「第8回言論NPO会員フォーラム」議事録 page2

2004年11月24日

〔 page1 から続く 〕

行政と市民の一体化が大事、カギはローコスト市政

要するに、行政と市民の一体化、ローコストの市政ということで始めたのですが、言葉ではなかなか分からない。ですから、そういう面で私は、ローカル・マニフェストをうまく使えば説明するのにすごく楽だ、お互いに情報が共有できるのだというふうに考えています。

コール 次の問題としては、マニフェストは透明性があり、ビジョンだけではなくてコミットメントであるという問題です。

この点に関しては3つの問題があります。1つは、マニフェストは誰でも書ける。でも、それをどうやって評価するか。マニフェストの評価はどうやってやるのか。マスコミなのかあるいは経団連や経済同友会なのか、あるいは言論NPOなのか。

もう1つは、次のステップなのですが、マニフェストで発表した目標はリーズナブルなのか、本当に今の行政で与えられるのか、実行できるのか、あるいは夢の話だけであるのか。その評価が必要であるということです。

3つ目は、政治家が選ばれて議席をとって2年、3年と経った時、2、3年前に発表したマニフェストはどれぐらい効率性があったのか、実行できたのか、目標は達成したのか、ということはどうでしょうか。日本でマニフェストが言われ始めたのはだいたい2、3年前ぐらいからだと思いますが、ブームは1年ちょっと前です。その評価システムはどうでしょうか。

北川 評価の前に、首長がはっきりと有権者・県民に約束します。県の場合の話をしますと、県議会のありようがすっかり変わります。これまでは機関委任事務によって、7~8割が国の下請けということでしたから、県議会は暇だったのです。執行部の追認機関のような格好になって、知事与党になってどれだけ利益分配にあずかろうかという、その量でということですから、県の政治というのは本当に見えてこなかったと思います。 

首長が直接約束したものですから、マニフェストにはもともとポピュリズムの要素が入っているのです。選挙のための契約ですから。だからそのポピュリズムに対して、そのデザインは間違っているとか、あまりにもハードルが低いとか、その政策のデザインなどについて県議会が本格的に追及しますから、ここで初めて政治・地方自治が始まるのです。というふうに、二元代表性の県議会が活性化するという作用があります。ですから、これは最も適切な評価になる可能性があるわけです。

知事がマニフェストで住民と政策の契約を結び実行が大事

もう1つは、執行体制です。県の職員がどう変わったかというのは、いま増田さんがおっしゃったように、そのスピードにおいて、すばやく自分の立場の証明ができ、知事が県民と約束した契約を実行するという、価値前提の仕事をやり始めましたので、そこが一気に変わった。いわゆる仕事ぶりが変わってくるというところで、従来の行政とは全く違ってきたということです。

したがって、私どもはやはりポピュリズムということについて、マニフェストにはそういう体質があることを絶えずチェックしていかなければいけないとい思います。

今まで日本には、税金による政府あるいは規制による政府と、市場の経済という二つが圧倒的だったものですから、自己実現とか達成感とかそういった勢力があまりにも弱すぎたのです。よって、政策を作ることも検証することもほとんど役人の皆さんの仕事でした。私はマニフェストの提唱者でもございましたから、民間のシンクタンクで、きちんとした、経済あるいは権力に縛られないシンクタンクが育ってくるべきだと思うわけです。

その1つが、この言論NPOの工藤さんで、そこで評価基準を作っていただいたということはとても重要です。私も早稲田大学でマニフェスト研究所という研究所を作ってシンクタンクをやっています。

評価というものを、検証というものをきちんとしていかなければなりません。政策立案だけではなく検証というサイクルを経て、さらにいいマニフェストや、そのマニフェストの実行体制が出来ていくようにしなければならないと思います。

本来、県は、県民が主役ですから、県民が審査・評価するのが本当だと思います。しかし、ある県の知事はハードルの低いマニフェストを書いて達成率が 80%、ある県はハードルが非常に高いものを書いて達成率が10%。「どちらかいいの」という横串をさすような評価も必要ですから、私は9月8日に県知事の皆さんにお願いして、相対的な評価をする場合はいかがですかと呼びかけてみた。その5人は、いわば予選リーグを勝ち抜いてきた優秀な5人ですから、すごい返事が返ってきた。

