「議論の力」で強い民主主義をつくり出す
これまでの分権改革についていいますと、残念ながら地方側が大幅に譲歩せざるを得ませんでした。譲歩せざるを得なかったというよりは、国に地方の思いを吸い上げてもらえなかったという方が正しい。三位一体改革では、基幹税である住民税への税源移譲が実現したという点は評価ができますが、補助金の見直しはただ補助率の変更ということで、国が関与する仕組みは変わっていません。右から左に財源を移譲して、形式上、地方に税財源が移ったように見えますが、地方自治体をコントロールするという形での霞が関の役割、自治体の置かれた立場には変更が加えられませんでした。
地方分権改革は公務員制度改革をやらないと絶対できないと私は思います。中央官庁に入った人は、自分のキャリアパスも考えた上で職業として選択をしています。地方に仕事を任せると、今まで自分たちがやっていた仕事がなくなってしまうことになりかねません。これでは、職場が存在意義を失い人生設計が狂うことになりかねません。今のような形で各省採用をして、そして、天下りも含めて自分の人生設計を役所に依存するような職業公務員の体制が維持されている限りは、結局何回やっても同じことになるのではないかと思います。
第一期の分権改革が中途半端に終わった背景には、何のために地方分権をするのかを十分に伝え切れなかった地方側にも問題があります。今、道州制についてどうかと問えば、6割以上の人が反対と答えています。それは多くの人が市町村合併が期待はずれだったと感じているせいもあると思います。市町村合併の結果、今まで自分たちのことを自分たちで決めていたのが、決める主体が遠くに行ってしまったということで、住民にフラストレーションがたまっています。今、知事が持っている権限をそのままにして都道府県合併のような形で道州制をやれば、さらに自治が遠くなってしまう。知事が持っている権限は全部基礎的自治体に渡した上で、国の権限の受け皿として道州制をつくるということであれば話が違うはずです。そこが十分理解されていません。
新潟は地方分権の疑似体験をしました。それは中越大震災の後、国に復興基金をつくってもらったことです。国ははっきりそれを言わないと思いますが、国の制度の中には実態と合わないところがあるということはわかってもらえました。だから、この基金は全く国側の基準は持っていません。お金をどんとあげるからその中で自分たちで解決してください、ということで基金をつくってもらったというふうに我々は受け止めています。
その結果、まさに生活再建できるような形で、国の了解がなくても地元で決められるようになりました。これで、本当に必要な人に必要な支援を行うことができる。さらに、県でも現場からは遠いという部分もあって、市町村のニーズに合わせた制度を2カ月か3カ月ごとに追加をしたため、復興の過程の中でさらに現場の実情に合わせることができました。
そういう意味でも、地方分権というものが自分たちの満足度を上げるんだということを、多くの人に理解していただかないといけないと思います。国と地方の権限争いみたいな形でこの地方分権をとらえられるのは全く不幸で、住民の皆さんの満足度を上げていくための手段だということをアピールし切れなかった。そこは我々知事側にも課題があると思います。自分の財布の中のお金は熟慮して使い道を決めますけれども、それが町内会になると若干ラフになり、さらに、それが市からもらえるということになると、必要性はそれほど高くなくても使おうかという感覚になってしまします。いかに自治が住民の近いところにあることが有意義なのかを実感としてわかるようにしていかないと、何のための地方分権かというのもわからないし、何のための道州制かというのもわかりません。それを訴えていくのが知事の仕事かなとも思っています。
国の事務でも内政にかかわることについては、県はその受け皿になっていくべきだと思います。私は基本的には基礎的自治体がすべての権限と財源を持って意思決定できればいいと思っています。ただ広域的、専門的な業務は、広域自治体が担う部分があると思います。例えば鳥インフルエンザの問題です。すべての自治体に毎年発生するわけではありません。県内でも鳥インフルエンザに対応できる職員は数名しかいません。しかし、それをすべての基礎的自治体が持つというのはどうなのでしょうか。広域的な観光行政や企業誘致のようなものも、すべての基礎的自治体が始めたら不経済なことになりかねません。やはり仕事場と住宅と業務集中地域など、もう少し広い範囲で行政を考えないといけません。そのため広域自治体の役割は残ると思います。もちろん道州制ができれば都道府県は要りません。しかし、道州制ができるまでは広域自治体としての役割は必要だと思います。それまでは、国と広域自治体と基礎的自治体の3層は要るのではないでしょうか。
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