尾崎護 (国民生活金融公庫総裁)
おざき・まもる
1935年生まれ。58年東京大学法学部卒業後、大蔵省(現財務省)入省。大臣官房文書課長、国税庁長官などを経て、92年大蔵事務次官、93年退官。国民金融公庫総裁を経て、99年より国民生活金融公庫総裁。主な著書は「G7の税制」「低き声にて語れ」「21世紀日本のクォヴァディス」、「上書保存」「税の常識〈平成13年度版〉」など。
北川正恭 (三重県知事)
きたがわ・まさやす
1944年生まれ。67年早稲田大学第一商学部卒業。三重県議会議員を経て、83年衆議院議員初当選。90年に文部政務次官を務める。95年より三重県知事。ゼロベースで事業を評価し改善を進める「事務事業評価システム」の導入や、2010年を目標とする総合計画「三重のくにづくり宣言」の策定・推進など、「生活者起点」をキーコンセプト、「情報公開」をキーワードとして積極的に県政改革を推進している。
概要
厳しい経済、財政状況のなか、NPOも含めた民と官、あるいは国と地方の関係の見直しが問われている。国の視点をもつ尾崎氏と地方から変革を進める北川氏が、この難問に挑んだ。中央集権型パラダイムからの脱却なくして問題解決なしという点、NPOへの期待の高さという点で両者の認識は一致。示唆に富む対談となった。
要約
経済、財政状況が厳しいなかで、民と官、あるいは国と地方の関係をどう再構築していけばいいのか。旧大蔵省で事務次官を務めた尾崎氏と、地方から日本の民主主義にパラダイム・シフトを起こそうとしている北川知事が、その思いをぶつけ合った。
議論の出発点として両氏とも、既存の中央集権型パラダイムのもとでは現在の厳しい状況は乗り越えられない、という認識を表明。「新しい価値をもつくり出すという情熱」(北川氏)に基づく「新価値創造」が必要だという危機感を明らかにした。
一方尾崎氏も「『人口が減っていく国が、総量で競争するのは無理』であり、地方分権は、日本がパラダイム転換を果たすために残されている数少ない手がかりだ」と述べる。
では、どのようにしてパラダイムを変えていくか。尾崎氏は「自分たちに必要な費用は自分たちで負担する」という前提のもとで、税制を変えていくことの重要性を指摘している。北川氏は、それよりも「地方分権を中心として、地方から社会の矛盾を徹底的に洗い出していけば全体最適が見えてくる」という立場で一点突破を図るという。そして、それを可能にするのは「情報公開」だと主張する。情報公開によって、住民は自己責任を問われることになり、情報を共有することによって、「このままでいいのか」という議論が生まれたとき、民主主義は成長していくからだ。
その際、重要な役割を果たすのがNPOという点で両氏は一致する。NPOとのコラボレーション(協働作業)によって、官と民は互いに学び合い、官と民の境目について不断の見直しが行われるようになる。尾崎氏も、「NPOは、何か新しいものを日本につくり出す力をもっている」と強い期待を寄せており、この点は2人の主張が一致。その試みとして、地方の図書館などの施設でNPOにその事務などを担当させるなどのアイデアが出され、三重県がそれを検討していることが報告された。
こうした住民との協働作業は、住民に対する情報公開が前提になる。その実現について、北川氏の積極性に対し、尾崎氏は「国家機密のようなものもあり、何でも開示というわけにはいかない」と発言した。北川氏は、尾崎氏の発言について「まだ官の論理が優先しすぎている」と指摘。まず「思い切って公開するところから始まる」とし、国側の視点と地方の視点の違いが見られた。
国の財政再建の進め方に、市民、住民との協働という視点から発想の転換を求める、非常に示唆に富む対談となった。