「日本の知事に何が問われているのか」/大阪府知事 太田房江氏

2007年5月22日

 「日本の知事に何が問われているのか」をテーマに、全国の知事にインタビューを続行中です。
現在の発言者は太田大阪府知事です。

camp4_osaka.jpg太田房江 (大阪府知事)
◆第1話:5/22(火) 「知事は地域経営のCEO」
◆第2話:5/23(水) 「押さえ付けられている手をはねのけたい」
◆第3話:5/24(木) 「アジアの中の"グレーター大阪"」
◆第4話:5/25(金) 「対東京で何が"強みか"を見極める」


太田房江 (大阪府知事)
おおた・ふさえ

1951年生まれ。75年東京大学経済学部卒業後、当時の通商産業省に入省。産業労働企画官、生活産業局住宅産業課長、近畿通商産業局総務企画部長、岡山県副知事、消費者行政担当審議官を経て、2000年2月に大阪府知事に就任。初の女性知事として日本中の注目を集めた。
「地域主権」、「生活者の視点」、「公民協働」を政策の基本に据えて府政をすすめ、「子育て・少子高齢化対策の推進」、「多様な人材の活躍支援」、「大阪産業の成長支援」や「災害に強いまちづくり」への取組みを強化している。

第1話 知事は地域経営のCEO

私は改革マインドのない人は知事には絶対なれないと思っています。私もそうだったつもりですし、ほかの知事の皆さんもそうだと思います。この間、世代交代というのか、先の選挙でその顔が大きく変わりました。その中で分権改革を進めるのに誰を旗手として、どういう姿で国民から見てわかりやすい形で進めていくのかが今問われているのだと思うのです。

増田さん(寛也前岩手県知事)や宮城県の浅野さん(史郎前知事)のように、これまで表に出てそれをうまく伝えておられた方々がいなくなった。分権改革をこれからどういう形でどうメッセージを伝えながら世論を引き付けながらやっていくのか、という意味で、これは知事全体にとって1つのターニングポイントになっていると思います。

ただ、分権改革についてはいわゆる改革派の知事の方々だけが進めてきたものではなく、みんなで進めてきたものです。だから、これからは国との関係でそれぞれの局面で、47人の知事がそれぞれタフ・ネゴシエーターになってやっていくことが大変大事だと思うのです。

知事に求められる資質として最近よくいわれるのは、例えば企業誘致や、IRといういわゆる地方債の発行に係る金利をどうするかというようなことについて、地域経営の責任者としての役割が非常に高くなっているということです。知事は地域経営のCEO(最高経営責任者)といっていいのではないかなと思います。これは過去になかった役割です。

地域経営には企業誘致などの側面と共に、もう1つ、コーディネーターとしての側面があります。公民協働といわれますが、公共サービスの担い手としてふさわしい企業を公益実現の新たなパートナーとしてとらえ、連携する、そういう意味でのコーディネーターを務めることもこのCEOの役割です。

また私は、つい最近、地方独立行政法人を含む23の機関で不適切な会計処理が行われていたのですが、このような問題に政治家としての感覚を持って処理しなくてはならないものがたくさん地方にもあります。府民の目線に立って仕事をし、その実行に政治的なリーダーシップが問われている。これは、危機管理といってもいいのですが、府民から信頼される組織体であり続けるために、危機管理的な側面を含めた政治的リーダーシップがこれまで以上に知事にも求められるようになっていると思います。

こうした知事の役割の変化は、分権改革とは裏腹なのです。従来、中央集権が非常に強かったから、こうした経営者としての決断や知事の個性を問われることはなかった。私も小さいころは知事の名前なんて知りませんでした。今は、知事というのは最近のそのまんま(東国原英夫宮崎県知事)旋風のようにいろいろな面で、注目されるようになっている。ということは、例えば大阪府庁という組織をどうするといったときにまず私の責任が問われる。昔は多分違っていて、何となく地方組織で動いていたと思うのですが、そういう意味での経営的な、あるいは政治的なリーダーシップもこれまでに比べると非常に大きく求められるようになっています。