「北川さん、それこそ我々のミッションだからやってください」ということです。政府は見習ってほしいです。それで悪ければ直せばいいという知事たちの決意を、マスコミの方や学者の先生方にも分かってもらいたいということで、9月8日にやったのは良かったのではないかと思います。

次に、効率性ですが、数年前のマニフェストが古くなっているのではないかというような問題もおおいにあります。社会現象とか、交付税が突然打ち切られたとか、そういった変化はいつでも起コールわけですから、その時には全部情報公開をして説明責任を県民に果たすということです。今まではそれすらなかった。だからそういう作業がどんどんと進化して、成長していくのではないかと思っています。

マニフェストの実行をNPOと共同でやることも

増田 候補者がマニフェストを作って、有権者に示し選挙という関門を経て、それが認められる。Aという候補者が当選し、Bという候補者が落選した場合、そのAのマニフェストは、その後4年間という任期の中で必ず実行されなければなりません。その実行組織は、県知事の場合は当然県組織が主体となりますが、市町村やNPOと共同する場面も出てくるため、市町村やNPOとの十分な議論が必要になります。必要な予算措置に当たっては、議会の議決が必要です。これにより議会のチェックもかかりますし、こういった過程を経て県の政策に移しかえるわけです。

議会から認められずに、県の政策に移しかえられなかったものは、マニフェストに掲げられているけれども、4年後には実現できなかったものとして×印がついて残ることになるのだと思います。

マニフェストを県の政策に移しかえる時に議会と十分な議論をする必要があります。私の場合にもいろいろと議会との議論はありましたし、そこで当然、緊張関係が高まりました。今までの政策形成のプロセスというのは、どちらかと言うと事前に議員さんにもいろいろと話をして、それで政策を作り上げていくような手法でした。

しかしマニフェストは「県民との約束ですので、候補者が直接県民に対して具体的な政策を約束するわけです。だから議会との議論が色々とありますが、県の政策に移しかえられたものは、県組織自体としてそれを評価するということが必要になりますし、おそらくどこの自治体でもそういう手続きを経るのだろうと思います。

先ほど北川教授から話がありましたが、うちも財政課を「予算調整課」に縮小・再編しました。財政課には多くの職員が配置され、県庁全体の予算編成に絶対的な権限をもっていました。反面、その後予算がどう使われ、どういう効果があったのかという検証体制は、不十分でした。そこで、各部局に予算編成を任せて、各部局の自主的・主体的な事務執行体制を構築しながら部局毎に検証をきちんと行っていく必要性を感じておりました。そこで、財政かを縮小・再編して平成13年に設置した、政策評価課(現在は経営評価課)を充実させました。このことによって、マニフェストから県の政策に移された個別具体の政策を評価する体制が整いました。

昨年4月の選挙で県民の皆さんに約束したものは、6月に補正予算で予算付けをして、今年の3月までその事業をやって、それを次の年度に入ってすぐきっちりと評価して、8月上旬に県民の皆さんに示しました。

政策評価は第三者機関に、同時に自己評価も必要

まずその経営評価課で、県としての達成状況を評価をして、その評価に基づいて、改善すべき点を洗い出し、今は、来年度予算でどういう政策を作り出していけばいいか庁内で議論しているところです。

そういうことを、第三者の委員会にもかけて丁寧にやっていますが、ただ、これはあくまでも県の中での自己評価です。第三者機関の委員会にもかけながら出来るだけ客観性を保つように努力はしていますが、所詮は自己評価です。そういう点から言うと、県内の、例えばNPO団体で、政策を評価していただければ評価に客観性が出てくると思います。残念ながら、本県には評価能力を兼ね備えたNPOは一つあるかないかで、しかも全部の領域を評価するのはなかなか難しいと思います。それでも、重要な政策だけでもそういうNPOに評価して頂きたいと思っています。

一方で、評価する能力を有するようなNPOを育成するということも大変重要ですし、さらには9月8日に5県知事が一同に会してローカル・マニフェストを検証しましたが、それぞれの県がそれぞれの基準で評価検証するばかりでなく複数県について同一の基準を用いて評価・検証すればいわば対証券を横串で刺した形かたちとなり客観性が高まると思います。そういう場がこれからも必ず必要になってくると思います。

