました。
コール 日本は、小泉氏が首相に就任して2年半になりました。これは、彼の業績と不十分な点を評価するのに十分な長い期間です。皆さんは、何が上手くいき、何がおかしくなったとお考えですか。