私にはもう1つ、関西のリーダーとしての役割もあります。道州制が大きくクローズアップされてきている中で、大阪はやはり関西の中心です。道州制に対してはいろいろな意見もありますし、特に私は「東京帝国」、「関西共和国」と言っているのですが、首都圏はもう東京が全面的に強い。しかし、関西は神戸、大阪、京都という非常に歴史と特色の異なるところがいい意味でライバルであり、また切磋琢磨しながら発展してきたという側面がありますので、帝国と同じようなわけにいかない。その中で大阪はどのような役割を果たすか。これは地域経営の中で大阪府域を越えて考えていかなければいけない私の課題だと思っています。


第2話 押さえ付けられている手をはねのけたい

知事は経営者だといっても、決められない部分があまりに多い、だから、経営者たり得ないと思われるかもしれません。ただそれは自治体側に自立した経営ができる財源や制度面での担保がないからです。例えば企業誘致をしても、100%全部税収が地元に来るのであればインセンティブも働きますが、税収の75%は地方交付税が減少する仕組みになっています。児童虐待で大阪はワーストワンです。児童福祉司、ケースワーカーは交付税の想定する標準だと6万8000人に1人です。それを足りないと思っても増やすことができない。国には実情を考慮した配置基準への見直しを働きかけていますが、それを待つわけにはいかないので私どもは4万人に1人のケースワーカーを置くために単費で補っているのです。

経営者というのは本来、隅から隅まで全部自らが決められるはずです。しかし、両手を縛られているようにそれができない。つまり、財源と権限を全部、地方に持っていくという本来の地方分権改革の目的が全く達せられないままに今、分権改革が進んでいるということがその背景にある。

私も中央省庁の出身ですが、単なる国とのパイプ役ではなく、タフ・ネゴシエーターになろうと考えているのはそのためです。知事になったのは、選挙によって府民から選ばれたからです。府民の皆様が私に負託をくださったということは、かつて国家公務員試験を受けて通産省に入ったこととは全く違う重みが自分の中にあります。

昔、私が官僚であったかどうかは知事になった今は全く関係がありません。府民のために働くことが私にとっての今の最大の価値であり、その意味では、勝手知ったる実家をある種壊すというのか、押さえられている手をはねのけるために、国家公務員であった時代の経験も使わせてもらうという意識が今の私の中には非常に大きい。

分権改革をめぐって知事と国とがコップの中で争っているとみられたりするのは、1つには制度があまりにわかりにくいことがあるからです。例えば教員給与の2分の1を国が負担する義務教育国庫負担金をどうするかといったときに、住民の皆さんは国庫負担率が2分の1から3分の1になっただけだと思う。しかし、私たちは3分の1残っていて、そこに国の関与がくっついているのが問題だと言っている。国の関与はゼロにならなければ全然変わらない。

身近な自治体があなたに一番合ったサービスを提供しようとしてもそれをさせないように、その手を押さえるのが国です。そのことを実態に合わせてわかりやすく言わないから、なかなか理解が広がらない。

最近、新型交付金や再建法制の問題が出てきて、自治体の財政状況が注目されています。しかし、私は再生と再建ということをずっと言ってきました。削減するという意味での行財政改革だけでは決して地方財政は良くなりません。再生、つまり地域経済の活性化、税収の増、これの両建てでやっていく以外にないのです。

私は今のシステムや地方経済の状況を考えると、3大都市圏は財政再建の力は十分持っていると思います。問題はそれ以外の地方です。理想をいえば、道州制を受け皿としつつ、その中での新しい財政調整システムはいかにあるべきか、つまり、東京や3大都市圏に集中している財源をどのように再配分していくのかということについて、まじめな議論が行われるべきだと思います。

先日の東京都知事選で、浅野候補が「東京にとっての東京」と「日本にとっての東京」という言葉を使われました。それを東京都民がどこまで理解したか私にはよくわかりませんが、そういう意味合いでの日本にとっての東京をどう考えるのか。財政調整をどうするのか。それは国も加わってまじめに議論を始めなければ、道州制そのものもできないと思います。

菅義偉総務大臣が地方税制を見直すとおっしゃっています。しかし、そんなに簡単にできる問題ではないと思います。「小異を捨てて大同につく」ではなくて、かなり「大異を捨てて大同につく」でなければ、ヒト、モノ、情報などの東京一極集中がこれだけ進んでいる中で財政調整システムの新しい姿はできてこない。やはり国の強いリーダーシップでどこまでそれぞれの地域で必要な行政サービスを支え得る税財政システムそのものを見直していくかということをやらなければなりません。

