【国と地方】 穂坂邦夫氏 第3話:「なぜ損得勘定の議論となるのか」

2006年5月24日

穂坂邦夫氏穂坂邦夫(前志木市長、地方自立政策研究所代表 )
ほさか・くにお
profile
1941年埼玉県生まれ。埼玉大学経済短期大学部卒業。埼玉県職員、足立町(現志木市)職員を経て、志木市議会議長、埼玉県議会議長を歴任。2001年7月、志木市長に就任。2005年7月から地方自立政策研究所代表

「なぜ損得勘定の議論となるのか」

 三位一体改革が曲がってしまったのは、あのような形で小泉総理から投げられてしまったからです。それは受けるしかなく、もっと根本議論をやろうというわけにもいかなかったのです。投げられたボールは返さなければいけない。そこで、数字上の議論になってしまった。

 そこで大きな話題になったのは義務教育費でした。しかし、国庫補助率2分の1が3分の1になっても、何も変わりません。都道府県が派遣会社をやっているわけですから、市町村には何の関係もない。お金を持っているのが国から県になっても同じです。そこで、興味が無いから、市町村レベルでは、義務教育国庫補助金は削減しなくてもいい、国がやればいいということになった。裏では文科省の働きかけもあったようですが。

 つまり、地方には本質的な二層性の問題がありましたが、その議論に入る前に損得で考えざるをえない状況に追いこまれたわけです。

 ただ、税源移譲には良いところもあります。地方は今までほとんどが思考停止になっており、国や都道府県さえ見ていればいいということになっています。

 ところが、税源移譲による住民税への移行は来年の6月からで、住民税は倍になり、ほとんどの人は所得税より住民税のほうが多くなる。その結果、今までは無関心でお任せ民主主義のために、住民が全然気づかなかったことが、気がつくことになる。

 三位一体といっても身近には分からなかったのが、税金のアップが来てはじめておかしいと思うのではないでしょうか。つまり、コストを意識するようになる。その点が、三位一体改革で最も評価できる点だと思います。

 補助金というものは行政の話ですから、住民には関係ありません。住民税は地域の人口などによってばらつきがあるから、税源移譲で入る地方のお金は全体としてマイナスになる自治体が多いという話はありますが、税源の偏在は、地方交付税が補填してしまいます。特に義務教育は、市町村には痛くも痒くもない。このように、住民からみれば三位一体改革は何の関係も無い話で、単なる住民税の増税だということになります。ただ、住民が自分たちの地方を見直すチャンスになるということなのです。

 他方で忘れてはならないのは、役割分担の明確化によって地方分権を徹底しようとすると、都道府県の仕事を市町村に下ろすことになり、都道府県無用論が出てくることです。
市町村に下ろせる仕事はかなり多く、その結果、都道府県が空洞化して、国から都道府県に仕事を持ってこなければ立ち行かなくなる。

 そこまでいくと、都道府県の再編の話になります。ですから、市町村は、そんなことを言ったら親分からどんな仕返しが来るか分からないから、みんな黙っています。
逆に言えば、国がやろうと思えば、すぐに道州制は実現します。

 地方六団体と言っても、主導権を持っているのは都道府県です。三位一体改革は国が都道府県と話をしているわけです。ただ、三位一体改革がきちんとなされた暁には、今度は市町村に地方分権をするという話が、知事会、市長会、町村会の会長間で合意されたという話は聞きました。
 地方六団体が協力して、もらうものがもらえたら、今度はあなたたちにも分権しますからと都道府県が約束し、なんとか結束を保っているのが実態なのです。


※第4話は5/26(金)に掲載します。

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 三位一体改革が曲がってしまったのは、あのような形で小泉総理から投げられてしまったからです。それは受けるしかなく、もっと根本議論をやろうというわけにもいかなかったのです。投げられたボールは返さなければいけない。そこで、数字上の議論になってしまった。