穂坂 評価基準の話が出ましたが、北川先生にぜひやってもらいたいのは、ローカル・マニフェストのPRに尽きると思います。先ほど言ったように困難性、ハードルの高低の問題があります。いくら約束を守っても、それが県民や市民のプラスに結びつかなければ何もなりません。ですから、そういうことから言えば、やはり国民や県民、住民の皆さんがどのようにそれらを評価するか、そこが完全なポイントになることは間違いないのです。

しかし、今の状況ではやはり言論NPOが作ったようなものをどんどんローカルに拡大してもらって、少なくとも住民の皆さんが「ああそうか、マニフェストというのはこういうものか。そしてこういう評価が出るのか」となるようなものをぜひやってもらいたいと思います。それが分からないと、どうしても一部の唯我独尊みたいな形になってしまうので、そこのところをぜひお願いしたいと思っています。

それからもう1点。埼玉県は上田知事がやりました。成績があまり良くなかったので本人もむくれていましたが、私も、最大会派の県議団長や県議会議長、県連の幹事長などいろいろとやってきて仲間の議員が結構いるのですが、マニフェストを市長が作り上げてしまうと、議員は作れる術がない。

要するに、選挙になった時も、対抗馬は作るでしょうけれども、地方の場合、マニフェスト作るというのは、議員では無理です。それはご承知のように、二元制の中で、片方は会派構成がいろいろとあって、どうしても政党で分けていますし、私は30年も議員をやりましたが、いろいろと要請を受けてしまう。あれもやれ、これもやれと。ですから、市町村長や知事は作れるけれども、議会はとても作れないという難しさのところを、これからどのようにクリアしていくかです。基準ではありませんが。

公募の市民が予算をつくる第2の市役所

うちでは、市民が予算を作るようになった。第2の市役所というのを作っていまして、去年から、公募の市民委員が予算を作るようになりました。それから、今年も予算編成で、市民の皆さんが7時ごろから集まって各部会に分かれて、必死にやっています。市民が作り、そして私たちが作る。いま丁々発止やっていますが、私はマニフェストも市民が作ったらどうかと思って、この間その話をしましたら、今勉強している最中だと言っていました。

市民が作るようになれば、それもPRの一つですし、本物になってくるのかなと思います。議会に「予算を作ったらどうか」と言ったら、「勘弁してくれ」と断られました。とても無理だと。うちは170億ぐらいの予算額なのですが、10倍ぐらいになってしまうと。私も議員の時には結構あてずっぽうでいい加減なことを言っていましたから、無理もないなとあきらめたのですが。

それと、ローカル・マニフェストをどのようにして予算と整合性をもっていくかということが、これからの大きな課題なのではないかとも思っています。

北川 ちょっといいですか。市民から書くという動きはすでにいくつか起きています。8月7日に奈良のNPO団体に、穂坂さんと多治見の西原市長さんといっしょにお邪魔して、シンポジウムを行いました。市民からマニフェストを書いて、それを候補者に見せて、一番フレンドリーな候補者を応援しよう、そして4年間市長の市政を全部チェックしていこうということをやっていこうという運動です。市役所の下請けのような今までの市民自治会などとは違い、「バイザピープル」で市民こそが立ち上がって、自分たちでつくりあげようということです。マニフェストは政党とか首長の皆さんが書かれるのは当然ですが、市民から立ち上がってやろうという動きがすごく出てきています。その結果、奈良市では、現職は落選しました。市民から変えていくという、民主社会を作っていく一つの気づきの道具として、マニフェストはとても有効に働くと思います。

執行権のない議会がどうするかという議論は当然大きな課題でございまして、私は必ずローカルパーティーに行くと思っております。従って、自分たちの議決権を行使しようという動きが、執行部追認型の議会から自立型になりますと、議員提案条例をはじめ様々な動きがでてきて活発になります。

そうすると、議会の過半数をとらなければ議決権行使ができませんから、ローカルパーティーというのは必ず出てきて、同じ政党でも、国の政党の下請け機関というような政党から自立が始まっていくと思います。したがって、国のパーティーと地方のパーティーが対等で協力の関係になって、緊張感のあるローカルパーティーが育ってきて自治が育っていくということに、必ずつながっていくと思います。