そのときに3大都市圏の大阪を担っている私のような知事がどういう立場を取るか、だと思います。事務方は税収が伸びているときは絶対見直さないでくれと言います。おそらく東京都知事もだと思いますが、税収は全部欲しい。苦しんできた時期もあるのだから、何で急に持っていかれるのかということになります。そういうときに「大阪にとっての大阪」と「日本にとっての大阪」をどうバランスを取るのか、これからが私のような立場の知事の見識を問われる場面です。

道州制では、道州が司法権まで持つのが最も純粋な地域主権だと思います。分権というより主権だと思いますが、今の憲法の制約上、そこまで持っていくのはなかなか難しい。ですから、今の地方自治法上考えられる最大の地域主権を求める道州制ということで、国は基本法だけを決めて、細目は条例で決める。今はほとんどが何とかに関する法律でできているがこれは条例で決める。そういう立法上のかなりの権限移譲を含めた道州制が望ましいと思っています。

2層制という言葉がありますが、道州と市町村、それがこれからの地方分権が目指すべき姿だと思います。そうなると、大阪府や兵庫県はいずれは無くなるわけですが、それが住民の視点から見て望むべき住民サービスを提供する枠組みとして適切なのであれば、私どももそれに賛成すべきだという立場です。


第3話 アジアの中の「グレーター大阪」

大阪府は大都市圏に属し、企業の本社もまだそれ相応には残っており、税収を上げる余地も残っています。グローバリゼーションという意味でも、大阪の存在意義、レーゾンデートルを考えていく、つまり、東京の背中ばかり見ないでアジアの中の大阪という部分をこれからしっかりやっていこうと思っています。

地域によって経営手法というのか、経営の知恵というのは違っていると思います。私の場合は勝手知ったる実家、つまり国に対して物申すということに加え、今までずっと東京の背中を見るということが経営の非常に大きな部分であったのを、アジアに視点を移して、アジアの中で東京と並んで何をするか、東京と並んでどうやって成長していくか、それは東京とは違う成長路線だと思いますが、そういう意識をどのように府民に理解していただくのかというのが私の地域経営における大事な視点になっています。それが結局、税収を増やし、経営を楽にする方向に変わっていくことになる。企業でいうコーポレートアイデンティティー(CI)として、「負けたらあかんで東京に」から「アジアの中の大阪」に変えていく。これからの大阪の経営はそういう視点をしっかり持ってやっていくべきだと思っています。

もちろん大阪の将来を考えるときに道州制も大事です。地域経営は道州制と連動しています。アジアの中の大阪といったときに、だれも大阪府を思い浮かべる人はいない。大体、関西です。つまり「グレーター大阪」なのです。グレーターロンドン、グレーターワシントン、グレーターニューヨークもそうです。グローバルな世界の中では、行政区画上の線引きを見ている人は誰もいない。1つの経済圏なのです。道州制の線を引いてあるところがその経済圏にぴったりとまでは言いませんが、ほぼそれに近い形をしている。

東京は江戸時代からです。大阪のスタートラインは小野妹子という遣隋使を送った607年です。ちょうど1400年前です。つまり難波津の港というのは中国、あるいは大陸、半島のものをどんどん受け入れる拠点だったのです。そこから日本全体に伝わっていった。歴史的な重みは全然違います。国際性という言葉がありますが、これは互いに違いを認め、支え合う精神です。大阪は在日外国人の方も多いし、中国人の方も今は4万人の登録がある。海外の方が入って来やすい土壌が大阪にはあるのです。これはただ単に人々が開けっぴろげだというだけではなくて、歴史の土壌があるのです。

東京は明らかに欧米を向いています。関西国際空港と成田を比べたらよくわかります。関西は中国便の比重が大変高い。関西は貿易額においても日本全体のアジア貿易の4分の1を、中国貿易の約3割を担っています。中国やアジアは貿易の相手国として輸出にしても輸入にしても大変大きい。大阪港と神戸港と関西国際空港です。例えば、大阪港はいろいろなものを輸入していますが、半分は中国からです。こんな港は日本中にありません。もちろん地理的に中国が近いからということもありますが、やはり歴史上の重みがある。私はよく京都・兵庫など京阪神の知事と一緒に北京へ行きますが、一衣帯水という言葉もあるように、非常に親近感を持ってくださる。これは東京と全く異なっています。

