本間正明 (大阪大学教授(経済財政諮問会議議員)
ほんま・まさあき
1967年大阪大学経済学部卒。73年同大学大学院経済学研究科博士課程修了。英国ウォーリック大学客員教授、ロンドン大学STICERD客員研究員、大阪大学副学長などを経て、現在大阪大学大学院経済学研究科教授。経済財政諮問会議議員、税制調査会委員などを兼任。主書に『租税の経済理論』『新・日本型経済システム』等。
概要
小泉改革は首相主導で日本の構造改革に取り組むことを目標に掲げた政権だった。世界の例をみても、こうした改革は、問題提起をして、それを具体的なプロセスに乗せて仕上げていくまでに相当な時間を要する。だが、首相主導の政策形成と実行の試みはその後、党とのねじれ関係を再構築して、制度改革に向けた対立関係を乗り越えるに至ることはできず、当初のイニシアチブを失い、限界にぶつかったようにも思える。新しい制度設計で国民への合意を形成できない小泉改革をどう考えるべきか。本来、そうしたプロセスの先頭に立つはずの経済財政諮問会議の本間正明議員に、この間の改革の評価と問われている課題について発言を求めた。
要約
構造改革というものは、問題提起をし、それを具体的なプロセスに乗せて仕上げていくには相当な時間を要する。経済財政諮問会議の政策形成能力のイノベーションと、政府と与党との関係の再構築という問題が、考えていくべきテーマである。
今や、改革は、集中調整期間で過去の問題を処理して成長を復元していくという第1フェーズを終え、政府部門の制度改革という第2フェーズに移りつつある。そこには人間が絡んでおり、国民の関心も高く、スピード感の遅さや、調整における妥協的な部分の存在は、その性質上やむを得ない面があり、それが政府に対する過重な批判につながっている。小泉総理は、漠とした理念で大きな方向性だけを述べる形でリーダーシップを発揮するスタイルを取ってきた。その実施に際しては期限と数値目標で縛りをかけて追い込んでいく。これによってしか動かない現実がある。
改革が制度の岩盤にぶつかり始めた。我々は、これをつくり直す作業に取り組んでいる。政府が私的財と補完性の高い財を供給する混合経済の時代にあって、社会保障については、自助努力の部分、公が供給する部分、民が供給する部分をどの程度とし、その組み合わせをどうするか、その再設定に取り組んでいる。所得の二極化現象も指摘されているが、パラダイム変化の方向に進まなければ日本の生産性が低下する。その過程では、外的条件の変化によって不平等を増す世界が一方にあり、それが定常化してくる段階の中で不平等度が緩和されていく。総理が示した方向性は、我々が国民にわからせる努力をしなければならない。
全ての分野において、最低限の国民との合意を形成しなければ、現状の不安定さが加速されていく。政策選択の対立軸を描くために、民間部門でもより徹底した合意形成のための議論が必要であり、そのためには、政策評価の基準を整えて、国民が理解できる議論の場を政府の外側に中立的な形でつくることが必要だ。政府もそれをサポートしなければならない。各党とも、合意形成が必要なこの局面において、軸をはっきりさせ、政策の提案能力とその完璧性についての競争を行わなければならない。
小泉改革は首相主導で日本の構造改革に取り組むことを目標に掲げた政権だった。世界の例をみても、こうした改革は、問題提起をして、それを具体的なプロセスに乗せて仕上げていくまでに相当な時間を要する。だが、首相主導の政策形成と実行の試みはその後、党とのねじれ