もう一つ、検証評価は、増田さんや6県の知事と私どもで、マニフェストにとどまらずに政策評価・行政評価も一緒にやっていこうということになり、ビジネスにしたほうがいいのではないかということを検討し始めました。そして、それが無理ならばNPOで行こうということで、今、懸命に努力しているところです。実はマニフェスト以前から、第三者評価をしなければ、我々が勝手に内部評価をするとお手盛りだといわれました。もっと外部評価・第三者評価を入れろという話に当然進化していくと思うのです。

したがって、やはり各県の主権者が評価をするというのが本当は一番いいと思います。だからそれを頑張って作ろうと思います。そのために、早稲田大学のマニフェスト研究所や言論NPOなど、そういったところで、ひな形を作りながらやっています。

マニフェストの効果を穂坂さんが全国に知らしめろということで、ちょっと今から宣伝させてください。11月27日の1時半に早稲田大学14号館 201教室で、市長さんのローカル・マニフェスト検証推進大会をやります。9月8日の知事の大会に次いでやろうということですので、どうぞ皆さん、いらっしゃってください。このお二人も今、お越しいただくことを約束していただきました。

その時にはできたら全国8つの地区に分けて、ネットワーク、フランチャイズで、北海道から九州まで8地区で、マニフェストをどうやって作ったらいいか、あるいはどうやって検証したらいいかということも発表したいと思っています。

言論NPOの工藤さんの言い方を借りると「言論不況」で、公約はないがしろにされて、あってもなくても同じだという、そんなことで選ばれた政治家が信頼されるわけがないという原点に戻り、守るべき政権公約・マニフェストをだんだんと精緻化し、グレードアップしていくという努力が、為政者のサイドにもなければいけませんし、我々民間サイドもやはりその努力はしていこうということで、9月8日に続いて11月27日に頑張ってもう1回やります。そして、市町村合併による選挙は、断固マニフェスト型の選挙をやるということにしたいのです。オール与党・オール利益代表推薦でという形だけは断固阻止します。

理念型選挙で地域から変われば07年にクラッシュが

人口が減少していって、いわゆる国がクラッシュ、地方でもやがてクラッシュが必ず起きると思います。2007年あたりにある総選挙、統一選挙、参議院選挙を目指して、本当に日本の民主主義社会を多少でもレベルアップするために、このマニフェストを存分に活用したいと思っています。PR時間を与えていただいてありがとうございました。

コール 工藤さんには、積極的に頑張って評価水準を作っていただいたのですが、どうでしょうか。

工藤 評価の話が出たので、ちょっと説明させてもらいます。今の話を聞いていてよく分かるのは、ローカル・マニフェストというのは、それ自体が目標ではなくて、それがこれから国と地方の関係を作り直す一つの進化のサイクルなのだと思います。だから、ローカル・マニフェストはまだ途上なのです。つまりそれに完成形なんてないのです。

なぜかといえば、地方は、本当の意味で自立してないからです。だからこれは、このプロセスを進めることによって、地方が本当に自立、つまりさっき穂坂さんもおっしゃっていましたが、住民なりその人たちが決断できるというシステムに変える動きでないと、この運動はダメです。

私たちはマニフェストの評価基準を作って、小泉政権を2回評価しました。この時の評価基準というのは、ある意味でかなり楽です。つまり、それはビジョンの問題の不鮮明さ、政策の対立軸をはっきりさせることによって、ある程度の評価が出来るわけです。

ローカル・マニフェスト評価は難しいが絶対に必要

しかし、ローカル・マニフェストの評価は非常に難しい。なぜなら、皆さんは地方の中で独立した経営者でありたいと思っているのですが、独立した経営者なんて一人もいないからです。どんなに地方で自立したと言っても、それは、基本的には国の枠組みの中で与えられた財源の中で、既存のシステムの中でやっているにすぎないからです。おそらくローカル・マニフェストを実行しようと思えば、その矛盾がどんどん出てくるはずです。だから、その矛盾をはっきりと県民に示すことが重要なのです。

この前、早稲田大学の評価の時に、古川さんか誰かが、ローカル・マニフェストをやっていたらみんな同じマニフェストになってしまうのではないかと言っていたのですが、そんなことはあり得ない。自立していないとすれば、どうすれば自立できるのか。それから、地方には地方に直面している課題があるので、それをどう克服するのか。先ほどからコールさんが言っているダウンサイジングの議論というのは、それは当たり前の話で、いま日本経済がかなり厳しい状況の中で、本当にそれを自立させるとしたら、県民に対しても、住民に対しても、ある程度覚悟を求めなければいけない。そういう段階に入るわけです。

