自民党の変化こそが、日本政治の変化を促す / 石破茂(自由民主党幹事長)

2013年3月23日

石破茂氏石破 茂(いしば・しげる)
1979年慶応義塾大学法学部卒業後、株式会社三井銀行に入行。86年衆議院議員初当選。以来9期連続当選。防衛庁長官、防衛大臣、農林水産大臣などを歴任。現在、自由民主党幹事長。

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3年3カ月ぶりに政権を取り戻した自民党。野党時代の体験から、自民党は国民政党として生まれ変わり、主権者である国民に自ら向かい合う政策集団にならなければ、と痛感したという。自民党の政権復帰を幹事長として作り出した石破茂氏は、安倍政権をこれまで先送りしてきた日本の課題に答えを出す、日本を再生させる政権だと断言し、成果にこだわる自民党の変化こそが、日本の政治の本当の変化を促す、と主張する


国民は古い自民党を求めているわけではない

 自民党は昨年末の選挙で大勝し、再び公明党と政権を取り戻すことになりました。国民が自民党を選んだ理由には、まず民主党に対するものすごい失望感、嫌悪感、拒絶感がありました。それから新しい政党の日本維新の会、あるいは日本未来の党、それらに対する信頼感が十分になかった。国民の意識にも、一票入れるならやっぱり自民党だな、という消極的な選択の面があっただろう、と認識しています。

 自民党が野党であった3年間に私自身、かなり真摯に政策も練磨し、立ち居振る舞いも改めた、というところがあります。自民党の反省とか新しい姿勢、そして民主党に対する失望感、第3極に対する不信感、それらが相乗効果となって自民党が選ばれたと思います。

 この結果を日本の政治の新しい変化と言えるかどうかは、自民党がどう変わったか、にかかっていると言えます。国民は古いかつての自民党というものを望んでいるわけではありません。それは十分、私たちも認識しています。例えば安全保障とか、財政、あるいは社会保障の持続可能性とか、そういうものから目を逸らしてきたのはむしろ自民党だった、と思っています。その反省のもとに、安倍政権は今まで先送りしてきたものに答えを出そうと考えています。国民の期待もそこにあると思っています。


自民党は自ら国民に向かい合う政策集団を目指す

 かつての自民党にはある意味で横着なところがあったと思います。政権を長く担っていたために、努力しなくても人は来たし、テレビから声はかかったし、役人はいろんなことを教えてくれた。それを当たり前に考える人もいた。それが傲慢さとか不遜さに映ったのではないか、と私は思います。ところが、野党に転落してこの3年間、人は来ない、役人は教えてくれない、テレビは出してくれない、と三重苦みたいなところがあった。

 私は政調会長を2年やっていましたが、人が来ないのならこちらから行け、役人が教えてくれないなら自分で考えろ、テレビに出してもらえないんだったら街頭に出ろ、と話をしていた。自分の頭で考え、自分の言葉でしゃべり、お客様にはこちらから行って話をする。自民党が変わったとしたら、そうした厳しさを知ったことだと思いますね。

 今回も与党になって確かに人は来るようになった、テレビにもしょっちゅう出してもらえるようになった。しかし、それに驕ってはいけない。我々の側から行く、役人が出した政策を単に批判するだけではなく、自分たちでこういうことをやるんだ、とこちらから提示せよ、と。自分で考え、自分で歩き、自分の言葉で発言する、そういう自民党になったと思いますね。自民党は、真の政策集団にならなければいけません。


自民党と民主党の決定的な違いとは何か

 私が当選した27年前の幹事長ですが、かつて金丸信さん(元副総理)という実力者がいました。その金丸さんがよく言われたことですが、自民党というのは「権力」と「ポスト」と「資金」で成り立っている党なのだと。与党であるからして「権力」があり、地域に利益も誘導できる、そして与党であるからして「資金力」が豊富であり、与党であるからして内閣総理大臣から政務官にいたるまで「ポスト」があると。自民党っていうのは、いつバラバラになってもおかしくないが、そうならないのは自民党の求心力が「資金」と「権力」と「ポスト」だからだ、と。もし、それを失った野党になれば、自民党は即座にバラバラになると予言しました。

