石原信雄(財団法人地方自治研究機構理事長)
いしはら・のぶお
1926年生まれ。52年、東京大学法学部卒、地方自治庁採用。84年から86年7月まで自治省事務次官。86年地方自治情報センター理事長を経て、87 年から95年2月まで内閣官房副長官。1996年より現職。編著書に、「新地方財政調整制度論」(ぎょうせい)、「官かくあるべし」(小学館)他多数。
失われたのは受益と負担との関係の下での地方の独自課税の習慣
国への依存財源の縮減のためには、補助金や交付税の削減だけではなく、行政のあり方の問題も考える必要があります。
例えば義務教育について、今は40人学級で、30人学級の議論が出ていますが、30人学級の子供と戦後の50~60人学級の子供とを比べて、戦後の子供のほうが劣っていたかというと、そうではありません。学級編制基準を一律に40人を35人にしろなどという必要はないと思います。最近、県によっては30人学級をやっている県はあります。その団体がどうゆう学級編制基準を選択しても結構ですが、その分だけ教員が増えることになります。
その増えた教員の給与の財源は、国庫は負担していないので、一般財源で賄っています。交付税制度はそれを認めていないので、他の費目から流用しているのです。しかし、住民の自治意識を促すためには、30人学級にするのであれば、教員が増える分、住民税の所得割の税率を上げるべきです。住民に諮って子供たちのために住民税の税率を1%上げてほしいと訴えて、40人学級を30人学級にするのが本当の自治ではないでしょうか。
そうなっていないのは、これまであまりにも依存財源が多い時代が続いたために、行政サービスを引き上げるには、引き上げた分に見合って、住民の税負担を引き上げるのだという思考様式がなくなってしまったからです。
結局、国に頼んで、基準を変えろという話になってしまいます。もう一つの典型的な例は、最近、治安確保のために警察官を毎年増員していることです。県によっては政令定数以上に増員している団体もありますが、警察官を増やすのであれば、アメリカの自治体がその分だけ固定資産税を上げているように、その分住民税の税率を上げるべきなのです。どうしてそうならないのか。
国が想定している以上のサービスは上乗せサービスですから、住民税や固定資産税の上乗せ負担をすべきで、地方税法はこれを認めています。地方税法は標準税率を決めていますが、住民税の税率の上限は設けていません。団体が自由に決められます。標準税率で課税するような指導はしていません。寂しいことに、地方は財源が足りないと言っていますが、現在一団体も所得割の超過課税を行っているところはないのです。
私は自治体当局だけを責めるつもりはありません。よりよいサービスをするために税金で上乗せ負担をするという習慣は、シャープ税制の直後にはありました。
昭和30年代に、固定資産税の税率は現在100分の1.4が標準ですが、かなりの団体が100分の1.6という超過税率を使っていたことを覚えています。特に税源が乏しい東北、北海道ではそうでした。ところが、所得倍増論や田中角栄氏の列島改造論を経て、国土の均衡ある発展ということが言われるようになり、その頃から、地域によって地方税の超過課税が多いのはおかしいではないか、それは交付税による財源手当てが少ないからではないかという話になりました。
与党も野党も皆がそう言い、自治省は超過課税をしているところを減らすように指導しなさいということになったのです。減らせば財源も減ってしまうが、その分は交付税で埋めてやれということをやらされました。団体独自の超過課税を解消するために、交付税が穴埋めをしたという歴史があるのです。高度成長の当時は、交付税がどんどん増えたわけであり、増やそうと思えばそれができたのです。
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国への依存財源の縮減のためには、補助金や交付税の削減だけではなく、行政のあり方の問題も考える必要があります。例えば義務教育について、今は40人学級で、30人学級の議論が出ていますが、30人学級の子供と戦後の50~60人学級の子供とを比べて...