村松岐夫(学習院大学法学部教授)
むらまつ・みちお
1940年、生静岡県生まれ。62年京都大学法学部卒。76年より京都大学法学部教授。87年ワシントン大学客員教授、88年オックスフォード大学(St. Antonys College)客員教授に。著書、「戦後日本の官僚制」でサントリー学芸賞、「地方自治」で藤田賞受賞。その他の著書に「日本の行政」、「行政学教科書」などがある。
概要
日本の政治はなぜ、この国の混迷を打開できないのか。一人、リーダーシップで改革を進めようとする小泉首相には、党内の反発もあり、妥協が繰り返されている。いわゆる与党審査廃止の議論も出ている。しかし、よりいっそう重要なのは、公務員制度改革の方向が打ち出されたことである。この方向でも真剣な言論が必要である。立法のあり方と官僚改革の方向について、京都大学の村松岐夫教授に聞いた。
要約
首相のリーダーシップがなぜ発揮できないのかについて、与党審査の廃止の議論と結びつける考え方はポイントをついている。この問題は、政権党と与党の関係、公務員と政治家の関係、それと国会における議論のしかた、政党のありかたという全体にかかわっているので、全体のデザインをしないと、次に進まない。そのくらい核心的なことである。
戦後日本の経済成長のなかでは、個別的な利益の主張ごとに配分をする余力があった。このときは、社会のニーズを自民党が汲み上げてこれを政府の諸機関とすりあわせる場として、与党審査のようなものが効率的であったかもしれない。しかし、今は首相のリーダーシップを発揮して新しい政策を生むことが課題である。与党審査が足かせになってきたのだろう。与党審査の中で、行政が政治の代わりに利害調整をしたり、政治が行政の中に深く浸透を果たすという現象が生じたが、これは、政治の責任と行政の責任を曖昧にした。
与党審査のもう一つの側面の公務員と政治の問題では、官僚が、政治家の行うべき交渉にコミットしているのが現状だが、そうした政治家の肩代わりのような世界からは撤退し、行政のあり方から行動範囲や政策形成への関与を考えるべきだ。
これまでの官僚組織は、かろうじて政治的中立性は守ったが、専門家を育てなかった。その政策の専門家をつくるよりも、その能力を政治家との交渉や長い文章をつくることだけに使ってきた。いい機会だから、新しい官僚に必要な知識はなにかから議論すべきだ。公務員改革では常に採用・昇進での政治的な中立性の確保が最大のテーマである。幅広い議論や多くの意見が吸収されないままに、一つの改革案が閣議決定されたが、今後の改革の本番では、関係者の全員が参加して討論し、しっかり考えてほしい。
日本の政治はなぜ、この国の混迷を打開できないのか。一人、リーダーシップで改革を進めようとする小泉首相には、党内の反発もあり、妥協が繰り返されている。いわゆる与党審査廃止の議論も出ている。しかし、よりいっそう重要なのは、公務員制度改革の方向が打ち出されたことで