その時に、マニフェストの形態を使って、サービスはこうします、こういう形態でやっています、サイクルはこうです、というのから、私たちは先駆者だと言っている人たちを評価してはいけないわけです。本当は厳しくてもこういう状況です、あなたたちはどういうサービスを求めますか? と。そのサービスを私たちは実現するために、国に「こうします」というところまで主張すべきなのです。そういうマニフェストを掲げてほしいと思うわけです。

言論NPOで独自の評価基準を作成

その上で、では、その進化の初めの段階でマニフェストをどう評価するか、というのが、言論NPOが出した評価基準なのです。これから出てくるローカル・マニフェストはほとんど評価できると思います。なぜかといえば、このローカル・マニフェストの評価基準というのは、マニフェストサイクルを実現するための評価基準だからです。つまり、候補者が県民に約束をする、それを県の施策として位置づける、それを実行するようなプロセスを作り出す、もしできなかったら県民に説明する、そういうことです。

そして、その形にかなり近いのが、増田知事のところなのです。言論NPOの評価基準はかなり厳しいのですが、それでも増田知事の岩手県を評価してもかなりの点数が付きました。それは、増田知事は自立ということを掲げながら、その限界も知っていて、それを県民に説明しているからです。

私たちの評価基準は、読んでいただければ分かりますが、その候補者のマニフェストの要件、プロセス、県の施策に位置づけられたか、インプット、人、財源、体制、それを投入してそれを実現するプロセスにきちんとしたのか、アカウンタビリティーはどうなのか、県民に説明したのか、過去の計画に対して修正を加えるということがあったらそれを議会も含めて県民にきちんと説明しているか。単に議会で説明しているだけではだめです。県民なり住民から質問があった時には答える努力が、システムとしてきちんと機能しているのか。こういうことは最低限のことというか、マニフェスト型の政治をやるのなら当たり前です。

ここまでで、私たちの第一次評価基準は一応良しとしたわけです。だけど、本当のことを言えば、忸怩たる思いがある。どうしてかというと、マニフェストそのものの妥当性の評価基準を、この中に入れてないからです。僕たちは、国際マニフェストでは、マニフェスト自体の妥当性を評価しています。安全保障、環境、財政、経済対策、全て政策論に入っていくわけです。しかし、ここは入ってはいけないのです。それは、今そこの段階まで行っても、システムのミスマッチがあるがために非常に酷です。だけど僕たちはそれを全く無視するということにはしなかった。

そのために、最後のところで「評価者の主観」という、主観で判断してくれというところを5項目入れました。それは、先ほどから出ている知事のリーダーシップの問題で、本当に住民を主体とした自治体、経営に変えようとしているのか、単なる選挙目当てではないのかと。けっこういますよ。さっき埼玉県がふくれていたといっていましたが、その評価をしたのは僕です。ただ、埼玉県はふくれていたのですが、ディスカッションするうちにすごく進化した。1週間ぐらいで。本当にびっくりしました。だから多分、皆さん学習能力とか進化能力はあるのです。

そのリーダーシップは絶対に問われなければいけないのですが、それだけではありません。多分、いま各地方に求められている課題というのは、日本の将来に向けられた課題そのものです。それを地方が乗り越えるような挑戦とか先進性を持てるかということを、僕たちは問うているのです。おそらく、これから自治体が、今の状況では破綻に追い込まれるところがたくさん出てくると思います。それをどう乗り越えるのか。さっきコールさんが言っていましたが、税源の問題も含めて産業をどうしていくのか、どういうふうに将来の地域ビジョンを示せるのかというのが問われるわけです。

それから、自立に向けての方向、それをどういうふうに進めようとしているのかと。さっき増田知事が一つの解答を言っていました。ローカル・マニフェストで自立をと主張した知事は、間違いなく三位一体でも国と地方の関係でも徹底的に戦わざるを得ない。それをやらないと、嘘をついていることになりますから。それから、単なる首都圏連合と言っている人もいますが、そんなことで僕たちは絶対に騙されません。それなら誰でも言えますから。どういう首都圏連合を作って、国と地方の関係をどうドラスティックに変えるのか、そこまで僕たちは問います。