私は東京にも長くいたからよくわかりますが、アジアを仲間として肩を組んで歩いていくという姿勢は東京ではあまり感じたことはないのに対し、関西にははっきりあります。だから、友好提携も非常に多いし、友好関係の歴史も長い。そういうところを大事にしながら、グレーター大阪というのをアジアの中に打ち出していきたい。

その一環として、中国、韓国、ASEAN諸国などの主要都市の首長を招いて「アジア主要都市サミット」を今秋に開催することを予定しています。アジアはFTAなどいろいろなことを進めていますが、主要都市や都市圏がやはりアジア全体を引っ張っています。東京都がやっていた主要都市ネットワーク(「アジア大都市ネットワーク21」)がうまくいかないということもあって、私はそのネットワークをつくり上げたい。都市と都市との対話も大事ですが、環境問題や人材育成など、これからアジアが協働してやっていかなければならない課題はかなりあるので、それらを共に克服していくためのネットワークにしたい。これは北京市長や上海市長にも呼び掛けて、進めたいと思っています。

この主要都市サミットの特徴は中国の5都市を入れているということです。上海市、北京市、江蘇省、遼寧省、香港です。日本は今のところ、大阪と京都と神戸を考えていますが、ほかを排斥するということではなく、機会が訪れれば、またいろいろなことも考えたいと思っています。第1回目は、まずは大阪が音頭をとる形でやりたい。例えば環境問題なんかでいいネットワークになるようであれば、北京がこのサミットを続けてくれというかもしれない。そうなれば私たちはやっぱり日本の中の大都市圏ですから、そういう意味合いも考慮して一番ふさわしいポジションというものを求めていこうと考えています。


第4話 対東京で何が「強みか」を見極める

私がまとめた「大阪産業・成長新戦略」では、10年後の目標として「知と技の都 ものづくり新都市」(大阪圏ものづくりスーパークラスターの形成)を掲げました。ものづくりというと、何かローテク風に受け取られると困りますので、今は「ものづくりスーパークラスター」という言葉を使っています。高付加価値型というのか、「知価革命」と言った人もいますが、今、ものづくりにも大きな幅があります。日本にしかできないものもある。例えば、創薬と呼ばれる非常に先端を行く薬や、液晶テレビでも最先端のものはやはり日本でしかつくれない。環境に関する技術や、ロボットに関する技術もあります。ものづくりとひとくくりにされる中にも、これからの人口減少、少子高齢社会を支えていくために必要なハイレベルの技術を1体化したものがたくさん必要になってくると思います。

ハイレベルな技術の流出をこれからどう考えていくかというのは大きな産業政策の柱です。国も表面上はそれほど強く出していませんが、セキュリティーという考え方は強く持っていると思います。それをどうプレゼンテーションしていくかということは、外交にもかかわってきますからなかなか難しいですが、今、多くの大企業は、安定的な生産を続けるにはどこがいいかを考えている。国のセキュリティーと企業のセキュリティーとがここで一致するわけです。

例えば、ヨーロッパでは環境に配慮したところで生産されたものでなければ買わないという動きがある。あるいは外交上の関係まで考え、また、労働運動の高まりが大変な勢いで進んでいますから、そういうことにどう企業が反応していくかということまで考えると、企業としてのセキュリティー上、やはりコア技術、中心となる技術は日本に置いておいた方がいい。多くの企業が今、そのように考え始めています。だからこそ製造業の国内回帰が始まっているので、決してFTAといった枠組みだけで世の中は進まないと思います。

関西には新しいものをどんどん生み出す、いわゆる進取の気性があります。特許権の取得件数が大変多い。おもしろいことに挑戦するというのがそもそもの知価革命だと思いますから、そういう意味での地域特性があります。だから私どもは戦略をきちんとつくり、それを発信して、企業に対する優遇措置をやります。先の2月議会でそれを条例(「企業立地促進条例)にしました。税金を一企業の補助金にするわけですから、透明性を高めなければならない。こういう物差しというか計算式で補助金をはじきますということは条例にしました。そうでなければ、企業の側も受けにくいと思います。知事の一存でぽんとお金を出すのはよくありません。