 でも、そうなりませんでした。予言が外れた最も大きな理由は、自民党の地方組織の強さだと思います。確かに野党時代、中央政権では野党だった。しかし、ほとんどの都道府県、ほとんどの市町村では我が党が最大勢力を持っていたわけです。この地方組織が民主党に走ることなく、自民党に信頼を寄せ自民党の再生に努力した、というのが一番、大きかったと思います。これが、我が党と民主党の決定的な違いです。ですから党運営とは、選挙の時だけ、地方組織をアゴで使うのではなくて、地方組織のいろんな意見が反映される、そういう自民党の運営というものを図らなくてはなりません。

 選挙に勝った後、全国支部長会議もすぐに開き、支部長の意見を全部、聞きました。ですから、例えば総裁の選び方で、地方では石破が圧倒的に勝っていた、しかし国会議員だけで投票したら安倍さんが多かった、と。そこは安倍さんとも相談して、地方の意見が反映されるやり方にしよう、と改めました。あるいは候補者の選び方、現職も改選期を迎えれば、候補者の一人として選考の対象となる。現職であるがゆえに常に競争なしで候補者として続けることはダメだということにしました。このように、いろんな党改革のプランが出てきています。


安倍政権はこれまで先送りの課題に答えを出す政権である

 第二次安倍政権は、日本再生を実現する政権だと思います。私たちは今から20年ぐらい前に、一度だけ世界一の夢の国を作りました。世界で一番平和で、世界で一番治安が良くて、世界で一番長生きができ、国際競争力は世界一で、エネルギーはふんだんに使えて、医療も教育も十分受けられて、望めば若い人に職もありました。全体でいえば世界一の夢の国を作った。

 その時に、本当は社会のあり方、産業構造のあり方、というものを変えていかなければいけなかった。にもかかわらず、それに手をつけることなく、日米安保っていうのはいつまでも続くものだと、あるいは税金をなるべく安く抑えて、福祉を充実させていくことも可能だと思ってしまった。そうして、日米安保によりかかりながら、一方で、財政の面では膨大な借金になっていったわけです。国家のサステナブル(持続可能)な状態が失われ、20年をある意味その場しのぎで過ごしてきた。そのことのツケが今、問われているのです。

 その象徴が憲法解釈なのです。安倍政権は最短3年間続くとして、その間に、そういうことに答えを出さなくてはならない。その答えを出す政権だと私は思っています。


小選挙区制度の下での大勝の意味はしっかりと認識している

 ただ、選挙に大勝したから、何でもできると考えているわけではありません。
日本の選挙制度は小選挙区比例代表並立制という制度ですが、この選挙制度の下で自民党は大量当選、大量落選が2回続き、今度は大量当選の3回目です。

 その間に小泉チルドレンとか、小沢ボーイズ、ガールズという新人の多くの議員が誕生し、そして今回も安倍自民党総裁の下で一期生の国会議員が119人となりました。この選挙制度は変動が大きく大量当選か大惨敗かどっちか、と言われますが、その結果、政権交代が可能である、ということも実証しました。

 また、チルドレンとか、ボーイズとかガールズとか言われますが、二世や金持ちやタレントでなくても普通の人が議員になれる機会を与えたということにも、大きな意味があると思います。

 ただ、この制度の下での大勝の意味は考える必要があります。例えば、民主党は前回、政権交代をした時に47%の得票率で74%の議席を取りました。あたかもそれが74%の国民の支持を受けたかのような錯覚を起こしたところから、民主党のすべての間違いは始まったのです。

 私たちもこの選挙制度の特性によって今回は43%の得票で79%の議席を得ました。ただ、そういう制度なのだ、ということをよく認識しなくてはならない。だから何をやってもいいというものではない。あらゆる政策というものを、常に国民に対して畏れの気持ちを持ちながら、しかし、説明すべきことはきちんと説明する、そうした姿勢を政治はとり続けなくてはなりません。

 政策にはメリットとデメリットの両面があります。それらを国民の前に示して、それを決断した理由をはっきり説明する。それが、「本当のこと」を語るということです。

 私はこの選挙制度は基本的に正しい、と思っています。制度が間違っているのではなくて、運用が間違っていた、と思っています。何年後か知りませんが、次の選挙では今回当選させていただいた自民党の議席294のうちの8~9割は戻ってこられるようにしなければいけません。幹事長の最大の仕事は選挙に勝つことです。


我々はもう一度国民政党の原点に戻るつもりだ

 今回の選挙では自民党が一人勝ちのような状況になりました。ただ、健全な二大政党というのはあるべきだと私は思っています。政策の明らかな失敗があったり、スキャンダルなど政党としての立ち居振る舞いに明らかな失点があった場合には、政権交代が起こらなければいけません。