ただ今回は、そこまで僕たちの評価基準には入れませんでした。マニフェストの妥当性を評価したいのですが、まだ今の段階では評価できないからです。だから今は、マニフェストの促進型において、僕たちがやっている評価基準は誰でも納得できる評価です。プロセスですから。サイクルの問題ですから。こういう形を忸怩たる思いで定義し、しかし民間側はそんなに甘くないぞということを言いたいのです。

マニフェスト型政治を作るための二つの条件は、知事や行政側のトップがどれだけそれに使命感を持ってやるかということが一つです。

それからもう一つ、決定的に大きいのは、そういう健全なる社会を作るためには、健全な個人がたくさん出なければいけない。自立した意識をもって、自治体側に本当の意味で関わっていく、そういう人たちがどんどん出てこなくてはいけないわけです。その人たちにとって、マニフェストの評価というのは本当に意味があるわけです。単なるブームのための手段を提起しているわけでなく、その人たちが出て初めて、知事主導、行政主導のマニフェスト運動が逆転するのです。だから北川さんや増田さんがやっている現象というのは、ある意味で非常に不健全なのです。市民側から「こういう政治はもう許さん」ということが出てきて、そういうことによって逆転するのです。

ただ、そのためには言い出しっぺが必要で、どんどん叫び続ける人が必要です。そういう意味で、みんながリーダーなのです。だからこの人たちと一緒にやるしかないという苦しいところなのですが、逆に言えば、市民側が、住民側が本気を出さないと、教育されるとか啓蒙される段階で終わってしまうということなのです。

北川 上田知事の名誉のために言っておきますと、上田さんは、去年8月31日に当選されました。本当は、去年、統一地方選挙で当選した方が、1年間経過して、8月までの間にご自分たちで内部検証されているということで、その内部検証を評価しようと思ったのですが、他の方の都合もあり、上田さんにお願いしました。

増田さんがナンバーワン、というか高い点数だったのは、増田さんは理念を具体化するためのマネジメントを8年でずいぶん整えられてきていたのです。制度を変えたり財政課をなくしたり。だから、そのマネジメントに落とし込んでいるということで、点数が高かったのです。

ところが上田さんは、1年半も経ってなかった。8月31日では1年しかないから、内部検証する時間やマネジメントの時間がなかったから、彼の点数が低かったのは当然です。しかも不幸なことに、工藤さんが評価したから余計に悪かったのです。それでも彼は79点で、ハイレベルでした。彼は、ウィルは強いから大丈夫、方向性は正しいということだったのですが、マネジメントのタイムラグがあってかわいそうだったということが一つです。

もう一つ、首都圏連合を言ったのは明らかに松沢知事ですが、彼の評価をどうするかというと、「それで実現可能なの、国が反対したらどうなの」というのを評価するかどうかは大きな課題です。しかし、そういう目標に向かって断固やろうということは評価しなければ成りません。実はこの間の9月8日の検証は、任期4年中の初年度のものでした。初年度で検証できるのは、なかなかアウトカムまではいかず、資源投入量といいますか、インプットぐらいでしかないということでした。独立した政府として、そういった首都圏連合も含めて断固やろう、そして国を変えようという意気込みがあって、それは評価しますが、そのあたりの妥当性については、我々も今後検証のレベルをあらゆる角度から上げていこうと思っています。

今年5月12日の政党マニフェスト評価の時は、それぞれの団体がご自分のスタンスを明確にして、経団連は経団連で評価し、連合は連合で評価したのです。今回は相対的な横串ですから、客観評価でいろいろな角度の評価があっていいと思います。自立した地球市民を作ることが我々の最大の目標です。「バイザピープル」、日本で一番遅れていると思うのですが、自立した市民によって投票率も90%を超えて、自分たちで断固変えようという、そういう意識を醸成するためにも、我々は頑張らなければいけないとこういうことでございます。