また、中小企業に対しても温かい地域であることが結局、大企業を支えるすそ野をつくるわけですから、そういうものも条例にはめ込むと同時に、税制も新しくしました。ものづくりに対しては税金を安くするというような税制(「ものづくり支援税制」)で、企業に対して受け皿として非常にいい地域だということが条例上はっきりわかる。情報として透明性が高い状況で伝えられるということに私は努力してきたつもりですし、そういう下敷きはできたのではないかと思います。

私が最初に就任したのは平成12年でしたが、正直言ってここまで来られるとは思わなかった。それが平成14年を境に大きく変わってきました。デジタル家電が非常に好調だったり、中小企業が頑張ったりしたことが非常に大きいのですが、やはり日本の技術というか、日本のものづくり、日本の労働者の優秀性、そういうものは思っている以上です。今、日本は全体に自虐的になっていますが、大阪圏が体現すべきことはそういうことです。日本はなかなかやるじゃないかというのを、東京は当たり前なので、それを先頭に立ってやらなければならないのが大阪圏だと思う。中部圏でもそうだと思います。

多くの地方は確かに今、自信をなくしています。税収が伸びているといってもそんなに伸びていないから、削られる方が多いという状況だと思います。しかし、そんなに捨てたものではない。九州にはすごい工場が行っていて、中国に非常に近いから戦えます。大変なのは北海道、東北です。北陸、日本海側も中国貿易などをやっている。GDPは伸びています。しかし、今度は太平洋側が大変になっています。

東京の一極集中の中で企業は東京に皆行ったといわれますが、大阪にもある程度本社が残っています。確かに2本社制になっているところが多いですが、例えば住友系でいえば、関西の場合は、住友金属工業や住友電工といった企業があります。かつては、重厚長大産業が経済転換の足を引っ張っているといわれていたわけです。それがある日突然、重厚長大が重厚長大ではなくなった。例えば原油を送るシームレスパイプや造船もそうです。中国の経済成長が大きいとは思いますが、非常に高付加価値の素材型産業に生まれ変わったわけです。製薬もバイオに生まれ変わった。つまり、製造業が生まれ変わったのです。みんな、必死で努力してきたのです。

もちろん、その間、自治体も中小企業を支援するなどの努力をしてきましたので、それが功を奏した面もあると思います。ですから、企業はなかなかやるじゃないかというのが私の今の感想ですし、それは多くの地方圏にも多分いえるはずです。地場産業と呼ばれるものでもそうです。例えば新潟県の燕は物を非常に薄く切る物、刃物や家庭用の食器などをつくっているところですが、その薄く切る技術に着目して、アップル社が出たではありませんか。そういうものなのです。つまり発想の転換というか、よく融合とか業際という言葉が使われますが、産業がどんどん近づいていって、ある日結合する。地域産業政策というものはそういう動きをつくらなければなりません。

個々であっては全然駄目でも、一生懸命何かやっているうちに結びつく。私の生まれた呉もそうです。あそこも、やすりの産地ですが、薄く切る物をつくっていたところが、半導体メーカーと技術提携して、今はそちらの方が大きくなりました。

東京の集積が非常に強まってきているのは情報と金融です。ですから、それぞれの地域が対東京を含めて何が強みなのかをしっかり見極めた上で、中国という「世界の工場」が隣にある中で、どういうビジョンの下に地元の産業を展開させていくかということを産官学が考えることが重要です。

例えば、バイオでも、大阪大学があって、薬メーカーがあればいいというわけではありません。その間をつなぐために、例えばバイオのメーカーが治験をやりますが、最後に、それが本当に人間に効くかどうかを試す薬や装置が要ります。それを提供できるようなものをつくらなければならない。産官学といっても、実際に物をつくるという側面や、人と人をつなぐという側面を含めて、かなりきめ細かく学際的なことをしなければならないのです。

camp4_osaka.jpg太田房江 (大阪府知事) 
◆第1話:5/22(火) 「知事は地域経営のCEO」
◆第2話:5/23(水) 「押さえ付けられている手をはねのけたい」
◆第3話:5/24(木) 「アジアの中の"グレーター大阪"」
◆第4話:5/25(金) 「対東京で何が"強みか"を見極める」


 「日本の知事に何が問われているのか」をテーマに、全国の知事にインタビューを続行中です。
現在の発言者は太田大阪府知事です。