 私たちも前回は、選挙に惨敗して以後、もう一度、党綱領を作り直して、自主憲法を作るとか、自助、共助、公助の社会作りをするとか、税制改正と財政再建によって日本を再生するとか、自民党は何をするための政党なのか、ということをもう一回見直して、選挙に臨みました。民主党は最近、やっと党綱領をつくりましたが、どちらかと言えば、民主党は、いわゆる中道よりも少し左、私たちは中道より少し右だと思っています。明らかに自民党と違うとすれば憲法改正問題に対する考え方でしょう。そういう二大政党が競争し合い、失政があり、政権担当能力を疑われれば交代する、という政治の厳しい環境があることは良いことです。しかし、これは相手次第でもあります。自民党のほかに、もう一つ何をするための政党なのか、というものがはっきりと国民の前に打ち立てられなければ、自民党の一党支配はこのまま続くことになるでしょう。

 ただ、私の立場からすれば、この段階で他党を論評するのは適切ではないと考えます。他党との比較ではなくて、自民党はどれだけ党綱領に忠実な政党で、どれだけ開かれた国民政党であるか。それを追求し続けることが大事だからです。一般のイメージではまだ自民党は、謙虚とか、丁寧とか、親切とか、庶民的とか、そういうものとは遠い政党に見えます。国民の方に、自民党は国民がアクセスできて、変えることができるんだ、という政党、国民が、自分たちの自民党と思ってもらえる、そういう政党を目指さないとなりません。つまり、私たちはもう一度、国民政党の原点に戻ろうと思っています。

 そうした努力の結果として、我が党の政権が20年続くのなら、それはそれでいいことだと思います。綱領もない、地方組織もない、そういう政党では我が党に勝てません。


主権者たる国民に決断を迫る民主主義を目指す

 日本は民主主義の国です。そうであるからには、主権者たる国民が、自分たちが主権者ならばどうするだろうか、せめて投票の時だけはそれを考えて、一票を入れていただきたい。よく政治不信といわれます。国民が政治を信じていないのはよくわかります。では、政治家は国民を信じていろんなことを語ってきたか、と言えばそうでもない。どうせこんなこと言ったって国民は分かりっこないとか、甘いこと言っておけばいい、次の選挙さえよかったらいいよね、と思っている。政治家も国民を信じていないのです。

 民主主義の原点というのは、主権は国民にあるということです。政治家は国民に対しておもねるか、それともそこに判断を求めるかの違いだと私は思います。主権者は国民なんだから、国民の気に入るように話していたら、国家は堕落します。国民に対して、例えば消費税は上げなければいけない、TPPの交渉参加には意義がある、憲法は改正しなければ、とかを政治家は真剣に説明しなくてはなりません。こんな話は政治家にとっては面白くない話ですが、それをしなくてはならない。みなさんが主権者なんだから決めてください、と。主権者が国民ということは、国民に対しておもねるのではなく、決断をお願いする、そういう民主主義を機能させるべきだと私は考えています。

 今の日本は有事だと思っています、少なくとも平時ではない。ミサイルが飛び交っているわけではないが、危機に直面しているという意味では準有事です。私が政治家に当選したのは昭和61年ですが、まだバブルの萌芽みたいな時期でした。その時の自民党に与えられた使命と、今の自民党に与えられた使命は違うでしょう。国家の危機に政権を担当している自民党ですから、選挙民に対する接し方も有事に相応しいレベルの自民党でなければならない、と思っています。

 財政危機、エネルギー問題、あるいは北朝鮮、中国の立ち居振る舞い。今の時期、いろいろ日本は決断しなければいけない。それを政治家が国民にどれだけ真剣に語れるかどうか。日本の政治に変化を起こすためには、国民が主権者たる民主主義を機能させなくてはならない。私は自民党を主権者に対して決断を求めるような、そういう政党にしたいと思っております。

石破茂氏石破 茂(いしば・しげる)
1979年慶応義塾大学法学部卒業後、株式会社三井銀行に入行。86年衆議院議員初当選。以来9期連続当選。防衛庁長官、防衛大臣、農林水産大臣などを歴任。現在、自由民主党幹事長。
Discuss Japanへの寄稿論文(2013年2月)を翻訳。