ただ、増田さんの評価も実際は高すぎたのですが、この方に20点をつけたら、後は誰もついて来ないでしょう。推進のための検証大会でしたから、甘かったのです)。

それから推進の運動家としては、僕も工藤さんみたいなことを言いたいけれども、そうすると、運動体がみんなしぼんでいくでしょう。だからこれからは、推進する大会と明確なシンクタンクで、検証すべきことはするというシステムを、この国に入れていかないといけないと思っているのです。それを官僚が全部やっていたところに日本の不幸があったのです。進化論でございますから、決して私どもは不健全ではないと、御理解をいただきたいと思います。

工藤 さて、ここで、会場から、ご質問をたくさんいただきました。まず、黒川さんという方から、増田知事への質問です。

増田知事が成功しているのは、支持が結構あるからであって、県民側がマニフェストをきちんとやってほしいとか、そういう流れの中で動いているのではないのではないか、県民と増田知事の間にはまだギャップがあるのではないかと。そのへんについてお話しください。

増田 まず、9月8日のことを私のほうからも申し上げたいのは、あそこには5人の知事がいたのですが、それまで現職の座にあったのは私1人で、あとの4人の方は新人の知事さんでした。それから、今ご質問の中にあったかもしれませんが、私の選挙ははっきり申し上げて、共産党の方が対立候補で選挙の白黒は事前に予測がつくような選挙の中で、マニフェストを出したという......。

北川 私も、きちんとそういうことは計算して、選挙に関係なく書けるという人に頼んだのです。

増田 はい。それから、もう1人頼まれたのは鳥取県の知事ですが、彼は対立候補も立たず無投票で当選してしまったので、マニフェストすら作らなかった。本人は作ったと言っているのですが。そういう状況でした。対立候補が共産党だから「30%公共事業カットする」ということを書けたのでしょう? 厳しい戦いが予測された場合でもそう書けましたか? という声は確かにあります。

マニフェストを掲げて当選した後、順調なスタートを切ることができたのは、職員がその後のマネジメントを予測しやすかったということがあります。知事は、すぐそれを実行するだろうな、そのためにこういう準備をする必要があるだろうということで、選挙期間中に知事がいないからといって別にゴルフして遊んでいたわけでもなくて、きちんとマニフェストを読んで、その後の対応のことをいろいろと考えてくれていたからだと思います。そういう条件があったと思います。

松沢さんは、ずいぶん苦労されていて、議会との関係もいろいろあると聞いております。いきなり乗り込んでいった時にどういうことがその中で起きるのか、あるいはマニフェスト自体をどこまで内容として濃いものになし得るのか、現職と新人とでは多少違ってくるでしょう。私は原書のアドバンテージを極力排除すべしとの考えから、既存の公表された資料から導き出されることしか使わないようにして作りました。担当職員を呼んで未公表資料も駆使してより精緻なものをがっちり作ろうと思えば、やってやれなくはなかっただろうと思いますが。

工藤 増田さんがマニフェストを掲げて当選したのは、マニフェストではなくて、増田さんの人気があったからなのではないかと。本当の意味で、県民がマニフェストに強い関心を持っていたのか、それは感じましたか。業界とかそういう人たちから批判があって、それを乗り越えてマニフェストをやったのか。その点について、何人かの人から質問がありました。

増田 私自身は、選挙の結果については正直自信がありましたのでマニフェストを「投票の判断材料」というよりも「政策転換の大きなきっかけ」に活用したいという気持ちがありました。それで、3期目の当選をした時、あるいはその前から、今まで自分のやってきたことをも否定して、もう一回やり返さなければ3期目を継続していく意味がないという覚悟で、流れをがらりと変えるつもりで書いていました。

住民の投票によりマニフェストが信任を得たということを原動力としたいので、「苦い薬」も含めて達成させなければならない政策を全部入れ込んで書かなければならないと思っていました。

結果として、得票数は、前の選挙が68万票であったのに対して投票率が3%ぐらい下がりましたが、ほぼ前回と同数の67万票でした。マニフェストは配れなかったのですが、マスコミには「30%の公共事業削減等について、ずいぶん報道していただきましたので、県民の皆様方にマニフェストに掲げた政策をある程度伝わったのではないかと思っています。仮に当選できても、例えば40万票程度にとどまった場合、前回に比べて20万票が減りますので県組織のトップとしてマニフェストを推進していくにはやはりパワーが落ちるのではないかということを気にしておりました。

