本間正明(大阪大学大学院経済学研究科教授・経済財政諮問会議議員)
ほんま・まさあき
1967年大阪大学経済学部卒。73年同大学大学院経済学研究科博士課程修了。英国ウォーリック大学客員教授、ロンドン大学STICERD客員研究員、大阪大学副学長などを経て、現在大阪大学大学院経済学研究科教授。経済財政諮問会議議員、税制調査会委員などを兼任。主著に「租税の経済理論」「新・日本型経済システム」等。
地方交付税改革についての論点
国と地方の問題で、次のステップでどうしても考えなくてはならないのが地方交付税の問題です。
三位一体改革では、4兆円の補助金を削減して、3兆円を税源移譲しましたが、今まで、交付税の問題については、毎年毎年の予算編成のときにぎりぎりのところで、国と地方、財務省と総務省との間での調整という形で行われ、まだ交付税のシステム、あるいは制度それ自身を本格的に見直そうということはやってこなかったからです。
ただ、これまでも、地方交付税の基の計画になる地方財政計画というものと、各地方公共団体が実際に使った決算値との間に大きな乖離があり、ほとんど5兆円のオーダーで投資的な経費が計画通り使われておらず、経常的な部分に流用しているという問題がありました。
これについては、実態と計画値が違うではないか、計画値はどう考えるのか、地財計画の中身を見直さなければいけないのではないかという議論はしてきました。あるいは、地方交付税の金額が、国税5税よりも上回った形で追加されており、その部分については、財源の保障機能というものが大きすぎて、それが地方の歳出を膨らませる原因になっているのではないか、大阪や名古屋のような大都市ですら交付税をもらう必要は果たしてあるのか、こういう問題まで議論され、財源保障機能から財政調整機能に移しかえていく必要性があるのではないかという議論もなされてきたわけです。
ですから、今度の2011年にかけての最も大きなテーマとして、これまでの延長線上での補助金と税源移譲をどうするかという問題だけではなく、地方交付税の性格も含めた根本的な見直しをどうするかを、我々としては議論しなければいけないと思っています。
その進め方としては、やはり総務省の側からまず竹中プランというものを出していただくということだろうと思います。総務大臣の下の21世紀ビジョン懇談会での論点は、やはり、交付税の見直しと、税源移譲の部分を、どのくらいセットにするかという問題です。それは、地方交付税の財源保障機能を弱め、財政調整機能を強化して、交付税の不交付団体を増やしていくという問題意識が背景にあるわけですが、そのためにも税源が必要になるからです。しかも、偏在のない税源であることが必要です。そこをどうするかという問題が当然出てきます。
これから出てくる議論は、まず、税源配分をどういう具合に考えるのかということでしょう。これは片山前総務大臣が片山プランを出されて50・50 でやりましょうというのが第一の提案でした。今、税源的には、地方が35兆円程度、国が45兆円程度です。それを、交付税と補助金で地方に流すことで、実態としては、6割を地方で使い、国が4割程度を使っているわけです。まずは、使う部分のところの6:4までは一挙には無理として、5:5くらいでやる必要があるのではないか。それがひとつの論点です。
その際に、交付税の部分のところを、地方共同税的な形で、国税5税を原資にして、国を通さずに、直入の特別会計を作って財政調整するというのが、地方六団体の神野委員会からで出てくる提案のようです。
私も、基本的な考え方としては、その方向性がいいと思います。ただ、国の方が財政状態が悪いのに、そのような時期に財源をそのまま地方に振替えるというのは、マクロの財政赤字のこれからの解決に向けては逆行するという考え方が、財務省を中心にして出てくると思います。
つまり、交付税の財源になっている国税5税について、今は国税で集めておいて交付税で流しているのを、もう国税5税の部分のところは国の管理、財務省の管理をはずし、地方の財源として、自主的な財政調整の配分を自分たちでやってくださいというところまで行くのかどうかです。そうなると、国の財政が悪く、地方の方が相対的には良いのに、そのまま振替えるということは、財政健全化への国と地方の両者の協力をしての取り組みに逆行するという議論が、もう一方ではあるわけです。
ですから、地方自治の問題としてその財源を強化すべきである、あるいは、地方が自主的に判断できる財源を強化すべきだという議論と、国と地方の財源調整のあり方というのは、バッティングする可能性があるわけです。
ここにどう突破口を開くか。これに絡んでくる一つの考え方が、消費税の税率の引き上げです。皆さん、それに期待しているのではないでしょうか。ところが、それに対しては、社会保障関係費がこれからどんどん膨れ上がっていく、基礎年金の部分だけでも、3分の1から2分の1への引上げを2008年以降にやらなければいけないような状況になっています。そういうときに、消費税の財源を、国と地方だけで按分して地方に回すというだけでは済まない問題があります。社会保障との関係はどうするのか。それらが全部連動する形で、三点セットになっています。
交付税改革の第一段階に来るのは、基幹五税部分以外に、交付税特別会計の借入れで賄っている部分や一般会計加算による部分をなくすことです。
それだけで5兆円程度減る。最初は加算をやめ、その次は借り入れをゼロにして、法定税率までもっていく。そして、財源保障的な機能は撤廃して、人口と面積によるシンプルな配分ルールに直し、それで財政調整機能を強化して「歳入保障型」にしていく。それは、他方で税源移譲をどれだけやるかも含め、国と地方のマクロの財政配分をどうするかという問題とセットになってくる問題です。
そのためには政治力がなければできませんから、竹中プランでどこまでできるかが問われています。そこでそれを打ち出せればいいのですが、大田弘子さんは、まず、税源移譲によって国と地方との財源比率を5:5にして、その中で、交付税を歳入保障型にもっていくということを考えています。額の算定を人口と面積で単純な形にしても、それぞれの自治体には特殊要因がありますから、そこは特別交付税で対応する形にすべきだという考え方があります。最終的には、地方のやることは地方の財源でやって、6:4に合わせていくという考え方も、次のステップでやらなければいけないテーマだと思います。
国と地方の問題で、次のステップでどうしても考えなくてはならないのが地方交付税の問題です。