【国と地方】 石原信雄氏 第9話: 「道州制に向けた制度設計はどう考えるべきか」

2006年7月17日

石原信雄氏石原信雄(財団法人地方自治研究機構理事長)
いしはら・のぶお
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1926年生まれ。52年、東京大学法学部卒、地方自治庁採用。84年から86年7月まで自治省事務次官。86年地方自治情報センター理事長を経て、87 年から95年2月まで内閣官房副長官。1996年より現職。編著書に、「新地方財政調整制度論」(ぎょうせい)、「官かくあるべし」(小学館)他多数。

道州制に向けた制度設計はどう考えるべきか」

 現在、道州制が議論されていますが、これからの地方制度は、都市を強化していく形が一番いいと私は思っています。そうすれば、都市では、能力的に本当の意味の自治ができるのです。市の規模が大きくなれば、エリアも広くなって税源偏在も少なくなります。平成の大合併で市町村の再編成がかなり進みましたが、まだ残っているところもあります。市町村といっても中心は都市であり、これをもっとしっかり強化すべきです。

 そうすると、広域行政というものは、今の府県では中途半端になります。府県ではなく、ブロック単位に広域行政を、関東なら関東一円でやった方がいい。千葉だ、埼玉だ、群馬だ、栃木だ、というのは必然性がなくなります。ただ、廃藩置県以後ずっと府県というものがありましたから、一種の県民感情、県民意識というものはあるでしょう。しかし、市町村の行財政能力が強くなると、行政の実態からして、府県レベルでの広域行政は、やることがあまりなくなってしまいます。市がやってしまうからです。

 長期的には、府県が道州に統合されていくと、府県庁職員は相当数減ります。その代わり、府県がやっていた仕事を市町村の役人がやるわけですから、その分は市町村職員を増やさざるを得ません。ところが、町村を合併しますと、役場ごとにあった管理事務が一元化できますから、効率化できるのです。そうすると、仕事が増えた分は、市町村職員の合理化で賄えます。その結果、府県だけが職員が余ってしまいます。

 そのため、市町村に移る仕事をしていた府県の職員は、そのまま市町村に移ってもらう。府県立の保健所が市立の保健所になれば、保健所の職員はそっくり市の職員になりますし、府県道や国道の管理要員は、府県道事務所から市に移る。また、それとは別に、広域化すると、管理部門の職員は少なくて済みます。10団体が一つになると、管理部門の職員は10倍にならず、せいぜい4~5倍で間に合います。

 現在、市町村合併を一生懸命進めているが、その一番大きな効果は、こうした合理化効果です。合併で市町村議会の議員が水脹れと言われているが、それは2年間だけです。合併ですぐクビを切ると、反対してしまって合併できないため、2年間だけ議員の身分保障をしたわけです。市町村が10も集まると、議員数が100人も150人にもなると言って大騒ぎになっているところがあるが、2年経てば、彼らは全て職を失います。

 今回の平成大合併で自治体の数は3,232から1,821になったが、できれば1,500程度まで持っていきたいところです。第2次の合併特例法で積み残しの合併は、特に北海道・東北に多いが、財政が苦しくなってくると、やむなく合併しようということになります。

 現在は、地方六団体の中でも知事会ががんばっているが、将来的には、市長会が地方の声の中心になると思います。今は、市長会の人たちは、国に金が欲しいということばかり言っているようにみえますが、市長会の中には、人口3万程度の町村に毛の生えたような小さな市が多いということがあります。しかし、それもだんだん減ってくるでしょう。100万都市以上の政令市と、30万以上の中核市が、次第に中心になってきます。そうすると、本当の意味の自治の議論が出てくると思います。地域から上ってくる地方税でやれる団体が増えるからです。そして、地方自治というのは、本来、自分たちのところの税源でやるのだという姿勢が強くなってくると思います。その代わり、広範な課税権を認めなければいけません。税金がそれでいいかどうかは、住民が判断すればいいのですから。

 しかし、現状では、地方議会が「代表なきところに課税なし」という形になっていない。本来は、議員というものは、税金も負担するが、その税金に見合ったサービスを要求する住民の代表であるべきです。コストを負担する面と、サービスを受ける面の両方を代弁する議会でなければならないのに、サービスに注文を付けるだけの代表になってしまった。依存財源のウェートが高いため、歳出の増減と地方税の税率を結びつけて議論されていないのです。歳出の増減は、国に対する要望の問題になってしまっている。やはり、補助金と交付税をもっと減らして、地方税を増やすべきです。

 三位一体改革の3兆円では不十分です。それでも、住民負担が増えてやりにくくなったと言って地方の首長は気にしているが、それが本来の姿です。やりにくくなってくれなくては、困るのです。首長が住民に、「俺は国から財源を取ってきた」と言って、いい格好をしたがるのは、本当の自治ではありません。


※第10話は7/19(水)に掲載します。

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 現在、道州制が議論されていますが、これからの地方制度は、都市を強化していく形が一番いいと私は思っています。そうすれば、都市では、能力的に本当の意味の自治ができるのです。市の規模が大きくなれば、エリアも広くなって税源偏在も少なくなります。