そうした懸念もありましたが、県民の皆さんは非常に冷静に、全体として判断していただいたのではないかと思います。それから、政策を大きく転換させることは、総合計画を変更する程度の手法では出来ないことですので、マニフェストは時代に即応した、大きな政策転換を図る上で大変有効なツールであるということを、改めて実感しているところであります。

工藤 次は北川さんに。上山さんからの質問です。さっきのレベルの低いマニフェスト、レベルというか、改革期におけるマニフェストを掲げる、つまり痛みであっても行動問題も含めて主張するマニフェストを書いた人が、今のメディアとか住民になかなか受けなくて、言葉は悪いですが、甘いマニフェストを書いた人たちが受けるという現象があった場合、それをどのように支持、判断すればいいのでしょうか。

北川 今までは、スローガン政治公約で、体系立っていなかった。だから期限や財源やロードマップをつけるということは、体系立った公約にしてくださいという意味があります。従って、政策が体系立ちますから、ここの財源でこうするということをはっきり書くと、ばらまきに歯止めがかかります。

マニフェストの作り方も、あるいは検証の仕方もまだまだ未整備でございますから、これからさらにそれを進化させていくために、こういったシンポジウムとかあるいは私どもの検証大会とか、あるいは8地区に分けて大いにこういう方たちにも参加いただいて、みんなでマニフェスト型選挙にしましょうという運動、ムーブメントを起こしていく必要があると思っています。

したがって、一気に最初から全部を求めるということはなかなか難しいと思います。今までの民主政治というのは、ちょっと失礼な言い方になるかもしれませんが、為政者が無責任で、役人が先送りで、国民がお任せ政治だという、わずか20年で700兆円の借金ができたのは、国民の責任でもあるわけでございます。従って、民主主義がいかにもろいものかということをみんなで意識しながら、民主主義のレベルを上げていくという猛烈な運動を起こし、21世紀の新しい民主主義を作るのだという、そういうところがないと、歴史が証明するごとく、大衆政治が行き渡ると、窮地にいたった時に、鉄人とか賢人宰相を求めるのが夜の常です。

ビスマルクが出るのはごくまれなことで、ほとんどヒトラーかサダム・フセインが出ます。これは日本も正直危ないと思っていますから、進化論でいきたいと考えております。

工藤 議会とマニフェストとの関係。さきほど議論に出ていましたが、ローカルパーティーということに関して、穂坂さんはどう考えていますか?

穂坂 北川さんはそういうふうに話しましたが、なかなか難しいでしょうね。それは理想論だと思います。ただ、理想はそこに持っていかないとなかなかうまくいかないものなので、それはそれでいいと思うのですが、大変難しいだろうなと。私は長い間県会議員、市会議員をやっているのでそう思います。それから、ローカルパーティーというのは、非常に難しいと思います。

それから、上田さんの話ですが、上田さんは私と同じ町なのです。選挙に出るときも、どうだろうという話がありましたので、やれやれと言ったほうですから、名誉のために言っておきますが、むくれて頑張っています。なかなか頑張っていますよ。

工藤 そうですか。それは安心しました。

穂坂 それから、一点だけちょっと。うちは無理やり自立しようと思っているのですよ。要するに、国は今のままでいいと。北川さんや増田さんは政治家でしょうからそこで頑張ってもらって、私はその辺の支配人ですから、国に文句を言うけれども、それはそれで、頼らないと。志木市は小さいのだから、職員の500~600人がみんな辞めて、50人だったら十分食っていけるのです。うちは都市圏に近いですから。ですから、無理やり自立しようと。そのために、このローカル・マニフェストを利用しようということです。このことも一つ理解をしてもらいたいと思っています。

コール 本当にありがとうございました。言論は結果主義ではありませんが、素晴らしいディスカッションになりました。3人のマニフェストの専門家とプロと実現者の方、お越しいただきましてありがとうございました。皆様もお忙しいところお越しいただきましてありがとうございました。

牧野 パネリストの皆さん、どうもありがとうございました。(拍手)

それから、ちょっとPRをさせてください。言論NPOは年4回、雑誌を出しております。例えば、「日本の進路とパワーアセスメント」。これは日本の強み弱みは一体何なのかというような格好で、将来の選択を我々は議論して書きました。こういう本もぜひ参考にしていただきたいと思います。これを機会に我々も会員フォーラムを皆さんにオープンにしてやっていこうと思います。今日はどうもありがとうございました。