石原信雄(財団法人地方自治研究機構理事長)
いしはら・のぶお
1926年生まれ。52年、東京大学法学部卒、地方自治庁採用。84年から86年7月まで自治省事務次官。86年地方自治情報センター理事長を経て、87 年から95年2月まで内閣官房副長官。1996年より現職。編著書に、「新地方財政調整制度論」(ぎょうせい)、「官かくあるべし」(小学館)他多数。
交付税特別会計の巨額の借入れをどう考えるのか
高度成長の頃は比較的財源が潤沢だった交付税制度も、バブルの崩壊を機に切り替えが必要になっていました。
交付税特別会計は現在多額の借金を抱えていますが、そもそも交付税特別会計が借金をするのは邪道であり、緊急のときしか行ってはいけないという思想でした。かつて交付税特別会計が臨時、特例的に借入れをしたのは、第一次石油ショックの時です。
昭和49年に戦後初めてのマイナス成長となったため、50年度の税収が大減収となり、当初予算で組んだ交付税が年度の途中でへこんでしまったために、地方に返せとはいえず、仕方がなく、補正予算で落とした分だけは臨時に借金をしました。
地方にしてみれば、交付税特会で借り入れても、地方に行くときは交付税として行くわけで、もとは借金であるという意識が全くないわけです。
こういう臨時借り入れは何度もやってはいけない、あくまで緊急避難であると国会でも説明して、認めてもらったのです。地方は交付税特会で借り入れして、中央は赤字国債を出したが、これではいけないので10年後には返すと、当時の大蔵大臣が啖呵を切りました。しかし、昭和53年に再び石油ショックが起こり、再び税収に穴が空いてしまった。そのため、借り入れを止めようといっても、止められなくなったのです。私はそういうやり方は邪道であるから、何とか自分が役人をしているうちにこれを止めたいと思って、私が事務次官のときの昭和59年に、借り入れを止めたのです。
すなわち、借り入れは止めて、その年度の財源で交付税を配分する、それまでの借金は年次計画で返済をしていくということを決めました。当時、交付税特別会計の借入残高は14兆円程度で、それは国と地方とで折半するルールがありましたから、当時の大蔵省の山口次官と相談して、国の負担分の7兆円あまりは全部国が引き取り、それを国債整理基金に入れました。要するに、国債と同じ会計に持っていきました。地方負担分は翌年度からではなく、何年間か据え置いて10年の年次計画で返していくという償還計画をつくりました。
借入れが再び復活するのは、バブルが崩壊したときでした。細川内閣のときに景気対策で国税、地方税ともに所得税、法人税、住民税の減税を行い、かつ公共事業と地方単独事業の増額を行いました。それは国の政策でしたが、その時に財源がないわけですから、国は赤字国債を増発し、地方は地方債を増やすと同時に交付税特別会計の借入れをもう一度復活させたのです。そのとき、私は官房副長官でした。
交付税特別会計の借入れが今日のようになった最大の理由は、バブル崩壊後のなりふり構わない景気対策です。小渕総理のときが一番ひどかった。あのときに、毎年度、十何兆円もの景気対策を行いましたが、そこで行ったのは所得税、住民税と法人税の一律減税であり、公共事業、単独事業の増額で、それを地方に行わせるには、起債を認めて、その償還費は後年度に交付税で面倒をみるということでした。そうしなければ、地方は行いません。自分で返す借金でしたら、恐くてできません。交付税特別会計の借金も膨らんだ。それは破綻であり、モラル・ハザードであり、財政制度審議会や経済財政諮問会議では交付税制度が原因だと言われているわけです。
しかし、私に言わせれば、誰がそうさせたのかということです。とにかくやれ、やれでした。そのツケがたまって、今、交付税特別会計の借り入れは50兆円になってしまった。
しかし、交付税特別会計の借金も借金ですから、法律上は返さなければいけません。地方税収の偏在をどれだけ是正しても、交付税制度は最後に残ります。一定額は必要で、その一定額の交付税の中から返していくしかないでしょう。
今、構造改革の中で交付税特別会計の借入れはやめましたが、その代わり、地方に財源不足分の借金を認めています。それは赤字地方債ですから、なくさなければいけません。プライマリーバランスは地方財政計画上は黒字で、地方債の新規発行額よりも償還額の方が多く、地方は借りるよりも返す方が多くなっています。基本は、この状態をさらに進めるということでしょう。
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高度成長の頃は比較的財源が潤沢だった交付税制度も、バブルの崩壊を機に切り替えが必要になっていました。 交付税特別会計は現在多額の借金を抱えていますが、そもそも交付税特別会計が借金をするのは邪道であり...